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KDDIが考える三方よしの広告コミュニケーション―ATS Tokyo 2023イベントレポート(6)

デジタルメディアとマーケティング業界の有識者が一堂に会し、業界の最新動向についての議論を行うイベント「ATS Tokyo 2023」が12月8日、都内にて開催された。

 

「KDDIが考える三方よしの広告コミュニケーション」をテーマとしたセッションには、KDDI株式会社 ブランド・コミュニケーション本部 コミュニケーションデザイン部 メディア企画グループ 高村 真介氏が登壇。

 

オープンインターネットには様々な課題がある。一方で、数多くの特徴ある媒体と連携し、画一的でない、自由なコミュニケーションにより、ユーザーと深いエンゲージメントを築くことが出来る。KDDIが、ユーザー、広告主、メディアにとっての「三方よし」を実現した具体的な事例を紹介した上で、「広告主はメディアに何を求めているのか」を伝えるプレゼンテーションがなされた。

 

高村氏

 

KDDIでは「au」「UQmobile」「povo」の3ブランドにてコミュニケーション活動をおこなっているが、コミュニケーション活動においては、各ブランドへの好意度を最上位のKPIであると位置づけ、各ブランドとのエンゲージメントを高めていくことで、各事業のKGIへの貢献に繋げていくことを目標として動いている。

 

一方で、高村氏は広告に対する顧客意識の変化として、インフルエンサーマーケティングが拡大していることを取り上げた。この理由について「企業から(直接)発信される情報に対して興味・関心が薄れていることへの裏付けなのではないか」と分析するとともに、インターネット広告に対するネガティブイメージがユーザーの中で拡大し続けていることに対して問題提起をした。

【参考】サイバー・バズ、【市場動向調査】2023年のソーシャルメディアマーケティング市場は1兆899億円、前年比117%の見通し。2027年には2023年比約1.7倍、1兆8,868億円に(URL

 

「『三方よし』で一番大事なのはユーザーの体験であり、ユーザーにとって不快にならない広告・コンテンツが提供されていることが大前提」と高村氏は話す。その結果、広告主にとってはユーザーとの好意的な広告コミュニケーションにより広告効果やブランド効果が向上し、メディアにとってはユーザーに取って居心地の良いコンテンツ体験とマネタイズの両立でファンを獲得できるようになっていくのが理想的であるとした。

 

具体的な取り組み例としては、アプリ「鬼から電話」とのコラボレーションを紹介。同アプリは子育て支援アプリとして、子どもに言い聞かせをしてくれる鬼やキャラクターから仮想電話がかかってくるもの。

KDDIでは鬼から電話とコラボレーションし、au三太郎シリーズの人気キャラクター「鬼ちゃん」から子育てに奮闘する電話がかかってくる取り組みを2015年に実施していたが、2023年2月では新たに、KDDIが提供する「子育てエールプログラム」の加入促進を目的として再度コラボレーションをした。

 

本取り組みの結果、視聴後に表示される子育てエールプログラムのページへと送客するバナー広告のCTRは10%超を記録した。

高村氏は「短期間の数値を取り出したわけではなく、掲載をした1か月間、ずっと10%前後を推移していた」と踏まえたうえで、パブリッシャー(メディアアクティブ株式会社)からも「既存ユーザーからの反応も非常に良かった上に、auの鬼ちゃん(菅田将暉)ファンの方々にも新たにアプリをインストールしていただいた」とフィードバックが届くなど、まさに三方よしの取り組みをすることが出来たと話した。

 

また、カレンダーシェアアプリ「TimeTree」との事例では、アプリ上で任意の日付をバナーやアニメーション等で訴求できる「TimeTree Ads ターゲットデイ」の広告商品開発に協力し、その初回配信として「auスマホ応援割U22(学割サービス)」の終了日をお知らせする取り組みを実施。

 

広告配信後のブランドリフト調査においては、キャンペーン終了日の認知が約2倍に向上し、パブリッシャー(株式会社TimeTree)からも「カレンダーの特徴を生かした広告メニューを作りあげることが出来た」とのポジティブな報告が挙がった。

高村氏は「TimeTree社とは半年間にわたり、ユーザビリティや広告訴求のバランスなど、毎週ディスカッションをしたうえで広告商品の実現に至った」と述べ、これを機に広告メニュー化され、その後他の多くの広告主から好評を得たという、TimeTree社からのフィードバックを受けたことを明かした。

 

 

このセッションで取り上げられた事例でKDDIがパートナーとして選んだのは、いずれも非常にニッチで尖った媒体であり、広告主と媒体社とのあるべきパートナーシップとして理想的と言えるものだ。

 

媒体社が、日々多くの広告会社や媒体社からの提案を受けているであろう大手広告主と三方良しの関係を構築するためには、日々ユーザーと一番近いところで向き合っている媒体社が、PVやUUといった定量指標を一旦脇に置き、自分たちにとって一番のコアユーザーが、何をすれば喜んでくれるのかという命題と真摯に向き合い、それを企画という形に落として、そこに広告主を招くというような設計と段取りが必要とされよう。

ABOUT 柏 海

柏 海

ExchangeWireJAPAN 編集担当

日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。