×

「B2BマーケティングとB2Bマーケターのキャリアについて」第9回「MCA道場」が開催

2023年10月2日、一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA)は、東京・渋谷にある株式会社インフォバーンオフィスにて、マーケターのキャリア育成を目的とした「MCA道場」の第9回講座を開催した。

 

「最新!B2BマーケティングとB2Bマーケターのキャリアについて」と題した本講座を担当したのは、パナソニック コネクト株式会社の関口 昭如氏(写真右、※)。

 

※詳細な役職等は下記のとおり
パナソニック コネクト株式会社 デザイン&マーケティング本部
デジタルカスタマーエクスペリエンス統括部ダイレクター
(兼)モバイルソリューションズマーケティング部 シニアマネージャー
(兼)モバイルソリューションズ事業部 マーケティング部 シニアマネージャー
(兼)IT・デジタル推進本部

 

講座の冒頭、モデレーターを務めるMCA代表理事の田中準也氏(写真左)は「関口氏はB2Bマーケターのパイオニアであり、常に最前線でご活躍をされてきたベテラン」と紹介をしながら「今日は関口氏に半生を振り返っていただく。皆さんにもそのスキルやマインドを垣間見ていただきたいが、関口氏が当時どのように働いていたのか、皆さん自身の今の年齢にも照らし合わせながら聞いていただければ、多くの学びがあるのではないか」と呼びかけた。

 

二刀流で学んだ大学時代

関口氏は幼少期を振り返り「陽気で活発」と通知書にも書かれることが多かったが、自身としては一人っ子ということもあり、人見知りで回りの人たちとどのように接すれば良いかいつも考えていたのではないかと話す。また、中学校では家庭教師のもとで勉学に励んでいたが、その家庭教師は当時の早稲田大学に所属をしていたサンプラザ中野くんで、5年ものあいだ英語を教わっていたという。

 

大学では英語学科に入学したが「今の言葉では“二刀流”ともいえるのか、この時から一つの道だけにこだわらない活動が始まっていた」と関口氏は語る。英語学科に所属しながらも経営にも興味を持った関口氏は、経営学部の授業を英語で受ける制度なども利用しながら、グローバルマーケティングや海外の広告研究を在学中におこない、マーケティングの学習にも取り組んでいった。

 

2000年代からデジタルアナリティクスを推進

大学卒業後は総合電機メーカーである日立製作所に入社しマーケティングの部署に配属となったが、大学で学んで来たこととは異なり、カタログなどの販促物を作成するドキュメント業務が中心だった。当時はインターネット前夜とも称される90年代だったが「お客さんのためにはカタログだけではなく、電子的にも情報を提供したほうがハッピーなのではないか」と関口氏は考えていたという。

 

インターネットを利用したマーケティングについては競合他社との共同研究会があり、日立製作所からは20代だった関口氏が出席。そこでの経験が今後のキャリア形成にも生きていたと明かす。製品情報をどうやって掲載し、お客さんにもどうやってインターネットの利用を促し、どのように製品を検索してもらえるかを考えていくとともに、競合他社の先輩社員からも暖かく指導してもらえたという。

 

2000年代に入り、B2Bマーケでも特にウェブマーケティングと言われる領域にキャリアを進めてきた関口氏。しかし、この時代ではまだ、「対企業は営業部の領域」という考えが当たり前であったと話す。

 

「カタログを渡すのも、商談をするのも、アフターサポートをするのも営業さん。ただ、ウェブでの情報提供やアクセス解析を進めていくと、企業がどんな情報を欲しがっているかも分かるようになるはずだと思った」と当時を振り返り、会社組織のトランスフォーメーションも必要だと関口氏の考えも変わっていった。なお、この2000年代の取り組みについては、日本で初めてデジタルアナリティクスを推し進めた人材として、2021年にAdobeからも表彰をされたという。

 

カルチャーの変革は縦と横から

ルネサスエレクトロニクスに転籍をしてからも、B2Bセールスマーケティングとして、見込み客を見つけて営業部に情報を届ける活動、デマンドジェネレーションを続けてきた。具体的には同社の半導体が採用された場合、数年間でどれだけの想定LTVが見込まれるかを計算し、1,000億円を超える想定LTVを生み出す見込み客を抽出する活動だ。

 

ただ、これらの取り組みをしていた2015年前後から「本当にセールスマーケティングだけに取り組んでいるのが正しいのだろうかと思い始めた」と関口氏は振り返る。

 

その後、2018年に現在のパナソニックコネクトに入社することになるが、そこで同社の山口有希子取締役CMOから「100年続いてきたパナソニックのカルチャーを変えることを最優先にしてもらいたい」と声を掛けられたと明かした。

 

ここで関口氏は「なぜ私が複数の役職を兼務しているのか」とお題を挙げた。1つ目は、パナソニックコネクト全体のデジタルマーケティング。2つ目は、PCや決済端末などの製品を中心とした事業マーケティング。3つ目は、いわゆる情シスの統括である。

 

関口氏は「結論を言えば、この3つをやらなければカルチャーの変革が進まないため3つ兼務している」と明かし「横串(全体)だけではビジネスから遠くなり、インフラの話になりがち。また、縦串(ビジネス)だけでも組織の変革は進まない」と説明した。

 

部署間の関係構築には腹落ちが大事

ここでモデレーターの田中氏は「ここまでは大きな失敗の話はなかったが、順調にキャリアや事業を進められてきたのか」と疑問を投げかけた。関口氏は「決してすべてが順調なわけではなかった」と答えながら「セールスマーケティングとはデマンドジェネレーション(見込み客の創出)が全てだと思っていたが、実はそうではなかった」と話す。また、自社の製品や商品そのものに価値がなければ、自身の活動自体が結果的にはお客さんを騙すことに繋がってしまうのではないかという葛藤もあったという。

 

マーケティングと営業の関係性構築やそれぞれの貢献度合いの可視化・配分にも苦労し、部署間でのアライアンスの確認や締結、両部署を兼務する社員の配属、ブループリント(青写真=事業の計画や未来図)の共有など、様々な手を尽くしたという。これらの取組みを総括し、関口氏は「とにもかくにも互いに腹落ちをしたうえで同じ方向を向いて行くのが大事」と話した。

 

課題認識・仮説の糸口はN1分析(定性分析)にアリ

続いて「B2Bマーケティングの課題認識」というお題のもと、関口氏は最初に顧客の変化を取り上げた。

 

顧客変化の大きな要素としては、自ら調べて、学習し、試し、選定する顧客「セルフラーニングカスタマー」の増加と共に、コミュニケーションのコントロール主体が企業ではなく、顧客へと移り変わっているという。その結果、以前は営業パーソンに頼ることが大きかった企業活動において、マーケターの存在がより重要となって来ているのが現状だと話した。

 

その前提で関口氏は「こちらのほうが大きな課題だと考えている」とあげたのが、各業務プロセスや組織ごとのサイロ化と、顧客理解や接点の分散化である。

※サイロ化=組織のシステムやデータが部署や業務ごとに独立し連携が取れてないこと。

 

「営業さんが毎日顧客に会う時代でもなくなり、顧客が一番接するのは商品そのものであったりする。また、導入後については営業さんよりもカスタマーサポートのほうが接する機会が多いかもしれない。それぞれの組織で顧客理解やマーケット理解をしているが、その情報はお互いに共有もされてないのではないか(関口氏)」

 

この解決策の一つとして、関口氏はN1分析を取り上げ、導入SEや営業など様々な顧客接点で複数回のN1分析をしたうえで、インタビューの録画・音声データなどを一緒に聞きながらレビューをしていくことで、社内で情報共有を進めていくことをあげた。

※N1分析=1人の顧客を深く分析することで、顧客理解や自社の商品の改善に繋げていく手法。西口一希さんが提唱されているこれらの方法をB2Bにも展開、応用できることを関口さんは強調している。

 

一緒にレビューをしていくことで、導入SEでは当たり前だと思っていたことが、営業の立場では初めて知る情報であったり、実は社内で共有をしなければいけなかった情報であったりなど、思いもよらぬ発見が起こるという。

 

また、N1分析のメリットとして関口氏は「N(分母)=1,000といった調査も必要ではあるが、これは平均値や中央値を確認するもので、大抵は知っていることしか出てこない」としたうえで、N1分析では企業自身も今まで知らなかった価値を知ることが出来る機会になるとした。定量分析も、定性分析で生まれた「仮説」を検証するためには重要であることも強調した。

 

田中氏はこの取り組みに対して「今までのお話で関口氏を仮説思考だと感じていたが、ブラッシュアップを目指してN1分析をされているのか」と質問をした。それに対し関口氏は「仮説は検証したいが、回答を誘導してもいけないし、お客さんの話をそのまま聞いているだけなのも良くない。絶妙なバランスでインタビューには取り組んでいるが、当社でも5人程度しか出来ないのではないか」と答えた。

 

Fail Fastが一番の近道

最後に関口氏は自身のキャリアを振り返りながら行ったり来たりの人生であったと回顧。自分で枠や壁を決めずに何でも取り組む性分で、学問の文系や理系、組織の縦串や横串、インプットやアウトプットなどに取り組んで来たという。「(私のように)3つはやりすぎかもしれない」と関口氏は笑いながら、2つ以上の側面から検証をしていくことの重要性について語った。

 

また、会場からの質問コーナーでは中堅から若手まで様々な立場の聴講者から質問も上がった。そのなか「マネジメントをする立場としてはKPIへの到達が最優先で、デマンドジェネレーションにまで意識が行かない現実がある。どのように心待ちをすれば良いのだろうか」といった質問が出た。

 

関口氏は「半年に1回など、評価者・経営幹部とKPIの結果やその他数値などを一緒にレビューする機会を定例で持つのがオススメ」としながら「フェイルファスト(Fail Fast=誰よりも早く失敗しなさい)の精神で、最終的には失敗をしたうえでPDCAを回していくのが一番の近道。これを自分だけでなく周りにも言い聞かせていくのが良いかと思う」と回答した。

ABOUT 柏 海

柏 海

ExchangeWireJAPAN 編集担当

日本大学芸術学部文芸学科卒業。
在学中からジャーナリズムを学び、大学卒業後は新聞社、法律・情報セキュリティ関係の出版社を経験し、2018年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告調査などを担当する。