メタバースの進展と将来性:オムニコムのフィル・ローリー氏に聞く
by ExchangeWire.com / Supported by CARTA HOLDINGS on 2022年5月10日 in ニュース
オムニコム・メディア・グループのフューチャー部門を率いるフィル・ローリー氏がExchangeWireの独占インタビューに応じ、メタバースの過去2年間の発展、Eコマースとの関わり、そしてメタバースが近い将来、ブランドや小売業者にもたらしうる機会について語ってくれた。
メタバースへの関心は、この2年間でどの程度高まったと思いますか?
それに答えるには、まず「メタバース」とは何かを定義することが重要です。現在、メタバースにはさまざまな定義がありますが、その多くは間違っているか、(その範囲が)狭すぎます。私にとってメタバースとは、突き詰めるならば、3次元化された、あるいは仮想化されたインターネットのことです。内に閉じた世界で構成されるゲームに限定されるものではありません。これはつまり、拡張現実(AR)もメタバースとみなせるということです。ARは現実世界をデジタルで覆うレイヤーであり、両者の橋渡し的な役割を担うからです。
この2年間で、私たちがメタバースに抱く関心は確実に高まりました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによって、誰もが屋内でエンターテインメントを消費するライフスタイルを取り入れた結果、20~30年前にはニッチな趣味であったゲームが、娯楽の表舞台に立ったのです。ただし、この現象はパンデミック以前から起きていました。過去10年間でゲームは主流となり、「Call of Duty」や「フォートナイト(Fortnite)」などは数百万ドル規模のゲーム配給元になりました。メタバースへと進化するゲームには、メディアプランナー、広告主、クリエイティブ関連の人々のイマジネーションを刺激する何かがあります。メタバースを支えるテクノロジーや、メディアとしてのメタバース開発は、新型コロナウイルス感染症の最初の症例が確認される前からすでに順調に進められていたのです。
この2年間の出来事により、Eコマースはどのように変化したのでしょうか。
オムニコムは約1年半前、パンデミックがEコマースと小売にどのような影響を与えたかについて調査を実施しました。パンデミック以前は、小売の約20%がオンラインによるものでしたが、これがロックダウン中に30%にまで上昇しました。
この30%という割合が今後も続く保証はないとはいえ、この中には、パンデミックが起こらなかったら利用することのなかった消費者も含まれていると推測します。誰もがEコマースばかり利用するようになるわけではありませんが、使い方を覚えたことで、購入の選択肢が増えたと考える人は多いのではないでしょうか。
つまり、業界が今後向き合う相手は、すでに再トレーニングされた消費者だと言えるでしょう。65歳以上の消費者でも、その63%が、2020年の間に、消費に対する考え方や、商品・サービスの入手方法が「変容した」と回答しています。では、すべての人が100%オンラインの世界に移行していくのでしょうか?もちろんそうはなりません。物理的な世界でしか出会えない商品やサービスが必ずあります。
ある種の製品やサービスには、デジタル化されたメタバースには置き換えられない、直接触れてはじめて分かる良さがあるからです。こうした点から、オンラインで購入する際も、あまり摩擦がなく、体験も損なわれない商品やサービスについては、Eコマースで購入される可能性が高くなるとみていますが、一方、目の前で見なければ判断できない特定の商品や物理的サービスについては、購入までのやり取りがそのままデジタルに置き換えられるのではなく、デジタルで拡張されサポートされるといった方向に進むと考えています。
メタバースとEコマースはどのように関わっているのでしょうか。また、今後も両者の関係は続くと思いますか?
現時点でよくみられる考え方は、メタバースが、完全なバーチャルショッピング体験を生み出し、私たちはそこで、デジタル化された店舗を探索して、店内の商品と自由なインタラクションが可能になる、というもののようです。しかし現状では、こうした想像は過大評価だと私は思います。バーチャルショッピングモールというアイデアは、短期的にはそれほど普及せず、リピート率も高くないでしょう。しかし、長期的には、メタバースによってEコマースがより洗練されるということはあるでしょう。ブランドが3次元化されたメディアを利用するようになるにつれ、こうした考えがより現実的になる可能性があります。
商品の3Dデジタル化など、メタバースとの巧妙な相互作用と統合によって、メタバースとEコマースはとても自然な関係になると思います。そして、それはすでに、拡張現実を通して現実の世界でも起きていることです。イケアやアマゾンは、ユーザーが購入前にスマートフォンのレンズを介して、自分の部屋に商品の家具を配置してみることができるようにしています。ARによるショッピング体験が、完全なバーチャルリアリティと違うのは、顧客との効果的な関係性が見つかりやすいところです。
メタバースは、ブランドや小売業者にどのようなマーケティングの機会をもたらすでしょうか?
一般的に、メタバースは小売業者やブランドに対して2つの機会をもたらすと考えています。一つには、メタバースがあらゆるブランドにとって、現実世界と同じように広告を出せる場であるということです。テレビ、ラジオ、屋外広告などのすべてがメタバースにも存在しています。よって、ブランドは既存のマーケティング素材をメタバースにそのまま移行し、すぐに広告を始めることができます。
もう一つは、小売事業者がメディアを3D化することで、顧客が購入する前に商品をより詳細に確認でき、体験できるようになることです。3D化はまだあまり普及していませんが、やがてブランドは、テレビ広告や屋外広告の2D展開だけでなく、製品の3Dスキャンによるイメージ展開も行えるようになるでしょう。製品を初めて立体的にレンダリングできるようになったことで、メタバースは、クリエイティブプロセスに新たなビジュアル言語をもたらします。これは、新しいクリエイティブの形成に貢献することになるでしょう。
NFTやNFTのメタバース上での興隆は、未来の小売に何らかの影響を及ぼすでしょうか?
NFTが注目されたのは、NFTがアートと結びつけられ、その作品が数百万ドルもの高値で取引されるようになったからです。メディアエージェンシー各社は、小売、一般消費財、自動車、旅行、金融などあらゆる業界のクライアントから、収益源となりうるNFTを今後のマーケティング活動に利用できないかとの問い合わせを受けています。そうできる可能性はあるものの、ブランドは過度に期待しすぎないことが肝要です──NFTがこれほど注目されている理由は、主にNFT化されたアート作品が驚くほどの高値で売買されているからなのです。
確かに、NFTの概念は、メタバース内で使用できる特定の仮想資産に保護されたステータスを与えるという点で、一定の意味があるのは事実です。ただし、ブランドが作り、生み出す資産なら何でもNFT化できるという考えは、おそらく見当違いです。ブランドがNFTのEコマース流通の恩恵を受けるには、メタバース内で使用でき、販売にも耐えるNFTを創造する必要があるでしょう。
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2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。