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Googleの3rd Party Cookie規制撤回によって、何が変わるのか―ZEALS、オプト、インティメート・マージャーが緊急セミナーを開催[ニュース]

株式会社オプトの呼びかけを受け、株式会社インティメート・マージャー、株式会社ZEALSの3社は、8月7日(水)、「Googleの3rd Party Cookie規制撤回がもたらすデジタルマーケティングの未来」と題したオンラインセミナーを開催した。

 

Cookieの廃止撤回発表を受けて、セミナーを緊急開催

 

国内最大級パブリックDMP *1を提供するインティメート・マージャーの経営企画室 室長を務める五十嵐政貴氏のモデレートのもと行われた本セミナーは、去る7月22日(月)にGoogleが2025年に予定していたGoogle Chromeブラウザにおける3rd Party Cookieの廃止方針を撤回すると発表したことを受けての緊急開催となった。主催のオプトによると、当日は100名以上の聴講者が参加。Cookieレスの動向に対する関心の高さを伺わせた。

 

セミナーの冒頭では、インティメート・マージャー 代表取締役社長の簗島亮次氏が直近のCookieレス環境への対応状況を報告。リターゲティングやオーディエンスターゲティングといったCookieに依拠した広告施策の実施が難しくなった結果として、コンテキストターゲティング*2または 代替IDソリューションやプラットフォーマーIDを用いたターゲティング手法に対する需要が高まっていると述べた。

 

また、オプトマーケティング・アセット本部 執行役員の岩本智裕氏は、近年では広告プラットフォームの自動最適化機能が飛躍的に向上したと強調。広告主や広告代理店が自らターゲティング設定を行うよりも、マーケティング対象となるユーザーに関する情報をファーストパーティデータ*3として取得したうえで広告プラットフォームと共有し、その自動最適化機能を後押しする方が効率的であるとの考えを示した。

 

トラッキング手法も変化

広告の自動最適化を促進するうえで、鍵を握る学習データの整備では、広告効果やユーザーのオンライン行動を理解するためのトラッキングが重要になる。しかしながら、最近ではGoogleアナリティクスなどの主要ツールで計測可能なコンバージョン件数が減少したため、十分な学習データを取得しにくくなった。1st Party CookieやWebページで取り扱うデータをブラウザに保存するLocal Storageといったデータで補足する手法が開発されたものの、これらもユーザーのプライバシー保護を目的として規制が強化されつつある。さらには必要性が高まるクロスデバイス計測*4にも十分に対応できない。

 

岩本氏は、こうした状況を受けて、従来の計測タグを通じて広告の配信元と配信先がデータを共有する仕組みが機能しづらくなったと説明。代わって、 MetaのConversation API、Google のServer-side Tag Manager(sGTM)*5、TikTokのEvents API *6など、ユーザーの承諾を得たうえで広告主のサーバー側で取得したデータを広告の配信先に送り届ける方式が主流になりつつあると述べた。

 

ゼロパーティデータとは

チャットコマース事業を展開するZEALS取締役COOの遠藤竜太氏は、ゼロパーティデータについての解説を行った。ユーザーが自社サイトやアプリを訪問した際にページ閲覧やクリックといったトランザクションを通じて収集するファーストパーティデータとは対照的に、ゼロパーティデータは対話型プラットフォームなどを通じて、顧客が能動的に共有するインサイトデータや個人情報であるといった違いを説明。前者はオンラインの行動履歴であるため、ユーザーインサイトはデータから想定するのに対し、後者は趣向のほか、家族構成や年収といった個人情報を取得することもできるため、リアルなユーザーインサイトとしての価値があると伝えた。

 

 

遠藤氏は、単なる自動化に留まらず、新たなコンテンツを生成する生成AIが進化したことで、データの有用性が高まったと主張。ゼロパーティデータと生成AIを活用することで、個々のユーザーのニーズに則した体験を創出するハイパーパーソナライゼーションが可能であると述べた。

 

 

Cookieの廃止撤回がされても、9割はCookieレス

続いて簗島氏は、Googleが3rd Party Cookie廃止の撤回に至った経緯を説明した。Googleは、2024年1月よりユーザーの1%に対して利用制限を課したものの、想定以上にその影響が大きいことが明らかになったと報告。メディアの広告収入が60%減少、広告の読み込み時間が100%増加といった結果に加えて、Google広告事業の優位性の強化、広告のパフォーマンスの低下、さらには本来の目的であったプライバシー保護さえも十分ではないといった報告や意見が市場関係者から寄せられたことから、撤廃を断念した。

 

 

代わって、Googleは3rd Party Cookieを廃止するのではなく、ユーザーの承諾を得たうえで取得を可能とする方式へと方針を変更する予定である。Apple社がすでに搭載しているオプトイン方式の同意取得形式であるApp Tracking Transparency(ATT)に似た仕組みになると想定されているが、ATTは日本国内においてオプトイン率が15~20%程度であるといわれている。ブラウザの利用率が40%のChromeでも同様の同意取得率であるとすると、3rd Party Cookieが有効である割合は7~8%になる。つまり、サードパーティCookie廃止撤回後も、9割以上はCookieレスとなる見通しであり、ポストCookie対策は引き続き求められると訴えた。

 

「リタゲ2.0」の時代へ

「Chrome以外のブラウザではこうした実証実験は実施していない」と指摘した簗島氏の発言を受けて、岩本氏は、先行してCookieレスとなっていたSafariやEdgeなどのブラウザでは、動画広告のクリエイティブ向上やAI機能の高度化による広告効果改善と相殺されて、その影響はあまり見られなかったと振り返った。一方で、リターゲティング施策はすでにChrome以外では機能していないとの実態を報告。さらにデバイスの多様化、アッパーファネル化*7、プライバシー保護、AIの進化を受けて、Cookieに依存しないマーケティング施策の重要性はChromeの動向に関わらず、確実に高まっているとの見解を示した。

 

 

そこで岩本氏は、リターゲティングやセグメント配信施策よりも広告プラットフォームによる自動最適化を優先し、その自動最適化を後押しするために自社データを整備する仕組みの構築を改めて提唱。また広告施策に加えてCRM(顧客関係管理)やCRO(コンバージョン率最適化)施策を強化する必要性を訴えた。

 

遠藤氏も、GoogleまたはChromeの動向に関わらず、Cookieレスは継続的なトレンドであるとの考えに同調。ソーシャルメディア(SNS)など、ユーザーが受け入れやすいプラットフォームを通じて顧客とつながる手法の有効性が高まっていると述べた。ユーザーとのコミュニケーション手段としては、メールやアプリなども活用されているが、こうしたチャネルは既存顧客との関係構築や継続に適していると指摘。一方でLINEを始めとするSNS上での友だち追加などの枠組みであれば、企業がこれまで直接的に接触したことがない新規ユーザーとの接点をつくることができると述べた。

 

遠藤氏は、このようなCookie以外の手段でユーザーとの関係を深化させていく手法をかねてより「リタゲ2.0」と表現していることを述べたうえで、今後はさらにその先をいく必要がある点をポストCookie時代の有効策として期待を示した。

 

*1 Data Management Platformの略称。インターネット上のサーバーに蓄積されるビッグデータや自社サイトのログデータなどを一元管理できるプラットフォーム(ツール)。
*2 Webページのキーワードやテキストの内容・画像などをAIが自動で解析し、ページの文脈(コンテキスト)に沿った内容の広告を表示する施策を指す。
*3 第三者を経由せず、企業が自社で収集して保有している顧客データを指す。
*4 複数のデバイスを横断して発生したアクティビティと、それを発生させたユーザーをマッチングさせる機能。
*5 Google社が提供するGoogle Tag Manager。サーバー上でタグを処理するため、プライバシーを保護しつつ、ブラウザ表示速度アップによるユーザー体験の向上を実現する。
*6 APIとは、ソフトウェアやアプリケーションなど、機能の一部を外部に向けて公開することにより、第三者が開発したソフトウェアやアプリケーションなどと連携可能にすることを指す。
*7 ファネルマーケティングにおける上流段階。自社の商品やサービスの認知がマーケティング施策の目的であり、潜在顧客である中流のミドルファネルのユーザーに繋がる段階を指す。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。