「Cookieに依存しないマーケティングデータ基盤構築を」-新生CCIが語るCookieless時代のデジタルマーケティング戦略
来るべきクッキーレス時代には、GAFAを始めとする大手プラットフォーマーの存在感がさらに増すとの憶測が囁かれている。プラットフォーマーは今、どんな戦略を描いているのだろうか。今年7月に発足したばかりのCARTA COMMUNICATIONS(CCI、サイバー・コミュニケーションズより事業承継)に、Facebook広告におけるCookieless対応の現状について話を聞いた。(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)
Cookielessの影響が顕在化
―自己紹介をお願いします。
後藤氏:当社のメディアソリューション・ディビジョンにおけるソーシャルメディアマーケティングチームのマネージャーを務める後藤駿弥と申します。FacebookやTwitterなどのSNS広告の運用コンサルティングや、CCI Social AdTrimというブランドでSNSオーガニックアカウント運用の支援などを行っております。直近では、Facebook社が発表した「FacebookコンバージョンAPI」の導入支援に力を注いでいます。
渡邉氏:データマーケティングチームに所属する渡邉理紗子です。クッキーレス対応に特化したデータマーケティングサービスである「Data Dig(データ・ディグ)」を運営しています。その中のサービスの一つとして、「FacebookコンバージョンAPI」の導入支援を行っています。
―「FacebookコンバージョンAPI」の導入支援を開始した経緯をお聞かせください。
後藤氏:EU一般データ保護規則(GDPR)、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)、Apple社が発表したアプリのトラッキングの透明性(ATT)といった一連のデータ取得制限措置による影響が顕在化し始めています。
とりわけCookieを用いないデータ計測の必要性が高まっている中で、各関連事業者が次々とクッキーレスソリューションを打ち出しています。当社としては、事業規模や領域に関わらず、様々な広告主に広く利用されているFacebook広告への対応を優先的に進めたいとの考えから、「FacebookコンバージョンAPI」の導入支援を開始した次第です。
―「一連のデータ取得制限措置」によって、どのような影響が出ているのでしょうか。
渡邉氏:iOS端末へのサイトトラッキング抑止機能であるITP(Intelligent Tracking Prevention)によって、2020年ごろから広告効果の測定が徐々に行いにくくなっています。
資料提供: CCI
従来は計測用タグを活用することで、Facebook上に掲載した広告の遷移先でコンバージョンしたユーザーの数などを把握し、Facebook広告の効果を測ることができていました。しかしながら、Cookieの保持期間が短縮されるなどした結果、場合によっては広告閲覧してから24時間以上経過した後にコンバージョンしたユーザーを「Facebook広告接触後にコンバージョンしたユーザー」としては計測できなくなるなどの事態が発生しています。
こうした変化は徐々に起きているので、大半の広告主は「気付いたら計測値が少しずつ減少しているな」といった印象を抱いているのではないでしょうか。またGoogleもChromeでのCookie制限を2023年半ばから段階的に廃止する見込みと発表しているので、計測環境は今後ますます厳しくなることが想定されます。
後藤氏:それだけが直接的な要因とは限りませんが、こういったデータ取得制限の適用前と比較して、CPAが1.5倍になったという事例も報告されています。様々な要因が考えられますが、従来なら「コンバージョンしたユーザー」として識別されるべきユーザーが識別されておらず、計測上のCPAが高騰している可能性が高いです。
―「FacebookコンバージョンAPI」が打開策となるのでしょうか。
後藤氏:コンバージョンAPIは、Facebook広告において、従来通りのコンバージョン計測を可能とするためのソリューションの1つです。従来の計測用タグとの併用によって、計測の正確性を高めることが可能となります。
またFacebook広告は、コンバージョン数が増えるほど機械学習が進み、ターゲティング精度が向上する仕組みとなっています。コンバージョンしたユーザーを正しく識別する体制を整備すれば、パフォーマンスの最大化にもつながります。
どのようにCookieless時代に適応するか
―FacebookコンバージョンAPIは各企業が自社で実装できないのでしょうか。
渡邉氏:従来はピクセルタグと呼ばれる計測用タグを、Facebookの広告管理画面から出力して自社のページに貼るだけで良かったのですが、「FacebookコンバージョンAPI」ではサーバーなどにデータを一回置いた後、APIを通じて直接Facebookの管理画面に流し込むことが必要となり、サーバー構築やプログラミングといった作業が発生します。然るべきエンジニアリソースや専門知識も必要となることから、広告主が自社で実装するにはハードルが高いと考えられます。
こういった状況を踏まえ、エンジニアリソースおよび専門知識を有するCCIがFacebookコンバージョンAPIの導入を支援すべきと考えた次第です。
―「FacebookコンバージョンAPI」はFacebookでしか利用できません。トラッキング制限はFacebookのみに適用されているわけではないと思いますが、その他の媒体の計測はどうするのでしょうか。
渡邉氏:GAFAと総称されるいわゆるメガプラットフォーム各社が同様の対応を打ち出しており、例えばGoogleは「Google Enhanced Conversion API」を用意しています。当社は近日中にこのAPIの導入支援サービスの提供も開始する予定です。
―Cookielessソリューションとしては、共通IDも注目を集めています。
渡邉氏:共通IDは、ソリューションを導入する媒体社および広告主が自ら保有するユーザデータを提供することによって成立する枠組みとなり、自身でユーザデータを保持していないアドネットワークやDSPといった配信プラットフォームが共通IDやブラウザベンダが提供する代替手段(Appleが提供するPrivate Click MeasurementやGoogleが提供するPrivacy Sandboxが該当)を採用する流れとなっています。
しかしながら、GAFAに代表されるメガプラットフォームが保持するユーザデータと肩を並べる規模になるには相当な時間を要すると思われますので、Cookieless時代においては、既に大規模なユーザデータを保有しているメガプラットフォームに有利に働き、広告投資もより集中していくことが予想されます。
―各社でコンバージョン計測基準が異なります。各社APIをつないだ後、広告主はどのように一律評価を行うのでしょうか。
渡邉氏:自社でデータ基盤を構築することがこれまで以上に重要になります。プライバシーを遵守した上で、プラットフォーム側と自社の間で安全かつ安心にデータを行き交いさせる「データクリーンルーム」を活用し、自身が保有するファーストパーティーデータを軸に同一基準で広告効果検証を行うことができる環境を整備しなければなりません。
また、ファーストパーティーデータに加え、テレビ視聴データや購買データといったセカンドパーティーデータも組み合わせ、デジタル広告とテレビCMの重複効果や購買検証といったオンオフ統合の効果検証もスコープに入ってくると考えています。
自社データ基盤を構築すべき企業とは
―自社データ基盤を構築できるほどの事業規模を持つ企業は限定されるのではないかと想像します。
渡邉氏:たとえ事業規模が小さくても、会員基盤を保有していれば、自社データ基盤を構築する意義は大きいです。例えば、金融、保険、自動車、EC領域など、コンバージョンデータに基づくマーケティング活動を展開している広告主は特にその必要性を痛感していると思います。
当社としては、各社のコンバージョンAPI導入支援をあくまでも一つのきっかけとして、長期的な視点に基づいた自社データ基盤の構築も支援してまいります。その上で、データに知見があるチームと広告運用のスペシャリストの双方をそろえた当社の体制は大きな強みになると考えています。
―ただやはりデータ基盤の構築と聞くとその費用が課題となるような気がします。事業規模が小さい企業は手が届かないのではないでしょうか。
後藤氏:ご指摘の通り、企業個別にマッチするデータ基盤を構築するためには、多大な予算や期間を要し、それらが課題となって取り組みそのものが遅れ、あるいは先送りされているケースが散見されます。
このような課題を解決するため、CCIでは、各企業の課題に合わせたクラウドベースのマーケティングシステム提供に加え、導入前のコンサルティングから既存システムとのインテグレーション、更には稼働後の運用までを含め、ワンストップでサポートする体制を整えています。
これにより、データ基盤構築の期間短縮やコスト削減を実現し、さらに、企業の課題に合わせたデータ活用方針の策定、関連システムの企画・設計、運用サポートを行うことで、企業のビジネス拡大に貢献していきたいと考えています。
加えて先に申し上げた通り、Facebook広告は、コンバージョン数が増えるほどターゲティング精度が向上する特徴を持っています。そうした点を踏まえれば、自社データ基盤を構築する意義は非常に大きいと考えます。
なお現時点では、特定の条件下においてコンバージョン欠損が発生する可能性はあるものの、プラットフォーム側の技術的な対応のおかげもあり、全く計測できない状況ではありません。そのため、このタイミングではまだコンバージョンAPI連携を含めたデータ環境の整備に踏み出さない企業が多い、というのも実態です。
しかしながら、コンバージョン計測は今後ますます難しくなり、ChromeでのCookie制限が強化される2023年を境に大きな環境変化が起きることが確実視されています。当社としては今からしっかりと準備を進めることで、来るべきCookieless時代に対応したデジタルマーケティングを支援していきたいと考えています。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。