リテールメディア広告の理想と現実―ATS Tokyo 2024イベントレポート
デジタルメディアとマーケティング業界の有識者が一堂に会し、業界の最新動向についての議論を行うイベント「ATS Tokyo 2024」が2024年11月22日、都内にて開催された。
「リテールメディア広告の理想と現実」と題した本セッションには、カゴメ株式会社 営業本部 健康直送事業部 企画グループ 担当課長 細川 和紀氏、株式会社コーセー 宣伝部 メディア統括課 中村 豪氏、ドン・キホーテのリテールメディア開発を行う株式会社博報堂 コマースコンサルティング局 局長補佐 株式会社pHmedia COO兼営業部部長 松居 達也氏が登壇。近年注目が高まるリテールメディア広告の活用実態の把握と課題整理を目的とした議論が行われた。
細川氏はまず、以前は特定の小売店が持つサイネージ広告やアプリ上のメッセージ配信と呼ばれていた各施策の別称または総称としてリテールメディア広告という言葉が用いられている感があるとの印象を述べた。
続いて中村氏は、購買データの存在が他のオンライン広告形態との最大の違いであると指摘。ユーザー行動がオンライン上で完結するECサービスとは対照的に、多様な販売チャネルを有するメーカー企業にとっては、広告出稿で得られる売上効果を把握する上では小売企業が取得した購買データが重要であると述べた。これに対して松居氏も、小売店が提供するポイントカード機能などを通じて得た購買データと広告IDを紐づけるなどして広告効果を把握できるようになったのは比較的最近の動きであると振り返った。
ただし、リテールメディア広告への出稿は、すべて広告宣伝費のみで賄われているわけではない。中村氏は、一般的な広告とは別に、特定の流通事業者に対して営業費から捻出して出稿される規模の方がむしろ大きいのではないかとの考えを示した。
細川氏も「大手ECモール担当」「広域量販店担当」「各エリア営業担当」によって予算の出所と使われ方は異なると同調。松居氏はメーカーが生活者向けに出稿するものは広告宣伝費が該当するが、特定小売店での売上・成果をあげることを目的とするものは営業費や販売促進費が充てられていると説明した。
現状の課題について、松居氏は先進事例として言及されることが多いウォルマートがある米国では小売業が寡占状態である一方、日本は小売企業が分散しているため、購買データがサイロ化されていると指摘。ドラッグストアなど一部の領域では先進的な取り組みが見られ始めてはいるものの、国内のリテールメディア広告市場がさらに発展していく上では、データの横断的な統合が鍵となるとの考えを示した。
加えて細川氏は、データの規模だけでなく、深さもほしいとの要望を述べた。単発的な購買実績だけではなく、商品認知の向上がいかに購買行動やブランドへのロイヤリティー醸成へとつながったかが把握できるようになれば、統合的な広告施策としてリテールメディアを活用できる可能性が高まるのではないかと発言。また広告クリエイティブのあり方や他の広告形態への影響などについてもさらなる研究が必要であると伝えた。
さらに中村氏は、特定小売企業向けの流通施策で取得する購買データと全国的な広告配信で得られた購買データでは共通項が見出しにくい状況にあるとの問題を提起。また現状ではリーチ単価やCPCといった中間KPIと最終的なコンバージョン率の相関関係が成立しない場合もあり得るため、これらの課題を解決し得るような購買データの整備または活用のあり方を望むと述べた。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。