4大メーカーのコネクテッドテレビデータと切り拓く、DSPの新しい道筋[インタビュー]
ソニーグループのアドテク企業SMNは、Connected TV Data Bridge(以下、TVBridge)という、500万のコネクテッドテレビのテレビ視聴データを活用した新しい広告商品の提供を開始した。このサービスは、SMNが主体となって着手し、国内大手テレビメーカー4社との契約により成し得たものであるという。
サービスの概要や提供背景、そしてこのサービスを活用した同社の今後の取り組みについて、SMN執行役員 安田 崇浩氏(写真左)、事業戦略室 高岡 滋氏(写真右)、そしてグループ会社ネクスジェンデジタル代表取締役社長 谷本 秀吉氏(写真中央)にお話を伺った。
-自己紹介をお願いします
谷本氏:今年の3月までSMNで執行役員としてアドテク事業の事業戦略・商品企画を担当していました。その後昨年9月に始動した新会社のネクスジェンデジタルに専念のため、その職を離れましたが、本サービスの着想から実現に至るまでのところを統括している立場でした。
安田氏:2012年のLogicadの立ち上げからアドテク事業に関わっています。Logicadのシステムを一から作るところを担当していました。現在は、執行役員として技術面全般を担当しています。
高岡氏:SMNでは事業戦略室で、TVBridgeやVALIS-Cockpitの事業立案と新規開拓の立ち上げを担当しています。
テレビCMと連動した施策に
-今回リリースされたTVBridgeの概要と背景にある市場背景について、お聞かせください
谷本氏:商品は二つに分かれています。一つはTVBridge Adsです。Logicadの広告配信エンジンを基盤とした新しいテレビ視聴データに特化したDSPです。TVBridge DMPは、テレビ視聴データを他の広告プラットフォームを使って配信したいというニーズにこたえるためのDMPです。
また、DSPによる配信は動画フォーマットがメインとなることを想定しており、テレビCM施策と連動した展開が可能となります。
―DMPのデータの活用先は、広告プラットフォームによる制限を受けないのでしょうか?
谷本氏:IDFAとADIDを使って連携することが出来ますので、主要の広告プラットフォームはほぼ全て対応しています。この構想は着想から実現に至るまで長きに渡りました。米国ではアドテク業界においてコネクテッドテレビの話題性や注目度が非常に高いことが、もともとの着想のきっかけでした。その後シンガポールで開催されたアドテクカンファレンスでも話題の一つとして取り上げられているのを耳にしました。日本のマーケットではこの領域はまだ未着手であったこともあり、何かできるのではないかと思ったのがきっかけです。
当社はソニーグループですので、テレビ視聴データを活用した広告サービス連携はグループ間では既に行ってきました。広告主の方に、より拡張性の高いサービスとしてご提供するために、複数の国内大手のテレビメーカーの企業と協業することにしました。
―実現に至るまで苦労された点をお聞かせください
高岡氏:もともとテレビメーカー各社が抱えていた課題は同じでした。したがって、ビジネスを一緒に展開することへの合意はスピーディーに進みました。ただし実際にどのようにビジネスのスキームへと落とし、商品としてどのように打ち出しをしていくかということについては、各メーカーの既存のビジネスとの兼ね合いやカルチャーの相違があるため、
実現に至るまでには紆余曲折がありました。
そして、この商品が今後どのように市場で受け入れられて発展をしていくのか、どのように次の取り組みに生かしていくのかについては、現在議論を重ねています。
安田氏:技術的な観点では大きく二つありました。データ接続を行った各社のテレビ視聴データの形式は、似てはいるもののフォーマットの仕様には違いがあります。その仕様の違いを埋めて統一化すること、これが1点目です。この作業は一社一社、計4社とじっくり取り組んでいく必要がありました。
2点目は、データの取り扱いについてです。各テレビメーカーはプライバシーポリシーをもってデータを取り扱っています。それに正しく従ったデータの取り扱いをするということもまた、時間をかけて慎重に取り組みました。
テレビメーカー4社との提携の意味と意義
―リリース後の反響はいかがでしょうか?
谷本氏:今回このサービスを通して実現したいのは、家庭内でリビングを占有している強力なテレビとデジタルとの融合施策を実現したいと考えています。
テレビとデジタルとをうまく組み合わせて、広告を通して生活者にメッセージを届けることに対する広告主の強いニーズに、この商品で応えていきたいと考えています。
これまでテレビ広告を出稿し続けてきた広告主は、デジタルへの取り組みにまだまだ慎重であり、その効果をあまり感じておらず、アドベリフィケーション問題に対してもナーバスです。デジタルに対して引き続き課題感を持っている広告主に対して、デジタルをテレビCMの補完的な位置づけでうまく活用していただきたいと思っています。
そしてリリース後はそのようなニーズを持つ広告主様からのお問い合わせを多数いただいております。
また例えば1メーカーのデータを使った視聴データターゲティング広告では、ユーザーの母数が限られます。そのような場合、これまでアドテク業界ではとても普及しているLook-a-Likeや拡張というような拡大推計技術を多用していましたが、どうしても精度が不完全です。
今回国内大手4メーカーの視聴データが集積することによって、国内最大級の500万のデータ数(2020年9月時点)を使い、当社のIDベースでは2100万(2020年9月時点)のユーザーにリーチすることができるようになりました。
また、1社のみのユーザーだとユーザーの趣味嗜好の特性が出てしまいがちです。メーカーによって趣向や属性などのバイアスがかかってしまいますが、複数社のデータと合わさることで、より一般的化されることで、データの価値が高まりました。このような点を注目いただき、現在お問い合わせが増えています。
テレビCMを補完し、幅広くブランドリフトを実現
―想定している顧客についてお聞かせください
高岡氏:基本的にはテレビCMを出稿している大手広告主がターゲットです。
したがって、お客様に対しては、テレビと連動した施策のご提案がメインとなります。
テレビCMの出稿少ないお客様についても、リーチ補完という意味で、テレビCMを見ていないユーザーには補完関係を作れると思いますし、予算の都合上テレビCMを出稿できないお客様に対しては、もし予算があればCMを出稿したかったテレビ番組を見ているユーザーに対して配信することもできます。
―KPIはブランドリフトであるケースが多いのでしょうか?
高岡氏:はい、ブランドリフトを指標とされるケースが多いです。TV Bridge Adsは、リターゲティング機能を持っておりません。ユーザーを刈り取る場合には、当社のメインDSPであるLogicadを活用いただくことで、ファネルの上位から最下部までをカバーすることになります。
-テレビ視聴データと何か他のデータを掛け合わせるというメニューはあるのでしょうか?
高岡氏:テレビを見た個人を特定するというよりは、テレビを見た世帯をターゲティングするようなものでもグラフィックデータとの掛け合わせのメニューをご提供しています。
―テレビ視聴データを今後貴社のビジネスの中でどのように使っていこうとしているのでしょうか?何か構想があればお聞かせください。
谷本氏:新しいパートナーシップによる協業を何か実現できないかと考えています。より企業の広告宣伝や販売促進行為をより効果的なものにできるお手伝いをしたいと思っています。今後は、例えば実際に店舗をお持ちの企業がテレビCMを出稿した際に、来店効果を計測するなど、様々な手法がまだまだあると考えています。さらに、データを組み合わせることで、新しい価値提供ができるのではないかと思っています。
高岡氏:テレビ視聴データはあくまでも手段に過ぎません。何か一つの機能に絞って提供するというよりは、お客様の声を聞いて幅広く展開していきたいと思っています。
DSPビジネスの新しい道筋
―DSPを取り巻く市場環境を踏まえて、今後どのような取り組みをされていきますか?
安田氏:デジタル広告業界は変化が大きいので、その波につぶされないように取り組んでいきます。
目下の関心事項にはChromeのクッキー問題というのは含んでおります。これに関しては情報収集を続けており、Googleの動きに対応してビジネスを続けてまいります。
日本国内の生活者に対して、従来モバイルやPCのみならず、最近注力をしているDOOHや、コネクテッドテレビなどを通してしっかりと広告を配信するということができる技術基盤を構築していくことに取り組んでいきたいと考えています。
谷本氏:今回のTVBridgeのリリースは、お陰様で従来の商品リリースに比べても圧倒的に多くの反響をいただいています。我々はこの商品を通じてテレビとデジタルとの融合による相乗効果施策を実現したいと考えています。そのようなニーズをお持ちの広告主や、広告代理店様からは、この商品を取り扱いたいというお声を多くいただいております。
市場には同様の機能を持つプラットフォームはありますが、これは一部の会社のための利用に限定されています。我々はこの取り組みをよりオープンに提供していくことを考えています。
このデータセットの可能性はコネクテッドテレビの普及とともにますます増えていくということです。このデータはユーザーからパーミッションを取ったデータであり、視聴行動と個人とを紐づけないものであり、マーケティングでの活用において非常に有効なものとなり得ます。この取り組みを機に今後色々な展開があると思っています。まだ我々が想像しないようなアイデアや取り組みが生まれてくることも期待しています。
ユーザーにとり最適なターゲティング広告を追求していくと、データの利活用というところにたどり着きます。ただし利活用の仕方はレギュレーションやユーザーの心地よい広告体験を最優先したうえで行われるべきです。これに最大の配慮をしつつ今後この新しい商品を強くしていきたいという想いを持っています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。