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「アイデアなんて簡単には生まれない」―第2期「MCA道場」が開催

一般社団法人マーケターキャリア協会 (MCA) は10月22日、都内にて、マーケターのキャリア育成を目的とした第2期「MCA道場」の第1回講座を開催した。

 

 

 

あのCMのクリエーター

「マーケターの価値を明らかにする」ことを目指して設立されたMCAは2019年3月に発足。今年で第2期を迎え、講義とワークショップを合わせた「MCA道場」は主要プログラムの一つと位置付けられている。

 

「天才!かげこうじの元気が出る道場 -挑戦しつづける小心者の戦い方とは?-」と題した本講座を担当したのは、株式会社かげこうじ事務所代表の鹿毛康司氏。MCA理事で株式会社インフォバーン取締役COOの田中準也氏との対談形式で実施された。

 

雪印時代にリスク対応を経験し、後に転職したエステー株式会社では「消臭力」のテレビCMで様々な広告関連の受賞実績を持つ同氏は、今年になってクリエイティブディレクター及びプロフェッショナルマーケターとして独立。現在はエステー社のコミュニケーションアドバイザーに加えて、グロービス経営大学院の准教授などを務めている。

 

「失敗の師範」の素性

鹿毛氏は自身を「失敗の師範」と形容する。2年間の浪人生活を経て早稲田商学部に入学後は、広告論を研究する亀井昭宏ゼミに所属。同ゼミでの研究対象となった雪印乳業に入社し、大阪支店でワイン商品の営業などに取り組んだ。

 

その後、28歳で米国へのMBA留学を経験。当初はTOEFLの応募フォームの記載内容さえ理解できなかったが、営業車での移動時間中に英語を聞き続けるなど「頭ではなく筋肉を鍛える」ことで英語力を向上。一方で社内の関係者と粘り強く交渉することで、MBA留学の権利を取得した。

 

日本帰国時に感じたこと

鹿毛氏が米国留学を果たした1992年ごろの日本では、まだパソコンが流通していなかった。ところが、いざ現地での授業が始まると、課題をフロッピーディスクで提出することを要求される。英語でのコミュニケーションにおいても多大な苦労を強いられた。

 

それでも鹿毛氏は、難関に突き当たる度に現地関係者との交渉を繰り返し、問題を乗り越えた。こうした経験を通じて、「日本に帰国して日本語を使えるようになったら、もう何でもできる」と実感したという。鹿毛氏は、「記事としての公開は無理」「オンラインでは絶対に話せない」と時折断りながらも、様々な裏話を交えながら、「切羽詰まった状況に身を置くことで、(問題に対応するために必要な)筋肉ができる」までの過程を軽妙な語り口で披露した。

 

ブランド論を気軽に語るな

鹿毛氏は「アイデアなんて簡単には生まれない」と言う。アイデアは、企業理念や企業文化のあり方を日々考え続けた末に生み出されるもの。同様に「ブランディング」も気軽に語るものではないと感じている。鹿毛にとってブランディングとは「目の前にいるお客さんにどんな約束ができるか」。

 

そう考えるようになった一つのきっかけがある。雪印が不祥事を起こした際に、消費者から受け取った手紙にはこう記されていた。「私の母は、お店の棚に並べられた粉ミルクの中で最も高価な雪印の製品を購入していました。私にとって、雪印の粉ミルクは母の愛情そのものです」。この手紙を読んで、「これこそが企業ブランドだと思った」。そして「ブランド論を気軽に語るのを止めよう」と決めたのだという。

 

真似して良いこと・悪いこと

エステー社に転職してからは独創的なCM制作で名を馳せた鹿毛氏だが、「奇をてらっているつもりは全くない」。CMを含めたマーケティング戦略は論理的に構成しているものの、その詳細については語らない方針を貫いているため、「勢いだけで物事をこなしている」と見られがちだと語る。

 

また自身が変わり者扱いされるのは、安易に既存の手法を真似しないからとも分析。講座の参加者に対して、「先輩の言うことをあれこれ聞くな」「エキスを真似するのは良いが、やっていることそのものを真似するな」といった持論を伝えた。

 

小刻みに考える訓練とは

この日の対談相手を務めた田中氏は、鹿毛氏の手法を「いつもテレビの先にいるお客さんと1対1でつながっている」と表現。鹿毛氏は実際に「自分がお客さんになったときにどう感じるか」といったことをシミュレーションするトレーニングに日々取り組んでいるという。より具体的には、お笑い芸人がネタになりそうな出来事を詳細に描写するように、自身も消費者の立場として経験する物事を細かく記憶するようにしている。この「小刻みに考える」能力は、訓練次第で培えるとの見解を述べた。

 

講座の終盤には、3万部を売り上げた鹿毛氏の著書「愛されるアイデアのつくり方」の事例を用いたワークショップを実施。参加者に対して、「3万部を販売するために著者は何をすべきか」という課題を示した上で、実際の取り組みを披露することで答え合わせを行った。

 

MCA道場は、2021年3月まで毎月一度開催予定。11月26日の第2回道場では、ダイキン工業 総務部広告宣伝グループ長の片山義丈氏が、「情熱と執念のマーケター 片山道場 – わかったふりをするのをやめようよ –」と題した講座を担当する。

 

MCA 道場 第2期プログラム

https://marketercareer.jp/program/dojo_program_2/

 

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。