日本とAPACにおけるクッキーレスな未来:日本オラクルAlfonso Asensio氏へのインタビュー
本記事はオラクルとの提携記事です
先日開催されたMadTech Japanでの熱のこもった議論を受け、ExchangeWireでは、日本オラクル のOracle Advertisingのリージョナル・ディレクターであるAlfonso Asensio氏にインタビューを行い、代替的なマーケティングの形態やクッキーレスな未来に向け、日本・アジア市場におけるテクノロジープロバイダーの役割について話を伺った。
-サードパーティ・クッキーが利用できない場合、日本・アジアのマーケターにとって今後の主な代替ターゲティングソリューションはどのようなものになりますか?また、それぞれのメリット・デメリットは何でしょうか?
「クッキー vs.クッキーレス」といった議論は日本やアジアでは盛り上がっていますが、私たちはいくつかのトレンドが合わさった状況にあると考えています。一方で、GDPRやCCPAのような個人情報保護に関する法律や規制が状況を変えています。また、当然のことながら、ユニバーサルIDに対する規制も存在します。私たちはクッキーやモバイルIDを使ってオンライン上の見込み客をターゲットにする習慣に慣れきっています。最も包括的かつ重要な問題は、消費者の信頼がますます失われていることであり、これを業界として回復する必要があります。
未来はどのように変化するのかということは、誰もが抱く疑問です。私の考えでは、様々なソリューションがポートフォリオ的に存在する一方で、すべての人の問題を解決できる唯一の魔法となるようなソリューションは期待できないでしょう。私たちが利用しているテクノロジーは日々進化かつ変化していますが、今後はそれらと組み合わせて、広告主にあらゆる種類のマーケティングリーチとデプスを提供するために、様々なタイプのソリューションを生み出す必要があります。そのためには、The Trade DeskやLiveRampが開発しているようなIDベースのソリューションや、パブリッシャーとのコラボレーションが必要となるでしょう。また、匿名のIDベースのセグメンテーションも引き続き必要となります。Googleはこの分野で大きな役割を果たしていますが、オープンなプログラマティック匿名環境の全てを構成するわけではないので、直近のAppleの動きはあるものの、モバイルIDと並んでエコシステム内に何らかの形でクッキーは存在し続けるでしょう。次に、特に注力しているのはコンテクスト・ソリューションです。これは、ページのコンテンツを消費者の心理状況と組み合わせ、瞬間的に企業からのメッセージに興味があるかどうかを見極めるものです。コンテクストは以前から存在していましたが、今では非常に興味深いものに進化しており、高度のデータに基づいたインサイトにあふれるものになってきています。
-日本の業界関係者は、来るべき クッキーレスの未来に向けて、具体的にどのように対応していくのでしょうか?
日本ではクッキーレスの未来について多くの議論がなされていますが、他の地域に比べて代替となるソリューションに関する情報が少ないのが現状です。欧州ではGDPRの影響で代替案が必要とされた経緯から情報のレベルが非常に高いのです。日本・アジア全体としては上手くいっているとはいえ、日本では全体的に消極的になっているように思います。現在は変化のスピードが非常に速いため、議論をスピードアップする良い機会かもしれません。私は日本に全幅の信頼を寄せています。初期段階では時間がかかってもすぐにキャッチアップがなされるでしょう。コンテクストを含めたクッキーレスの将来について、代替えとなるソリューションが全面に出てくるようになると更に喜ばしいと感じています。
-サードパーティ・クッキーの廃止によってもたらされる、クリエイティブやクロスチャネル広告の新たな可能性を、ブランド企業やパブリッシャーはどのように活用することができるのでしょうか。
テクノロジーの話やクッキーの話にばかり気を取られてしまいますが、エコシステムの核心部分ではブランド企業とパブリッシャーのニーズは変わりません。ブランド企業は、いつでも適切な対象に、適切なタイミングで、適切な場所でリーチしたいと考えています。パブリッシャーは、オーディエンスに適切なコンテンツを提供することで収益を上げたいと考えています。私たちはユニバーサルなIDなどの議論だけに固執することなく、こうしたニーズを念頭に置く必要があります。業界として重要なのは、いかにして消費者の信頼を回復するかということです。どうすれば消費者が安心してこういった環境下にて情報を共有し、その見返りにサービスを利用することができるのかを考える必要があります。
そのような環境を実現する方法として3つの取り組みを考えています。1つ目は、オーディエンスのID情報、特にオフラインデータです。このデータは、複数のパートナーを通じてさまざまな方法で組み合わさり、消費者および顧客中心且つプライバシー遵守の環境において作用するように設計されます。2つ目はコンテクスチュアル・インテリジェンスで、先に述べたようにページ上のコンテンツを消費者および顧客の考え方に合わせて提供するものです。3つ目は、客観的な測定手法です。あらゆるキャンペーンを実施し、優れたターゲティングを行うことは可能ですが、ではその反響の大きさをどのように測定するのでしょうか?私たちは、プライバシー・ファーストのアプローチで、複数のプラットフォーム上の実在の人物を測定しています。今後は、このようなコンテクストに基づいた測定が、広告の未来を決定づけることになるでしょう。
-ターゲティング以外の分野では、サードパーティ・クッキーの廃止は、ブランドセーフティやブランド適合性など、ブランドマーケティングにどのような影響を与えるのでしょうか。
サードパーティによるクッキーベースのターゲティングが廃止されたことで、コンテクスト・ソリューションとコンテクスト・インテリジェンスに再び注目が集まっています。これらは、以前はブランド企業やパブリッシャーが異なる環境にいる消費者を結びつけるためのテクノロジーに過ぎませんでした。一方で、企業がクッキーに関する議論を経て代替手段を求めていたことから、現在ではコンテクスト・インテリジェンス、さらにはブランドの適合性はより中心的な役割を果たすようになっています。匿名のID情報はターゲティングには有効ですが、広告が否定的な表現や有害なコンテンツ上に表示されことを防ぎ切ることはできず、ブランドの安全性という側面が考慮されていませんでした。
コンテクスチュアル・インテリジェンスの特長的な一面は、マーケティング担当者がポジティブな面に対応することもネガティブな事象に対応することにも使え、コンテンツをターゲット化したり、ブロックしたりすることができるということです。従来のコンテクスト・ソリューションは、キーワード・ブロックやURLブロックに頼った非常に単純なもので、最低限のブランド安全性のためのソリューションに過ぎませんでした。ブランド企業が即時に問題に直面するのを避けるのには有益でしたが代償を伴うソリューションでした。例えば、当社の調査によると、昨年「コロナウイルス」という言葉が使われたコンテンツのうち、76%近くが実際には適切且つ安全なものでしたが、キーワードリストによって大半がブロックされていました。私たちは、URLやキーワードをブロックするといった以上の、より判断力が高く正確なコンテクスト・インテリジェンスを提供します。
-ブランド企業とテクノロジープロバイダーは、ファーストパーティ・データの活用と、プライバシー遵守の代替的なターゲティングの間で、どのように適切なバランスをとるべきでしょうか。
ファーストパーティ・データは常に存在し重要である点は昔から変わらないのですが、業界はリーチ力と拡張性に優れたサードパーティのクッキーに目を奪われていました。「当社のファーストパーティ・データでは十分ではないかもしれないから、追加のデータを取得しよう」といったコンプレックスを企業は有していました。これは理に適った考えですが、現在は、「ファーストパーティ・データを活用するための最良の方法は何か」という視点に変わってきています。どんな企業でも、一番のお客様を知っているのは常にその企業自身です。コカ・コーラの最高の顧客が誰であるかを知っているのは常にコカ・コーラ自身でしょう。マーケターは、ファーストパーティ・データをいかに活用し、マーケティング活動に生かすかを見出す必要があります。自社ブランドが好きな対象を自分だけで見つけることはできないので、リーチ不足が欠点になるのは明らかですし、新たな見込み客や消費者を見つけるためには、他のツールに頼らなければならないでしょう。そこで、プライバシーに配慮しクッキーに頼らないコンテクストが意味を持つのです。もし、これらが、ファーストパーティ・データによって実現できる場合は、そのデータを利用して新しいレベルのことが実現できるでしょう。
私たちが注目しているもう一つの点はアドテクとマーケティングテクノロジーの融合です。従来は、ファーストパーティ・データとCRMシステムを「箱A」に入れ、サードパーティのデータや広告活動は異なる「箱B」で管理されていました。アドテクノロジーのソリューションが全てのリードをもたらし、マーケティングテクノロジーのCRMシステムに引き継がれて、ブランディングやロイヤルティに関するキャンペーンが実行されていました。これからは両者をシームレスに接続することができるようになります。インテリジェンスとファーストパーティ・データに基づいて新しい見込み客を獲得し、この見込み客をバックエンド技術のソリューションに統合する必要性についてより多くの注目が集まる様になりました。自分たちがターゲットとする消費者のデータをなぜ一緒にしないのかといった考えが広まっています。
-日本・アジアを拠点とするマーケターが、ポストクッキーの環境をどのように乗り切り、アドテクやマーケティングテクノロジーのソリューションをどのように融合すべきかを啓蒙するために、テクノロジープロバイダーやエージェンシーはどのような役割を果たすべきでしょうか?
市場で起きている変化について知識を広め啓蒙していく必要があります。テクノロジープロバイダーとしての我々の役割は、毎日のようにテクノロジーの変化に目を向けることです。ブランド企業やパブリッシャーは他に注力することが多いため、このような議論に時間を割くことが難しく、私たちが全力でサポートするのは当然のことです。私が日本の技術者と仕事を始めた8年ほど前にも、データに基づいたサードパーティターゲティングの活用において同じような状況にありました。私たちは様々な企業を訪問し、「メディアにお金を払うように、今度はデータにもお金を払う必要があるのです」といった会話を続けてきました。最初は難しい議論でしたが、インターネット上にいる顧客全体を広告でカバーするのではなく、適切なオーディエンスを特定することに投資を行なったほうが、費用対効果が遥かに高くなることに人々が気づき始めたのです。
私たちは現在似たような環境下におり、ブランド企業やパブリッシャーなどのエコシステムの事業者に、次のステージに進むための情報提供を行える立場にあります。なぜなら、こうした変化はあまりにも急速に起きており、ついていくのが困難だからです。テクノロジー企業にとっては「こういうことが起きていて、私たちはこの様に支援できます」といったメッセージを伝える良い機会です。すべての人に作用するわけではありませんし、ブランド企業やパブリッシャーは、他の多くのテクノロジープロバイダーや同業企業の話も聞きたいと思うかもしれません。しかしながら、このような取り組みは業界にとって良いことだと考えています。
ブランドの適合性(ブランド・スータビリティ)について更に詳しい情報はOracle.comまで
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。