レコメンド事業者と競合しない?―Outbrainが語るCookieless時代の競争戦略
レコメンドウィジェット創世期に日本市場への進出を果たしたOutbrain。彼らが先導したレコメンド市場は今、コロナ禍、Cookie制限、薬機法改正など様々な事象の影響を受けている。今後の競争戦略について、昨年10月に日本法人のマネージング・ディレクターに就任したばかりの上野正博氏に聞いた。(聞き手:ExchangeWire Japan 長野雅俊)
グローバル展開に強み
―自己紹介をお願いします。
Outbrain Japan 株式会社マネージング・ディレクターの上野正博と申します。株式会社リクルートを経て、ダブルクリック株式会社の代表取締役社長、トランスコスモス株式会社の常務取締役、オーバーチュア株式会社の代表取締役社長、CRITEO株式会社の代表取締役、BuzzFeed Japan株式会社の代表取締役社長などを務めてきました。2020年10月より現職に就いています。
―改めて事業概要をお聞かせください。
レコメンド事業者は多数いますが、「お勧めの記事や広告をレコメンドする機能を提供する」という点においてはすべて共通しています。その中で、各社がレコメンドの精度を競い合っている状況です。
当社の一番の特徴は、やはりグローバル展開を行っていることでしょう。日本の媒体社様が持つ広告配信面に対して海外の広告予算を引っ張ってきたり、日本の広告主様が海外で広告展開する際にそのノウハウを提供できることに強みがあります。
また日本の媒体社様がサイトリニューアルを検討する際に、成功事例についてお話しいただけそうな当社の海外取引先をご紹介するといった支援も行っています。
さらに日本では、2017年にOutbrain本社が買収したDSP事業者であるZemantaも展開されています。
―現在のレコメンド広告市場をどのように捉えていますか。
コンテンツ制作を生業とする媒体社様だけでなく、ブランド広告主様が運営するオウンドメディアとの取引が徐々に増えてきました。またかつてのように、レコメンド広告枠は必ずしも記事下に設置されるものばかりではありません。当社ではアウトストリーム動画広告フォーマットやSNS仕様に対応した「Native Awareness+」という広告プロダクトを既にリリースしています。レコメンド広告が意味するものは、拡大してきていると実感しています。
ちなみに当社はこれまでミドルファネルを得意領域としてきました。つまり、魅力的なストーリーと詳細な商品内容を記した記事広告をレコメンドし、その後はリターゲティングを経て資料請求に至るといった流れを作ることに貢献してきたという自負があります。動画広告を扱うことで、アッパーファネルも網羅できるようになるはずです。
やせ我慢がついに実った
―レコメンド広告業界ではいわゆる「汚い広告」が問題視されています。
当社では、日本の広告主様から入稿いただいた広告クリエイティブはすべて相当な手間とコストをかけて事前審査しています。加えて、薬機法審査に関しては本分野を専門とする第三者機関に審査を委託。DSP経由でプログラマティック取引を通じて入ってくる広告は事前審査を行うことができないので、事後審査で対応しています。
当社が運営するアドネットワークには大手新聞社様が多数含まれており、審査を厳格化してほしいとの要望を以前から受けていたこともあって、このような体制を整備しました。他のレコメンド事業者が「汚い広告」を出して売上を上げている中で、当社はある意味でやせ我慢を続けながら、厳しい広告審査基準を守ってきたのです。
最近になって薬機法が改正されたことを受けて、「汚い広告」の制限が強化された結果、売上を大きく減らした事業者がいるという話も耳に入っていますが、かねてから厳格な広告審査基準を遵守してきた当社の姿勢が評価される環境がようやく整ったと感じています。
―コロナ禍の影響についてはいかがですか。
2020年3月から6月にかけては、恐らく自宅に留まる人が増えたことを受けて、各媒体社様のPVが劇的に伸びました。そして同年7月以降からPVの伸びは徐々に落ち着いてきたという印象です。
ただし、紙媒体を持たない、ウェブ特化型メディアのPVは今でも伸び続けいます。今後の人流動向に応じて、こうしたウェブ特化型メディアのPVがいかに推移していくかについては注目しています。
広告主様側の動向については、2020年4月から9月にかけてとりわけブランド広告主様の間で出稿控えが顕著でした。一方でこの時期からネット企業が積極的な広告投資を開始し、現在に至るまでその勢いは落ちていません。
ただ例えば自動車業界では半導体不足のために受注生産が追い付かないといった現象が起きています。コロナ禍の影響は様々であり、今後の動向については注意深く見守る必要があるでしょう。
Cookie規制には豊富なマクロデータで対応
―Cookie規制が強化されると、貴社のようにコンテクスチュアルターゲティング技術を有する事業者に有利に働くのでしょうか。
当社を含めて、レコメンド事業者がユーザーの把握及びターゲティングに用いるデータは主に2種類あります。一つは、統計的に「Aという記事が読まれた後にはBという記事が読まれやすい」または「直近24時間で一番読まれていたのはCという記事」といったことを示すマクロデータ。もう一つは、ある特定のユーザーが「Aという記事を読んだ後にBという記事を読んだ」または「午前中は政治・経済ニュースを読むが午後はスポーツや芸能ニュースを読む傾向にある」ことを示すデータです。
前者はいわゆるコンテクスチュアルターゲティングに相当するものですが、後者にはCookieが広く利用されています。つまり、Cookieが仮に全く使えなくなるとすれば、レコメンド事業者であっても特定のユーザーの行動把握は難しくなります。
ただCookieもIDFAも既に一定の制限が課され始めていますが、当社の売上が落ちたり、もしくは広告主様から広告効果が悪くなったとのお声は寄せられていません。それだけマクロデータが機能しているということなのだと思います。
―Taboolaとの経営統合が破談となりました。
もし実現していれば、世界の主要媒体社の大半がTaboola/Outbrainのネットワークに入るはずでした。ただ結果的に経営統合は実現せず、それぞれ上場することを選択。過去1年間で両社ともに上場の準備で忙しかったというのが実状かと思います。
今後は上場を通じて得た資金をどのような分野に投資していくかで、両社が互いに差別化を図ることになるでしょう。当社としては、新規テクノロジーの開発や取得に加えて、未開拓の国や市場への進出を検討していく予定です。
―顧客層に変化はありますか。
まず広告主様に関して言うと、日本市場においてはこれまで総合広告会社を通じたブランド広告主様とのお取引が多くありました。ただ近年ではネット専業広告会社を通じたダイレクトレスポンス案件の比率が徐々に伸びています。一例として、アパレル系や高級酒などの商材が該当します。当社のアドネットワークには大手新聞社様が多く含まれているので、可処分所得が高いユーザーが多く、こうした商材との相性が良いと考えています。
また広告配信面の開拓も引き続き行っています。既にレコメンド機能は市場に浸透しているため、新たに提携となると、新規媒体へのアプローチかリプレイス誘導が主となります。
媒体社支援が事業の柱
―どのような競合環境にいると認識していますか。
正直なところ、他のレコメンド事業者と競合しているという意識はあまり持っていません。アドネットワークを構築する上では広告配信面の奪い合いをしているとは言えますが、広告予算の取り合いという意味では、むしろGoogleやFacebookを始めとするいわゆるウォールドガーデンとの競合になります。
こうした大手プラットフォームに対しては膨大な広告予算が投じられるので、広告会社は専任担当を設けます。すると広告運用に関する具体的なノウハウが蓄積されて、さらにこれら大手プラットフォームへの広告投資が促進されるという好循環が生まれます。
一方で当社のように専任担当者を設置してもらうことができない場合は、自社技術及びユーザーの特徴をその都度丁寧に説明することが求められます。成功事例を積み重ねていくことで、当社技術に関する理解を一層広げていかなければなりません。
―今後の展望についてお聞かせください。
皆様が日ごろ目にしている記事、映像、漫画といったコンテンツを生み出しているのはオープンウェブ領域にいる媒体社です。媒体社が存在しなければ、大手プラットフォーム上でこれらのコンテンツを楽しむこともできなくなります。だからこそ、当社は事業目的の柱に媒体社支援を据えています。
そもそも広告配信面がなければ、広告主が出稿できません。媒体社支援を一層強化しながら、今後もブランド広告主が安心して出稿できるような広告配信面を整備していきたいと考えています。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。