デジタル広告とアドテクの注目領域 2021年
明けましておめでとうございます。本年もExchangeWire JAPANをよろしくお願い申し上げます。
2020年は新型コロナウイルス感染拡大により、デジタル広告業界も大きな影響を受けました。緊急事態宣言下の4-6月期には、一時的に時計の針が止まったかのようでした。
新型コロナウイルスは、私たちの社会生活や消費行動を大きく変えました。また、デジタル広告業界にも厳しい現実を突きつけました。一方で、将来につながる新しい動きを加速させた側面もありました。
ここでは、編集部が日々ExchangeWireJAPANの運営を通して観たデジタル広告業界・アドテク業界において、特に気になる領域やトピックスについて、挙げてまいります。
運用型テレビCM
官民一体となり進みつつあるデジタル・トランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みは、広告業界においてはこれまでの“広告媒体のデジタル化”のみならず、“媒体を問わない広告流通そのもののデジタル化”の機運も高めつつあります。これまでデジタル広告媒体の取引において、先んじて行われてきた広告取引の考え方も、取り入れられるようになっています。
2020年にテレビCMなどでも話題を集めた運用型テレビCMは、その好例といえるでしょう。新進気鋭のベンチャー企業の注目すべき活動の一つ、というものにとどまらず、広告業界全体における新しい広告流通取引の流れを作り出しつつあるようです。
デジタルサイネージ広告
サイネージ広告のデジタル化もまた、その一つといえるでしょう。人の移動そのものが媒体価値となるサイネージ広告は、2020年に516億円、前年比68%※1とコロナ禍で大きなマイナスの影響を受けました。
回復の見通しがつきづらい状況下で、広告会社や媒体社はデジタルを活用し広告配信の自動化や広告効果の可視化をするなどの取り組みを進めています。2020年は、交通広告や屋外広告などを取り扱う主要広告会社や媒体社による、デジタル広告業界の主要各社との業務提携に関するリリースを非常に多く目した1年でした。
2020年に市場環境が整備されたデジタルサイネージ広告は、2021年以降の経済環境の回復に沿って、新しい動きが注目される領域の一つです。デジタル広告という媒体のO2Oともいえるデジタルサイネージ広告が今後どのような広がりを見せていくのか、2021年も引き続き注目してまいります。
コネクテッドテレビ広告
「巣ごもり需要」という言葉に象徴された、コロナ禍における人々の新しい消費行動は、モノやサービスのみではありません。広い意味で、“サービス”の一つともいえる。メディアの消費もまた「巣ごもり」化の対象の一つとなりました。
メディア消費の「巣ごもり化」において、注目を集めたことの一つは、動画を中心とするデジタルコンテンツのテレビ端末での視聴、すなわちコネクテッドテレビです。
コロナ禍において、多くの人々がネット接続されたテレビで動画コンテンツの視聴を楽しむようになりました。すでに一部の媒体では、コンテンツの配信比率においてコネクテッドテレビがPCを上回るようになりました。
テレビ端末に向けて配信デジタル広告の、コネクテッドテレビ広告。これまでの広告業界における商慣習をまたいだ、このハイブリッド型広告を、「誰がどのように価値付けをし、どのように取り扱っていくのか」ということは、まだ定まりきれておらず、2021年はこのトピックスについて様々な議論が交わされるようになることが予想されます。
インフルエンサーマーケティング
端末側におけるテレビとデジタルとのハイブリッドがコネクテッドテレビであるとするならば、コンテンツ側のハイブリッドは、インフルエンサーであるといえます。
コロナ禍でテレビ番組への出演機会が減り、新しい活躍の場を求めたテレビタレントが続々とYouTubeに参入し、チャンネルを立ち上げるという動きがみられました。著名なテレビタレントのチャンネルの中には、テレビ番組さながらのクオリティーで、視聴者を魅了するものも増えつつあり、今ではテレビ端末で流れているコンテンツが、放送番組か、YouTubeであるかの見分けも付き難くなりつつあり、広告の入り方で、これがYouTubeによるものであると気づくということもあります。従来のYouTuberとテレビタレントとのコラボレーションも、YouTubeではもはや珍しくなりました。同様に、テレビ番組におけるYouTuberの出演も数多く見られました。
インフルエンサーが活躍するYouTubeやInstagramといったプラットフォームでは今、商品やサービスを販売する機能が強化されています。インフルエンサーマーケティングはこれまでブランディング目的で使われており、その効果を可視化することが難しいことが普及の課題とされてきましたが、インフルエンサーが活躍するプラットフォームが、商品・サービスの販売チャネルとなることで、今後その効果が可視化しやすくなり、広告主はよりインフルエンサーマーケティングに投資がしやすくなるでしょう。
インフルエンサーマーケティングは、コロナ禍でさらに注目を集めているD2Cビジネスとも非常に相性が良く、今後ますます市場の活性化が期待されます。
動画広告の進化
動画広告の市場は、コロナ禍の2020年においても前年比114%と二けたの成長を続け、2,954億円の規模に成長しました※2。
2020年は動画広告の販促需要が成長の大きな要因となりました。動画広告の活用用途はこれまでになく多岐に亘るようになっています。
動画広告というと、「スマホやPC、タブレットなどの端末に、動画フォーマットで提供されるデジタル広告」というのがこれまでの一般的な認識でした。ですが、テレビやタクシー車両広告などがネット回線でつながるようになり、従来の枠にとらわれない新しい広がりを見せつつあります。
活用用途がますます広がりを見せ、新しいフォーマットの登場も絶えない動画広告の進化について、引き続き注目してまいります。
デジタル音声広告
デジタル広告がまだまだ開拓できていない領域の一つが、音声広告です。デジタル音声広告は、ラジオに代表される音声コンテンツのデジタル化と、音楽ストリーミングサービスにおける広告モデルの導入という、大きく二つの流れが軸としてあります。そしてここに、ポッドキャストというオープンなチャネルのもとで育まれた、新しいタイプの音声化されたデジタルコンテンツが合流し、その潜在的な成長性を高めています。
SpotifyやAmazonにとどまらず、YouTubeもデジタル音声広告領域への参入を開始したことが、その高い成長性が期待されていることの証左であるともいえるでしょう。
国内の市場規模はまだまだ小さいですが、2021年は2020年よりもさらに活性化することが予想され、引き続きその動向は注目に値します。
ポスト・クッキー、ポスト・IDFA
そしてアドテク領域においては、ブラウザーや、アプリOSがこれまで提供してきたユーザー識別情報の利用が大幅に制限されることが決まり、業界は今大きな転換点を迎えています。
ポスト・(サードパーティー)クッキー、ポスト・IDFA時代において、業界全体としてどのような対応を進めていくか、従来の方法に代わる精度の高いターゲティングや広告効果測定を行うため、どのような新しいテクノロジー、ソリューションが生まれつつあるかは、大いに注目すべきことです。
広告主や媒体社、そしてアドテクベンダーがこの変化をどのように乗り越え、新しいテクノロジーとともに、どのようなエコシステムを作っていくのか、市場占有率を年々高める大手広告プラットフォームとどのような関りを持ちながら発展を続けていくのか。
ExchangeWire JAPANは大いなる関心とともに、2021年年間を通して注目をしてまいります。
※1:サイバー・コミュニケーションズ「デジタルサイネージ広告市場調査」
※2:サイバーエージェント「2020年国内動画広告の市場調査」
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。