オンラインマーケティングでの当たり前を、オフラインでも実現-楽天、Omni Commerceが目指す先[インタビュー]
消費行動のオンラインとオフラインとの垣根がなくなりつつなるなか、企業のマーケティング活動もそうあるべきなか、EC最大手の楽天は「Omni Commerce(オムニコマース)」というコンセプトのもと、独自の提案をしている。
そのサービスの思想や、今後の展望について、マーケティングソリューションRMP - Omni Commerceの担当者である楽天グループ株式会社 アド&マーケティングカンパニーデータ&DXソリューション部ヴァイスジェネラルマネージャー 山口高志氏にお話を伺った。
-自己紹介をお願いします
外資系コンサルティング企業において経営やIT領域のコンサルティング業務をしたのちに、楽天に入社しました。
2016年に楽天市場の事業開発部門に入り、新規事業の開発に取り組んできました。
オフラインを中心としたマーケティング事業である、RMP - Omni Commerceは、社内の新規事業希望者向けのプログラムに手を挙げ、経営陣にプレゼンをして立ち上げた社内起業による事業です。そして私は、この事業全体を統括しています。
-楽天の現状の広告ビジネス全般についてお聞かせください
全体では、2021年は1579億円で、前年同期比で+22%の成長をしています。また、2022年度第二四半期まででは446億円、前年同期比で+16.5%と引き続き2桁の成長を続けています。
我々としては多くのユーザーと、楽天サービスを中心に多様なタッチポイントを持っていますが、販促や宣伝だけでは終わらせない楽天IDというユニークな強みと、ユーザーを動かすフックとなる楽天ポイントという二つが大きな特徴です。
楽天IDは、単一のIDで楽天グループのサービスをつないでいます。その接触点を通して、オンラインおよびオフライン双方の消費行動分析データが、1億以上(2022年12月時点)のIDに基づき蓄積されています。この層はこういった傾向に関心を持ったユーザー層であるといった分類が出来るように、事実値および推定値で多くのプロファイリング項目を維持管理しています。
つまり、他社ではなかなかできないような、どのようなユーザー像なのかということを深堀することが出来るところがユニークなポイントです。
楽天ポイントは、ユーザーに対してデータの利用を対価としながら、ポイントを付与しています。楽天ポイントは、日本最大規模の発行数規模を維持しており、オンラインのみならずオフラインでも活用いただけるということが、ユーザーにとっても大きなメリットとなっています。またそしてこれを使った広告ビジネスをおこなっていることもまた、強みであるといえます。
購買起点でマーケティングをする
-RMP - Omni Commerce全体の枠組みについてお聞かせください
まず私たちは、2019年4月頃からOmni Commerce(オムニコマース)というコンセプトを掲げてきました。
いわゆる認知から降ろしていくファネルマーケティングについて、私たちはどちらかというと購買データを活用して取り組んでいきましょうという話をさせていただいています。誰が購買をしたかという事実から、近しいユーザーを動かしていくというアプローチである、購買起点でマーケティングをしましょうというご提案をしています。
オンラインにおいては多くの購買データを蓄積しており、当たり前のようにマーケティングをすることが出来ますが、オフラインではなかなか出来ていませんでした。私たちは、オフラインの領域で購買を起点に、楽天IDを用いて近しいユーザー層を分析してアプローチしていくということも可能です。そこで、オンラインとオフラインの購買行動の両方を統合させたコマース起点で、IDマーケティングを行っていこうというのが、このオムニコマースという考え方になります。
楽天IR資料
通常のマーケティング活動は、上図でいう右側の広告から入る活動になりますが、我々の場合、左側の購買から入り、継続購買をしていただいている理想的なユーザーをIDで拡張し、拡張をしたユーザー群に認知からしっかりと広告でアプローチをしていきましょうということを、オフラインオンラインの垣根を取り払って取り組んでいくというのが、RMP – Omni Commerceの骨格となっています。
このような思想のもと、ご提供しているのが以下のようなメニューです。
楽天IR資料
いわゆるポイントバッククーポンタイプのものもあれば、レシートを利用したキャンペーンオプションなどのほか、商品に貼り付ける二次元コード型のキャンペーンにも対応するなど、様々なラインナップを取り揃えています。以上は広告主向けのソリューションです。
そして、ユーザー向けには、クーポンをユーザーにお届けする面として、Rakuten Pashaがあります。トクダネというクーポンを通してご提供をしています。また、すでに楽天IDを通して様々なユーザーサービスと連携しています。
例えば販促領域においては、楽天が小売店様と連携をして、「楽天ポイントカード」、または「楽天ペイ」アプリによる利用者に対する「楽天ポイント」の進呈なども行っており、オフラインの購買を促すためのキャンペーンも行っています。「Super Point Screen」(スーパーポイントスクリーン)というサービスの中で、提供する「おすすめチラシ」ではオフラインのチラシをデジタルでみることもできます。また、対象の店舗や施設へチェックイン(来店・来館)すると楽天ポイントが貯まる「楽天チェック」というサービスもあります。これらすべてが単一IDでつながります。このように、既存のサービス群をつなぎ合わせる形で、ユーザー側の「RMP – Omni Commerce」が構成されています。
-どのような広告主が使われていますか?
基本的には、小売店店頭を通して商品を販売する、飲料・食品・トイレタリーメーカー様に多くご活用いただいています。なかでも、ポイントバッククーポンを活用した施策への引き合いが増えています。ポイントバッククーポンはデジタルで完結する施策でして、10営業日ほどで企画を立ち上げられますし、ターゲティング配信も可能です。
また、大手だけではなく中小規模のメーカーからもご利用に関するご相談を受け始めていますし、小売店がこれをフックに利活用するというご相談も受けています。クーポン以外のメニューによる販促施策を活用される広告主様の場合、例えば店頭での購買施策と連動をさせて、店頭向けにはレシートキャンペーン、デジタル向けにはクーポンというように、併用するような展開も増えています。
また、認知を取るために、並行してTwitterでの拡散キャンペーンを一緒に実行していただけるような事例もあります。そのほかにも、まずは楽天ポイントのみを自社キャンペーンのインセンティブとして使いたいというようなご相談も受けており、そのような場合にはギフトポイントのコードだけをご提供することもあります。なお、対象のお店で、「楽天ペイ」アプリあるいは「楽天ポイントカード」を利用して指定の商品を購入すれば楽天ポイントがもらえるというようなキャンペーンも開始しており、様々な目的や制約に応じた販促メニューをカバーしています。
RMP – Omni Commerce、小売店との連携によりオフライン購買データを収集
-蓄積するデータ資産の現状と今後についてお聞かせください。
まず、QR決済やクレジットカードなどの決済データから得られる情報についてですが、決済金額やどこで購入したのかということは分かるものの、何を購入したのかということは分かりません。本来メーカー様向けのビジネスをする上では、何を購入したのかという情報までが必要となります。そういった意味では小売企業様からID-POSといわれるデータを連携いただくか、ユーザーからレシート情報の提供を受けて購買データを蓄積する必要があり、そうでないとメーカー様向けビジネスに資するものとはならないという前提を敷いています。
そのなかで、楽天としてはIDに基づき、ユーザーを深堀するための一定の属性項目を持っています。また、オフラインの購買データに関しては、全小売店を対象という意味においては、Rakuten Pashaを通してレシートを蓄積しており、一定の規模に達しています。また、楽天ポイントカード加盟店様からも一定のデータをお預かりし、利活用が出来るようになっておりますが、より精度を高めていくうえでは今後も明細レベルの購買データを蓄積していく必要があると認識しています。顧客理解を深めるために小売店様からも必要な形で情報を提供いただく、あるいはお預かりして、それに見合った価値をお返ししながら、メーカー様向けに利活用できるようにしていければと考えています。
データ活用の実践という観点では、広告領域においても、広告がユーザーのオフライン小売店舗における購買にどのくらい寄与したのかという、広告接触者と非接触者とを比較したリフトアップ評価をするようなメニュー「Instore Tracking」を提供しておりますが、その際にはレシートデータのみならず、小売店様からお預かりしたID-POSデータを分析するということが既にはじまっています。
また、例えばレシートの購買データをもとに、ターゲットを拡張した広告配信ということも行っています。
オンラインマーケティングでの当たり前を、オフラインでも実現
-RMP - Omni Commerce の今後についてお聞かせください
現在オフラインを中心に大きな変化を迎えています。オフラインの販促は、不特定多数に対するマス販促から、デジタルの普及とともにターゲティング販促へとシフトしつつあります。また、大きな花火を打ち上げるような販促から、派手さはないものの常に横にあるような販促に代わっていくかと思っています。また、各ブランド個別での販促から、一部ではブランドや、ブランドのジャンルをクロスしたりするような横断型のマーケティングがより進んでいくのではないかと考えています。これらを実施していくうえでは、一定のユーザー規模が不可欠ですので、オフラインのユーザー層を増やしていくことが必須です。また、ユーザーの継続的な購買を追いかけながら、理解していくことも求められると考えています。
そこで、現在ユーザーにデジタルクーポン体験としてご提供しているRakuten Pashaの利用をより促進していくために、ユーザー体験を進化させていくべきであると思っています。例えば、ポイントを獲得するために必要なレシートを送ることの代わりに、楽天ポイントカードの提示で代替していただくというような仕組みをご提供しており、現在対象のお店は西友様、東急ストア様、ポプラ様で、今後順次拡大予定です。メーカー様からは、購買データをしっかりと見たいというご要望が多いので、購買データと楽天のID基盤を組み合わせてお客様向けにデータを分析し、間借りして使うCDP(Client Data Platform)の機能をサポートしていきます。
RMP - Omni Commerceで取り組んでいるのは、ECで当たり前になっていることを、オフラインでも当たり前にしていくことです。ターゲティング販促や、AlwaysOnの取り組みを、オフラインで当たり前にすることが短期的な取り組みであり、これをオンラインオフラインの垣根をなくしていくことが中長期的な取り組みです。メーカー様がユーザーに対してオンラインとオフラインとを交えた体験を提供しその行動や、施策に対する効果を可視化することが出来ればと思っています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。