Unified ID 2.0の現在地と未来とは?-The Trade Desk主催セミナー
グローバルアドテクノロジー企業であるThe Trade Deskは7月14日、「ポストクッキー時代に向けたデジタルIDの未来 – 共通ID『Unified ID 2.0』とは?」と題したオンラインセミナーを開催した。
Unified ID 2.0の特徴
セミナーの冒頭では、同社のインベントリ・パートナーシップ担当ディレクターを務める白井好典氏がUnified ID 2.0の概要を説明した。Unified ID 2.0は、メールアドレスや電話番号をキーとした広告配信ソリューションであり、近年利用制限が強化されたサードパーティCookieやモバイル広告IDに依存しないことから、その利便性や将来性についての注目が高まっている。
またそれらメールアドレスや電話番号といった個人情報はユーザーから事前に同意を得て取得した上でハッシュ化し、暗号化処理などが施されるため、各種のプライバシー規制にも対応が可能。さらにはウェブ、アプリ、コネクテッドテレビといった異なる端末やチャネルを横断して適用できるという特徴を持つ。独立したガバナンス体制を確保するために、将来的には第三者機関に運営を委託することを予定している。
Unified ID 2.0の仕組み
媒体社は、ユーザーがウェブサイトを訪問した際にEメールアドレス取得の同意取得の手続きを実施。ログイン時にEメールアドレスのハッシュ化、暗号化処理を行った後に、SSPを介してDSPに情報を送る。
一方の広告主は、保有する顧客のEメールアドレスをハッシュ化し、DSPに送信。DSP上で媒体社と広告主が送ったハッシュ化データが一致した場合は、広告配信時にそのデータが活用される。当該データは異なる媒体を横断して利用でき、ユーザーはその仕組みを採用するウェブサイトのオプトアウトを一括で行える。The Trade Deskでは、以上の仕組みを標準化した上で、オープンソース化し、各関係者にその技術を提供するIDソリューションを開発した。
Unified ID 2.0の仕組み
資料提供: The Trade Desk
ポストCookie時代の行方
Unified ID 2.0が注目を集め出したきっかけの一つとして、サードパーティCookieやモバイル広告IDの利用制限が強化されたことが挙げられる。SMN株式会社で商品企画課のチーフプランナーを務める永田幸助氏は、同社が運営する国内有数の広告配信プラットフォームであるLogicadが顧客獲得型マーケティングに強みを発揮してきたことから、ターゲティングや広告の効果測定に有効なこれらのデータの利用制限による影響は大きいと予測。代替ソリューションとしてコンテンツマッチの採用や、広告配信に関して異なるエコシステムを築いたDOOHやコネクテッドテレビなど配信先の拡充に努めているという。
また株式会社フリークアウトでプロダクトマネージャを務める田口氏もリターゲティング配信への影響が甚大との考えに同意。ポストクッキーに備えたソリューションとしては、「Google社が提供するプライバシーサンドボックスに含まれる各種代替ソリューションの検討」、「メディアのコンテンツデータを活用したターゲティング」、「動画広告の活用」、「Unified ID 2.0を始めとするIDソリューションの活用」などが挙げられる中、DSP事業者は、これらを総合的に組み合わせ、最適なソリューションを見つけていく必要があると述べた。
これら複数の代替ソリューションについて、永田氏は日本市場における拡張性を主軸として総合的な検討を続けていくと発言。Unified ID 2.0については透明性と安全性を確保されている点を長所として挙げた。田口氏も導入ハードルが低く、オープンソースである点を高く評価すると同意。またソリューションの拡張性について白井氏は、顧客のメールアドレスを一定規模で保持する広告主は多いと実感しており、日本国内において広範に活用され得る環境は整備されつつあるとの見方を示した。これに対して田口氏は、他の広告ソリューションとの連携を進めることで、エコシステムのさらなる整備を望むとの期待を述べた。
また白井氏は、サードパーティCookieの取得が難しくなったことでファーストパーティデータの相対的な重要性が増した結果、媒体社がウォールドガーデン化する可能性を指摘。ただし、媒体社がデータを開放しない限りはDSPによる広告枠の買い付けは行われない点に言及した上で、米国での事例としてUnified ID 2.0を利用した広告のeCPMがサードパーティCookieを利用した広告よりも116%高いことが一部のパブリッシャーで明らかになったことを報告した。
媒体社がユーザーから同意を取得する方法は?
セミナーの後半では、The Trade Desk社のインベントリ・パートナーシップ担当のファン・ジンソプ氏と同社コンサルタントの宮一良彦氏が、Unified ID 2.0を導入する上での具体的な検討事項などを説明。Unified ID 2.0にはサプライサイドで用いる「UID2」とデマンドサイド向けの「UID2 Token(トークン)」の2種類があり、いずれまたは両方を使うかによって手続きや注意すべき点が異なる旨を述べた。
Unified ID2.0の種類
資料提供: The Trade Desk
また媒体社はメールアドレスを取得する上で主に同意管理プラットフォーム(CMP)を通じてユーザーごとに個別に同意を取る方法と、利用規約や約款を提示して包括的に同意を取る方法の2種類があると案内。さらにユーザーがオプトインをした際はそのユーザーの個人情報を取得した企業が管理するが、オプトアウトした際にはそれらの情報を統括する共通のポータルサイト上で行うことについても伝えた。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。