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fluctが、リテールDX支援の領域で進む新たな路

パブリッシャーの成長支援に軸足-fluctが歩んできた軌跡

2008年にadingoとして誕生したCARTA HOLDINGSのfluctは、サプライサイドのビジネスに軸足を置き、刻一刻と変化するデジタル広告業界の趨勢を見定めながら、変化を遂げてきた。そして、昨今は成長するリテールメディア市場にも進出し、新しい成長領域に力を注いでいる。

現在、同社の舵取りをするのは、2024年より代表取締役CEOを務める、藤井 洋太氏である。藤井氏は、2009年にCARTA HOLDINGSの前身であるVOYAGE GROUPに入社し、Zucksの取締役を務めるなど、バイサイドとセルサイドの両サイドでのビジネス経験を持つ。2020年にfluctに参画して以降は、主に媒体社向き合いのセールスチームを率いてきた。2023年より代表取締役COOを務め、今年前任の望月貴晃氏(現CARTA COMMUNICATIONS 取締役執行役員)よりCEOのたすきを引き継いだ。

また、同社の取締役としてリテール領域を担当するのが松本 昌樹氏である。松本氏は、前身のadingoより15年ほど在籍をしている。

 

リテール領域への新たな一手を打つ

SSPは、その機能以外にもアドサーバーとしての機能を持っている。fluctは、この資産を活かして、リテール向けのアドサーバービジネスを新たに立ち上げて、提供を開始した。同社は、2023年1月に、リテールアドマネージャーの提供開始を公表しているが、実際には顧客からの相談を受けて、2022年よりPOCを開始していたという。

 

「我々が電通グループ傘下に入ったことで、CCI(CARTA COMMUNICATIONS)とお取引があった企業からの相談が増え、同時に自社から提案をする機会も増えたことが、この事業を始めたきっかけでもある。」と、松本氏はその背景について語る。足元では、「我々としても、従来の顧客層向けにアドサーバー事業をやるということはもちろんですが、自社で運営しているアプリなどの収益確保を目指して、これから広告事業を新たに始めたいという小売事業者の広告ビジネスに立ち上げを支援しています。」(松本氏)

 

顧客である小売企業が、大手広告代理店やコンサルティング会社の支援を受けて広告事業を設計する。実際に事業を始める段階で、fluctが細部にわたる要望に対応しながら、リテールメディア向けのアドサーバーとして提供する、というような連携を図っている。

 

最前線で感じるリテールDXへの期待と現状、そしてfluctの役割

松本氏によると、小売企業側のリテールメディアビジネスに対する熱量は日増しに高まっているという。「大手と呼ばれる小売企業においては、大体がリテールメディアビジネスを手掛けている。業態としては、ドラッグストアが特に先行している。またコンビニエンスストア大手3社のほか、スーパーマーケットがこれに続いている状況にあると思います。」(松本氏)とのことだ。

 

業界全体を俯瞰すると、小売企業におけるリテールメディアビジネスはまだ始まったばかりである。また業種特性上、従来のWebメディアよりも、広告主を厳選する傾向がある。もともとが広告マネタイズを前提で立ち上がったものではなく、あくまでもCRMを目的とする会員証や、支払いのためのものである。したがって、自社店舗で取り扱いをしている商品の広告を優先したいという想いがある。現在のところ、広告フォーマットは純広告の期間販売が中心で、内容は商品クーポンなどが多い。

小売業界と広告業界が今ほど深く、本格的な広告ビジネスを一緒にすることはこれまでなかったことである。業界慣行も広告ビジネスに対する考え方も異なり、小売企業とこれを支援する広告会社とで、なかなか取引条件が折り合わないこともあるなかで、同社はすでにドラッグストアやスーパーマーケットなど、複数の小売業態への支援を始めている。

小売企業の広告販売方法には二通りがあり、一つ目は広告代理店を通して、広告主企業のマーケティング部門に販売するケース。そして二つ目は、小売企業が自分たちで販売をしているケースである。小売企業はメーカーと直接的な取引があり、商品部を通して広告商品の提案を行っている。

 

「小売企業の強みは、購買データです。我々のアドサーバーから広告配信をして、我々からユーザーのクリックやインプレッションのデータを提供し、これらを突き合わせることで、広告を見たユーザーの購買行動が明らかになります。これをメーカーにレポートしています。」(松本氏)

 

今後同社では、リテールメディア領域でどのようにビジネスを広げていくのかという問いに対して、松本氏は「今までは、メディア支援実績が豊富な当社に対して、小売企業様からのお声がけをいただくことが多いので、お客様からのニーズに合わせた開発を一緒になって進めています。」と語る。

 

「小売企業におけるリテールメディアという市場は立ち上がったばかりで、小売企業の広告ビジネスにおいては、まだ全企業が業界トレンドの流れに向いているというフェーズではありません。したがって、我々が何年後かのトレンドを見据えてこうあるべきですとお伝えするのではなく、まずはお客様ごとのご要望に寄り添うことが重要であると考えています。そのためにアドサーバーとして出来ることを、しっかりと整えてお客様に提供をしています。」と、代表の藤井氏は、現状を俯瞰した顧客動向と同社の現状の取り組みを語ったうえで、「我々はDX領域において国産の優れたプロダクトを提供することで、日本のDX化を裏側で支えていくことを、ミッションと感じています。」と締めくくった。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。