サイバーエージェントがみる、2022年の動画広告市場4つのトレンド[インタビュー]
サイバーエージェントは、今回で8回目となる2021年国内動画広告の市場調査を公表した。
同社がみる動画広告市場のトレンドについて、インターネット広告事業本部 統括 羽片一人氏に、お話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
動画広告市場、4つのトレンド
-動画広告市場のトレンドについてお聞かせください。
動画広告市場は、2020年に続き2021年も大きく成長しました。大きなトレンドは2020年の時点と変わりません。昨年同じ時期のインタビューでお話した中長期のトレンドに向けて、まさに今進みつつあります。
そのようななかで、具体的なトピックスは大きく4つ挙げることが出来ます。
1つ目は、コネクテッドテレビです。コロナ禍を経てコネクテッドテレビからの動画視聴が大きく増加しました。大手動画広告媒体は、既にテレビデバイスから視聴がPCからの視聴を上回っています。現在各サービスは、リビングルームのユーザーの視聴をいかに獲得するかという競争を繰り広げています。
放送局によるTVerでの同時配信も始まり、今後ますます魅力的なコンテンツが動画配信サービスに流れてくることにも期待が寄せられます。
2つ目は、YouTubeを始め大手SNSがコマース機能を実装する動きをいよいよ本格化させてきており、欧米市場での先行テストを終えて、日本での提供も開始する流れに向かっているようです。大手プラットフォーム各社は現在ライブコマースを普及させるための環境の整備を行っており、近いうちに日本でも普及が始まるはずです。
Instagramでは既に多くの売上を得るD2Cブランドも現れています。今後日本でも、チェックアウト機能(決済機能)がリリースされれば、Instagram上では更にモノが売れるようになるであろうと期待しています。
YouTubeやInstagramを代表とする、動画広告の配信先である大手プラットフォームが、商品認知から獲得までのフルファネルに対応するようになったことは、マーケターにとって非常に意義のあることです。
そして3つ目は、企業による動画コンテンツ制作への投資です。
現在企業によるYouTubeチャンネルの活用が増えつつあります。トヨタ自動車の「トヨタイムズ」や、北欧、暮らしの道具店の取り組みなどが先進的な事例として注目されています。今、企業は情報を発信していく必要があることが増え続けています。例えば、SDGSの文脈で情報発信をする際などに、YouTubeを活用して情報発信をしていくような取り組みは、今後増えていくでしょう。
本田技研工業も「Hondaハート」というチャンネルを開設し、YouTube向けの動画番組を制作し、配信をしています。企業が動画コンテンツに投資するという流れが進んでいます。
4つ目はショート動画です。ショート動画は、今後の動画広告の新しいトレンドを形成していく要素の一つになるでしょう。
TikTokはユーザー数が増加を続けており、ユーザー層もこれまでの若年層からより広い年齢層へと広がりがみられます。Instagramはリールをリリース後、広告活用も開始しました。また、YouTubeでは今年YouTubeショートの提供が始まりました。
各動画プラットフォームはクリエイターの活躍の幅も広げているようです。YouTube、Instagramといった単体のプラットフォームに依存するのではなく、複数のメディアにそのメディアにあったコンテンツを投稿する動きが定着しています。YouTubeとTwitterとの連携はもとより、TikTokでショート動画を流して、YouTubeで長尺の動画を見てもらう、というような連携をする動きもみられます。
-コロナ禍も2年目に入りましたが、同じコロナ禍でも1年目と比べたときに何か異なることはありますか?
コロナをきっかけに動画コンテンツの視聴をし始めたユーザーは、2年を経て動画コンテンツの視聴習慣が根付いてきました。コロナが落ち着いても各メディアのPVや視聴時間が下がったということはありません。ユーザーは生活の中に動画を視聴するという行動を取り込んでいるのでしょう。
より磨かれたクリエイティブへ
-動画広告についての課題があればお聞かせください。
それぞれのプラットフォームに合ったクリエイティブを作っていく必要があるということが挙げられます。コンテンツへの触れ方が異なるからです。
今までは作成した動画を全プラットフォームに配信していることが多かったのですが、各プラットフォームに適した動画を求められるようになっています。この考え方で実施したプロモーションは広告効果が高い結果も多く出てきています。
例えばYouTubeでは動画が倍速で見られることも多く、これを前提として、ある程度テンポが速いクリエイティブ展開にする。TikToKは、縦型であることはもとより、表現として少し派手な要素を入れてみるというような発想などは、これから出てくるでしょう。TikTokを見ているとそういうコンテンツが好まれていることがわかります。
このように、各広告プラットフォームの生態系に合わせてクリエイティブを作っていくということは、撮影のときに対応していくのか、当社のようにデジタルツインのような技術的なアプローチをしていくのかというような、様々な方法があると思っています。
-これからの貴社の注力領域をお聞かせください
引き続き動画広告の市場をリードする立場で、新しい取り組みをしてまいります。特にクリエイティブの領域については、より注力をして取り組んでいきたいと考えています。当社が強みとする運用力を、動画領域においても活かしていくような取り組みを進めてまいります。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。