「リテールテック×アドテク=Ignite」-Acorn IntelligenceとDMT Inc. が提供する未来のECデータプラットフォームとは[インタビュー]
切っても切れない間柄にあるにも関わらずこれまで分断されてきた小売販売事業と広告事業が、デジタル化に伴い、融合しつつある。この環境変化を一気に具現化してみせたのが、ECデータプラットフォームのIgniteだ。開発元となる英企業のAcorn-iと、日本市場で本事業を担当するDMTにEC最新動向について話を聞いた。
(Sponsored & Organized by DMT Inc.)
世界的にも稀有な新規ソリューション
―自己紹介をお願いします。
カバイル氏:Acorn-i共同創業者のロス・カバイルと申します。これまでにMicrosoft、Amazonなどでプログラマティック広告を始めとするアドテク技術を取り扱ってきました。約3年前に同じくAmazon出身のクレア・リオン氏とともにAcorn Intelligence(略称Acorn-i)を創業しました。
当社の経営陣には、その他にもWPP/GroupMに買収される前のThe Exchange Labにてエンジニアリング部門長を務めたジェームズ・ポール氏がCTO、Amazonの広告事業部でグローバルの広告会社統括責任者を務めたライアン・メイワード氏をアドバイザーに迎えるなど、Eコマースやデジタル広告で経験を積んだ逸材が揃っています。
廣田氏:DMT Inc.の共同創業者兼CEOの廣田力です。国内の大手広告会社でプログラマティック広告やデジタル広告全般の開発及び販売責任者を務めた後、Amazon JPにてAmazon DSP、Amazon Marketing Cloud(AMC)やSizmek など同社のアドテク関連ソリューションのJP Business Development をリードしておりました。
現在は米国、欧州、イスラエルを中心とした海外の優良な広告技術、eコマース、ソーシャルメディアなど、デジタルマーケティング領域における最新のテクノロジーを日本国内の広告主様や広告会社様向けにご提供しています。
―事業概要をお聞かせください。
カバイル氏:当社はEコマースインテリジェントデータエンジンプラットフォームであるIgnite(イグナイト)を開発そして運営しています。その背景には、アドテクやデジタルマーケティング技術が溢れているものの、広告主や広告代理店はそれらの技術を使いこなすことができていないという現状に対する問題意識があります。そこでそれらの技術を有効利用するための前提となる実用的な知見を提供するプラットフォームを構築しました。
例えばAmazonなどのECモールは、今や販売チャネルと広告チャネルを兼ねた「リテールメディア」です。またインストアマーケティング全般のデジタル化が進んだ結果、デジタル広告との連携も図りやすくなりました。こうした販売チャネルと広告チャネルの融合が今後ますます加速化していくに伴い、小売データと広告データを掛け合わせた包括的な視点からチャネル選別やアトリビューション計測を行う必要性が高まっています。Igniteはこの課題を解決するためのプラットフォームです。
―「リテールメディア」という概念が日本市場にはあまり浸透していないように思います。
カバイル氏:「リテールメディア」という用語に馴染みを覚える人は世界的にも少ないでしょう。まだ発展途上の段階にある概念だと思います。
ただ確実に言えるのは、Eコマースを営む上では様々なデータを統合的に扱う必要があるということです。現代の消費者はデジタルメディア、ソーシャルメディア、ブランドサイト、またはECモールといった様々なチャネルを通じて広告と接し、そして商品の購入に至ります。どのチャネルが最も有効か、商品の検索について共通した傾向はあるか、どのチャネルが新規顧客獲得に最も貢献し、既存顧客はどのチャネルに集中しているのか。Igniteは、これらを示すデータをリアルタイムで表示します。
―様々なデータを分析及び可視化するという意味で、貴社のソリューションはBIツールの一種と言えるのでしょうか。
カバイル氏:いいえ、BIツールとは一線を画しています。まず当社のソリューションは、各企業の需要に合わせてテーラーメードで環境構築し得るものです。また各企業がアプリケーションにログインしてデータを直接的に取り扱うことができるので、出力や他のデータとの接続が可能な点でも異なります。
さらには機械学習を通じて、広告データや小売データに基づく広告キャンペーンの自動最適化も行うことができます。「Eコマース業界に特化したシステムインテグレーターが提供する汎用的なサービス」といった方がより実態に近い表現になると思います。
廣田氏:ただし、「Eコマースインテリジェントデータエンジンプラットフォーム」という業態自体が斬新です。グローバル規模では同様のソリューションが少しずつ出始めましたが、当社のように日本語、日本円、日本時間そして日本市場に対応したものはまだほかにないでしょう。
販売・広告チャネルを横断的に管理
―ソリューションの具体的な活用例をお聞かせください。
カバイル氏:例えばAmazonで自社製品を販売し、合わせて広告も出稿している事業者がいたとします。Amazon上でのどのような検索結果として消費者が自社製品にたどり着くのかを知りたいはずです。またどのような味や色が好まれているかが把握できれば、製品開発にも役立ちます。さらにこの事業者が自社のECサイトを運営している場合には、Amazonでの売れ行きとの比較を行いたいはずです。
これらの事項を知るためには、製品の販売データと広告効果を示すデータをそれぞれ別の管理画面から得る必要があります。しかも各管理画面のUIは決して分かりやすいものではありません。そこでIgniteの管理画面上にこれらのデータを一覧表示することで、経営判断や広告投資及び販売活動の最適化に役立てていただくことができます。
―一般的なEコマース事業者はどれほどの販売ないし広告チャネルを持っているのですか。
カバイル氏:少なくともAmazonを始めとする代表的なECモールを2種類、それに自社ECサイトを加えた3つ以上を扱っていることが多いです。販売市場が多くなるに従い、販売チャネルは増えていきます。一企業が15チャネル以上と接続していることも珍しくありません。
さらに近年ではリテールメディアへの注目が高まっていることを受けて、Amazon、楽天、Yahoo!ショッピングなどのECプラットフォーム上で商品の出品と広告の出稿の両方を行うことが増えています。
つまりたとえ事業規模の小さい企業であっても、複数の販売チャネルと広告チャネルを運用しているのが現状であり、その数は今後ますます増えていくことが見込まれます。
廣田氏:InstagramとShopifyの連携を通じたソーシャルコマースの事例に象徴されるように、カスタマージャーニーは複雑化とオムニチャネル化を遂げています。これまでは「広告事業は広告代理店に任せ、販売や流通はブランド企業の担当者が管理する」といった役割分担が多くあったと思いますが、もはやEC戦略と広告戦略を切り分けることは現実的ではありません。本来であれば、クーポンと広告の各効果または相乗効果を正確に把握しなければ、マーケティング最適化は成し遂げられないはずなのです。
―各種のデータはどのように取得しているのでしょうか。
カバイル氏:AmazonやShopifyといった大手ECプラットフォームが公開するAPIを通じて必要なデータを取得しています。Amazonだけでも様々なAPIが用意されており、対象とするデータはバーコードやSKU(在庫保管単位)、インフルエンサーが提供する製品コードなど多岐に渡ります。
これらのデータを統合することで、例えば特定の製品の売上が落ちたときに、広告予算を増やすべきなのか、製品ページの記載情報やレイアウトを変更すべきなのか、またはそもそも在庫切れとなっているかなどの状況理解と合わせて競合製品の動向をも把握することができます。
Igniteの管理画面
何百単位の製品を扱う企業がこのような分析を一つひとつ行うとなれば、多大な時間を要します。またそうした分析作業を効率的に行うことができるデータ人材を確保するというのも難題です。そこでIgniteが代わってデータを取りまとめることで各企業を支援します。
廣田氏:日本市場ではAmazon Vendor Central Retail、Amazon Seller Central Retail、Amazonの検索、Amazon DSP、ShopifyといったECプラットフォームの各APIと連携しています。さらにはGoogleやFacebook、TikTokといった広告プラットフォームのアトリビューション計測機能とも連携しているので、異なるチャネルごとの購買とアトリビューション計測が可能です。
これらに加えて現在は楽天やYahoo!ショッピングとの接続も進めています。尚、当社はすべて自社開発なのでお客様のご要望に応じてどんなプラットフォームとも接続することが可能です。
―利用層としてどのような企業や担当者を想定していますか。
カバイル氏:オンライン販売を行う事業者であれば、そのパートナーとなる広告代理店を含めてどんな企業でもIgniteを有効活用できると思います。
CEOや事業責任者から、マーケティング担当者やロジスティクス担当者またはキャンペーン管理やコンテンツ製作を行う担当者、さらには財務・経理関係者まで様々な部門や部署でご利用いただけるはずです。
日本市場特有のEC課題とは
―日本市場の課題についてお聞かせください。
カバイル氏:日本市場に限った話ではないのですが、小売データと広告データの統合的な活用を行うに当たっては、独自のノウハウを必要とします。そこで日本市場においては、Acorn-iが技術を、そしてDMTが運用支援を提供するという体制を整備するに至りました。
廣田氏:Amazon一つとっても複数のAPIと接続する必要があり、また各APIはかなり複雑です。必要なAPIをすべて適切にまとめ上げたソリューションというのは世界的にも非常に少ないと思います。Acorn-iはこの技術を標準化したことで、これらのデータ活用の敷居を一気に下げました。
ただ日本市場では「ポイ活」に象徴される独特のポイント制度などもデータ対象に含める必要があります。こうした日本独特の商習慣に合わせた上で日本語サポートを実現するために、本社3名と日本に4名の計7名で対応する体制を構築しました。
EC運営に関わるチャネルは今後さらに多様化するでしょう。いくつかのECプラットフォームのAPIはまだ十分に洗練されていませんが、これから急速に発展していくはずです。するとデータ利用がさらに活性化することで、各企業の消費者理解にかかる負担は大きくなります。この課題を解決するソリューションであるIgniteを通じて、日本企業の皆様のお役に立つことができたらと願っています。
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ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。