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Teads創業者が振り返るコンテキストターゲティングの発展の歴史とは [インタビュー]

オープンウェブの視点から、来るべきCookieless時代の展望を語ることができる人物として、これほど適した人物はなかなかいないだろう。コンテキストターゲティングの草分け的な存在であるTeadsの創業者であるケサーダ氏は、Cookielessがバズワード化した現状をどう見ているのか。日本市場の現状分析を含めて、来日した同氏に話を聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)

 

16年の歴史を経てプラットフォーム化

 

―自己紹介をお願いします。

 

グローバルメディアプラットフォームであるTeadsの共同創業者兼最高経営責任者を務めるバートランド・ケサーダと申します。デジタルマーケティング業界には23年にわたり身を置いており、2007年にTeadsの前身となる企業を創業しました。アジア地域では初展開となる日本オフィスは2015年に開設しています。

 

―改めて貴社の事業紹介をお願いします。

 

創業時は、当時の事実上のインフルエンサーであったブロガーと広告主を結びつけるマーケットプレイスという位置づけでした。それまではPR企業が広告主とブロガーをつなげる役割を担っていましたが、人づての紹介を通じて実現できる案件数にはどうしても限りがあります。そこで両者がより効率的に出会うことができる場を立ち上げたのです。その後、ブロガーの多くがSNSへと活動の場を広げていったのは皆様がご承知の通りです。

 

やがてデジタルマーケティング業界においては動画広告が積極的に活用されるようになりました。しかしながら、新聞や雑誌を中心とする媒体社のウェブサイトには動画広告枠が存在せず、機会損失になっているという課題が顕在化し始めたのです。そこで当社が世界中の有力な媒体社に対してSSPを提供し、約20億人の消費者に対してinRead®︎フォーマットというアウトストリーム動画広告を配信する仕組みを構築しました。

 

日本市場においては現時点でインターネットユーザーの73%へのリーチを実現しています。また広告枠の売買だけでなく、オンライン広告に関する各種の最適化支援やデータ分析機能を追加することで広告プラットフォームへと生まれ変わりました。

 

―広告プラットフォームとしてはどのような差別化を図っていますか。

 

Googleは世の中でどのような検索が行われているかが、Facebookではどのようなことに対して「いいね!」が付けられているかを知るための手段であるならば、Teadsはどういったユーザーがどのようなコンテンツを読んでいるかを知ることができるプラットフォームです。広告主に対して非常に有益な情報を提供していると自負しています。

 

 

実際のところ、日本市場においては、当社と取引のある広告主様や広告代理店様の80%がTeads Ad Managerを通じて、当社が保有する広告在庫の直接的な買い付けを行っています。これらの広告関係者の方々が、その他の広告配信プラットフォームと比較して、Teadsの方がより優れていると判断したという証左と言えるでしょう。

 

直近では、マーケティングファネルの下部におけるパフォーマンス領域や、コネクテッドテレビへの配信に加えて、Eコマースやリテールメディアとの取り組みを強化中です。

 

―コンテキストターゲティングは、ファネルの上部や中部での活用例が多いとの印象がありますが、パフォーマンス領域でも機能するのでしょうか。

 

一般論として、広告がパフォーマンスを発揮するには、まずは広告の配信規模が必要です。またデータと機械学習を通じて、質つまりは広告とユーザーの最適な組み合わせを見つけ出すことも重要になります。この二つの要件を満たしたコンテキストターゲティングのソリューションであれば、ファネルの下部においても機能します。

 

コンテキストの優位性とは

 

―サードパーティCookie廃止に伴い、コンテキストターゲティングへの注目が高まっています。

 

当社が過去に行った実証実験によって、適切なデータに基づくコンテキストターゲティングは、Cookieベースのターゲティングよりも、クリック単価(CPC)は低く、クリック率(CTR)は高くなることが明らかになっています。事実上の履歴情報であるCookieには古びたものがたくさん含まれているのとは対照的に、コンテキストターゲティングで用いられるデータはユーザーがリアルタイムで目にしている情報であるがゆえに、より正確であると言えます。

 

こうした利点に加えて、大手プラットフォームにおけるサードパーティCookieのサポート廃止によって、コンテキストターゲティングの重要性はさらに高まりました。日本市場における広告表示の5割を占めるiOS端末は既にCookieレスの状況にあり、広告表示回数には大きな変動がないにも関わらず、過去数年間で収益をほぼ半減させた媒体社も存在します。

 

ご存じの通り、インターネット上に無料でコンテンツを配信するという事業モデルは、広告収入によって支えられています。サードパーティCookieの廃止によって収益性が落ち、ウォールドガーデンが媒体社に対して十分に収益を還元していない状況下においては、Cookieレスで活用できる当社のようなソリューションの存在意義が非常に大きいと考えています。

 

尚、当社が広告主に対して提供する機能はコンテキストターゲティングに留まりません。CookieデータからCookielessデータへと変換をする、個人情報保護に準拠した安全性の高いCookieless Translatorという機能など様々なソリューションをご用意しています。視聴者(ユーザー)のオンライン行動を分析し、コンテキストに基づいたターゲティングプロファイルを作成することにより、Cookieデータを Cookie を使用しないターゲティングへ安全に変換をすることができます。

 

―厳しい環境下において、媒体社には今後どのような対応が求められているのでしょうか。

 

質の高い記事の提供を通じてできるだけ多くのユーザーを集めると同時に、各ユーザーの特徴に応じた関連性の高い広告を出し分けていくことが引き続き求められると思います。

 

ただし、媒体社のコンテンツが読まれる場所は、もはや媒体社のサイト上だけではありません。今ではSNSを始めとする様々なプラットフォームもコンテンツの供給先となっています。現代社会において「質の良い記事を多くのユーザーに届ける」ためには、非常に複雑なノウハウを必要とします。Teadsとしては、プラットフォーム開発を通じて様々な課題を解決することで、媒体社の収益化を支援していきたいと考えています。

 

―広告主側を取り巻く環境についてはどのように捉えていますか。

 

ウクライナや中国を始めとする国際的な政治及び経済情勢の変化と連動した様々な課題に直面しているために、広告主の皆様もやはり効率的かつ効果的なソリューションを切望しています。Teadsは、そうしたデマンドサイドの需要にもできる限り応じようと日々努力を続けています。

 

当社はただ闇雲に動画広告を売りさばいているわけではありません。ビューアビリティと視聴完了率が高い動画広告枠を選び抜いて提供しています。

 

また広告主様の間では、ブランドセーフティに関する意識も高まってきました。SNS上などに誰もがコンテンツを公開できる環境が整った結果として、ブランドセーフティを確保できない面が増えたからです。当社では幾層にもわたる審査や検証を通じて、キャンペーン配信の安全性と品質の確保を行っています。

 

日本市場の現状と展望

 

―日本市場についての印象をお聞かせください。

 

やや保守的というか、新たな技術や概念が浸透するまでに一定の時間を必要とするという印象を抱いています。例えば、日本オフィスの開設時には、当時より当社が本格的に取り組んでいたブランドセーフティ、ビューアビリティ、アドフラウドという用語に反応を示した日本の広告関係者はいませんでした。

 

一方で、一旦その技術なり概念が普及し始めたら、雪崩を打つかのように一気に標準化し、しかも徹底的に使いこなしてしまうというのが日本市場の面白いところだと思います。

 

―日本市場には今後どのような技術なり概念が浸透していくことが予想されますか。

 

ユーザーが実際に広告をどれだけ見ているかを示す指標である「アテンション」に対する意識が高まっていくはずです。これまでのオンライン広告業界では、CPMつまり「どれだけ安く広告枠を買い付けることができるか」という点があまりに過剰に評価され、広告の質や効果は置き去りにされてきました。

 

ビューアビリティ計測ツールのMoatによると、Teadsが配信する動画広告の平均視聴時間は10秒以上です。一方でSNS上の動画の平均視聴時間は約1秒に過ぎません。1秒で一体どんなメッセージを伝えられるというのでしょう。アテンションという概念が浸透することで、広告の質や効果に対する意識は飛躍的に高まっていくことになると思います。

 

―近年ではコンテキストターゲティングを手掛ける事業者もかなり多く存在します。

 

当社は前身企業を創業した2007年以来、永らくコンテキストターゲティングを手掛けてきました。そして、様々な機能を有するプラットフォーム運営を通じて、世界中の広告主と媒体社そしてユーザーの声に耳を傾けながら、各ソリューションを磨き上げてきたのです。コンテキストターゲティング技術を単に開発するのと、その技術を使っていくつもの課題を解決した経験を持つことの間には雲泥の違いがあります。文章や文脈の理解についての技術を世界的に展開し、16年にわたりそのノウハウを蓄積した企業はほかにありません。

 

当社のような実績を持つ企業にとっては、恣意的な差別化戦略など必要ないのです。結局のところ、広告主も媒体社も、差別化要因の詳細な説明ではなく、実際に機能するプラットフォームを選択します。

 

今後も実績と成功事例を積み重ねていくことで、当社の役割を果たしていくつもりです。

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。