PC・コンソールゲーム機市場に待ち受ける変化とは-AppsFlyerが実現したゲームのクロスプラットフォーム計測は何をもたらすのか[インタビュー]
同じゲームでも、アプリとPC、さらには家庭用ゲーム機であるコンソールゲーム機では事業モデルが大きく異なる。ECやOTTでは既にクロスデバイスが当たり前になっているにも関わらず、ゲーム領域ではなぜ両者が二分されたままなのか。この状況に変革を起こすべく、ゲーム企業向けにPC&コンソールゲーム機の計測ソリューションを開発したAppsFlyerのゲームプロダクト担当ディレクターに話を聞いた。
(Sponsored by AppsFlyer)
ゲームのクロスプラットフォーム計測を実現
―自己紹介をお願いします。
AppsFlyerのゲームプロダクト担当ディレクターを務めるアダム・スマートと申します。モバイルアプリマーケティングの計測ソリューションを提供する企業(MMP)として創業した当社ですが、今や計測対象はモバイル端末だけではありません。また広告効果計測に留まらず、ユーザー獲得やリテンション施策に有用な様々なデータを提供するという意味で、今では各企業様の「事業成長支援パートナー」として活動領域を拡大しています。
私自身について言えば、様々なゲーム企業を傘下に置く大手企業のゲームプラットフォーム開発に従事していた前職時代に、ユーザー側としてAppsFlyerを活用していたこともあり、ユーザー獲得などの戦略を通じてゲーム事業の奥深さを学びました。2020年より現職に就き、ゲーム市場の将来を見定めた上で、AppsFlyerが担うべき役割を検討するというのが私に課せられた任務の一つとなっています。当社が今年5月に発表した、ゲーム企業向けのPC&コンソールゲーム機の計測ソリューションも、将来的な需要を見越して開発したソリューションです。
―新規ソリューションの概要をお聞かせください。
Steam、Epic、Xbox、PlayStation、Nintendo Switch、Meta Quest、macOS app store、Windows storeといったすべてのゲームプラットフォームで、ダウンロードなどのユーザー獲得指標及びコンバージョン後のゲーム内イベントを計測できるようになりました。
このような計測環境を実現する方法としては主に2つあります。一つは、これらすべてのプラットフォームとのデータ連携ですが、事実上ほぼ不可能です。そこでAppsFlyerは、例えばモバイル広告のクリックとPCやコンソールゲーム機のダウンロードをIPアドレスなどを用いて紐づけることで、クロスプラットフォームでのアトリビューション計測を可能にしました。
例えばコネクテッドテレビ(CTV)で映画を視聴中に表示された広告を目にし、その映画を観終えた後で、広告で宣伝されていたゲームをPlayStationにダウンロードしたとすれば、CTV広告へのアトリビューションとなります。単純な話に聞こえるかもしれませんが、ゲームに関しては、このようにプラットフォームを横断したアトリビューション計測を行う仕組みが今までありませんでした。
そもそもゲームプラットフォームによって、インストールや起動など定義が若干異なります。さらに、例えばアプリ広告をクリックしたものの、その1週間後にコンソールゲーム機にゲームをダウンロードした場合、時間的に隔たりがある二つのアクションの関連性をいかに判断するかが難しい。AppsFlyerのコンソール計測を用いることで、ゲームマーケターの課題意識に応じた、統一的な定義に基づく計測データを単一のプラットフォームに集約することができるようになったことは大きな進歩だと思います。
―本ソリューションでは、どのような指標が計測対象となるのでしょうか。
ゲームの事業モデルによって異なります。コンソールゲーム機ではゲームタイトルのブランドを前面に出して売上を伸ばすことが求められるケースが多いのでは無いでしょうか。そうしたケースでは、ゲーム内に追加的なダウンロードコンテンツが一部あったとしても、全体の収益に占める割合は限定的であり、比較的高価に設定されたインストール費用がほぼそのままLTVとなります。それ以外には計測すべき指標はあまりないでしょう。
一方で、基本的には無料でプレーできるものの、幾層にもゲームアプリ内課金ポイントを設けたF2Pであれば、計測すべき指標は多岐に渡ります。広告支出データとともに各イベントに則したアトリビューション計測をユーザーごとに行い、ROASの算出を行う必要があるでしょう。
両者のハイブリッド型、つまり購入単価は比較的安く、さらにゲームアプリ内課金がある形態であれば、LTVが大きな意味を持ちます。このように、ゲームごとの事業モデルに応じた指標設定や計測を行っていくことになります。
アプリと、PC&コンソールゲーム機との違い
―これまではPC及びコンソールゲーム機を対象とした計測ができていなかったということですか。
アプリストアを通じたインストール及び課金方式などが確立されたモバイルアプリとは異なり、PCやコンソールゲーム機においては、これらのオンライン行動を統一的な基準の下で計測することはほぼ不可能でした。よってPCやコンソールゲーム機向けゲームの広告については、ブランディング目的で出稿されることがあったとしても、ゲームアプリでは一般的な成果報酬型のキャンペーンなどを実施することができなかったのです。新タイトルを発売してから一定期間が経過するまで、売上がどれほどになるかよく分からないという状況にありました。
対照的に、大多数のゲームアプリ事業者は、どれほどの広告予算を投下して、どれほどのユーザーを集めることができれば、そのうちの何割が課金ユーザーとなり、収益そして広告投資対効果はどれほどになるかという計算を日ごとに行っています。当社の新規ソリューションは、このようなゲームアプリの運用形態を、PC&コンソールゲーム機にも展開することを可能にします。
―確かに同じゲームでも、アプリとコンソールゲーム機ではゲームの運用形態が異なりますね。
ゲームアプリにおいても、かつてはアプリストアで購入後、一定期間楽しんだら、また次のゲームを購入してもらう、といういわゆる売り切り型の事業モデルを採用していました。やがてゲームアプリ事業者が、基本無料型のF2Pやゲーム内課金といった仕組みを活用しつつ、次々と新たなキャラクターを投入し、いくつもの異なる難易度を設定することでユーザーを決して飽きさせないようにゲームを継続的に進化させていくライブサービスモデルを構築します。この事業モデルにおいては「ゲームをクリアする」という概念がありません。ユーザーはほぼ永続的に同一のゲームタイトルを楽しむことができます。
またその結果として、ゲームアプリにおけるリエンゲージメント施策が発達しました。あの手この手を使ってユーザーをゲームに呼び戻すための様々な施策が考案されたことで、長期的なユーザーがさらに増えるという好循環が生まれています。
ゲームアプリの方が、ゲームの寿命が長くなることは明らかです。その運用ノウハウをPC&コンソールゲーム機にも応用し、クロスプラットフォーム戦略を展開する意義は大きいと思います。
―ゲームのクロスプラットフォーム展開に対する需要は実際にあるのでしょうか。
現状のゲーム市場においては、ゲームアプリ、PC、コンソールゲーム機向けゲームそれぞれの売上高の配分がおよそ2:1:1です。特定の端末のみに特化した運営は大きな機会損失となります。実際に「フォートナイト」や「原神」といった世界的にヒットしたゲームタイトルは、あらゆる端末でプレーできるように設計し、収益機会を広く確保しようとしています。
さらにクロスプラットフォーム運営は、あらゆる状況でゲームをプレーできる機会を提供するので、ユーザーのリテンション施策としても有効です。
―計測環境が整備されていない環境下において、PCやコンソールゲーム機のゲーム事業者はこれまでどのように広告運用を行っていたのでしょうか。
ブランディングキャンペーンのみにほぼ限定されていました。SNS広告を出稿したとしても、その他の施策と合わせたマーケティング予算全体に対する投資対効果しか判断できなかったのです。広告配信自体では媒体ごとの予算を分け、オーディエンスのセグメントを区切っているにも関わらず、効果計測は媒体ごとまたはセグメント別に行うことができないという状況に陥っていました。
たくさんの可能性を秘めた新規市場が誕生
―本ソリューションは今後どれほど普及していくと見込んでいますか。
ゲーム会社の多くがPCやコンソールゲーム機における計測機能の有用性を高く評価しているものの、ゲーム業界全体がこの仕組みを有効活用できるようになるまでにはまだ一定の時間を必要とするかもしれません。それだけ新規性の高いソリューションだからです。
これまでは適切なデータがなかったがゆえに、例えば「違う端末で広告を見て、その1時間後にコンソールゲーム機でダウンロードする」というコンバージョン形態に適したマーケティングチャネルや広告クリエイティブをゲーム業界はまだ十分に把握しきれていません。また現在はモバイルアプリでは多用されているゲーム内広告が、コンソールゲーム機においても活用し得るかどうかは未知数です。
ゲーム企業だけでなく、アドネットワークも新たなデータをいかに広告の最適化に生かすかを学ぶ必要があります。ただし、例えば「実際のコンバージョン情報に基づいてPlayStationのユーザーにターゲティングする」ための手法が実現したことで、より効果的な広告運用を行えるようになったことについては疑いの余地がありません。精緻な効果計測に基づき広告の最適化ができるようになれば、広告予算の拡大にもつながります。
本ソリューションによって、「PC&コンソールゲーム機向けゲーム広告市場」という新たな市場が誕生したのです。たくさんの可能性を秘めたこの新規市場を、ゲーム企業の皆様と一緒に大切に育てていきたいと思います。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。