日本のアドフラウド違反率が低い真の理由とは―DoubeVerify主催セミナー
デジタルメディア測定、データ及び分析のソフトウェアプラットフォーム大手のDoubleVerify Japanは、6月8日、オンラインにて最新版の調査レポート「2022 グローバルインサイトレポート(GIR)」の調査結果を解説するウェビナーを開催した。(Sponsored by DoubleVerify Japan)
ほぼすべての指標が改善傾向に
GIRは、80市場で2100社以上の広告主が配信したデジタル広告の1兆超に及ぶインプレッションを分析。ウェビナーの冒頭では、DoubleVerify Japan株式会社の日本法人代表を務める武田隆氏が本レポートの概要を説明した。
同氏によると、アドフラウドの不正スキーム数が急増しているものの、違反率は減少。広告の入札前後や配信前後を含めたメディア取引のあらゆる段階で様々なソリューションが整備された結果として、ブランド適合性の違反率やビューアビリティ率といった指標においても改善が見られる。
資料提供: DoubleVerify Japan
とりわけ日本の広告主は、Yahoo!広告 ディスプレイ広告運用型(YDA)やGoogleディスプレイネットワーク(GDN)といったプレミアムな広告在庫を利用する傾向が高いことから、APAC地域の中で入札後のアドフラウド違反率は最も低い。しかしながら、今後はモバイルアプリ、コネクテッドテレビ、オープンウェブなどに配信先を拡大する際に課題が生じ得る。
またフィッシングやマルウェアなどに加えて、著作権侵害や過激なグラフィックなどブランド毀損する恐れのある基本的な項目を基準化した「ブランドセーフティフロアカテゴリー」の利用率が日本は他地域と比較して高く、広告主の95%が採用。加えて多くの広告主が個別の対策を実施しており、日本の広告主の意識の高さがうかがわれる。
さらにビューアビリティに関しては、日本では動画広告が80%と高い数値を示しているものの、ディスプレイ広告は46%と一気に低くなるとの報告もなされた。
日本の商慣習とアドフラウド
ウェビナーの後半では、GIRの調査結果を踏まえたパネルディスカッションが行われた。株式会社電通デジタル ソリューション戦略部 グループマネージャーの富田匠氏は、YouTubeやTikTokといった動画配信プラットフォームへの広告出稿が増えていると実感。ただし、広告配信先となるチャンネル全数の閲覧や独自の配信リストの作成などはこれらプラットフォームが提供する管理画面からでは十分に行うことができないことから、DoubleVerifyなどが提供するデータソリューションの需要があると話した。また日本市場においては、アドフラウドの発生時には媒体社が返金に応じる商慣習があったことで、これまで危機意識がそれほど高まらなかったとも振り返った。
この発言を受けて武田氏は、日本でアドフラウド違反率が低いのは、デジタルマーケティング自体がまだ発展途上の段階にあることに起因している可能性に言及。今後デジタル広告出稿形態が多様化していくにつれて、アドフラウド違反率も増加していく危険性に留意すべきだと注意を促した。
味の素株式会社 広告部メディア企画グループ デジタル媒体担当の油谷一輝氏は、ブランドセーフティやビューアビリティと比較して、アドフラウドは「具体的なイメージがつきにくい」との課題を指摘。富田氏もこの意見に同意しつつ、アドフラウドは広告配信の最適化だけでなく、ユーザー分析結果にも悪影響を与え得るため注意が必要と述べた。
ブランドセーフティとブランド適合性の違い
続いて武田氏は、ブランドセーフティとブランド適合性の違いについて説明。前者は「インターネットで違法な薬物を入手する方法」などあらゆるブランドが回避すべきコンテンツへの広告配信を避けることを意味する一方で、後者は特定のブランドにとって合わないコンテンツへの配信を制御する試みだという。具体例として、たとえ飲酒を禁止されている未成年が目にするコンテンツであったとしても、アルコール飲料メーカーがブランデーを材料とするおやつのレシピ記事へ広告配信することは適している場合があるとの具体例を挙げた。
油谷氏も、たとえ食関連の話題を扱っていたとしても、早食いや大食いについての記事への 広告配信は避けたいと発言。また紛争に関するニュース記事についても、配信面として検討の余地があると述べた。これに続いて富田氏は、ブランドセーフティに関しては業界平均を基準として参考にできるが、ブランド適合性については企業ごとの課題を整理する必要があり、その設定作業には手間がかかると解説。DoubeVerifyを始めとするツールを用いた効率化が果たす役割が大きいとの考えを示した。
ディスプレイ広告特有の課題
ウェビナーの終盤では、日本市場においてディスプレイ広告のビューアビリティが相対的に低い理由について議論を展開。油谷氏は、ディスプレイ広告では低単価を求めた結果としてビューアビリティが低くなる傾向にあるのではないかと分析した。八木氏は、媒体社ごとにビューアビリティの基準が異なることも課題であると指摘。富田氏は、サードパーティCookieの利用制限などを受けてユーザー単位でのターゲティング広告が抑制されれば、ディスプレイ広告におけるビューアビリティ軽視の傾向も変化を余儀なくされるとの見通しを述べた。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。