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アドフラウドのグローバル最新動向とその対策

今、デジタルマーケティング業界では、Cookieレス時代への試練と苦難に注目が集まっているが、アドフラウドという負の側面も未だに潜んでいる。本記事では、ExchangeWireが6人の業界専門家を取材し、この1年半でアドフラウドはどのように巧妙化してきたか、また今後それをどのように阻止できるかを分析してもらった。

 

 

 

協調的行動が必要

アドフラウドはしばしば「ビジネス遂行上のコスト」として語られる。しかし2023年までに1000億ドル(約11兆円)規模に達すると予測されるフラウドのレベルは、他の業界では容認されるものではない。アドフラウドに対する業界の苦戦は、悪意あるスキームが常に進化し、資金の流れを追う能力を常に高めているという事実に起因するのかもしれない。CTV(コネクテッドTV)のような新興メディアプラットフォームやチャネルの売上が大幅に増加すれば、そこを狙うフラウドが増加する可能性が高くなる。

また、インセンティブの問題もある。たとえ業界関係者が道徳的な観点からフラウドに反対していても、自社プラットフォームから不正行為を根絶すると、短期的な売上に悪影響を及ぼしかねない場合、不正の根絶という行動が自社にとって、長期的には有益なのだという信念が必要だ。

現在進行中の反トラスト法訴訟やEU一般データ保護規則(GDPR)、カリフォルニア消費者プライバシー法(CCPA)、Cookieレス広告をめぐる不確実性などは、私たちの業界に対する社会の不信感を示している。業界が正常に機能するうえで不可欠となる信頼が傷ついている今、業界に関わるプレイヤーは、デジタルメディアからアドフラウドを根絶するための積極的な協調的行動を取らなければならないだろう。これは、トレーサビリティ、透明性、コントロールのために求められている変化と同様、デジタル広告エコシステム内の全関係者から信頼を取り戻すために必要なステップだ。この関係者には、パブリッシャー、広告主、プラットフォームだけでなく、当然、エンドユーザーや規制当局も含まれる。

スマート・アドサーバー(Smart AdServer) 分析・品質・カスタマーサクセス担当SVP、ジャン・クリストフ・ピューベ(Jean-Christophe Peube)氏

 

CTVフラウドとの戦い

CTVのエコシステムでは、この1年不正行為が多発している。私たちは常々、詐欺師らは資金の流れを追うと言っているが、CTVはCPMが高く、広告業界から分け前を奪おうともくろむ者にとっては格好の標的だ。ヒューマン(HUMAN)のサトリ・スレット・インテリジェンス・アンド・リサーチ・チーム(Satori Threat Intelligence and Research Team)は、2020年、これまでで最大のCTVボットネット「ICEBUCKET」に関する調査結果を発表した。ICEBUCKETのボットはピーク時、30カ国以上で200万人超になりすましていた。

このボットオペレーションは、その規模だけでなく、CTVエコシステムの隙をついて広告主を欺いたという点でも斬新だった。

私たちは最近、さらに巧妙化したCTVボットネットのオペレーション「PARETO」を阻止した。PARETOは100万台近いAndroid端末に感染し、あたかも数百万人がスマートTVデバイスで広告を見ているように装った。ヒューマンのアドバタイジング・インテグリティ・ソリューションが確認しただけで、PARETO関連のトラフィックは1日平均6億5000万件の入札リクエストを占めていた。29のAndroidアプリが6000以上のCTVアプリを偽装した結果だ。私たちはGoogle、ロク(Roku)、ヒューマン・コレクティブと連携し、PARETOの活動を止めることに成功した。最終的にPARETOを阻止することができたのは、そうした業界を超えた協力のおかげだ。

PARETOの件は、集団防御の効果が実証された一例にすぎない。だからこそ、私たちはすべてのプラットフォームでアドフラウドを根絶するため、業界規模の団体であるヒューマン・コレクティブを設立した。力を合わせ、知識を共有し、ビジネスとテクノロジー両方のベストプラクティスを活用し、攻撃に対する戦略を練ることで、私たちは皆を守ることができる。

ヒューマン 世界戦略パートナーシップ、アライアンス担当VP、エリー・ウィンドル(Ellie Windle)氏

 

急を要する問題

アドフラウドのような問題は、業界を挙げてのアプローチが必要になる。皆で力を合わせることで、はるかに多くのことを成し遂げることができる。だからこそ3年前、業界とその顧客を守るため、私たちはIAB UKのゴールドスタンダードに署名したのだ。このような取り組みは長期的な前進の一部を成すものであり、これにより私たちはサステナブルなデジタル広告業界の強固な基盤を構築することができる。

 

パンデミックとそれに伴うライフスタイルの変化によって、新しいチャネルが絶えず登場し、約5年分のデジタル変革がわずか12カ月で実現された。だからこそ私たちは、他の業界の人々にも喫緊の課題として関わってほしいと考えている。この業界に限らず、誰にとっても栄光の上に安住できる状況ではないのだから。

デジタル広告体験を向上させ、ブランドセーフティを確保し、アドフラウドに対処することは、私たち全員の責任だ。個々の業界関係者やソリューションが独力でアドフラウドに対処することはできない。デジタル広告業界が健全さと成功を保つには、アドフラウドの根絶がカギであり、それが皆の利益につながるのだ。

不正行為は広告のバリューチェーン全体に悪影響を及ぼすだろう。予算が無駄になり、キャンペーンの効果について誤った印象を与え、ビジネスモデルが傷つき、ブランドの評判が損なわれる。これらのリスクを最小限に抑えるためにも、私たちは一致団結しなければならないのだ。

多くのテクノロジー企業が、AIの活用などによって、積極的にエコシステム内のフラウドを検知し、排除しようとしているが、まだ問題は解決できていない。

tmwi グループコマーシャルディレクター、サイモン・バーンズ(Simon Barnes)氏

 

資金の流れを追う

CTV視聴の成長は恐ろしいほどだ。私たちの独自調査では、全世界の消費者の44%で、パンデミック前よりCTVデバイスの使用時間が増えている。残念ながら、フラウドは資金の流れを追うものであり、悪意ある者にとってCTVが魅力的なプラットフォームであることは疑うまでもない。2020年だけでも、CTVの不正なインプレッションは、前年比220%増加しており、この傾向がすぐに収まることはないだろう。

事実、ダブルベリファイ(DoubleVerify)の「フラウド・ラボ」は最近、「スニーキーテラ(SneakyTerra)」を発見した。これは、実際のCTVデバイスのセッションを乗っ取ることで知られ、初めてサーバーサイド広告挿入(SSAI)を狙ったスキームだ。スニーキーテラはピーク時、1日当たり200万台のデバイスを偽装していた。CTVの平均CPMを20ドルとした場合、保護されていない広告主に対しては、1カ月に500万ドル以上の損害を与えていたことになる。

CTVのアドフラウドに対処するには、業界がCTVエコシステムへの信頼を高める必要がある。そのためには、不正なトラフィックの検知と保護を継続し、CTVインプレッションの測定方法の水準を引き上げ、フラウドを防ぐ能力を持っていると実証されたプラットフォームを認定すべきだ。そして最後に、キャンペーンレポートの透明性を高め、バイヤーがすべての主要CTVデバイスで、キャンペーンが行われている場所を正確に把握できるようにしなければならない。詐欺師らの手口が巧妙になればなるほど、業界はより集中してフラウドを防御する必要があるため、これらすべてが非常に重要になるだろう。

ダブルベリファイ 北欧担当VP、ニック・リード(Nick Reid)氏

 

最善を尽くす

アドフラウドに関して言えば、業界はいまだに、強硬姿勢を取る者とそうでない者に分かれているように感じる。それでもアドフラウドは、評判の毀損、金銭的損害、プライバシー問題など、いくつもの深刻な問題を引き起こす可能性があるため、ますます多くのブランドや広告主、エージェンシーが身を乗り出し、強い関心を示し始めている。

 

ブランドとパブリッシャーがアドフラウドとの戦いに備えるには、信頼できる認定を受けたパートナーと連携することや、内部および第三者とのあいだで業務体制を明確にしておくことなど、多くの対策が存在する。ガイドラインや認定基準は、絶えず進化するアドフラウドの状況に対応するため、目まぐるしく変化しているので、ブランドやパブリッシャーおよびその顧客は、すべての人が最新状況を把握してポリシーに沿って行動できるよう、社内で定期的な教育を実施する必要がある。

特にパブリッシャーは、ボットや不正クリック、非推奨の広告等を検知するため、対策を講じるべきだ。また、英国とアイルランドでウェブスタンダードを策定する業界横断組織JICWEBSなどが提供する認定プログラムは、広告主やエージェンシーに対し、パブリッシャー自身が業界標準を満たしていることを証明するのに有用だ。

近年は視聴習慣が変化し、ストリーミングによる番組視聴とモバイルデバイスの利用時間が増加している。テクノロジーはそうした状況に適応し、アドフラウドに対抗する新たな方法を見つけなければならない。前述の通り、ストリーミングの増加がもたらす脅威は重大だ。

多くの業界団体がアドフラウドを防ぐための技術を開発している。例えば、「IVT(無効なトラフィック:別名ノンヒューマントラフィック)」の検知機能は、悪意を持った、人間以外のインターネットトラフィックをあぶり出し、排除することができる。モバイルの利用が拡大の一途をたどり、不正行為の手口がますます巧妙になっている今、アドフラウドとの戦いにおいて最善を尽くすため、このような方法を可能な限り業界全体で採用すべきだ。

イーベイ(eBay)英国法人 広告担当ゼネラルマネージャー、ハーモニー・マーフィー(Harmony Murphy)氏

 

言い訳は通用しない

業界にとって、アドフラウドは依然として重要な問題だが、マーケターは、従来の広告チャネルの多くと比べて、大幅にリスクが低い新たな技術、フォーマット、規律の力に気づき始めている。例えば、パートナーシップマーケティング( Partnership marketing)では、不正行為が発生したときに検知するよう特別に設計されたデータサイエンスとAIシステムを組み込んだテクノロジープラットフォームを用いて、不正行為の発生率が平均よりはるかに低く、効率的に広告を管理できる。

もう言い訳は通用しない。この技術はコンバージョンパスを乱すフラウドを見つけ出し、無効なトラフィックを排除し、高品質なパートナーシップと広告フォーマットに再投資するために存在する。

例えば、当社は世界規模のデータサイエンティストチームを有している。当社のデータサイエンティストは、高度な検知アルゴリズムのトレーニング、フラウドインテリジェンスデータベースの維持、カスタマイズされたサービスを通して、絶えず進化するフラウドに対抗する最新の防御策を顧客に提供している。

もちろんこれは専門チームの仕事だが、アウトソーシングも可能だ。機械学習は、アドフラウドの継続的なリスク管理を支援しながら、同時にプロセスを合理化し、正当なプレイヤーとパートナーのみに支出を分配することができる。これにより、業界はその価値に報いることができるはずだ。エコシステムがますます細分化し、複雑になっている今、その重要性はかつてないほど高まっている。

インパクト(Impact) EMEA担当マーケティングディレクター、オーウェン・ハンコック(Owen Hancock)氏

 

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本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事の中から日本の読者向けにCARTA HOLDINGSが翻訳・編集し、ご提供しています。

株式会社CARTA HOLDINGS

2019年にCCIとVOYAGE GROUPの経営統合により設立。インターネット広告領域において自社プラットフォームを中心に幅広く事業を展開。電通グループとの協業によりテレビCMのデジタル化など新しい領域にも積極的に事業領域を拡大している。