「ファーストパーティデータを媒体社の財産として保護」-世界最大級の独立系オムニチャネルSSPのMagniteが本格始動[インタビュー]
Rubicon Project、Telaria、SpotX……。アドテク業界関係者なら一度は耳にしたことがあるこれらの企業はもはや存在しない。すべてMagniteという1つの会社になったからだ。2020年に誕生したばかりのこの巨大プラットフォームの動向について、東京事務所の代表を務める原田健氏に尋ねた。(Sponsored & Organized by TrainTracks)
大型買収を経て実現したオムニチャネルSSP
―改めて自己紹介をお願いします。
世界最大級の独立系SSPであるMagniteの東京事務所でマネージングディレクターを務める原田健と申します。以前は動画用広告配信プラットフォームであるSpotXのカントリーマネージャーを務めておりましたが、2021年にMagniteが同社を買収したことに伴い、現職に就きました。
―Magniteの事業紹介をお願いします。
Magniteは、ディスプレイ広告の在庫を豊富に持つSSP大手のRubicon ProjectとCTV向け動画広告に強みを持つTelariaが合併して2020年に設立されました。2021年にはさらにSpotXとアドサーバー事業を手掛けるSpringServeを買収して動画広告事業を強化。ディスプレイ、動画、音声、DOOHそしてウェブとアプリを包括したオムニチャネルSSPとして運営しています。
ディスプレイ広告についてはMagnite DV+というブランド名の下でDemand Managerというprebidのヘッダービディングラッパー機能を新聞社を始めとする大手ウェブサイト向けにご用意。一方の動画広告はMagnite CTVというソリューションをOTTプラットフォームにご提供しています。
―立て続けに買収を進めてきたのですね。
GoogleやFacebookといったいわゆるウォールドガーデンと対抗する必要性から大型のM&Aに次々と取り組んでいる状況にあります。とりわけユーザー識別やプライバシー保護に関わる課題が今後はさらに顕在化することが確実視されていることから、今年に入ってからも新たに複数の企業を買収し、機能とサービスの強化を図っています。
―サードパーティCookieやIDFAの利用制限に対して具体的にはどのような対策を用意していますか。
一つはCarbonという企業の買収を通じて精緻なコンテクスチュアルターゲティング機能を取り揃えました。さらにはファーストパーティデータを媒体社の財産として保護することを目的として、Nth Partyが開発したオーディエンスデータをハッシュ化する技術を取得しています。Nth Partyも当社が買収した企業のひとつです。この技術はSpotXが保有していたオーディエンスロックとほぼ同様のものであり、ユーザー情報をDSPには渡さずに、媒体社独自のDMPを開発する際などに有用です。
広告フォーマットごとの課題とは
―オムニチャネルSSPとして、様々な広告フォーマットの固有の課題に向き合っていると想像します。主にどんな課題があるかお聞かせいただけますか。
ディスプレイ広告に関しては、ヘッダービディングがかなりの程度まで浸透しました。一つの媒体社が複数のヘッダービディングを導入して過剰なトラフィックが生まれたことへの反発から、各媒体社はヘッダービディングの導入数を限定するようになってきています。
また媒体社がディスプレイ広告を純広告なりPMPとして販売する機会が非常に少なくなりました。DSPを通じてオープンオークションで広告在庫を買い付けるので、正直なところ、広告主はどの媒体のどの枠に広告が表示されているかをよく把握していない可能性があります。媒体社の収益化を支援する上では、PMPは非常に有効です。PMPを促進するための仕掛けづくりが必要だと考えています。
―注目されているコネクテッドテレビ(CTV)広告についてはいかがでしょうか。
CTVは、日本では今後期待されているデバイスです。数年前に当社パートナーが調査した結果では、日本においてCTVデバイスの視聴が41%から50%に伸びています。また、テレビデバイスのユーザー率が20%から23%に伸びたことも分かっています。依然として1人で視聴するパソコンやスマートフォンの視聴率は高いですが、ロングフォームフォーマット(映画、ドラマ、スポーツなどで視聴するフォーマット)の将来の主役はCTVになっていくでしょう。
CTVはリニアテレビの「高画質」「大画面」「リーンバック(ソファに身をもたせかけて、流れてくる放送をそのまま視聴するという意味)」の特性に加えて、リアルタイムのデータリターンと最適化が可能なデジタル広告の利点を活用できることから、視聴者へリーチしたいマーケティング担当者に大きな機会を提供できます。ゆくゆくは、広告主が従来のテレビで見逃していた視聴者にリーチするために、CTVがメディア戦略の重要な位置づけになっていくことを確信しています。
なお、当社ではCTV上での視聴完了率を測定できるため、ユーザーが広告を見ている比率を媒体社に提供できます。ロングフォーマットでは視聴完了率が高い傾向にあり、CTVデバイスでの広告価値と広告の品質価値も認められています。近い将来、CTVデバイスの広告価値はさらに向上するでしょう。
―効果計測はDOOHでも課題視されていますね。
現状では、DOOHでしっかりとしたターゲティングができないのです。ある場所のこの時間に本当に特定層がいるかどうか誰も分からない。スマートフォンのGPSやBeaconなどと連携し、「このような特徴を持つ人が何人以上いる場合のみ広告が表示される」といったことができたら理想的なのですが、そのような仕組みを構築する上で乗り越えるべき課題が山積しています。
ライブ配信本格化で動画広告市場はさらに成長
―日本の動画広告市場の見通しについてお聞かせください。
当社では一般的にロングフォームと呼ばれるプロの放送事業者が製作した長尺のプレミアムコンテンツ向けの動画広告を主に取り扱っているのですが、この領域ではTVerの成長が目覚ましいです。従来はキャッチアップ配信ないし見逃し配信と呼ばれる放送直後から一定期間にわたるオンデマンド配信が主流でしたが、4月からライブ配信を本格的に開始しました。これに伴い、動画広告は予約型配信からプログラマティック配信へと本格的に移行し、市場はさらに活性化していくことが見込まれます。
最近ではオーストラリアやニュージーランドといった国々でも動画コンテンツのライブ配信と動画広告のプログラマティック配信がほぼ比例して増加するとの事例が出ているので、日本市場で同様の変化が起きるのはほぼ確実と言っていいでしょう。
見逃し配信が大部分を占める現在の日本の市場環境においても当社事業は15~25%の成長率を維持しています。ライブ配信が本格化すれば、移動中や外出先でのスマートフォンを通じたコンテンツ視聴が増えて、動画広告市場はさらに成長していくはずです。
―プログラマティック配信は現在でも行われているのではないのですか。
プログラマティック配信自体は実施していますが、いわゆるProgrammatic Guaranteedではありません。つまり広告予算をお預かりしてターゲティング配信をしていますが、その予算がすべて消化される保証はないというのが現状です。またOTTプラットフォーム関係者様とともに行う細かなCM考査にも一定の時間をかけています。これらの作業が効率化されれば、広告取引は劇的に活性化するはずです。
―動画広告のプログラマティック配信については、欧米諸国と比較して日本市場の動きが遅いような印象を受けます。その理由は何だと思いますか。
日本では若年層のテレビ離れが叫ばれて久しいです。YouTubeやABEMAは視聴するがテレビは観ないという人が増えました。DAZNを始めとするCTV向け動画配信サービスも存在感を高めています。あとはOTT及びCTVサービスが一般消費者の生活にどれだけ深く浸透するかだけの問題だと思います。これらのプラットフォーム上にプロが製作する良質なコンテンツが溢れるようになれば、若い視聴者が爆発的に増えて、広告媒体としての価値が一層高まり、自ずと動画広告市場は成長していくはずです。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。