不正防止ツールは、マーケターの業務環境向上に必須―アドフラウド最新動向とその対策
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on 2022年6月02日 in4月21日、 adjust株式会社は Liftoff Mobile 株式会社との共催で、「アドフラウド最新動向とその対策」と題したオンラインイベントを実施した。
アドフラウドの現状-SDKスプーフィングの増加
冒頭、adjust株式会社 ゼネラルマネージャー 佐々 直紀氏はここ1年のアドフラウドの現状を説明。フラウドの種類ごとの発生比率を述べ、上からフェイクユーザー/ボットが43.3%、SDKスプーフィングが38.2%、クリックインジェクションが15%、クリックスパムが3.5%の順で並んだ。中でも特徴的なものとしてSDKスプーフィングを挙げた。これはアプリ計測ツールのSDKを騙す形で偽のデータを送り込み、存在しないインストールが発生したと見せかける手法である。
さらにクリックインジェクションにも言及。これはクリックスパムが高度化したもので、インストールが始まった瞬間に、実際はクリックされていない広告を挿入して、そこでアトリビューションを奪い取るといった手の込んだ手口である。これはAndroid端末でしか発生しないが、それでも全体の15%ほどを占めており見過ごせない問題になっているとした。
不正インストールの基準を設けることは難しい
この状況を各社はどのように捉えているのだろうか。イベント中盤では、LINE株式会社 ゲーム事業本部 ゲームマーケティングチーム 大橋 共暁氏、株式会社Gunosy メディア事業本部 グノシー事業部 マーケティンググループ 野崎 稜氏が現状を述べた。
Adjust導入前、他のツールを使用していた頃に多くの不正に見舞われたという大橋氏。その後、Adjustに変更してからは目立った被害はないとしたが、それでも不審な挙動を示すことがあるという。大橋氏は、「ある一定期間リテンションが非常に上がり、ある日急に落ちるといったことが時折見受けられる。それ自体に実害はないがマーケターが社内でレポーティングをする際に不正なデータが入った状態でレポーティングをしているということになる。そういった意味では今でも被害は出ている」とした。
さらに、「本来であれば100%全て防ぎたいが、マーケターも本業がある中で、アドフラウド対策だけに時間を割くわけにはいかない。対策ツールを導入してもまだ不正が入り込んでいる可能性もあるが、フラウド対策の工数を削減して、まず本来の業務に取り組まなければならない」と強調した。
続けて野崎氏も過去に起きた数百万円単位での損失を事例に挙げ、現在の取り組みを紹介した。被害発生後は社内のリテラシーも高まり、現在ではダッシュボードの作成や、複数の指標を決めて、それを簡易的にモニタリングできる体制を整えているという。
具体例として野崎氏は、「グノシーというアプリには課金ポイントがないので、継続率を指標として重視している。例えば、Adjustの管理画面では継続率がよく出ているが社内のデータでは全く継続されていないということが直近でも起こっている。そういったことも含めてスプーフィングが起きている可能性は、数字からも感じることがある。また、弊社アプリは国内のみの展開なので、海外からのインストールがどれくらい含まれているかも指標の1つとしてダッシュボードで見ている。Adjustのデータではカントリーとリージョンが確認でき、そこから「JAPAN」以外が何割含まれているかを見ている」と説明した。
また、視聴者からは、「不正インストールの割合が何%を超えたらこの媒体は怪しいという基準はあるか」という質問が投げかけられた。大橋氏は、基準は設けず出稿している媒体ごとにデータを比較して、突出して数値が高すぎる、低すぎるといった異常値で判断することが多いとした。加えて、不正業者とのいたちごっこで状況が日々変化する中で、一定の基準を明示し、社内のルールとして全員が動くことは難しいのではないかと疑問を投げかけた。
野崎氏もそれに応じる形で、「検知できているものは比較的マシな方だと思っている。問題はその下でうごめいている、検知すらできずに防ぎきれていない媒体である。基準となるパーセンテージを決めたことにより、基準以下の数字や、全くフラウドが出ていないと見なされた媒体は何も問題がないと判断してしまうことは危険である」とした。
AdjustとLiftoffの取り組み
これらの現状を踏まえ、AdjustとLiftoffはアドフラウドへの取り組みを強化している。Liftoff Mobile 株式会社 Senior Country Manager Japan&Korea 天野 耕太氏は、「Liftoffは創業以来アドフラウドを重要なテーマだと捉えており、かつ100%プログラマティックのRTBなので、リアルタイムの判断にもフラウドのフィルターを入れるなど、ブラッシュアップを続けている。他のネットワークに比べてフラウドは少ないのではないかと自負している」と述べた。続けて、以下の3つのテクノロジーを紹介。様々な対策を講じており、「そもそも配信面が怪しくないか」や、リアルタイムの取引の中で「必要な情報がない」といった複合的な観点から、自動的に排除する仕組みを設けているとした。天野氏は、「フラウドが発生した場合の主体者の特定は難しいのが現状であるが、我々もネットワーク媒体の立場で自分たちが疑惑を作るようなことがあってはならない」と述べた。
Liftoffでは、アドフラウドを防止するためのテクノロジーとして主に以下の3つに取り組んでいる。
①悪質なビッドリクエストへのフィルタリング
約10種類の不正なトラフィックを検知するビッドリクエストへのフィルタリング
②20億超の不正防止デバイス
不正のないことが確認された20億台以上のモバイルデバイスのデータベース
③インストール後の最適化
インストール後のエンゲージメントのためのキャンペーン最適化
また、Liftoff は、Adjustが主導する国際的なアドフラウド防止連合「CAAF」のメンバーシップの一員でもあり、エコシステム全体でフラウドと戦っている。
続いて佐々氏もアドフラウド防止機能として以下の5つのフィルターを紹介。特に、①SDKシグネチャーは、前述のSDKスプーフィングという現在最も高度化している問題に対応する機能となる。現在はより強力なバージョン2がローンチされており、アップデートを勧めている。
①SDKシグネチャー(無料提供)
通信を偽装するなりすましによる不正インストールを除外
②匿名IPフィルタリング
エミュレーターやボットによる不正インストールの検出
③ハイパーエンゲージメントフィルター
同一計測用URLからの多過ぎるクリックを検知
④ディストリビューションモデリング
広告のクリックからインストールまでの経過時間を統計的に分析
⑤クリックインジェクションフィルター
Android端末のみで発生する巧妙なクリックスパムを検出(Google社との共同プロジェクト)
佐々氏は、「Adjustの不正防止ツールを導入していただければ、Adjustが自動でフィルターを作るという世界が構築できる」とした上で、それでも必要であれば各社で独自に集計したデータを取り、媒体や代理店と交渉することの重要性も述べた。それに合わせる形で天野氏も、「マーケターが1人で悶々としてもあまり意味がないのかなと思う。フラウド対策は会社全体で取り組んでいくことが必要」との見解を示した。
ABOUT 渡辺 龍
ExchangeWireJAPAN 編集担当
立教大学社会学部現代文化学科卒業。大学卒業後は物流企業にて海外拠点と連携し、顧客の輸出入サポート業務全般に従事。
その後、2021年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。デジタル広告市場調査などを担当している。