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デジタルで創るライブエンターテイメントの新しい価値[インタビュー]

CyberZは、デジタルライブエンターテインメントの市場調査を実施し、先日2024年までの市場規模予測を公表した

調査結果では、2024年におよそ1000億円規模に達すると予測している。調査結果とその背景について、同社代表取締役社長 山内 隆裕氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下智之)

 

 

デジタルライブエンタメ市場は予想を遥かに超える勢いで急拡大

 

 

 

―今回デジタルライブエンターテインメント市場の調査を実施された背景と、調査結果のご解説をお願いいたします

調査を元々したかったのはコロナがあったからではありません。ネットでのエンターテインメントがどのくらいあるのかと常々考えておりました。リアルでのライブエンターテインメントは、時間の制約があります。子育てをしている方だと一番忙しいタイミングと重なってしまったりします。海外に居住している方も、見ることができません。ライブ主催者側も、ライブをやりたくても会場が取れないということがあります。色々とある中で、オンラインでどのようにやったらいいのかということを、ずっと思っていました。

そのようなときに新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。アーティストの方も稼ぐ手段がなくて困ってしまったということを聞くことも多くなりました。

そこで、この産業自体がどのような構造になっているのかが知りたいと思うに至りました。

市場は予想を遥かに超える勢いで、急拡大すると見込まれております。コロナウイルス感染拡大の影響により、業界の皆さまの経営の先行きが不透明な中で、アーティストの方は厳しい環境下で岐路に立たされていることを感じております。

オンラインでライブビジネスをどのように成功させるかという方法はまだ確立されておらず、試行錯誤しながらもいい形ができるようになるといことなのかなと、市場調査を経て感じたことです。

 

―貴社が、この領域が拡大すると予期されたのはいつ頃でしょうか。また、どのようなことがきっかけでしょうか?

アプリとかスマホの可処分時間が長くなり、テレビをそれほど見なくなって、エンターテインメントに触れることに対して、ユーザーは敷居が低くなっているのではないかと感じていました。いいコンテンツであれば、PPVモデルであっても伸びているということがあるなかで、PPVモデルでたくさんのコンテンツを提供しているネットのサービスはあまりないということを皆で思っていました。

もともとはABEMAやSUPERLIVE by OPENRECで自社がこれまで保有していた価値をコンテンツをPPVモデルで提供をすることができないのかと考えておりました。

その後コロナウイルスの感染拡大により、このPPV機能をデジタルライブエンターテインメントで使えないかというお問い合わせが相次ぐようになりました。ちょうど今年の3月から4月頃にかけてのことです。

 

 

代替手段から、デジタルならではの新しい価値創りへ

―アーティスト、ライブ主催者は、ライブのデジタル配信について、現状どのようなスタンスなのでしょうか?

事務所様の方針がそれぞれあると思います。今回の予期せぬ事態への一時的な代替策として使うというスタンスのアーティストさんもいらっしゃれば、デジタルならではのバーチャルな空間に最適化させていこうというスタンスのアーティストさんもいらっしゃるかと思います。

 

―デジタル化をするにあたりアーティスト、ライブ主催者はどのような課題を持っていますか?

盛り上げ方がわからないという点が挙げられるのではないでしょうか。

ライブならではの迫力が伝わりにくいなどにより、結果としてブランド価値を既存しかねないという課題を感じている方もいらっしゃるかと思います。

一方でこれをチャンスととらえ、デジタル上でクオリティーの高いライブをすることに取り組み始めている方もいらっしゃり、例えばLDHさんのライブオンラインの活動は、ある種デジタル上で新しいブランドを作ってしまおうというような動きがとても早く、素晴らしいクオリティーです。

デジタルで提供する場合、チケットは通常と比べると低く設定されるケースが多いですが、多くのユーザーを動員することでビジネスとしても大成功を収めたケースも出てきつつあります。

デジタル上で完結してしまうと、参加者にとってはリアルなライブと比べると、思い出が残りにくくなります。ですのでその代わりに、オンライン上で参加者とアーティストが一緒に打ち上げが出来たり、先着や抽選でリアルイベントのチケットを贈呈するなど、何か特典を付けるような仕組みを、ネットビジネスっぽく作っていくのもいいのではないかと考えています。

 

―ユーザーはデジタルライブをどのような端末で視聴するケースが多いのでしょうか?

大画面で観たい方が多いでしょう。ですがスマホで見ている方もいらっしゃいます。例えば、オンタイムではテレビで観て、その後アーカイブをスマホで繰り返し見るというような、ネットならではの視聴も可能です。

アーカイブ配信については、残すか残さないか、あるいはどのくらいの期間残すかなどは、アーティスト、主催者によってさまざまです。

 

 

幅広いアーティストにゼロリスクでデジタルならではのライブ収益機会を提供

―ライブアーティストや主催者は、デジタルに何を最も期待していると思われますか?

まずは収益の部分でしょうが、その他にはデジタルらしさです。デジタルにすることで、ネットを通して会場に足を運ぶことがなかなかできない方にも広がっていくことで、新たなファンの拡大にもつながります。

一方で、表現者としてもデジタルに対する期待値は高まっているでしょう。まだまだスタンダードがないので、アーティストの皆様それぞれが試行錯誤をしながらデジタルならではの新しい表現方法に取り組んでいます。

 

―貴社、サイバーエージェントグループとして、どのような取り組みができるとお考えでしょうか?またそれに向けてこの数ヶ月間でどのような取り組みをされてきたのでしょうか?

当社ではSUPERLIVE by OPENREC、サイバーエージェントグループとしては、ABEMAと、デジタルライブ配信が可能な二つのいうサービスがあります。

ABEMAは、トップアーティストの方を中心に使っていただき、SUPERLIVE by OPENRECは、トップアーティストの方にも使っていただいていますが、ライブハウスなどで活動しているアーティストで、今ライブをする場所を確保することが出来ずに困っている方にも使っていただけるようなソリューションを提供しています。

スタジオを無料でご提供したり、オンラインライブチケット購入者向けのクジ引き機能をご提供するなどの取り組みをしています。

市場調査の結果にもありましたが、デジタルライブはトップアーティスト層から普及し始めていますが、今一番困っているのは中小規模のライブハウスを運営されているような方々です。SUPERLIVE by OPENRECでは、このような方々に対して、デジタルサービスを提供する方向で拡大をしていきたいと考えております。例えば、全国のライブハウスと提携をして、そこをアーティストの方にデジタルライブ配信の収録で使っていただくというようなことも視野に入れております。今は機材も比較的安くレンタルすることもできます。

アーティストの皆様にノーリスクでデジタルライブ配信をしていただけるような環境を整備していきたいと考えております。また、デジタルならではのライブビジネスの仕組みも提供していきたいと考えています。アーティストグッズの販売の仕方も、ネットならではの方法があります。

例えばネットくじもそうですし、ライブ開催の前にグッズが参加者のもとに届くようにしておいて、当日そのグッズを身に着けて楽しんでいただくようにする。このようにするとグッズの販売も伸びていくでしょう。

また、SUPERLIVE by OPENRECではエールと呼んでいるような、各アーティストに対するオンラインギフト(投げ銭)機能もあります。これもデジタルでは主流になりつつある新しい収益化手段です。

 

 

チケット販売手法の確立で広告業界への波及も?!

―広告業界、あるいは広告会社の視点からは、この市場の成長はなんらかの関連性はありますでしょうか?

関連性はあります。今はまだ出てきていないですが、今後チケットの販売プロモーションの手法が確立されてくれば、デジタル広告への需要は伸びてくるかもしれません。リスティング広告やファン層が多くいるTwitter、Instagramなどでプロモーション需要が伸びていくことになるでしょう。一方で、デジタルライブそのものに企業がスポンサードするなど、デジタルライブの場が広告として提供されることもまた、今後は増えてくるでしょう。

 

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。