スナックでも“ぜんぶ議論しよう” ー 危機感7割、ワクワク3割!? メディアはAI時代に何を守り、何を変えようとしているのか ー
氷鳴る トラストを問う 夏の宵 ExchangeWireJAPAN読者にはおなじみの対談企画「ぜんぶ議論しよう」。居酒屋からスナックへとスピンアウトした本シリーズも、早くも第2回を迎えた。会場は前回と同じ、恵比寿のスナック「支えあい」。前回から変わったのは、そこに座る人だけである。 ただし、その「だけ」が今回は大きい。栄えある第2回目のゲストは、朝日新聞社 代表取締役社長、角田 克氏。「AI全振り」を旗印に掲げ、新聞業界の内外から注目を集めてきた、あの方だ。 レギュラーは今回も健在。杉原 剛氏と池田 寛氏を交え、信頼、収益、記者の未来、AIエージェント時代の情報流通、そしてAIがすべてを最適化する時代に人間に残るものまで、グラスを傾けながら“ぜんぶ議論”した。 なお、本稿は当企画史上、かつてない長さである。AIに放り込んで要約したくなる分量であることは、重々承知している。だが、それだけはご勘弁いただきたい。要約が真っ先に削ぎ落とすもの——その正体こそが、この夜、三人が最後まで話し込んだテーマだからだ。どうか最後まで、じっくりとお付き合いいただきたい。 対談者 角田 克(朝日新聞社 代表取締役社長) 杉原 剛(APTI共同代表/ストラクチャー&シグナルズ株式会社 代表取締役) 池田 寛(株式会社HEWEGO(スナック「支えあい」)代表取締役) ※取材協力:スナック 支えあい(東京 恵比寿) (聞き手:ExchangeWireJAPAN 野下 智之) スナックは16年ぶり、出会いはとあるリフレッシュルーム 角田氏:僕、今日はイギリス大使館から来ました。 池田氏:いきなり格の違いを見せつけるのはやめてください(笑)。ちなみにExchangeWireって、ロンドンのメディアなんですよ。一応、広告業界でも世界的に格式が高いほうのメディアだと編集部は言ってます(?)。 それはさておき、本日はスナック対談シリーズの第二弾ということで、朝日新聞の角田さんをゲストにお迎えしました。聞き手は私と、「広告業界のスーパースター」と私が勝手に呼んでいる杉原 剛さんです。剛さん、今日もはりきって飲みましょう! 杉原 剛氏:飲み中心なんだね(笑)、よろしくお願いします。 池田氏:角田さん、あらためまして、ご来店いただきありがとうございます。本日2回目のご来店ということで、お忙しい中ご足労をお掛けして恐縮です。 角田氏:いや、楽しみでしたよ。お店の名前が「支えあい」でしょう。いい名前だと思います、これからの時代に。支えが足りないから、変な二極分化が進んでいく。そして、世の中の安定が壊れていく...。 池田氏:おっと、いきなり始まりそうですね(笑)。その前に、お飲み物、どうしましょう。うちの一番人気、奄美大島の黒糖焼酎「じょうご」がおすすめですよ。 角田氏:焼酎もいいですね、でも最初はビールから始めさせてください。僕は平成元年の入社で、初任地が山口、次が筑豊。麻生太郎さんが出られたところですね。ああいう時代と地域では、スナックには必ず行くものだと思っていました。そこから福岡、東京と来て、まあ、ギリギリ、カラオケボックスのようなところにはたまに行きましたけど。だから、こないだ、ここに来たのが、スナックとしては本当に16年ぶりぐらいです。 池田氏:え、そうなんですか。お顔的にスナック感が満載なので、毎晩行ってらっしゃると思ってました。 角田氏:いや、本当に好きでしてね、こういうコミュニケーションが。それが失われたというのは、日本社会にとって、本当は相当良くないことなんじゃないかと思っていたんです。そうしたら池田さんが「スナックをやってます」とおっしゃる。この人、本当にスナックを経営しているのかと最初は疑いました(笑)。「何ていう名前なの」と聞いたら「支えあい」と。余計に嘘っぽいじゃないですか(笑)。 池田氏:僕は嘘つかないです(キリッ)。 角田氏:そうしたら、本当だったという。 池田氏:そもそもの出会いが、国際文化会館でやったメディア向けイベントのリフレッシュルームですからね。僕が「今から行きますか?」と聞いたら、二つ返事で「行く。」と。 角田氏:このまま行こう、という話になって。あれ、3連休の日曜でしたよね。 池田氏:そうです、そうです。リフレッシュルームにスナックというAIとは程遠いご縁で本当に今日ここに座っていただいております。とりあえず、飲みましょう。乾杯です! 原動力は、危機感かワクワクか 池田氏:ではさっそく最初の質問です。角田さんの「AI全振り」。もうどのメディアでも発信されていて、そのワードが印象に残ってるわけですけれども。あれを発信されたとき、その原動力は危機感だったんですか、それともワクワク感だったんですか。 角田氏:僕は本当にハーフアンドハーフ—— 池田氏:ハーフアンドハーフ。 角田氏:——と言いたいところですが。正直に申し上げると、危機感が7割。ワクワク感は3割です。 「全振り」というワードを使ったのは、新聞業界に、あるいは朝日新聞も全くそうですが、世の中のデジタル的な変化の大きさが、なかなか意識されない。これはまずいな、というのが半分、もしかしたらそちらのほうが半分以上かもしれません。 危機感の一番はやはり、AIテックに僕らのコンテンツがデータとして食べられていることです。手間暇をかけて、お金をかけて、記者が汗をかいてやっている。間違いもしますけれども(汗)、概ね裏付けのレベルは高い。僕らはオールドメディアとよく言われますが、オールドではなくエッセンシャルメディアだと申し上げています。 池田氏:エッセンシャルメディア? 角田氏:昔の大ヒット曲のようなものでね。紅白歌合戦を聴くと、老若男女みんなが「ああ、この歌は聴いたことがあるね」となるじゃないですか。あれと似ていて、情報も「これは知ってるよ」と。深さは別にして、うんと詳しい人がいて、ちょっと知ってるという人もいて、でも全体としてそのニュースのことは知っている。今はそういう基盤がどんどん崩れて、みんなニッチになって、関心のあるものだけになってしまっている。 朝日新聞はいろいろ言われますけれども、より自由で、より民主的で、より個人の尊厳が尊重される。それが僕らの求めるものですから。そういう社会が本当に壊れたらどうなるんですかと。 池田氏:(いきなりエンジン全開のため、黒糖焼酎「じょうご」に口をつけたまま止まっている) 角田氏:もう予兆はいろんなところに現れていますよね。選挙をめぐる状況も、かなり揺れているでしょう。誰を選んでいいか分からない。じゃあいいや、と投票率が落ちていく。それでは次世代に対して真っ当な情報が一定レベルで流通する世の中をバトンタッチできない。そういう危機感まで含めると、7割です。 池田氏:(まだグラスを口につけたまま)なるほど。では、残り3割のワクワク感は何ですか? 角田氏:新聞社というのは、販売店の皆さんが紙を売ってくださっているわけですよ。そこにデジタル版が入ると、自分たちとカニバって、自分たちの仕事が変わってしまうんじゃないかと思われる。だから、なかなかやっていただけなかった。それが今、かなり本格的に始めたら、数万くらいはすぐ増えました。有料会員が。 池田氏:(グラスを置く音)いいですね。 角田氏:日本新聞協会の統計では、2025年10月時点の新聞総発行部数は2500万部を切り、前年から6.6%減少しました。5000万部あったものが、15年ほどで半減しました。新聞広告費も、業界全体で3500億円を切っている。インターネット広告は皆さんのほうが圧倒的にお詳しいでしょうが、もう4兆円を超えているわけでしょう。別にライバル視しているのではなく、現実に表に出てきている数字です。 そうすると、販売店の皆さんは、新聞全体の発行部数がピークの1997年を最後に、ずっと落ち続けるものを売ってくださっているわけです。そこに「新しいデジタル版を、お客さんに勧めてみましょうよ」と。すると、営業の方々が「新しいものをお客さんに営業したのは何十年ぶりだろう」と。若い方ほどそうで、僕に個人的にメールが届いたりします。「落ちるまま、新しい商品を売ってこなかったんだな。今回はいい機会でした」と。 池田氏:売れることが実感できると営業は楽しいですもんね。 角田氏:私が3、4年前に「デジタルへ行くんだ」と言ったら、先輩たちがいっぱい来られて、公然と「紙は大事だよ」と。 紙は本当に大事です。売上から見たって、紙が中核ですよ。でも、40代以下はもう新聞だけでなく出版も含めて、完全にデジタルに移っている。その方々の生活習慣を、私たち新聞業界がこのままの状態で変えられますか、というのが僕の問題提起です。だから朝日新聞のようなところが、少し乱暴にでもフックを作らないと、エッセンシャルメディアとして死んでいってしまう。だから「全振り」と申し上げている。 池田氏:なるほど。(もうグラスにお酒がない)……剛さん、何か質問しますか。それとも次の一杯にしますか。 杉原 剛氏:いや、まず一杯で。(ハイボールを頼む) 社内利用率16%→39%、目指すは100% 池田氏:ワクワク感という意味では、社内はどうなんですか。 角田氏:私が「AI全振り」と言った1ヶ月後に社内アンケートをとりました。「ほぼ毎日AIを使っています」が16%ですよ。昨年6月の話です。それが今年5月は39%。週に3回まで含めれば、もう少しいきます。Copilotは全員が使える環境にしています。 池田氏:1年で倍以上増えてますね。ちなみに、何パーセントを目指してるんですか。 角田氏:100%ですよね。僕自身がワクワクしているというより、現場の方々が「やってみたら、こんなに面白いのか」となる割合が増えてきた。それが大きい。 ただ、新聞社というのは警戒感が強い。記者という仕事が中心でしたから。何か新しいことをすると——私は労働組合の委員長もやりましたし、社長の秘書もやりましたし、今は社長をやっているから分かるんですが——自分でやらない壁を高くしていく。「そこにリスクがあります。100うまくいって、1リスクがあるのなら、新聞社としてやってはいけないのではないですか」と。 池田氏:新聞社は世の中への影響力そのものですもんね。たった1%のリスクでも慎重になってしまう面もありそうです。 角田氏:でも、それでは世の中に追いつく、いや先に行かなければいけないのに、自分たちで壁を高くしてしまっているのです。 ただ、先頭が乗り越えていくと、「え、あの人がAIを使うの? AIエージェントを自分で作るの?」と、周りが興味を持ち始める。こうなると、次から次へと乗り越えていくのが早い。 池田氏:それを狙って「AI全振り」と言ってるんですね。角田さんのように企業のトップが思いっきり旗を振ったら、みんなすぐに動きだしそうですけど、そうでもないんですか? 角田氏:抵抗は今でもありますよ。特に年齢的な傾向は、正直あると思います。 池田氏:あ、この間、AIで初めて原稿を書いた方が「こんなに楽にできるのか」っていたく感動されてました。5時間かかってたのが10分の1で出来たと。たしか50代で、ExchangeWireというメディアの編集長だった気がします(笑)。 杉原 剛氏:社外からの反応はどうだったんですか。 角田氏:これが面白い。社外のメディア関係者からは、圧倒的にAI活用に対する批判が多かった。ところが、財界人も学者も、朝日新聞に直接関わりのない方のほうが、好意的な受け止めがすごく多い。2つに分けると、そういう感じですね。 ある経済紙のインタビュー記事に出たら、「もうこの道(AI)だよと思った。こうやってトップが旗を掲げることが大事なんだ」という意見が多かった。一方社内の一定の年齢層は「紙なんだよ、我々は」と。 池田氏:角田さんって、記者上がりで、思いっきり現場主義でやってこられたわけじゃないですか。AIから遠いというか...。その角田さんがAIと言い出したギャップは面白いですよね。 角田氏:正直に申し上げると、「AI全振り」と言ったとき、私自身はAIをそんなに使っているわけではありませんでした。 池田氏:ですよね。(←とても失礼) 角田氏:でも、やってみると、便利なわけです。 昨日も、誰もが知っている世界的な企業のCEOと食事をしましたが、彼もAIを相当使っていて、ここに来る前の車の中で「角田さんについて」と入れたら、こんなものが出てきていると、見せてくれました。昔は広報や秘書が「今日お会いする角田社長はどういう人か」という資料を用意したものですが、今は皆さんご自身で、車の中でやってしまう。 その方は、夏にアメリカの有名大学の、世界のCEO向けのAI講座に行かれるそうです。トップが自らやらないと、と。会食の4時間の半分ぐらいはAIの話で盛り上がりました。 池田氏:便利ですよね。僕もお店にくるまでの間に、AIから角田さんが高校時代に群馬で軟式野球に夢中だったことや、大学時代に登山に熱中してたことも教えてもらいました。なので必要であれば、閉店時間の午前2時まであと6時間はお付き合いさせていただきますよ(笑)。 AIが情報の入口になる時代、「朝日新聞」というブランドは残るのか 池田氏:長い夜になりそうですね。1つ目の質問だけでこれですからね。剛さん、どうします?いったん、松山千春でも歌いますか? 杉原 剛氏:歌いません。 AIが情報の入口になると、信頼はどうなるとお考えですか。朝日新聞の記事であるというブランドも含めAIに食べられて、要約されて出てくる。そうなった時に、朝日新聞であるという存在価値って薄れると思うんです。そこはどうお考えですか。 池田氏:本質ですね。 角田氏:本質です。まず、どちらに振るかを決めきっていません。 AIにたくさん食べていただいて、朝日新聞の露出が増えるというのも、一つの策だと思います。しかし、コモディティなニュースはどんどん出すとしても、朝日新聞の価値のど真ん中まで全部——裸になって全部お見せするのかと。それは本当に、どちらが今後のメディアとしてのサステナビリティに資するのか。まだ完全に決めきってはいません。 池田氏:難しいですね。 角田氏:難しいです。 池田氏:そこで思い出すのが、朝日新聞がAI時代の役割として掲げている「トラストアンカー(信頼の錨)」という考え方です。AIによって膨大な情報やコンテンツが生み出される時代だからこそ、社会にとって「ここに立ち返れば信頼できる」という情報の拠り所が必要になる。その役割を朝日新聞が担っていく、という考え方だと理解しています。 AIに朝日新聞の記事をたくさん使ってもらえば、AIの回答の中に朝日新聞の情報が出てくる機会が増える。それは朝日新聞の影響力・露出を維持する一つの戦略になる。 でも、一般的なニュースだけでなく、独自取材や調査報道など「朝日新聞だからこそ作れる価値の高いコンテンツ」まで全部AIに提供してしまったら、ユーザーは朝日新聞そのものに来る必要がなくなります。 AI時代になればなるほど、信頼できる一次情報を作る報道機関の価値はむしろ高まる。でも、その信頼をAIに提供しすぎると、ユーザーから見た「信頼される存在」が朝日新聞ではなくAIになってしまう可能性もある。 信頼の源泉ではあり続けるけれど、信頼の受け皿ではなくなってしまう。 情報の信頼性を作ったのは朝日新聞なのに、「信頼される主体」はAIになってしまう可能性があるということですもんね。 ある意味、今までの状況も少し似ていると思っています。Yahoo!ニュースに各メディアはコンテンツを提供していますが、Yahoo!ニュースを見ている読者——つまり国民は、それがどこのメディアの記事なのかは意識せず「Yahoo!でみた」になっていると思います。 それがAIでさらに分からなくなる。 剛さん、どうですか。松山千春は入れましたか? 杉原 剛氏:歌いません。(ハイボールを置く) 海外を見てみると、専門性とか権威性みたいなところがAIの非常に好物だとすると、そこに特化して囲っていくという戦略のメディアが結構あるんですよ。ただ朝日新聞は成り立ちとして、もともとジェネラルニュースなので、そこは大きく崩せないと思うんです。という意味で、専門性とか権威性をハイブリッドでやる、というのが現実的なんだろうな、とは思っています。 角田氏:そのハイブリッドの割合を、本当にどうするか。これがこの先の大きな経営判断の一つだと思っています。 ニッチならニッチ、バーティカルならバーティカルという可能性はあると思います。ただ、戦後も含めて、紙の新聞メディアはどんどん大きくなってきた。黙っていても世帯数が増え、人口が増え、部数が増え、情報を独占していたから広告も新聞にドンと来た。 例えば朝日新聞は社員が約3700人です。この2、3年で200人は減っていますが、それでも規模感からいくと、欧米メディアと比べて圧倒的に大きな組織です。他社さんでも、4000人以上が全国にいらっしゃるところがあると思います。 その規模感でやってきたものが、ニッチやバーティカルに、短い時間で移れるのか、という話です。今の規模感をもっと筋肉質にはするけれども、基本形は今の形態に据えるという考えもあるじゃないですか。 池田氏:(グラスの氷が溶ける音だけがする) 角田氏:技術革新と人の生活習慣を見ながら「どちらなんだろうか」と判断する分岐点が、遠くないうちに来ます。 私の役割は、その分岐点の手前で方向性を一定程度定めて、次世代の若い皆さんにバトンタッチをする。基本的には、それが私の考えです。 池田氏:地ならしをされると。でも、AIのスピードはめちゃめちゃ速いですよ。 角田氏:早すぎますね。1日3本ぐらい、AIの技術進展に関わるニュースが出るじゃないですか。悠長に構えている時間はありません。 水車は、熱が出なきゃダメなんです 池田氏:組織の話がでましたが、朝日新聞は外部の人材を登用したりと、組織についても積極的に動かれている印象です。 角田氏:デジタルはプロパーが頑張ってくれていて、有料会員数が今年3月時点で30.7万になりました。地方紙もブロック紙もデジタルを始めていますが、総合紙でここまで有料課金ユーザーを増やしている新聞メディアは、ほとんどないと思います。 ただ、「それで間に合いますか」と。 今頑張ってくれている人たちには本当に感謝していますし、彼らのせいではなく、最終的には全部、経営の責任です。でも、間に合わない。 例えば、紙のメディアで育ってきた私たちは、デジタル的な知識のレベルが仮に高くても、お客様の本当の動きをデータで分析するという構えが若干足りなかったのかもしれません。 僕は「経験資源」と呼んでいますが、データを見て、半日、1日でPDCAを回すことに手慣れた方や、CMOとして30代の外部人材をAmazonから招聘したり、Googleでの仕事を経験した方や商社のグループ企業の社長をやっていた方にも入っていただきました。この1年で4人ですね。こうやって、何とか先に進もうとしています。 池田氏:朝日新聞のような会社が、年齢にとらわれず積極的に外資を含めた外部人材を要職として積極的に登用していることはとても興味深いです。カルチャーギャップなどもあると思いますが、その方々はいきなり機能できる感じなんですか? 角田氏:その方々にまず点検してもらうと、「GoogleやAmazonの経験を踏まえると、全然データ分析が甘いんじゃないですか」と。そうすると、フリクションが当然起きるわけです。 僕はよく水車の話をします。ギーギーと水車が回ったとき、フリクションで熱が出るじゃないですか。この熱が出なきゃダメなんです。煙が出なきゃダメなんです。組織や意識を変えるには。 池田氏:燃えてますね。 角田氏:この1年で、15度か20度ぐらいは、うちのデジタルも回転したかな、と。でも、まだスピードが足りない。 池田氏:ということは、まだまだ外資企業からの登用も含めて積極的に動かれるのですね。でも、GoogleやAmazonといった名だたる外資企業の方のお給料はすごいですよね、どうやって朝日新聞に入ってもらうんですか?もっと払うんですか? 角田氏:(即答)志です。 僕らがGAFAMのように払えるはずもなく(笑)。でも、今日の最初の話に戻ると、皆さんそれを非常に懸念されているわけですよ。共通の情報の基盤がこのままなくなっていく日本社会の危うさ。それが、GAFAMにいらしたからこそ、より分かる。そういうところがあって、ディスカッションを重ねながら、「じゃあ、一緒にやってくださいよ」と。 池田氏:志ですね!(ここで「じょうご」を飲み干す) スーパージャーナリストと、「プロダクション朝日新聞」 池田氏: そんな中で、角田さんは「10年から15年後には一般的な記者はいなくなる」とおっしゃっていますよね。では、どんな記者が残るんですか。 角田氏: 分かりやすく言うと、僕らのOBに、主筆をやっていた船橋洋一さんという方がいます。今は国際文化会館のチェアマンをされていますが、この方は英語ができる、中国語ができる。そして、とにかく人脈と取材力がすごい。 海外も含めてキーパーソンから、電話一本、メール一本でいろいろな情報が取れてしまうわけですよ。 彼はたぶん、AIをうんと使っているわけではないと思います。 池田氏: でも、その船橋さんがAIを使ったら。 角田氏: そう。個の記者として、ものすごく強い人脈と取材力を持っている。そういう人がAIを右腕として使えば、これが僕のイメージする「スーパージャーナリスト」じゃないですか。 そういう人が本当に出てくると思います。 池田氏: 1億円プレイヤー。出ますかね。 角田氏: 出ると思いますよ。 池田氏: でも、そうなったときに、一つ疑問が出てきます。その人が朝日新聞にいる必要ってあるんですか。 角田氏: そこなんです。 それでも、取材のバックヤードだったり、スーパージャーナリストになるまでの過程だったりは、朝日新聞が担う。 つまり朝日新聞が、今のように記者を雇用する会社というよりも、スーパージャーナリストたちを育て、支える「プロダクション」のようになっていく可能性はあると思います。 池田氏: お、それはまさに「プロダクション朝日新聞」ですね。「朝日新聞所属の杉原 剛です」みたいな。 杉原 剛氏: (コメントを避ける) 池田氏: それ、面白いかもしれないですね。「あの記者が移籍した」とか「あの人はいまどこに所属している」とか、それ自体が話題になる。そうなると、朝日新聞というアイデンティティの持ち方も変わってきますね。 角田氏: 船橋さんは定年までしっかりいらっしゃいましたし、出られた後も今もよくしてくださっています。 あるとき船橋さんと一緒にいたら、海外の首脳から直接電話がかかってきたんです。「はい、その件、訪日の日程は決まりましたか。じゃあメンバーはどうやって……」と。 電話が終わった後に、「え、訪日の日、決まったんですね」と言ったら、「お前、耳が早いな」と。 池田氏: 横で聞こえてますからね(笑)。 角田氏: 「横で漏れて聞こえてます」と(笑)。 その船橋さんに、あるとき聞いたことがあるんです。「今のご経験と力をそのまま持った状態で、仮に新卒の大学生に戻ったとしたら、どこのメディアを選びますか。忖度なしで」と。僕はもう息子のような年齢ですから。 そうしたら、こう言われた。 「朝日新聞ほど自分を育てようとしてくれたメディアはない」と。 「朝日新聞の社説と違う見解でも堂々と載せる。あの度量の広さは、どこのメディアにもない。だから私は、迷うことなく朝日新聞を選びます」と。 池田氏: グッときますね。(角田さんと共に「じょうご」を濃いめでおかわり) 角田氏: 彼はアメリカにも中国にもいましたから、当時の安全保障をめぐる議論でも、朝日新聞の社説とは正面から異なる主張を持っていた。 それでも、彼の論を堂々と載せる。 編集の会議では、「社説と違う論を載せていいのか」と言っていた中堅幹部もいたわけですよ。でも、載せる。 池田氏: お強い。 角田氏: それは僕は、あるべきメディアの姿だと思っています。 社説を頂点にピラミッドを作って、それに沿って若い人の記事を直していく。そういう組織のあり方もあるでしょう。 でも、僕らはそうではない。 だから僕らは、船橋さんレベルまでは届かなくとも、目指せる記者は出やすいんじゃないかという、多少の自負はあります。 池田氏: [...]
「FINAL FANTASY」の世界観を福島への旅のきっかけに――旅行ライト層を動かし、ふくしまDC認知者の検討度85%超を記録したjeki × GumGumの広告設計[インタビュー]
人気ゲーム「FINAL FANTASY」の世界観の中に、福島の桜並木が幻想的に溶け込んでいく。2026年4月から6月にかけて実施された、JRグループ6社と地域の自治体、観光事業者などが一体となり、その地域の魅力を全国に発信する観光キャンペーン「ふくしまデスティネーションキャンペーン」(以下、ふくしまDC)では、ジェイアール東日本企画(以下、jeki)が、スクウェア・エニックス監修のもと「FINAL FANTASY」と福島県の観光地を組み合わせたクリエイティブ「FUKUSHIMA FANTASY」を制作。キャンペーンのスタートを盛り上げるため、2026年3月に駅のポスターやDOOH、デジタル広告を通じて、福島の魅力を幅広く発信した。 しかし、ふくしまDCの目的は、コラボレーションを話題にすることだけではない。福島を知ってもらい、「行ってみたい」という興味を生み、最終的には実際の旅行先として検討してもらう必要がある。しかも対象となるのは、もともと旅行への関心が高い人だけではなく、普段は年に1、2回、あるいは数年に1回程度しか旅行をしない人も含めた幅広い生活者だ。すでに旅行先を探している人だけでなく、まだ旅行を具体的に考えていない人の気持ちまで動かすには、どのような接点をつくればよいのか。jekiとGumGumの両社でキャンペーンを担当した4名に、施策設計の背景と、そこから見えてきた新たな可能性について話を聞いた。 (Sponsored by GumGum Japan) 左から、GumGum Account Managerの伊藤ゆかり氏、ジェイアール東日本企画(jeki)コミュニケーションプランナーの小川慶也氏、同社アカウントプロデューサーの早川礼菜氏、GumGum Senior Account Executiveの苅籠毅氏 認知を獲得するだけでなく、実際の旅行検討につなげる ―まず、「ふくしまDC」の概要を教えてください。 早川礼菜氏(jeki):デスティネーションキャンペーン (DC) は、JRグループ6社と地域の自治体、観光事業者などが一体となり、その地域の魅力を全国に発信する観光キャンペーンです。 2026年4月から6月にかけて実施したふくしまDCでは、福島県の観光地を人気ゲーム「FINAL FANTASY」の世界観と組み合わせた「FUKUSHIMA FANTASY」を企画し、クリエイティブを制作しました。駅のポスターやDOOH、ウェブ広告などを通じて、多くの方に福島の魅力を知っていただくための情報発信を行いました。 ―今回のキャンペーンでは、どのような課題がありましたか。 早川氏: DCは、特定の年代や属性に限定した施策ではなく、幅広い生活者を対象としています。そのため、まずはできるだけ多くの方にキャンペーンを知ってもらう必要がありました。一方で、最終的な目的は、福島の名産品や観光地を知ってもらうことだけではありません。実際に福島を訪れ、現地で過ごしてもらうことです。 福島の情報に触れてもらった後に、「行ってみたい」「次の旅行先として考えてみたい」と感じてもらえるようなコミュニケーションが必要でした。また、限られた時間の中で施策を組み立てなければならなかったことも、プランニング上の難しさでした。 旅行に関心のある人だけを探しても、接点は広がらない ―幅広い生活者に向けたデジタル広告は、どのように設計したのでしょうか。 小川慶也氏(jeki):広いターゲットへ効率的に広告を届けるという意味では、SNSを含む大手広告プラットフォームが重要な役割を果たします。ただし、今回はそれだけでは十分ではないと考えていました。 旅行へ行くかどうかを決めるきっかけは、必ずしも旅行情報を検索しているときだけに生まれるわけではありません。広告に接触するタイミングや、そのときに見ているコンテンツによっても、メッセージの受け取られ方は変わります。過去に旅行サイトを訪れたことがある人や、すでに福島への旅行を検討している人だけを対象にするのではなく、日常の中で旅行や新しい体験への気持ちが動く接点まで可能性を広げたいと考えました。 また今回は、「FINAL FANTASY」の世界観を演出したクリエイティブだったので、DOOHでの展開が話題となり、ニュースや記事として取り上げられることも想定していました。そうした記事や関連コンテンツに触れている人とも接点を持つために、GumGumを活用しました。 ―旅行情報を見ている人だけでなく、日常のさまざまな接点まで視野に入れる必要があったのですね。GumGumでは、そうした「旅行への気持ちが動くきっかけ」を、どのように配信設計へ落とし込んだのでしょうか。 苅籠毅氏(GumGum):福島や旅行に直接関係するコンテンツだけではなく、生活者が旅行を考え始める背景やきっかけまで視野を広げました。例えば、記念日に合わせて旅行を考える人もいれば、グルメや健康、アウトドア、ドライブに関する情報に触れる中で、「どこかへ出かけたい」と感じる人もいます。 GumGumでは、こうした旅行への気持ちが動き得る瞬間を、コンテンツの内容だけでなく、デバイスや配信環境など、そのときに得られるさまざまなシグナルから捉えています。その判断を支えているのが、独自のAIデータエンジン「Mindset Graph™」です。 今回も、旅行や福島といった直接的なテーマに限定せず、キャンペーンの目的やクリエイティブとの相性を見ながら、接点となり得るコンテンツテーマを探っていきました。重要だったのは、「旅行に関心がある人」という固定された枠の中だけで対象を探すのではなく、旅行や新しい体験を受け入れやすい瞬間を捉えることでした。 ゲームの話題で終わらせず、福島への興味につなげる ―今回のクリエイティブを届ける上では、どのような点を重視しましたか。 苅籠氏:今回のクリエイティブには、「FINAL FANTASY」の世界観と福島の観光地が融合した、非常に印象的な映像が使われています。 その世界観を小さな広告枠の中に収めるのではなく、映像の魅力を十分に感じてもらえる形で届けたいと考え、縦型フルスクリーンの広告フォーマット「Hangtime」を提案しました。単に情報を提示するのではなく、スマートフォンの画面全体を使い、クリエイティブの世界に触れる一つの体験として届けることを目指しました。 伊藤ゆかり氏(GumGum):動画の冒頭では、まずふくしまDCのロゴが表示され、そこから「FUKUSHIMA FANTASY」が広がっていきます。さらに、喜多方市のしだれ桜並木をはじめとした福島県の観光地へと映像が展開していく構成になっていました。 実際の計測結果を見ると、ふくしまDCのロゴが表示され、そこから世界観が立ち上がっていく導入部分に、特に注目が集まっていました。ゲームとのコラボレーションを印象に残すだけではなく、最初に福島のキャンペーンであることを明確に伝えた上で、観光地の魅力へと導くクリエイティブの構成が、狙いどおりに機能したと考えています。 CTRは事前想定の3倍。より大きく動いた旅行ライト層 ―キャンペーンの結果をどのように評価していますか。 早川氏: CTRは、事前にシミュレーションしていた数値の約3倍となりました。今回のクリエイティブ自体が非常に目を引くものだったため、ほかの媒体も含めて全体的に好調でしたが、その中でもGumGumの結果は際立っていました。非常に満足しています。 伊藤氏:Hangtimeは、クリックだけを目的とするのではなく、フルスクリーンでクリエイティブをしっかり見てもらうことを重視したフォーマットです。そのため、CTRが事前想定の3倍になったことは、非常に良い結果だったと捉えています。また、広告が見られた時間も一定の基準となる2.4秒を上回りました。 ブランドリフト調査では、認知度、興味度、魅力度、検討度などの項目が、平均で約5%上昇しています。 ―特に特徴的だった結果はありますか。 伊藤氏:旅行頻度が年に1、2回、あるいは数年に1回程度の旅行ライト層において、興味度、魅力度、検討度が約10%伸びたことです。もともと頻繁に旅行をしている人だけではなく、普段は旅行が最優先の選択肢ではない人にも、福島を次の旅行先として意識してもらえた可能性があります。 今回の調査では、ふくしまDCを認知した人の広告接触後の検討度は85%を超えました。まずキャンペーンを知ってもらうことが、その後の興味や旅行先としての検討につながる可能性を示す結果だったと考えています。 旅行への気持ちは、旅行情報の外側でも動いている ―配信したコンテンツテーマによって、結果に違いはありましたか。 苅籠氏:旅行に直接関連するテーマだけではなく、健康やグルメに関連するコンテンツでも良い結果が見られました。旅行先を積極的に探している人だけでなく、日々の生活の中で食や健康、新しい体験に関心を持っている人にとっても、福島の魅力が受け入れられる可能性があることが分かりました。 旅行への気持ちが動く入口は、必ずしも旅行情報の中だけにあるわけではありません。 小川氏:GumGumを活用することで、SNSの中で情報収集を完結させる人とは異なる、ウェブ上の記事やコンテンツを閲覧している人にも接点を広げることができました。また、旅行やゲームといった直接的なテーマだけでなく、ウェルネス関心など、旅行につながる可能性のあるテーマを具体化できたことも、今後の施策に生かせる発見でした。 一方で、こうして見えてきた新たな潜在層に対し、どのようなメッセージを届ければ、実際の鉄道旅行や福島への訪問につなげられるのか。そこは今後、さらに考えていきたい課題です。 広告の成果だけでなく、次のコミュニケーションにつながる発見を ―今回の取り組みから、広告代理店としてどのような学びを得ましたか。 小川氏:広告の成果を評価する上では、閲覧数やクリック率などの指標が長く使われてきました。一方で、それだけでは、クリエイティブのどの部分に注目が集まり、どのように受け取られたのかまでは分かりません。今回のように、映像のどの場面が見られたのかを確認できれば、重要なメッセージをどのタイミングで提示すべきかなど、次のクリエイティブ制作に活かせる学びが得られます。また、当初は想定していなかったコンテンツテーマで潜在層が見えたことも、大きな収穫でした。 こうした発見は、次回のデジタル広告を改善するためだけのものではないと考えています。どのようなメッセージや表現が人の関心を引いたのか、新たにどのような層や関心との接点が見えたのかという学びを、デジタルの枠を超えて、今後のメディア選定やクリエイティブ制作、顧客接点の設計にも活かしていきたいです。 GumGumを一つの配信先として捉えるのではなく、そこで得られた生活者への理解を、コミュニケーション全体の戦略へ還元していく。誰に、どのような接点で、どのようなメッセージを届けるのかを考える上で、今回の取り組みは今後にもつながる示唆を得られたと感じています。 ふくしまDCでは、すでに旅行先を探している人だけを対象にしたのではない。日常の中で食や健康、アウトドア、ドライブなどに関心を寄せる人が、「どこかへ出かけたい」と感じる可能性のある接点まで視野を広げた。そして、「FINAL FANTASY」と福島の風景が融合したクリエイティブを、その世界観を生かせる形で届けることで、ゲームへの関心を福島への興味へとつなげていった。結果として、旅行頻度の高い人だけではなく、普段はあまり旅行をしない人の興味や検討まで大きく伸びた。 旅行のきっかけは、旅行情報に触れているときだけに生まれるとは限らない。生活者の関心が動く瞬間を捉え、そのときのマインドセットに合う体験を届けること。それが、まだ具体的な旅行を考えていなかった人にとって、福島を新たな選択肢に変えるきっかけとなった。 クリエイティブ監修:株式会社スクウェア・エニックス
電通デジタルと電通、性格特性を可視化する「BPTS」の提供を開始ほか|ExchangeWire Japan YouTube第8回
ExchangeWire Japan編集部は8月30日、デジタル広告業界の主要ニュースを映像と音声で伝える動画の第8回をYouTubeで公開した。 目と耳でニュースに触れられる新しい形式として、継続シリーズでお届けする。 ■Youtubeチャンネル:https://www.youtube.com/@ExchangeWireJapan ▼【ニュース】電通デジタルと電通、性格特性を可視化する「BPTS」の提供を開始ほか:ExchangeWire Japan(ExchangeWire Japan公式YouTubeチャンネル) 第8回となる今回の動画では、電通デジタルと電通による性格特性可視化ソリューション「BPTS」の提供開始を中心に取り上げている。 電通デジタルと電通は、心理学の「Big5理論」をもとに、顧客グループの性格特性をAI・統計モデルで可視化するソリューション「BPTS」の提供を開始したと発表した。10万人規模の調査データを活用し、個人ではなくグループ単位で性格特性を分析することで、属性や行動データだけでは捉えにくい深い顧客理解を可能にする。分析結果は広告効果分析やクリエイティブ制作、配信最適化まで幅広く活用でき、第一弾として「LINEヤフー広告」などで提供を開始し、今後は他のプラットフォームへも順次展開していく予定だという。 ■元記事URL:https://dentsudigitaljp.com/news/release/services/2026-0818-000340 このほか、動画では以下のニュースを紹介している。 スマートニュース:運用型広告でアプリのトップ面最上段に配信できる新機能「トップスロット広告」を提供開始 ■URL:https://about.smartnews.com/ja/news/2595.html フォーエム:1,600以上のメディアネットワークを活用した統合広告配信プラットフォーム「フォーエムAds」を正式提供開始 ■URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000120.000057667.html フリークアウト:SeenThis Japanと連携し、リッチ広告「High Impact」における動画配信を強化 ■URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000199.000006798.html FUSION:代表取締役が交代、前田遼介氏に代わり取締役CROの楠勇真氏が新代表取締役に就任 ■URL:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000559.000010550.html ぜひ目と耳でも、ExchangeWire Japanをご覧いただきたい。
総務省とUNICORNに聞く―広告主等向けガイダンスの効果と今後の課題[インタビュー]
総務省が「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス」を公表してから早1年が経過した。実際のところ、本ガイダンスはデジタル広告業界にどのような影響を与えたのか。本ガイダンスの普及啓発活動を行ってきた総務省 情報流通行政局 情報流通振興課 横山椋大 課長補佐*と、デジタル広告の品質管理に関わる課題に率先的に取り組んできたUNICORN株式会社 山田翔 代表取締役に話を聞いた。 (聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊) *役職はインタビュー当時のもの 「ハックしたい」が見落としているもの ―昨年に公表された本ガイダンスの効果をどのように受け止めていますか。 横山氏:総務省では昨年6月の本ガイダンスの公表後、普及啓発活動に取り組んでおり、昨年度は各企業の広告担当部門や経営層、自治体の広告担当者等を対象としたセミナーを計7回にわたり実施したところ、約1300名の方にご参加いただきました。 その成果として、昨年度実施したWebアンケート調査では、「ブランドセーフティ」や「アドフラウド」リスクに対して対策を行っていると回答した広告主の割合が、それぞれ令和6年度より約2割程度上昇しています。さらに、ガイダンスを読んだことがあると回答した方々にガイダンス記載の「広告主等が実施することが望ましい取組」の実施状況を尋ねたところ、約7割の広告主から、ガイダンスを契機に対策を実施または実施を検討しているとの回答がありました。 少しずつガイダンスの普及が進み、デジタル広告特有の課題に対する関心が高くなっていることが伺え、ガイダンスを読んでいただいた皆様においては、それを踏まえた一定の取組を実施あるいは検討いただいているとの結果が出てきており、非常に嬉しく思っています。 山田氏:本ガイダンスの発表以前より、広告配信に関して厳しい基準を課す広告主様が一定数いらっしゃいましたが、過去1年で独自の品質管理を求める広告主様の数が増えてきたと実感しています。 とりわけ大手広告主様においては、広告配信面の確認や指定、またアドフラウドやアドベリフィケーション関連のツール活用のご要望を示されることが一般的となりました。同じ広告代理店様からの発注でも要件が大きく異なるので、広告主様主導でこうした取組が進められていると想像します。 ―大手広告主以外の状況はどうですか。 山田氏:大手かどうかというよりも、広告の目的によって品質管理に対する意識に差が生じると感じています。大手広告主様はブランドの認知度を高めるために広告を出稿されることが多いので、自ずとブランドセーフティに対する意識が高くなります。 一方でいわゆるパフォーマンス型の広告を出稿される広告主様は売上増やユーザー獲得さえ実現できればよしとする傾向が強くなります。そうした傾向を持つ広告主様及び広告代理店様の間では、求める数値をどのように達成させるか、という意識が先行するあまり、結果としてユーザー体験を損ねているという本質的な課題が見過ごされがちです。 ―広告の成果と品質のバランスはどのように取るべきだと考えますか。 横山氏:デジタル広告の配信に先立ち、広告配信の目的を明確化し、目的・目標とコストのバランスに応じて広告の効果を測定する指標を決定することが望ましいと考えます。 デジタル広告に関する指標としては、大きく分けて、成果関連指標と品質管理指標の2種類が存在しますが、例えば、広告のクリック等のパフォーマンスに関する指標のみが重視され、クリックを獲得する効率ばかりが優先された場合、ブランド毀損リスクのある媒体・コンテンツへの広告配信や、アドフラウドによる不正な成果の数値が含まれるリスクが高まる場合があるとの指摘がされています。こういった点を踏まえ、デジタル広告の指標設定に際しては、成果と品質のバランスを考慮し、複数の指標を多角的に比較検討いただきたいです。 山田氏:デジタル広告に関わる諸課題の多くは、数値上の成果を絶対視することに起因していると思います。 例えばユーザーが興味を持って押したクリックと誤クリックのどちらも数値上は等しく1クリックと記録されます。デジタル広告はあらゆる挙動が数値化されるため、その数字こそが絶対だと誰もが思い込みがちです。その結果、数値的な目標設定と評価のみに終始し、どの場所にどのように表示されたかがないがしろにされてしまいます。 数値データは客観性があると受け止められがちですが、計測ルールさえ理解すれば、容易にハックないしは不正ができます。定性的な質評価を並行して行うことが必要です。 ―ただし、一般的なパフォーマンス広告担当者は必ずしも「定性的な質評価」のノウハウや手段を持っていないのではないでしょうか。 山田氏:特に小難しい手法を用いる必要はなく、広告配信結果を冷静に捉えようとするだけで気付くことが多々あると思います。私たちがよく用いるたとえ話なのですが、おにぎりの相場は200円前後ですよね。もし30円のおにぎりがあったら激安だからと飛びついて買いますか。多くの人は何か怪しいと感じてむしろ躊躇するのではないでしょうか。 ところがデジタル広告配信においては、例えば30~50円が費用の相場である1クリックが1円で売られた際に買い手が群がるという異常な状況が起きています。こうした極端な数値に対して注意を向けるだけでも、広告配信に関わるリスクはかなり低減できるはずです。 横山氏:そもそも広告配信の本来の目的は、広告プラットフォームの管理画面上の数値の最大化ではなく、広告を目にした消費者に自社の商品やサービスを欲しいと思ってもらうことだと考えます。「ハックしたい」という視点からは、広告の受け手である消費者の観点が欠落している懸念があり、その意味でも改めて自らの広告配信の目的を明確にしていただくことが重要だと考えます。 地方公共団体を中心とした底上げに課題 ―デジタル広告に関する今後の優先課題を教えてください。 横山氏:昨年度に実施したWebアンケート調査では、本ガイダンスの認知状況等を確認しましたが、その結果から地方公共団体への浸透に課題があると感じております。 地方公共団体は、意図しない媒体への広告配信が行われた場合に、公的団体としての信用を大きく損なうリスクがあります。そこで今年度は、デジタル広告出稿に関する体制をきちんと構築する等、他の地方公共団体の参考となるような取り組みをしている地方公共団体等を見つけ出し、それを全国的に広げていくことを予定しております。 山田氏:デジタル広告を「邪魔」「うざい」と感じる消費者が多く存在することが様々なアンケート調査を通じて明らかになっています。嫌われているにも関わらず、年々着実に成長を遂げている歪んだ市場構造を是正しなければいずれ破綻するでしょう。 広告主だけに是正を求めるのではなく、当社を含めた支援事業者側が広告品質の管理水準を自ら高め、かつ業界に広く浸透させていくことが必要だと考えています。今後は関係省庁との議論を続けながら、業界団体等を通じて新たな仕組みや業界ガイドラインの策定などにも積極的に関与していきたいです。 また広告の品質管理を具体的にどのように行えばいいかよくわからないという広告主様や広告代理店様もまだまだいらっしゃると思うので、当社が持つ管理ツールをオープン化していくという取組も進めていきたいと思います。 横山氏:デジタル広告は、市場の急速な拡大や生成AI等の技術革新による影響が大きく、またその関係主体が非常に多く、商流が複雑です。デジタル広告に係る課題への対処には、多様な主体の参画・協力・連携が不可欠と考えており、それぞれの業界団体の皆様との連携が非常に重要です。 特に本ガイダンスにつきましては、デジタル広告市場の動向等も踏まえ、適宜見直しを行うことが重要と考えており、引き続き業界団体等とも連携しながら進めていきたいと考えています。 ―生成AI技術を活用した不正は増えつつあるのでしょうか。 山田氏:既に多く発生していますし、今後はさらに劇的に増えていくと見込んでいます。そもそも当社が配信面の管理をブロックリスト方式からセーフリスト方式に切り替えたのは、極端に多くのクリックやコンバージョンが発生していたサイトを発見したことがきっかけでした。よく見ると機械的に作られた意味不明なドメインで、かつゲームのアイコンだけが並んでいるようなサイトでした。AIによるブラウザ操作を通じて広告主側のサイト上でコンバージョンを発生させていることが考えられたので、正体不明のサイトは最初から除外すべきと考えたのです。 今後は一般的なユーザーの端末上で、不正目的ではなく例えば業務効率化のために人間がAIを動かしてウェブ上フォームから申し込みを行うといったことが増えてくると見込んでいます。当社は既にユーザーの端末からではないアクセスは遮断していますが、実在するユーザーの端末をAIが操作した際にいかに不正を見極めるかについてはさらなる研究開発が必要だと感じています。 このままでは産業自体がなくなる ―広告配信面の管理をあまりに強化すると、複数の媒体やアドネットワークを横断して第三者配信を行うDSPの利点が損なわれてしまうのではないでしょうか。 山田氏:当社は DSP 事業者ではあるものの、当社及び外部の計測ツールの連携を含めて媒体社とも直接的なやり取りを既に行っています。媒体側の支援も行いつつ、配信先の目利きをしっかりと行うことが、DSPには今求められていると思います。 ―広告品質の管理を強化した結果として、広告の配信量が減り、広告会社やアドテクノロジー企業が得ることができる広告収入が減ってしまう可能性はないですか。 山田氏:少なくとも当社はこれまで率先して広告品質の管理を行ってきた結果、事業としては成長しているので、品質管理を強化することが即座に広告配信の量や広告収入を減らしてしまうことにつながるわけではないと考えています。 そもそも品質を犠牲にして得た広告収入を維持する正当性がないですし、広告が本当に嫌われてしまったら産業自体がなくなるという危機感をもっと持つべきです。また別に広告費自体が消失するわけではないので、広告配信環境を健全化することで得られる収益も多くあるのではないでしょうか。 ―アドテク企業に対して業界健全化のためにどのような役割を期待しますか。 横山氏:運用型広告が日本のインターネット広告媒体費の約9割を占めることを考えると、アドテクノロジーを持つ民間企業が、業界健全化のために重要な役割を担っていることは明白です。 一口に「アドテクノロジー」と言っても役割や特徴は様々ですが、成長市場であるデジタル広告が、これから先も利用者にとって信頼され続けるためには、市場の基盤を支えるアドテクノロジーを持つ企業には責任ある取組が求められると考えます。 山田氏:業界が一体となっての取組を進めていく必要があると感じる一方で、一般論として、不正や詐欺を働く人たちは業界団体とは連携しません。景品表示法や薬機法が施行された際にこれらの法律が対象とする悪質な広告が一気に減ったことから、ブランド毀損やアドフラウドを助長するような考えや商習慣を根本的に是正するには、同様の法律が必要なのかもしれません。 横山氏:広告品質基準を引き上げようという責任感を前面に出すUNICORN様の存在は非常に心強いです。こうした企業を増やしていくための取組を総務省としても引き続き行っていきたいと思います。
Intent IQ会長が語る「失われた収益機会」とアイデンティティ戦略[インタビュー]
シグナルロスにゼロクリック検索といった諸課題に見舞われながら、パブリッシャーは広告在庫の質と量の両面を維持することに苦心している。この苦境に立ち向かうための武器を提供するのが、米国発のテクノロジー企業であるIntent IQだ。来日した経営幹部にインタビュー取材を実施した。 (Sponsored by Intent IQ) 「失われた収益機会」を取り戻す ―自己紹介をお願いします。 シュケディ氏:次世代のユーザー識別ソリューションを提供するIntent IQ会長のロイ・シュケディと申します。同社の親会社であるAlmondNetグループ社のCEO及びもう一つの子会社であるDatonics社の会長を兼務しています。 シュブ氏:Intent IQの事業開発担当上級副社長を務めるタミル・シュブです。オンライン動画のマネタイズ分野で約15年の経験を積み、複数の企業の幹部や顧問職を経て、過去5年間はIntent IQにて事業戦略の開発などを担当しています。 ―貴社の事業を改めて教えてください。 シュケディ氏:生成AIの台頭によって各サイトやアプリに流入するトラフィックが減少し、パブリッシャーはこれまで以上に一つひとつのインプレッションを効率的に収益化する必要に迫られています。その上で避けて通れないのが、IDレス環境への対応です。 プログラマティック広告在庫のターゲティングは、主に閲覧中のコンテンツの内容ではなく、ユーザーの過去のオンライン行動履歴に基づき行われます。しかしながら、サードパーティCookieやIDFAがなければ、過去のオンライン行動を把握することができません。そこで当社ではIDレス環境にいるユーザーに対して93%以上の精度を誇る当社IDを注入することで過去のオンライン行動に基づくターゲティングを可能にしています。 ―具体的にはどのような技術を用いるのでしょうか。 シュケディ氏:業界では「IDブリッジング」、当社では「Bid Enhancement(入札強化)」と呼ばれる技術を用いて、ChromeとSafariなど異なるブラウザ間をまたいで単一のユーザープロファイルに統合した独自のアイデンティティグラフに基づく識別子を提供しています。この識別子を使えば、DSPがユーザーを識別し、適切にターゲティングすることが可能です。 現在は入札リクエストに識別子がないことによる収益機会の損失が発生しています。当社では、識別子の提供を通じて、広告主、広告代理店、DSP、SSPに対してアドレサビリティを確保し、パブリッシャーが一度失ってしまった収益機会を新たに取り戻すための手段を確保しています。 ―GoogleがサードパーティCookie廃止を撤回したことで、IDソリューションの必要性はやや薄まったのではないですか。 シュケディ氏:Googleが引き起こした一連の騒動によって、課題はむしろより顕在化されたと思います。状況を改めて整理しましょう。オンライン広告配信を目的としてユーザーを識別するために、長らくブラウザではサードパーティCookie、スマートフォン端末ではモバイル広告ID(MAID)などが用いられてきました。iPhoneでは、ブラウザ上でも端末上でも既に事実上のIDレスに陥っているため、広告収益はAndroidの3分の1にまで低下しています。 ただし、広告主が本当にリーチしたいのはiPhoneユーザーの方です。米国のスマートフォン市場では53%、日本は60%をiPhoneユーザーが占めており(※1)、さらに米国ではiPhone世帯の収入はAndroid世帯と比較して40%、日本では33%(※2)も高いです。 (※1)statcounter調べ(2026年4月)/(※2)aso index調べ(2023年5月) さらに近年著しく成長しているCTV広告でもIDレスが課題となっています。Rokuのように専用端末を提供する方式であれば端末ごとの専用IDを付与できる場合がありますが、その他多くのFAST(Free Ad-Supported Streaming TV)と呼ばれる広告付き無料ストリーミング形式では広告配信用のIDが統一されていません。 プライバシー保護は「企業DNA」 ―IDレスが進行した背景には、ユーザーのプライバシー保護意識の高まりがあったかと思います。貴社のユーザー識別ソリューションはユーザーのプライバシーを保護できるのですか。 シュケディ氏:プライバシー保護こそ当社技術の核心であり、また当社の企業DNAに刻み込まれています。広告バナーの右上に出てくる「AdChoices」という表示を目にしたことがあるかと思います。これをクリックすると、行動ターゲティング広告の配信を拒否(オプトアウト)する選択肢が示されます。この仕組みを考案し、業界全体に普及させた企業こそ、Intent IQの親会社であるAlmondNetなのです。 なお、Intent IQの識別子はユーザーの氏名やメールアドレスの取得を必要としません。またEU一般データ保護規則(GDPR)やカリフォルニア州個人情報保護規則(CCPA)を始めとする各市場の法規制にも準拠しています。 ―貴社IDソリューションの一般的なユースケースを教えてください。 シュケディ氏:当社の顧客には、パブリッシャー全般に加えて、ヘッダービディング事業者やアプリ内広告関連のベンダーや動画配信プラットフォームなどが含まれます。いずれもCPMやフィルレートといったKPIの改善を目的として導入いただくことが多いです。当社IDを付与することで広告在庫の価値が上がるので、単価上昇や入札増を見込むことができます。 ―いわゆるゼロクリック検索によって各パブリッシャーのトラフィック及び収益は減少しつつあります。CPMやフィルレートの改善によって、減少した収益をどれほど取り戻すことができるのでしょうか。 シュケディ氏:例えば、生成AIの台頭によってある特定のサイトが20%のトラフィックを失ったとしましょう。そして、そのサイトのトラフィックの60%をiPhoneが占めると仮定します。また、Intent IQの増収効果は主にPrebid経由での収益となるので、25%がPrebid経由と仮定します。 Intent IQを導入することで、Prebid経由の収益は平均で20~40%増加します。全体収益でも3%〜6%は取り戻すことができます。少なく感じるかもしれませんが、実際にはPrebid経由でのオークションプレッシャーが高まることによって、Intent IQでは把握できない他のデマンドソースの収益もアップするため増収効果は更にあると考えられます。 常態化したIDレスに対応せよ ―日本市場の独自性は何だと思いますか。 シュケディ氏:まずiOSの普及率が高いことが挙げられます。加えて、日本では仕事用と家庭用など複数の携帯電話を持つことが一般的なので、IDブリッジング技術を活用する余地が大きいと思います。 また日本人は概して正確性を追求し、責任感が強くて忠誠心があり、各機能が実際に作動している証拠を目にしたいとの要望を示すことが多いとの印象を持っています。こうした価値観は、当社の企業文化とも一致します。当社でも各種のソリューションが正確に機能することを実際の作業環境で示すことを重視し、また欧米企業では珍しく、数十年単位で勤務を続けている社員がたくさんいます。 ―IDレスは今後さらに深刻化すると思いますか。 シュケディ氏:オンライン広告業界に長らく従事してきましたが、分かっていることはこの業界は絶えず変化しているということだけであり、市場の未来を予測することなど誰もできません。「サードパーティCookieが使えると思っていたら使えなくなりそうだったが気付いたらまた使えるようになっていた」というような事態は今後も起こり得るでしょう。 ただし、確実に言えるのは、IDレスは既に現実と化しているということです。 シュブ氏:つまりパブリッシャーは、未来を見通すまでもなく、目の前にある現実に対応する手段としてID戦略を検討することが求められています。 市場には既に各種のIDソリューションが普及していますが、パブリッシャーの皆様にはそれらのソリューションを一通りテスト導入することをお勧めします。そうすれば、自社のトラフィックとオーディエンスにとってどのようなソリューションが最適であるかを把握できるからです。 シュケディ氏:IDレスが常態化したことで、IDソリューションは今や基盤的な設備となりました。ありとあらゆるパブリッシャーが、その事業を営む上では何らかのIDソリューションを導入することが求められる時代になっていると私は思います。
「なんでも食べてしまう帽子」が街を飛ぶ──LIVE BOARD×電通が生んだキャラクター「ライブボーシ」の舞台裏【インタビュー】
LIVE BOARDをもっと街ゆく人々の目に止まるようなものにしたい──。デジタルOOHアドネットワークを展開する株式会社LIVE BOARDは、その課題意識から2025年初頭、オリジナルコンテンツの企画に着手した。株式会社電通と約1年半の構想・制作期間を経て生まれたのが、帽子型キャラクター「ライブボーシ」である。「なんでも食べてしまう」、この少し不条理なキャラクターは、LIVE BOARDが掲げるセレンディピティ(偶然の出会い)という価値をどう体現しているのか。 制作を担当した株式会社電通の萬田氏と、LIVE BOARDで本プロジェクトを推進した佐野氏に、今回の取り組みを聞いた。 (Sponsored by LIVE BOARD) ※インタビュー出席者の名前・所属等は写真の左から次のとおり。 萬田 翠 氏:株式会社電通 第1CRプランニング局 クリエイティブディレクション1B部 アートディレクター/ CMプランナー 佐野 祥子 氏:株式会社LIVE BOARD ストラテジー部/インサイト部 スペシャリスト LIVE BOARDらしさを説明せずにどう生活者に伝えるか ―自己紹介をお願いします。 萬田氏:電通でアートディレクターをしている萬田と申します。普段はアートディレクションを中心としながら、企画・映像プランニングにも関わっています。また、会社の仕事とは別に絵本を作るなど、イラストレーターとしての活動もしております。 佐野氏:LIVE BOARDでデザイン業務を中心としながら、広報やインタラクティブな配信手法の開発、クリエイティブ関連などに関わっています。LIVE BOARDのことをより知っていただき、広告主と街ゆく人々とのワクワクするコミュニケーションを活性化させることができれば、と日々業務に取り組んでいます。 佐野氏 -今回、オリジナルコンテンツ・キャラクターを制作することになったきっかけを教えてください。 佐野氏:発端は「LIVE BOARDをもっと街ゆく人々の目に止まるようなものにしたい」という想いです。 元々はLIVE BOARDのコーポレートカラーであるブルーを使ったクールなクリエイティブを放映していたのですが、それだと街行く人の足を止めることはなかなか難しい。もっと「LIVE BOARDを街中でよく見るよ」、という声を増やしたり、「この媒体には価値があるな」と思っていただきたい。そう考えて、魅力のあるコンテンツを作ろうということになりました。 2025年の年明けから様々なクリエイティブチームの方々とコミュニケーションを重ねてきましたが、その中で、今回の私たちの目指す方向性や課題に対して、最も深く共鳴し、具体的な形としてご提案くださったのが萬田さんを含めたクリエイティブチームの皆さまでした。 -オファーを受けた際、萬田様は率直にどのような感想を抱かれましたか。 萬田氏:チームのみんなで会話を進めるなかで「キャラクターコンテンツを作るのはきっといいよね」という話は挙がっていました。 ただ、LIVE BOARDさんは、データを活かしたさまざまな機能をお持ちのメディアなので、その特性をきちんと伝えるキャラクターを作るべきなのか、それとも本当にシンプルにすごく可愛いキャラクターを作るべきなのか、その塩梅の難しさは率直に感じていましたね。 佐野氏:我々からも「LIVE BOARDはこんなことが出来る」という直接的な宣伝をするのではなく、街行く人々がワクワクして、もっとLIVE BOARDのことを知りたくなるようなコンテンツにしたい、とお伝えしました。 ただし、そのうえでLIVE BOARDらしさも組み込んで欲しい。一見矛盾してしまうような、難しいお願いをしました。 OOHの魅力として、偶然の出会い=セレンディピティというものがあります。街を歩いていたら偶然目に留まる広告があり、その広告がその人のモーメント(生活者の状況や気分)をうまく捉えられた場合、広告の効果が最大化する。 LIVE BOARDのいいところは、ドコモのビッグデータを活用・分析して、この偶然の出会いを広告プランニングとして設計し、生み出すことができるという点だと思っています。ただ、これをそのまま説明してしまうと、まさしく「宣伝」で街中の生活者には響かないメッセージになってしまう。 そうではなくて、生活者の方には街中での偶然の出会いを偶然だと感じずにワクワクしてもらい、何度も見たくなる。そのようなコンテンツを実現できないかというところを、かなり丁寧にご相談させていただいて、様々な案をいただいたという形です。 萬田氏 不条理=偶然、ライブボーシが生み出す様々な出会い -「ライブボーシ」はどのような着想から生まれたのでしょうか。 萬田氏:佐野さんが話してくださったような「偶然の出会いを演出するメディアである」というところは下敷きにしましたが、それをそのまま行儀良く説明するようなものだと、やはり街に馴染んで愛されるキャラクターにはなりづらいかなと。 という上で、ある種の不条理な感じというか、理屈だけではうまく説明しきれないところが大事なような気がしました。そうなったときに、これは言葉遊びでもあるのですが、ライブボードで「ライブボーシ(帽子)」だと。 帽子自体の感情だったり、なぜこの子がこういう行動をするのかが、あまりわかりきらない。だけど、みんなに被さったり、頭にぴょこんと乗ったりして偶然の出会いを演出してくれる、ちょっと不思議な子。そういう、少しだけ謎を残したような塩梅の帽子のキャラクターに着地していきました。 -デザイン面でのこだわりのポイントはどこにありますか。 萬田氏:本当にシンプルな帽子のキャラクターなので、顔の表情の絶妙な感じみたいなところは、こだわったつもりです。「なんだこいつ、憎めないな」と思わせる、若干の間抜け感みたいなところは大切にしました。 OOHメディアさんというのはどうしてもビジネスっぽい、真面目でかっちりした印象を持たれてしまいがちかなと思ったので、そういうイメージを少しでも柔らかくできるような、少し手作りの温かみ、揺らぎがあるニュアンスを大切にしました。 -ライブボーシを使ったキャラクター映像と企業用映像を制作されました。それぞれのコンセプトや狙い、ストーリーを教えてください。 萬田氏:大きく分けて、15秒のものが3本と、30秒のものが1本あります。 15秒のほうは、ライブボーシが色々なものを「食べちゃう」という内容です。羊だったり、おじいさんだったり、カニだったりを、偶然の出会いということで、急に食べてしまう。その結果として、彼らに少しだけ、予想もしなかったハッピーな出来事が起こる、というストーリーになっています。 こちらはシンプルにコンテンツとして楽しめるものになっています。街で流れていて「これはなんだ?」と思うような、ちょっと不条理でおかしい感じ。そういう印象がより強く出るように作っていました。 一方、30秒の少し長いものは、LIVE BOARDさんのセレンディピティな出会い、皆さんに色々な素敵な出会いをもたらしたいという思いを汲み取ったものになっています。色々な人の出会いを通じて、ライブボーシが世の中に広がっていくことが伝わりやすいようにしようと思って作りました。 15秒CM(羊ver) 30秒CM ライブボーシが広告にいたずら?広告クリエイティブとの連動も視野に -ライブボーシはどのような形で一般生活者の目に触れていく予定ですか。 佐野氏:7月1日からライブボーシのアニメーション放映が開始されまして、全国のLBオウンドメディアを通じて色々な街で放映されています。社内でもとても好評なので、ぜひ第2弾、第3弾とコンテンツ映像を一緒に作っていけたらと思っています。また、Tシャツやステッカーなどのグッズ展開のほか、名刺やホームページにも入れたいなど、様々なアイデアが社員からも出ています。 -放映メディアとのコラボレーションも検討されていると伺いました。 佐野氏:LIVE BOARDの特徴として、媒体周辺の環境、天気や気象情報に合わせて広告配信を制御できる機能があります。例えば30度以上なら暑い日用のクリエイティブを放映する、雨が降っていたら雨の日用のクリエイティブを放映する、といったことが可能になっています。 ここにライブボーシが、広告に勝手にいたずらを加えるような形で登場しても面白いですね。雨の日には広告内の登場人物にライブボーシが勝手に傘をさしてあげる。花粉が強い日には、画面を埋め尽くす花粉をライブボーシがふーふーして画面を綺麗にしてくれる。 そんなふうに周りの環境と連動して、ライブボーシが広告にいたずらをする。それによって、街行く人々が「面白いな」とワクワクしてもらう瞬間を作れないかなと思っています。 ほかには実写化にも取り組んで行けたら面白いですね。実写のライブボーシとゲストが対談し、最後にゲストがライブボーシを被る。対談を通じて仲良くなれていたらハッピーになれるけど、仲良くなれていなかったら食べられちゃう、、、というのはどうでしょうか(笑) まだまだ構想段階ではあるのですが、ぜひ一緒に考えていけたら嬉しいです。 萬田氏:私たちのチームでも、冬はニット帽になるとか、気温によってキャップになるとか、そういうこともできたりしたら面白そうだよね、という話はしたりしていました。 納品して「はいありがとうございました」で関係性が終わることも多い中で、これほど色々なご意見を出していただけるのは、すごく嬉しいですし、ありがたいです。ぜひ一緒に展開出来たらいいなと思います。 佐野氏:LIVE BOARDは2019年に創業した比較的新しい会社ですが、ゼロから作り上げてきたという思いもあり、自社への愛が強いメンバーが多いです。そうした中で初めて作っていただいたキャラクターの「ライブボーシ」というキャラクターは、私たちメンバーの思いを体現していると感じています。「ライブボーシのいたずらにより、街ゆく人々がちょっとハッピーになる」というコンセプトは、まさしくLIVE BOARDが実現したい未来の姿そのものです。なので、どうやってライブボーシを盛り上げていこうかという意見が活発に出ていますね。 LIVE BOARD「AOYAMA STREET BOARD」前にて撮影 ワクワクするコミュニケーションが生まれる環境へ -最後に、ライブボーシを通じて今後、一般の生活者やクライアント企業に、LIVE BOARDをどのような存在として認知していってほしいですか。 佐野氏:広告主と生活者がワクワクするコミュニケーションを取ることができる媒体であると、認知してもらえるきっかけにできればいいなと思っています。 とはいえ、それを直接的に伝えるのはなかなか難しいので、まずはLIVE BOARDではハッピーなクリエイティブが流れていることを認知していただければと考えています。 私たちの願いは、生活者の潜在的な欲求を引き出すコミュニケーションを、適切なタイミングで取れるようにすることです。そういうコミュニケーションを、クライアント企業と一緒に設計できる環境を提供したい。想像していなかったけれど、本当は出会いたかったもの。そういうものとの出会いを作れる仕事なのだと、改めて感じる機会になりました。 萬田氏:まず広告業界内の方々には、LIVE BOARDの機能としての面白さや、チャレンジングな姿勢を持っているメディアだということをより知ってもらいたいですね。そのうえで、みんなで楽しい使い方を生み出して、考えていきたいなという気持ちがあります。 それこそクリエイターの方からも「面白い映像を流すにはどの場所が良いか」ではなく、「LIVE BOARDを使ってどんな面白い映像を流せるか」と、メディアを起点とした発想が出て来ても面白いですよね。 そのうえで一般の生活者の方からも、「あのメディアを見たら面白い映像が放映されているから見てみよう」と思われるようなものになったらいいですよね。まずは [...]
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