新生TVer広告が生まれた背景と目指す先[インタビュー]
放送局による動画広告プラットフォームとして、動画広告市場において年々その存在感が高まるTVerは、2020年7月には大きく運営体制を大きく変えた。
運営事業者株式の第三者割り当てにより増資をして資本構成を放送局過半数へと変更。社名を株式会社プレゼントキャストから株式会社TVerとし、代表取締役社長にはTBS出身の龍宝 正峰氏が就任、各放送局や広告会社から広告事業を行う人材を集結させた。
同社はその後2020年11月にはTVer広告をリリースし、事業拡大を進めている。
この一連の流れにおいて、同社はどのような取り組みを目指しているのか。同社メンバーの方々にお集まりいただき、お話を伺った。
・広告営業部長 古田 和俊氏
・広告営業部 渉外グループ 中川 卓也氏
・事業企画推進グループ 谷内 健太氏
・広告営業部 広告開発グループ リーダー 矢部 怜史氏
・広告営業部 広告開発グループ 塩野 浩章氏
・広告営業部 広告開発グループ 東 遼平氏
TVer広告が生まれた背景とは
-TVer広告の概要と特徴についてお願いします
古田氏:1年ほど前からTVer PMPという形で商品提供をしてきましたが、新たに広告配信のロジックをTVer社が主導して開発を行った運用型広告商品として、2020年11月より提供を開始しました。
-この取り組みの背景についてお聞かせください
古田氏:もともとTVer向けに配信される広告商品は、当社の前身であるプレゼントキャストが担っていましたが、2020年7月に放送局主導で動画広告市場を盛り上げ、TVerとしてもこの市場で明確なポジションを取りに行きたいということで、改めて株式会社TVerが設立されました。今まではTVer社として広告主や広告代理店に対して営業活動は行われていなかったのですが、この度当社自身で販売することが出来る広告商品を開発して、これを放送局の営業部門も含めてお客様に直接ご提案をすることが出来るようにしました。
-TVer広告の提供が始まる前と後とで比べると座組はどのように異なるのでしょうか?
古田氏:今までTVerへ広告の買い付けをしていただいていたお客様は、今まで通りの方法で買い付けをしていただくことが出来ます。
2020年7月に新たにTVerという会社が出来、放送局出身のメンバーを中心に組織が出来ました。これにより広告会社の皆さまに直接ご提案をさせていただくことで、その幅を広げて、今までTVerで出稿をしていただいてこなかった新規顧客の開拓をしていきたいと考えています。
ファーストパーティーデータ活用で、コネクテッドTVにターゲティング配信
-TVerの広告在庫は、放送局による純広告としての販売、広告代理店主導のPMPとしての販売、そして2019年にリリースしたTVerPMPとしての販売と、TVer広告としての販売ということになるわけですね。その中でTVer広告は新たなチャネルとしてどのような新しさを打ち出していくのでしょうか?
中川氏:TVer社としてのミッションは、当社を通らない販売チャネルも含め、包括的にTVer全体の広告事業を拡大していくことです。
TVer広告は、自社でTVerのファーストパーティーデータを取り扱えるということが大きなポイントです。 広告商材の開発を自社で行っていくことが多くなり、これにより業界全体で新しいスキームを作りやすくなると考えています。
また今後の構想も含めて申し上げると、コンテンツが持っているデータや動画そのものに対して何かしらの付加価値をつけて提供することを目指しています。
現在TVerの広告は複数のチャネルから出稿することが出来ますが、その中でもTVer広告ならではの強みは、コネクテッドTVへの広告配信です。
コロナ禍において、コネクテッドTVの視聴者数は急速に伸び、動画再生数ベースではTVer全体の17%程度に達しています。この水準はPC向けの再生比率を超える所まで成長しています。
業界全体でも注目を集めているコネクテッドTVですが、広告配信に関連しての課題は、データが不足しているということです。
ですがTVerでは、アンケートに基づくユーザーの登録者情報を取得しておりますので、この情報を使い、誰が視聴しているかまで補足することが出来る精度の高いターゲティング配信が可能となります。
広告主がTVerに注目する3つのこと
-広告主からTVer広告に対して、どのようなことを期待されていると感じておられますか?
中川氏:セールスを開始して感じたことは大きく三つです。一つはコネクテッドTVへの配信です。
そして二つ目は、コンテンツジャンルごとのターゲティング配信です。特定の番組のジャンルだけに絞ったターゲティング配信に対する期待値は高いです。例えば、アニメだけに絞って、お子様をターゲットにした配信をするというような取り組みです。
ただしアニメというだけでは対象とする年齢層が絞り込めないので、これを絞り込むことが出来るようにコンテンツのメタ情報を活用して配信を行うというような取り組みについては、早急に目指していきたいと考えています。
そして三つ目はエリアのターゲティングです。全国の広告会社様からの問い合わせも非常に増えています。我々が取得しているユーザーアンケートをもとにエリア配信をすることが出来るため、例えば商材や商圏に合わせて特定の地域に配信する、あるいは特定の地域を除いた配信をするということが可能になります。
-コネクテッドTV向け配信は、普段テレビCMを出稿している広告主が主に興味を持っているのでしょうか?
古田氏:テレビデバイスへの配信についてはおっしゃる通りですね。テレビCMの補完的な役割としての活用に興味を持たれるケースが多いです。
サービス規模を拡大しより多くの広告主に出稿機会を提供
-動画広告の市場で事業を拡大されていくうえでの課題があればお聞かせください
古田氏:TVer自身について申し上げますと、まだまだユーザー数の規模における伸びしろがあります。さらにユーザー数を伸ばしていく必要があると認識しております。
矢部氏:広告商品としてより魅力を高めていくうえでは、ユーザー数の規模が求められます。データを活用して精度や広告効果を高めていく上でも、このことは必須です。
よりコンテンツを増やし、ユーザーを増やしながら、より広告効果の高い配信手法を開発していけるといいかなと考えております。
-大手動画プラットフォームとどのように差別化を図っていきたいとお考えでしょうか?
中川氏:コンテンツのクオリティーの高さがTVerの一番の強みであると考えております。TVerで流れている動画コンテンツは、放送局の基準に沿った厳しい審査を通ったものです。動画広告のクリエイティブもまた、事前に人の目で全てをチェックしております。ですので広告主の皆さまには安心してご出稿をいただけます。
また、コンテンツ内への広告の差し込みのタイミングについては、地上波と同じです。ユーザーに不自然さを感じさせないように行っておりユーザーの広告に対する許容度も高いと考えられます。
-今後どのような広告主の方をターゲットとしていこうとお考えですか?
古田氏:まずはTVerに出稿いただいたことがない広告主の方に出稿いただきたいと考えております。特に地方の広告主の方には、ぜひ一度お使いいただきたいです。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。