D2Cブランドがとるべき「はじめの一歩」とは―D2C市場の伝道師が語る、無駄をしない投資とは?![インタビュー]
コロナ禍にあっていまだにマーケットが伸び続けている成長領域の一つであるD2C市場。売れるネット広告社が2020年9月に実施した調査では、日本のD2C市場は2019年時点で2兆300億円であり、2025年には3兆円規模に達するとされている。
まだまだ新規参入が認められるこの市場、まずは何に投資すべきか。成功に近づくためのとるべき第一歩について、売れるネット広告社 代表取締役社長 CEO 加藤公一レオ氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
王道をやるとムダになる?!
―今市場で話題になっているD2Cのブランドは、どのような投資行動を進めていくべきでしょうか?
実はいま、D2Cを始めたいという会社はすごく増えてきております。D2Cを始めるにあたり、最低限必要なものというのがあるのですが、意外と皆さん間違ったやり方をしているようなので、そのあたりについてまずはお話します。
D2Cを始めようとする会社社長の9割以上が犯すミスというものがあります。簡単に言うと、「王道をやると無駄なコストがかかる」のです。皆が王道と思っていることが実は我々プロからすると邪道だったりするのです。
どのようなことかというと、「さあ、D2Cを始めよう」という話になり、皆がまずやってしまうのがショッピングカートシステムへの申し込みです。まず初めに、本店サイトのショップを作ってしまうのです。
D2Cブランドのスタートアップは、多くの場合最初に販売する商品は一つか二つ程度です。一方でショップというのは、カタログストアです。商品が一つか二つであるにもかかわらず、最初からカタログストアを作ろうとするのが、失敗の元凶です。
にもかかわらず、皆これをやってしまうのです。私が見る限りにおいては、全体の8割から9割がこのような失敗の道を通っており、まずカートシステムと契約をしてしまうのです。
最近では中小・個人向けに、ナントカカートといったようにいろいろな安価なサービスがあり、「簡単にショップを作れますよ」というような話になるのですが、これに対して皆夢を見て作ってしまうのです。
そして、ようやくショップが出来上がったものの、そこに並べられるのは1、2商品しかないという状態。これはリアル店舗に置き換えると、例えばデパートの洋服売り場に来てみたら、ジーンズが一本しか置いていなかった・・というような状態です。
ショップ開店後、どうなるかというと、売上 がゼロのまま続くという、そのような状況を私は何十回と目にしてきました。1日たっても、1週間たっても売上がゼロ。2か月たっても売上はほぼゼロ。友達が買ってくれるくらいです。
なぜ皆そのような行動に走るのか。その一番の理由が何かというと、ショップを運営すれば、皆SEOやSNSなどでお客さんが来ると思っているからです。
ですが実際のところ、一般のお客さんからすると、このショップにたどり着くには砂漠の中で米粒を探すようなもの。これだけ広いインターネットで、仮に今化粧品ショップを立ち上げても、開設後1か月でGoogleの関連ワードでの検索結果1ページ目に掲載されるということは、ほぼ100%あり得ません。検索結果で引っ掛かったとしても、いうなれば、56ページ目あたりでしょう。それが現実なのです。このことに皆さん気づかない。
ですが若手経営者などは「でも、SNSがあるじゃないですか!」というわけです。ただしはっきり言いましょう。大手ブランドには多くのフォローが付きます。ですが申し訳ないことですが、ブランド力がない、始めたばかりの普通の通販会社は誰にもフォローされることはありません。
そこで皆さん焦り始めて、広告の本を読んでネット広告の出稿を始めるわけです。ですが、ネット広告の誘導先がショップであると、コンバージョン率が低い。すなわち買ってもらいにくいのです。なぜなら、どのショップに行っても押しなべて、同じような商品が並んでいて、同じような文章があって、その横にカートボタンがある。
通常このようなショップは、お客さん自らが検索をしてたどり着いた場合には、カタログショップであってもいいのです。ですがネット広告から誘導されたお客さんというのは瞬発的に誘導されているので、ショップなんかに誘導しても、商品を買うことはほとんどありません。
失敗をしてまた勉強をして「ネット広告でやるのならランディングページがある。」ということを、特に素人のD2C企業は初めて知るのです。そして早速作り始めます。作り始めるのはいいことなのですが、結局ランディングページから申し込みをすると、カートシステムに飛んでしまう。
一般的に、ランディングページで申し込みボタンを押したユーザーをショッピングカートに誘導すると、申し込み完了までの画面遷移が多いため、 全体の7割くらいが離脱するといわれています。これではバケツの底に穴が開いているにもかかわらず水を流すようなものです。
私は常々「ランディングページとカートシステムとの相性は最悪です」とセミナーや書籍で言い続けてきました。
結局のところ、当社が提供する「売れるネット広告つくーる」 のような、申し込みフォーム一体型のランディングページを用意するということが、最も大切です。
必要なのは、フォーム一体型ランディングページとネット広告のみ
皆さん王道は、ショップを使うことだと思っています。これは大間違いです。私は最近注目を集めている北の達人コーポレーションやランクアップ、青汁王子の会社などをサポートしてきました。
彼らのやり方はすごくシンプルです。ネット通販のD2Cスタートアップは、結論として、最初はショップなんかはいらない。カートもいらない。そして今どきSEOやSEMで集客できるわけがない。スタートアップの会社に必要なのは、フォーム一体型のランディングページとネット広告の投資のみ。あとはあえて言うならば、基幹システムと決済機能のみです。
結局のところ、初心者はECを始めようといったとき、楽天やAmazonのようなモールに出店しようか、もしくはショッピングカートなどを導入してショップを作ろうか、という二つの発想しかありません。ですが例えば年間130億円の売上を達成した青汁王子が何をしたかというと、D2Cを始めるときにショップを作ることはせず、まずはフルーツ青汁の、フォーム一体型のランディングページを作って、あとはネット広告に投資をしたのです。
そしてフルーツ青汁だけで数十億の売上を作り、その後2つ目の商品を作り、これもランディングページを作りました。そしてここでまた数十億円の広告投資をして売上を上げ、また新しい商品を作り、ランディングページを作り広告投資をする、ということを繰り返しました。
このようにして、自社で提供する商品が10個くらいになりはじめて青汁王子は本店のECサイトを作ったのです。D2Cブランドがショップを開設するときは、まずはいわばインターネット上の露店にあたるランディングページ から始める、これが基本です。
―ネット広告への投資については、何から始めるべきでしょうか?
まずはリスティング広告とアフィリエイト広告、この二つです。リスティング広告は知識がなくても簡単に始めることができますし、大変効率が良い媒体です。また、成果報酬型広告であるアフィリエイト広告は、リスクがありません。そして、売上が大きくなってきた段階で、もう少し手法を広げていきます。GDNやYDNのようなアドネットワークや、Facebook広告やInstagram広告などに出稿していきます。
そこからさらに儲かってきたら、Yahoo!JAPANのトップページなどの純広告や、新聞やテレビなどに出稿して、ビジネスを広げていくことになります。
繰り返しになりますが、D2Cビジネスを始める段階で必要なのはランディングページとネット広告の二つのみ。それ以外の投資は不要です。
―ネット広告は、売上に対してどのくらいの割合まで投資するのでしょうか?
会社にもよりますが、大体売上の20%程度が一般的な水準といわれています。これは広告採算性といわれております。
ただし、九州の強気なD2Cブランドのなかには30%くらいまで投資するケースも見られます。逆に弱気な経営者の場合は大体10%程度です。
今D2Cブランドで儲かっているところのほとんどはリピート通販、いわゆるサブスクリプションモデルです。この場合広告での一人当たりの獲得単価は、商品単価の2.5倍に設定されますが、平均して一人のお客様が5~6回継続するため、 最終的には平均すると収益 は商品単価の6倍くらいになるのです。
―広告以外の投資はほとんどしていないのでしょうか?
最低限必要なものとしては、コールセンターや決済、物流サービス、そして基幹システムがあります。
このように様々ありますが、D2Cにとって広告は一番の投資領域なのです。
世の中のネット通販における一番の課題は、新規獲得であるということを、あらゆる調査データが物語っています。D2Cにとって広告は唯一の営業マンです。
広告を打たなければ人が来ないです。ここに一番の投資をするのが、D2Cのビジネスなのです。
―TikTokやInstagramなどのSNSが、D2Cビジネスと結びつけて脚光を浴びていますが、加藤さんはどのように見ておられますか?
多くの場合、TikTokやInstagramでユーザーの自然流入を増やしているのではなく、広告を出稿したり、アフィリエイトをやっているということです。
リスティング広告の次の手法として、SNSに広告を出稿しているのです。また、アフィリエイターに広告宣伝を依頼すると、フォロワーが数十万人いるようなアフィリエイターの場合、TikTokやInstagramでこれを自分のファンに紹介します。そうすると自分のファンが購入してくれるのです。
その意味で行くと、TikTokやInstagramで上がっているような通販商品は、おそらくそのほとんどの場合、アフィリエイターが関わっていると考えてもよいでしょう。自然発生的にバズるような商品というのは、私は見たことがありません。
※「申込フォーム一体型」は特許庁商標登録済み商標です。登録商標第6041909号
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。