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アドテクとESG(環境・社会・ガバナンス):その対応は進んでいるのか、遅れているのか?

インターネットとデジタル技術に大きく依存する業界として、アドテクは、カーボンフットプリントの相当量に関与している。パリに拠点を置く、エネルギー転換に関するシンクタンクThe Shift Projectが発表したレポート「Lean ICT - Towards Digital Sobriety」によると、デジタル機器(スマートフォン、テレビ、コンピューターなど)の製造と使用によって、2025年までに世界の温室効果ガス排出量の8%が発生することが明らかとなった。また、英国マンチェスターにある電子広告ボードひとつだけでも、3世帯分の電力使用量より、年間1万1000キロワットアワー(kWh)以上も多く電力を消費していると報じられた。

 

英国米国欧州APAC(アジア太平洋地域)、オーストラリアの消費者は、生活の中でますますサステナビリティを重視するようになってきており、支持するブランドにも同じ姿勢を期待している。この調査結果を踏まえれば、ESG(環境、社会、ガバナンス)を敬遠することは、ビジネスの妨げにしかならないと言える。また、社会的責任を踏まえた広告は、ブランド認知度とROI(投資利益率)を向上させるため、経営においてESGを優先して誠実かつ有意義な取り組みを行えば、得るものも多い。

 

ここ数カ月、ESGに関する話題は増えているが、アドテクが環境への影響に対処する責任を本当に認識しているかどうかをめぐる議論は、いまだコンセンサスを得られていない。では、アドテクは消費者の期待の高まりに歩調を合わせ、インパクトのある有意義な変革を進めているのだろうか?それともESGはまだ後回しにされているのだろうか?私たちはこの問いを業界識者に投げかけ、答えを探った。

 

企業は実行可能かつ達成可能な計画を立てなければならない

企業が戦略プランの中でESGを考慮することは、今や不可欠であり、アドテク業界でも社会的責任に向けた動きが一段と活発になっています。環境のサステナビリティという点では、当社シェアスルー(米国発のネイティブ広告プラットフォーム)を含むいくつかの業界プレーヤーが、地球温暖化を抑止するため、ネット・ゼロ・カーボンをうたうメディア「Green Media Products(GMP)」に目を向けています。また、アドテク企業の多くが、より強固で団結力のある組織を構築するためにDEI(多様性、公平性、包摂性)プログラムを導入しているのも素晴らしいことです。

アドテクがESGに取り組む業界だと世界に認知されるためには、企業が実行可能かつ達成可能な計画を立て、そのコミットメントを忠実に遂行し、目標を達成するために全従業員を巻き込むことが必須です。ESGはこの業界ではまだ新しい概念であり、私たちは、ESGの正しい姿がどんなものになり得るのかを模索しているところです。
シェアスルー 人材・文化担当バイスプレジデント、ステイシー・パーキンソン氏

 

ブランドとエージェンシーは、もはやサステナビリティを見過ごせない

デジタルコンテンツの消費が増え、デジタル広告が広告主に優れた成果をもたらしたことで、インターネット広告の規模と範囲が拡大しました。世界的に見ると、インターネットの利用は世界のCO2排出量の3.7%を占めており、これは世界の全航空輸送量に相当します。環境に及ぼす影響の大部分を占める、データ処理とネットワーク機器は、年率40%で増加しており、2030年には40倍になると予測されています。

10年前、情報提供依頼書(RFI)の中で、紙のリサイクルに関する質問をよく目にすることがありました。しかし現在、そうした質問はより深い意味を持つようになっています。ブランドがパートナーについて知りたがっているのは、彼らがメディア最適化の最良のテクノロジープラットフォームかどうかだけではなく、環境への影響をどれだけ低減させているかについて確実なエビデンスを持っているか、ということです。

ブランドとエージェンシーは、もはやサステナビリティを見過ごすわけにはいきません。少なくとも、すでにこの問題への取り組みを開始しており、影響に対する有意義な措置を講じていることを示せる企業が、結果的には名声を高めることになるでしょう。
パブマティック マリア・シェグラコワ氏

 

メディア支出とESGへの取り組みの一致は不可欠

業界内には、ESGに対する素晴らしい取り組みはありますが、広告と有害コンテンツとの関係については、まだそれほど真剣に評価されていないように思います。広告は、毎年26億ドル(約3910億円)もの偽情報経済の資金源となっている(ニュースガードとコムスコアによる調査)だけでなく、こうした偽情報は、暴動、気候変動の否定、憎悪といったものに直結しており、すべてが企業のビジネス環境、ひいては株価にも影響を及ぼします。

そればかりか、企業の多くは、ESGの取り組みに相反する形で広告予算を費やしています。例えば、私たちがよく目にするのは、サステナビリティで優れた実績のある企業の広告が、気候変動を否定するコンテンツと一緒に表示されたり、大手製薬会社の広告が、反ワクチンを唱えるチャンネルで表示されたりするケースです。こうした問題は、もっと深刻に受け止める必要があります。一方で、正当な気候情報コンテンツの70%もが、気候関連ワードを対象にした広告ブロックリストのせいで、マネタイズできないでいます(チェクとメディアバウンティによる調査)。つまり私たちは、事実に基づくコンテンツを作るインセンティブが働かない場所で、公開討論をしているのです。

メディア支出は、企業価値やESGの取り組みと一致させなければいけません。私たちコンシャス・アドバタイジング・ネットワークのマニフェストでは、エージェンシーとブランドが、ヘイトや偽情報へ資金を提供してしまうのを回避するための、明確なアクションプランを定めています。
コンシャス・アドバタイジング・ネットワーク ハリエット・キンガビー氏

 

アドテクにとっては今が正念場

業界のさまざまなメンバーが集まり、サプライパスの健全化に取り組んでいます。バイヤーとインプレッションを適切に、より効率的にマッチングさせることで、コンピューティングパワーを低減し、CO2排出量を削減することができます。こうした取り組みをリードするスコープ3のような企業は、アドテクが環境に及ぼす影響についての理解を深め、よりサステナブルなオペレーションに移行するための機会を、業界全体に提供しています。

私たちは今、地球への悪影響を最小限に抑えるために、それぞれの役割を果たすべき正念場を迎えています。デジタルファーストのビジネスで見落とされがちなのが、コンピューティングパワーによるエネルギー消費量と、それに伴うCO2排出量の増加です。プログラマティック広告において、私たちがこれまで以上に強く働きかけるべきなのは、サプライパスを最適化することで広告リクエストの重複を減らし、一件の広告配信に係る消費エネルギーを減らして、CO2の排出量を削減することなのです。
フリースター プレジデント兼CEO、カート・ドネル氏

 

ブランドは、エージェンシーに行動を促すために大きな役割を果たすことができる

私はいくつかのアワードで審査を行っていますが、応募された取り組みを見ると、その大半がパフォーマンスに関したものです。一皮むけば、さほどインパクトがないと分かります。せいぜい「珍しいことをして人目をひく」程度のものです。数字は嘘をつきません。さまざまな賞を審査し、他のエージェンシーの活動も見ることで、私は、自分自身のチームの仕事も、より批判的な視点で評価するようになりました。

ブランドは、エージェンシーに行動を促す上で大きな役割を果たすことができます。メタのような巨大ブランドは、提携するすべてのエージェンシーに対し、各社のチームとベンダーの状況を把握するためにDEI調査を要求することがあります。これが示しているのは、ブランドにとって多様性とサステナビリティが非常に重要であり、提携先のエージェンシーにも説明責任があるということです。ブランドはそうやって、これらの問題に真剣に取り組むようプレッシャーをかけることができます。このような取り組みはもっと必要で、すべてのブランドがそうする必要があります。実際、S&P500を構成する米上場企業の92%が、サステナビリティ・レポートを公開しています。私が望むのは、より多くのエージェンシーが、クライアントのESG目標にもっと関心を持ち、クライアントの目標達成を支援するパーパスドリブンな応募作品がもっと増えてくることです。
R/GA ベイナ・ブラック氏

独占インタビューはこちら(英文)。

 

企業はグリーンウォッシングに陥らないよう進歩すべき

現代の企業は、ESGに関してどのようにコミュニケートすべきか、もっと賢明になる必要があります。多くのブランドが30秒のコマーシャルを流して、環境問題や社会問題を解決するために取り組んでいることを謳っていますが、本質的には、彼らが最初に問題の原因を作ったのです。技術を稼働させたり、データを保存したりするために、多くのエネルギーを使っているのは大手企業であり、そうした事実に対する消費者の認識もはるかに高まっています。だからこそブランドは、グリーンウォッシングに陥らないため、より賢明かつ洗練されたやり方でESGに関するコミュニケーションに取り組む必要があります。企業は、ブランドの野心を語るのではなく、一般の人々の立場に自らを置き、自社の技術が消費者にどんな価値を生み出すかを考えるべきです。その技術は、消費者の選択肢をどれだけ広げられるでしょうか?また、どうすれば人々に参加してもらえるでしょうか?こうした問いを真剣に検討することが今、ブランドにとって極めて重要なのです。
グッドバータイジング トーマス・コルスター氏

 

透明性がメディアを健全にする

広告主のあいだで、ESGの重要性が高まっています。この1年、当社に対して複数のクライアントが、よりサステナブルなメディアや、特にデジタル広告キャンペーンによるCO2排出量の削減について、関心を示してきました。

当社は2022年初め、スコープ3と提携し、アテンションまたはビューアビリティで、それぞれ最適化されたメディアのCO2排出量を比較する調査を実施しました。その結果、アテンションに最適化されたメディアでは、総排出量を14%削減できることが明らかになりました。

アテンションは、広告主がより少ない回数で質の高いインプレッションを購入するための指標であり、一般的に質の高いメディアは、よりクリーンな経路をたどる傾向があるため、サプライパスによる排出量も少なくなります。

日光に優れた殺菌効果があるように、内部の情報をオープンに開放することで健全性が保たれます。排出量に関しても透明性が高まれば高まるほど、広告主はより良い判断を下せるようになるのです。
 アデレード 創業者兼CEO、マーク・ガルディマン氏

 

透明性と独立した検証が最重要

アドテク業界は、まだESGを最優先事項とは認識していないものの、ある程度の進歩は認められます。重要なのは、ESGに関するコミュニケーションがより頻繁かつ深く行われるようになることです。そして、私たちオープンXのような企業が起こす行動が、他の企業にとっての先行事例になればと思います。

こうしたコミュニケーションが主流となり、自社の取り組みを公表する企業が増えてくれば、透明性と独立した検証が必要となってきます。企業が主張する情報が信頼でき、実際にその目的に貢献していることを証明する必要があるためです。唯一の方法は、全員が順守すべき業界標準を作り、独立した第三者による検証と確認を定期的に求めるということでしょう。
オープンX 東南アジア地域事業開発担当バイスプレジデント、プライヤ・バティア氏

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS

2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。