ロングCPEリワード広告運用のリアルとは―AdjustとSkyfallの共催セミナー[ニュース]
モバイルマーケティング向け分析プラットフォームを提供するAdjustは6月8日、成果報酬型広告プラットフォームを提供するSkyfallとの共催で、「スーパーマーケターが語るアプリ成果報酬型広告セミナー」を都内で実施した。
(Sponsored by Adjust)
広告の量と質の両立とデータ取得に関わる課題
Skyfallは、広告、メディア、ゲーム事業などを運営。中でも同社が開発したリワード広告の一種であるSKYFLAGは、ロングCPEリワード広告市場を開拓した。
同社代表取締役の長谷川智一氏は、広告代理店業を営んでいた2017年の創業時は「広告の質を追求すれば量を確保できなくなり、量を求めれば質が低下する」という課題に直面していたと述懐。この課題の解決を目指して、ロングCPEリワード広告という独自の仕組みに着目したと振り返った。
Adjustの日本ゼネラルマネージャーを務める佐々直紀氏は、プライバシー保護が強化されつつある現状に言及。トラッキングを許可したユーザーのデータ活用や確率論的モデリングさらにはSKAdNetworkといった異なる分析手法やツールを組み合わせることで、モバイルマーケティングに有用なデータの収集や分析が引き続き可能であるとの見通しを伝えた。
ロングCPEリワード広告とは何か
Skyfallのアカウント本部本部長代理を務める中村裕氏は、セミナーの冒頭にて、ロングCPEリワード広告の概要について説明を行った。一般的なアプリ内広告では、広告表示、クリック、インストールなどが発生した際に課金となる一方で、ロングCPEリワード広告ではアプリ内サービス上で特定の成果地点に到達した場合のみ広告費が発生する。
中村氏は、この独自の広告形態を活用することで、優良なユーザーを獲得した場合のみ広告費を支払うことが可能になると強調。一般的なターゲティング広告では、広告配信対象を絞り込むほどに広告単価が高騰し、また次第にユーザーの質も悪化していく傾向にあるが、ロングCPEリワード広告では、ユーザーが自ら挑戦したい広告を選び、なおかつサービスの利用途中で離脱したユーザーに対しては広告費用が発生しないので、サービスの魅力を理解した優良ユーザーにのみ、広告費用を払うこととなる。中村氏は、ロングCPEリワード広告を「長期間にわたるプレイアブル広告」と表現。この特徴を最大限に生かすためには、成果地点とリワードの内容をいかに設定するかが成否を分けるとの考えを示した。
成果地点の設計に関するPDCAの実態
マーケティング業務に関するコンサルティングサービスを提供するオールイン創業者の金澤唯氏は中村氏の発言に同調。成果地点を複数設計し、その運用結果を踏まえてPDCAを回していくことの重要性を訴えた。
ユーザーがメールデータの提供と引き換えに様々な特典を得ることができるモバイルアプリ「Pint」を開発するマインディアにてHead of Marketing and Operationを務める石渡貴大氏も、成果地点の設定に関わるPDCAを重視。ロングCPEリワード広告の運用開始当初は「ユーザーが成果地点に到達し、リワードを獲得した途端に離脱してしまう」可能性を危惧していたが、ユーザーとの関係性をしっかりと構築できたと見なすことができる成果地点を見つけ出すことで、この課題を克服した。
これらの発表を受けて、Adjust株式会社のSales Leadを務める高橋将平氏は、成果地点の変更にはエンジニアリソースを必要とするだけでなく、アプリストアによる審査が必要となるため、作業負担が多いのではないかとの質問を呈した。石渡氏は、サーバー間インテグレーション(S2S)機能を活用することで、SDKを経由せず、自社サーバーからAdjustのサーバーへと直接的にデータ連携をすることで成果報酬を成立させる手法を紹介。この方式を採用すれば、アプリストアへの申請作業を省略できると案内した。
LINEのゲーム事業企画本部に所属するイ・ダンウ氏は、かつてマルチプレイのゲームアプリの運営を担当したものの、1日のアクティブユーザー(DAU)数が十分に達しないため、ユーザー同士の適切なマッチングができないという課題に直面。SKYFLAGの運用を開始したところ、翌日からDAUが増加し、難局を乗り越えたという体験を語った。一方で、リワードを受け取ったユーザーにその後も継続的にプレーをし続けてもらうためには、様々な工夫が求められるとの考えを述べた。
成果地点はどこまで深くすべきか
ダンウ氏の課題意識を受けて、議論のテーマは「成果地点をどこまで深い位置に設定するか」という点に移行した。金澤氏は初回の課金という成果地点を多段階成果広告の一つの成果地点に設定したことで好結果を生んだ事例を共有。中村氏は、リワードを付与することで、ユーザーにとっては最も高い障壁となり得る課金に対する抵抗感を初期段階で減らしたことが功を奏したのではないかと分析した。
一方で、石渡氏は、例えばマンガアプリなどでは、ユーザーはすぐにマンガの続きを読みたいとの思いでリワード広告を利用するので、達成までに時間を要する深い成果地点は相応しくないのではないかとの仮説を披露。中村氏は、気軽に達成できる浅い成果からより大きなエンゲージメントを必要とする深い成果地点までを段階的に提示していくことでコアユーザーを醸成するという手法を紹介した。
また金澤氏は、ロングCPEリワード広告を「マーケターにとっては運用しがいのある広告」であると主張。大手広告プラットフォームでは自動最適化が進み、独立系アドネットワークでは不適切な配信面の排除が最重要課題になってしまっているが、ロングCPEリワード広告ではユーザー体験を踏まえた本来的な広告運用を行うことができると述べた。
一方で、ダンウ氏はロングCPEリワード広告の運用に際しては、マーケティング担当者と開発担当者との密なコミュニケーションが必要になると指摘。開発陣との意思疎通を図ることができなかったがゆえに想定外の事態に陥った自身の経験談を披露した。
不正対策とデータ分析の現場事情
本セミナーの来場者からは、広告不正への対策についての質問が多く寄せられた。石渡氏は、S2S機能を活用することで、商品の発送などオフライン行動の結果をモバイル計測パートナー(MMP)に送信することで、不正を見極めやすくなると提言。またオンライン行動成果についても、MMPだけでなく、広告主側が独自に確認と承認作業を行う仕組みを紹介した。
中村氏は、仮に成果地点を「レベル80到達」として設定した場合、SDKスプーフィングなどの不正行為を通じて、実際にはプレーをしていないにも関わらず、レベル80に到達したことを示す信号をMMPに送信することがあり得ると指摘。こうした不正行為を防止するために、レベル20、50、80といった各段階をすべて到達したユーザーのみを承認したり、一定レベル到達に最低限必要とされるプレー時間に満たないユーザーを除外するなどの対策を施していると報告した。
パネルディスカッションの終盤では、プライバシー保護が強化される一方の現況下におけるデータ活用のあり方全般についての議論へと発展した。金澤氏は、クリック数、インストール数さらには広告費用対効果といった具合にデータ計測及び活用対象が徐々に拡大してきたものの、IDFAの利用制限などを受けて、データ活用領域が一気に狭まったと発言。現在ではデータ取得が極端に制限された領域とそうでない領域が二分されており、それぞれ異なる対応を取る必要があるとの考えを述べた。その上で、新たな広告効果計測手法であるSKAdNetworkはマーケターのニーズを完全に満たすものではないと指摘。ミクロに計測できる部分とマクロな計測になってしまう部分をきちんと理解し、うまく使い分けることが重要と伝えた。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。