人生は永遠のβ版「現状に甘んじてはいけません」―第7回「MCA道場」が開催
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on 2022年12月15日 in一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA) は7月29日、都内にて、マーケターのキャリア育成を目的とした「MCA道場」の第7回講座を開催した。
「いたしませんはいけません。~常にチャレンジし続けられる環境を生み出す極意とは~」をテーマとする本講座を担当したのは、みずほフィナンシャルグループのグループCPO(Chief People Officer)に就任された*秋田夏実氏。
*役職は講座開催時点のものです。
東京大学経済学部卒業後、米ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBAを取得し、シティバンク銀行デジタルソリューション部長、マスターカード日本地区副社長などを歴任。金融業界でのマーケターやインターネット関連のキャリアは約20年に渡る。
現在はみずほフィナンシャルグループの人事領域に深く携わる秋田氏が「マーケター」と「人事」の関連について明かした。
モデレーターは一般社団法人マーケターキャリア協会代表理事の田中準也氏。
マーケティングの原体験
多忙な両親に代わり、祖母の元で過ごす時間が多かったという秋田氏。その影響で古典落語や短歌や俳句、歌舞伎、琴などの古典芸能を嗜むユニークな育ちをした。
日本株に関心がある父の影響でラジオたんぱ(現在のラジオNIKKEI)や会社四季報に触れ、映画好きな母の影響で小学校に上がる前からあらゆる名画を鑑賞、それらすべてを「刺激」として楽しみながら吸収しつつ成長した。
そんな中、当時30万円ほどした「マイコン」欲しさに、自分で「お金を稼ぐ」体験をした小学生の夏休みに、その後のマーケティング人生の第一歩があったという。
自宅そばに自生しているみょうがをつみ八百屋で、カブトムシやクワガタを捕まえ業者に買い取ってもらったそうだが「みょうがはどうしてこの価格なの」と感じ、市場で販売されている様子を観察しPP袋の個包装からスーパーで採用されているパック包装に変更して買い取り価格を上げてもらったり、値段が高いクワガタは傷がつかないように箱にいれるなどし「どうしたら買い取り価格を上げてもらえるのか」「見栄えをよくすることで買い取り価格が上がるなら利益が出る」など工夫をこらした。
「どうすれば買ってくださる方に評価してもらえるのか」を考えるようになった第一歩で「提供価値を作ること」を学んだと語った。
社会人→留学→退職 順風満帆ではなかった社会人生活
出典:日経WOMAN 2021年11月号
「雑多なものに触れ、とにかく好奇心が掻き立てられ、動いてしまっていた」という秋田氏は、それによって新しい世界の扉が開いたという。
大学卒業後は銀行に入行。その後奨学金を獲得し私費で留学。結婚、出産などを経て国内外の金融機関でのキャリアを積むが、事業部売却などの荒波に一度ならず揉まれ、退職、転職をすることなる。キャリアアップをしようと思って歩んできたと思われがちだが、自分の努力ではなく外的要因で「次を探さなければ」という場面に遭遇する「いきあたりばったり」だったという。
新たな会社に行くたびに「求められることを淡々と」やり、会社を変わるたび「希望したわけではないのに、責任が重くなっていく」の繰り返し。そんな中で人からの紹介で会社を移ることもあったそうだ。そういった機会に恵まれた理由を「自分がクライアントの立場でエージェンシーと働くときも、部下として上司に接するときも、誰に対しても同じ態度をとっていた。良い仕事をしようと、いろいろな立場の相手をリスペクトして誠実に働いていたから、後々声をかけてもらえたのではないか」と語った。
人生を変えたコトラーとの出会い
元々マーケターではなかった秋田氏が、マーケティングを志すようになったきっかけは、留学時代にフィリップ・コトラーと出会ったことにある。当時60代後半だったコトラーの「学び続ける姿勢」を見て感動し、「マーケティングはできあがってしまった学問ではない。生もので『マーケティングの神様』と言われるようなコトラーが自ら学びアップデートしていく」のを見て、マーケティングのすごさ、奥深さに目覚めたと明かした。
留学当初は英語力に不安があり、「仮に卒業できないようなことがあっても、自分のノウハウが誰かの役に立てば」との思いから、自身の経験や知識を詰め込んだMBA留学情報をまとめたウェブサイトをジオシティーズで作り上げた。HTML辞典を見ながらサイトを作っていったそうだ。IllustratorやPhotoshop、DreamweaverなどAdobeのツールを使い、デジタルマーケティングの入り口に立った経験が、その後日本のAdobeで副社長としてマーケティングや広報の統括を務めたことにもつながっており「人生は、いつ何がチャンスに結びつくかわからない」と語った。
「いたしませんはいけません」
モデレーターの田中氏から「シティバンクでなぜマーケティングをやろうと思ったのか」という問いには「競合がいないので面白いと思った」と答えた秋田氏。
「金融のマーケティングは癖があり、消費材のマーケティングをやっていた人からすると楽しくないもの。金融商品を熟知していないとメッセージは作れないし、掲載すべきディスクレーマー(免責事項)も多いトリッキーなマーケティング」がその理由とした。
金融業界でスタートした秋田氏のキャリアは、留学を機に、ビジネスで通用する英語力とマーケティング、デジタル領域へと幅を拡げていく。
ブランディング担当のSVPとして入社したHSBCでは、当時まだ広告媒体ではなかった成田空港のボーディングブリッジを媒体開発し、HSBCの広告で内側も外側もジャックした。さらにPRやマーケティング・リサーチも兼任することになった際は「こなせるか不安だったが、結果トライしてよかった」と語った。「タイムリーにパブリシティ調査を実施し、その結果を自社のブランドに効果的に紐づけ、40社を超えるメディアの取材を獲得し、なおかつその調査結果を社内でも有効に活用するなど、すべてのピースがうまくはまった感覚を得た時に仕事の醍醐味を感じた」と。
そして「私のテリトリーはこれ、それ以外はやりませんという姿勢だったらこの発見は見つけられなかった」と加え、その経験が「いたしませんは、いけません」につながったと語った。
一方、「全部を受け止めていたらつぶれてしまうので、引き受けるときに取捨選択の交渉を行う」ことも必要とし「リソースをもらえるならできるが、無理ならプライオリティを変えさせてください」という交渉をしたり、そういう場面では「いたしません」もありえる話であるものの、「『私の責任範囲はここだけなので』という風に安易にシャッターを下ろさないこと」「現状に甘んじないこと」が大切なのだと強調した。
クリフトンストレングス・テスト
「やってみて学びの多かったもの」として自らのクリフトンストレングス・テスト(ストレングスファインダー)を紹介した秋田氏。
その際に気を付けるように言われた「自分がエネルギーやスタミナでいっぱいで、人が大好きで熱意があって新しいものが大好きでも、世の中の人はみんなそうと思ってはいけない。『暑苦しい』『しんどい』と思う人もいるかもしれないので、自分とみんなの受け止め方が一緒だと思わないこと」「人の話に耳を傾けて、マーケターだけではなく色々な人たちとかかわっていくことが大切」という内容にとても納得したと語った。
マーケターと人事の類似性
現在は人事部門で広く責任のある役職を務める秋田氏は「マーケティングと人事は似ている」と明かす。
日本の人事は「人を管理する」という側面が強いが、そればかりでは人が去ってしまう。上からの管理ではなく、個々の社員に向き合い寄り添っていく人事、マーケター的なアプローチで社員に近づき、同じ目線で、社員のエンゲージメントを高める時代が来ているという。そうでなくては「これからの人事は立ち行かない」のだと。
従来型の人事からすると、それは大転換かもしれないが「マーケターが人事労務に必要とされる時代が来ているし、もっと来ると個人的には思っている」と繰り返し、サブスクのマーケティングと人事の類似性への説明を続けた。
発見、体験、購入、継続、更新というマーケティングにおけるカスタマージャーニーは採用からの社員に対する人事のアクションと近しいというのだ。企業について関心を持ってもらう(発見)、インターンなどの(体験・購入)を経て入社してもらう、会社にエンゲージし続けてもらうための会社づくり(継続・更新)という流れだ。
そして、「お客様になるであろう人とマーケターの関係性と、社員と人事の関係性は同じ。マーケティングも人事も徹底して理解すべき対象は『人』。定量的・定性的なデータに敬意をもって向き合い、活用しながら、対象となる人のインサイトを深堀するという点が共通している。」と結んだ。
人生の10か条
最後に秋田氏は「意識してやっていることの10か条」を紹介し、「自分は50歳を超えても完成品だとは全然感じておらず、まだまだのびしろがある『β版』だと思っている。これからも新しいチャレンジをどんどんやっていきたい」と締めた。
ABOUT 加納 奈穂
ExchangeWireJAPAN 編集担当
武蔵野美術大学卒業後、出版社に入社。WEBサイトや広告の運営に従事。その後コスメ情報サイトのコンテンツマネージャーを経て出版社での通販事業において販売促進業務を担当する。通販会社にてSNS運用に携わったのち、2022年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。現職に至る。