BtoBマーケティング特有の課題とは―「シラレル」運営のマイクロアドの見解
いまだ属人的な要素が非常に大きいと言われる法人営業。既に成熟しつつあるデジタルマーケティングの知見を生かすことがなぜそれほどまでに難しいのか。BtoB企業向けのマーケティングデータプラットフォームを提供するマイクロアド社の「シラレル」事業責任者に話を聞いた。
(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)
初期検討層向けのソリューションが不足
―自己紹介をお願いします。
株式会社マイクロアドのビジネスマーケティング部部長兼BtoB企業向けのマーケティングデータプラットフォーム「シラレル」の責任者を務める田島雅也と申します。マイクロアド社には社員が10名足らずのころから在籍している古株です。
―ご担当する事業紹介をお願いします。
シラレルは、IPアドレスや名刺などのデータに基づくターゲティング広告やレポーティングが可能なBtoB企業向けのマーケティングデータプラットフォームです。事業自体は2018年に立ち上げておりましたが、2019年7月より「シラレル」とリブランドした上で本格的に稼働させました。
―本事業を開始するまでの経緯をお聞かせください。
いわゆるアドテクノロジー業界全体がこれまでBtoCマーケティングに注力してきました。一般的にはBtoCマーケティングの方が予算規模は大きいので、致し方ない面もあったかと思います。
ただ当然のことながら、BtoB企業もマーケティングを必要とします。しかも、BtoCとBtoBではマーケティングのあり方が根本的に異なります。そうであるにも関わらず、BtoBマーケティング向けの適切なプロダクト、サービス、ソリューションが整備されていないというのが現状ではないでしょうか。そこでまずは手始めとして、BtoBの領域においてもデータに基づくデジタル広告配信がもっと活用できるのではないかと考えて、本事業を立ち上げました。
―従来のBtoBマーケティングではどのような手法が用いられてきたのでしょうか。
もちろん様々な形態があり得ますが、主なものとしては展示会への出展やDM及びメール配信があります。またデジタル広告においてはリスティング広告やSNS広告、またはビジネスパーソンを読者層に持つニュース媒体などへの純広告が挙げられます。このうち最後の「ニュース媒体への純広告」を除いて共通しているのは、顕在層を対象としているという点です。
ただし、BtoB商材は見込客にアプローチを開始してから実際に取引が成立するまでにかかるリードタイムが長い。そうであるにも関わらず、その最終段階にある顕在層向けのソリューションしかなく、その手前の初期検討層に対する打ち手がほぼないというのが課題です。
―そこで初期検討層向けには「ニュース媒体への純広告」の出稿が行われてきたのですね。
ただし、単一のニュース媒体の純広告を閲覧するユーザー数は限定的です。一方で媒体を横断した広告配信となると、BtoBに特化したターゲティングがこれまでできていませんでした。つまりニッチなBtoB商材のオンライン施策となると、ターゲティングした上で規模を確保することが極端に難しくなるのです。
そこで当社では、データを軸とした企業のマーケティングプラットフォーム構築サービスである当社の「UNIVERSE」の手法を生かすことで、ビジネスパーソンに対してオンライン上でターゲティングしつつ、広くリーチをとることができる広告配信サービスを開始しました。
―BtoBだけを切り出した新事業を創設する必要はあったのでしょうか。
BtoB業界に特化すること、そして広告配信だけに留まらないマーケティング支援事業の立ち上げは必須でした。BtoBに限らず、当社では飲食、自動車、化粧品といった各業界に特化した事業を数多く運営していますが、各業界さらには各企業のマーケティング戦略とどう組み合わすかという設計がきちんとできなければ、マーケティングツールとしては使い物になりません。
DSPの機能だけで差別化を図る時代はもう終わりました。精緻なターゲティング技術と継続的なマーケティング活動に繋げるためのレポーティング機能を備えたマーケティングプラットフォームが必須だと考えております。
企業情報に基づく広範な広告配信
―BtoBならではのターゲティングとはどのようなものなのでしょうか。
BtoBマーケティングにおいてはターゲティングの重要度が増します。決裁権を持つ役職者に直接アプローチしトップダウンを狙うこともあれば、現場の従業員にアプローチしボトムアップを図る場合もあります。
その手法としては主に2種類あります。一つ目は、先にも言及した、ビジネスパーソン層の会員データを豊富に持つメディアやデータベンダーが提供するターゲティング商品。会員データを用いるのでターゲティングの精度は高いのですが、自社配信のみなのでタッチポイントが少ないというのが課題です。もう一つは、ビジネスに関連した興味・関心に基づくターゲティング。媒体をまたいだ幅広いリーチを確保できますが、ターゲティングの精度は落ちます。
そこで当社では、ランドスケイプ社の「LBC」やGeolocation Technology社の「どこどこJP」が提供するIPアドレスのデータを活用することで企業の端末からのトラフィックを管理することに加えて、国内最大級の名刺アプリや「BOXIL」といったBtoB向けのサービスやメディアとも連携。正確かつ広範なBtoB広告配信環境を整備しています。
―シラレルを通じて配信された広告はどのように閲覧されることを想定していますか。
様々なシーンが考えられますが、オンタイムでの閲覧というよりは通勤時間や昼休憩といったオフタイムのネットサーフィン中に見られることを想定しています。ただし、BtoB商材の特性として、一目見ただけでその内容が理解できるとは限りません。つまり、一般的なディスプレイ広告が適さない場合があり得るということです。BtoBと相性が良いと言われているタクシーサイネージが、動画広告に注力する理由の一つでもあると思います。広告の配信先の選定だけでなく、広告クリエイティブにも工夫が必要です。
BtoB市場はまだまだニッチ
―BtoB広告市場に対する印象をお聞かせください。
現状ではまだまだニッチ市場です。BtoC広告市場と比較して、その規模は一桁もしくは二桁異なると思います。逆に言えば、ブルーオーシャン市場であるとも言えます。
近年ではBtoC企業がBtoBに事業転換するといった動きが顕著に見られるようになりました。さらにこれまで例えばオフィス向けのハードウェアを納品していた企業が、具体的な課題解決を目的としたソリューション提供に注力し始めた結果、企業ブランディングを強化するという事例も増えています。BtoB市場は独自性や他社との差別化を図るために、事業領域の細分化や再定義が行われやすいとも言えます。
ところが、コロナ禍でイベント出展や対面営業、テレアポが行いにくくなり、それらのBtoB企業は攻めあぐねています。そこでウェビナーを開催しようという話になり、最初は自前の顧客リストを最大限活用することで何とか集客するも、すぐに枯渇したという話もよく耳にします。こうした環境においては、BtoB商材におけるオンライン広告配信が拡大する余地は十二分にあると考えています。
―確かにウェビナーの集客需要は増えていそうですね。
ただし、企業が直接的な申し込みや登録を得るには広告配信以外にも様々な課題があります。例えば特定のイベント向けのLP及びそこに至るまでの導線をしっかりと設計できているBtoB企業は決して多くありません。せっかく認知を取っても、そこからの導線が整備されていなければマーケティングは成立しません。
そこで現在は代理店機能を持つグループ会社とも一体となり、認知からリード獲得までの包括的なマーケティング支援を行えるソリューションを提供し始めました。また、中小・中堅企業向けに少額予算でも実施可能なリード獲得支援のサービスも現在準備しています。こうした環境整備が進めば、BtoBマーケティング市場は飛躍的に成長するはずです。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。