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ゲーム広告特有の課題を解決して業界の活性化に貢献-no planが開発したバーチャルサイネージ広告「hexad」とは[インタビュー]

スタートアップ企業のno planが、バーチャルサイネージ広告サービス「hexad(ヘキサ)」をリリースした。その設計思想には、ゲーム業界特有の課題に対する解決策が凝縮されているという。開発を手掛けた共同創業者2人に熱い思いを語ってもらった。

(聞き手:ExchangeWire Japan長野雅俊)

 

ゲーム開発の大きな課題とは

 

―⾃⼰紹介をお願いします。

 

岡室氏:no plan株式会社の代表取締役兼CEOを務める岡室庄悟です。前職の「⾯⽩法⼈KAYAC」の同僚である芹川と共にno planを立ち上げました。

 

芹川氏:CTOの芹川葵です。前職ではゲーム事業部にて3年ほど運用している大きなタイトルに所属していました。

 

―事業紹介をお願いします。

 

岡室氏:「固定観念にとらわれず、柔軟な企業でありたい」という企業⽬標と「もっと欲に忠実なno planな⽣き⽅ができる社会を⽬指したい」という社会的な目標を実現するため、no plan株式会社を創業しました。これまでに一般ユーザー向けのマップサービスや、事業者向けの名刺アプリの開発などを手掛けています。

 

7月末にリリースしたバーチャルサイネージ広告サービスの「hexad(ヘキサ)」には予想を超える反響が集まり、現在その対応を行っている最中です。

 

―hexadを開発した経緯についてお聞かせください。

 

岡室氏:前職でゲーム事業に従事していた芹川の知見と、当社がオフィスを共有する広告関連企業様へのヒアリングを通じて洗い出した業界課題の解決を目的として開発した広告サービスです。

 

ゲーム開発における大きな課題として、「マネタイズの難しさ」と「課⾦や広告表示などのシステムを組み込む煩わしさ」が挙げられます。「魅力的なゲームを開発してユーザーが定着してから、追加の要素に課⾦なり広告表示をする」という仕組みを構築するのがそもそも難しい。面白いゲーム設計を思いつく人はたくさんいますが、「面白いと思った後も引き続きゲームを楽しみ続けてもらい、さらに課金なり広告視聴をしてもらう」という仕組みの構築でつまづきがちです。

 

また課金処理の実装でも様々な課題があります。例えば購入ボタンの反応が遅いと連打してしまうユーザーがいる。その結果、本人は1回しか購入していないつもりなのに、2回にわたり課金されてしまうという事態が起こり得ます。そんなトラブルが発生したら、そのユーザーは二度とそのゲームに戻ってこないでしょう。だから購入ボタンを押した後にはポップアップ表示で「本当に購入しますか」という質問を通じて再確認した上で、さらには課金処理のためにサーバーと交信する時間はユーザーが待機する必要があることを示すためにぐるぐると時計が回っているようなビジュアルを表示しなければならない。このような、ユーザーへ配慮した実装に意外と時間がかかります。

 

また広告の設置にも手間がかかります。広告スペースの確保を目的としたゲーム画面のサイズ調整、インタースティシャル広告を出すタイミング設定、リワード広告視聴後のポイント付与の仕組み構築などのためにソースコードを書く必要があり、新たにソースコードを書いたら書いたで今度はバグが出て手戻りということが往々にしてあるからです。

 

大手ゲーム企業であれば、それらのノウハウを豊富に持つエンジニアを多数揃えているかもしれません。ただ駆け出しのエンジニアにとっては負担があまりに大きい。そこでノーコードで広告を設置できるサービスとしてhexadを開発しました。

 

ゲーム広告はユーザーへの押し付け?

 

―ノーコードで広告を設置できると、エンジニアの作業負担はどれほど減るのでしょうか。

 

岡室氏:hexadでは、直感的な操作で広告オブジェクトをゲーム内に設置することが可能です。ノーコードなので、「広告を一日に1回のみ表示する」「広告表示後にポイントと交換する」といったロジックを考慮する必要がありません。バナー広告のように別途広告枠を設ける必要なく、ゲーム画面内のあらゆる場所に立て看板のような形式で広告を設置できるので「バーチャルサイネージ広告サービス」と呼んでいます。

 

このツールがあれば、学生エンジニアやプログラミング初心者がやっとの思いで作り上げたゲームにも、容易に広告枠を新設することができます。熟練したエンジニアにとっても、広告設置作業にかかる手間が軽減されることでユーザービリティの向上に割く時間を増やせるので、ゲーム業界全体の活性化につながるはずです。

 

―ゲーム内広告は「ゲームの世界観を壊す」という不安を覚える事業者も多いと思います。

 

岡室氏:むしろ全画面を占有するインタースティシャル広告やプレーの一時中断を余儀なくされるリワード広告の方がゲームの世界観を壊しかねない。現在のゲーム広告は「無料で使わせているのだからこの広告を見ろよ!」という押し付けとなっている感があります。

 

ゲーム画面内の空きスペースにどこでも広告を設置できるhexadであれば、画⾯を専有することも、プレーを中断させることもありません。ゲームの世界観とユーザー体験を壊すことなく、広告を表示することができると思います。

 

芹川氏:またとりわけ今後はVRゲームが普及していくことが予想されます。VRゲームの最中にインタースティシャル広告などが出ると、VRの世界観がぶち壊されてしまうので、既存の広告形態の全面的な見直しが求められることになるはずです。hexadはVRゲームの世界観を壊さない広告形態としても需要があると見込んでいます。

 

―ただ画⾯を専有することも、プレーを中断させることもなければ、表示された広告の視認性は低くなりますね。

 

岡室氏:当初は私達もそう考えていました。ただし、ゲームの種類と設置方法によっては視認性が低下せず、むしろ視認性が上がるという調査結果が出ています。

 

芹川氏:加えてゲームが中断しなければ、ユーザー側はネガティブな感情を持ちにくいので、ブランド毀損は起こりにくいと思います。

 

現実世界を舞台としたゲームとの相性は抜群

 

―広告販売はどのように進めていく予定ですか。

 

岡室氏:少なくとも当面は自社で広告販売を行います。広告主様と直接的に対話することでサービスを改善し、ある程度まで広告案件が集まった後で、媒体つまりゲーム企業に対して導入を働きかける予定です。最終的にはDSPを提供する事業者様などへ広告枠を開放し、出稿数を増やしていければと思います。

 

―広告の効果指標としては何を重視していますか。

 

岡室氏:現時点では広告がユーザーの視界に⼊った秒数を⼀番の指標とさせていただいています。将来的には広告の効果を⼀層⾼めるために、広告を⾒た「⻆度」「距離」「時間」で成果報酬の重み付けを変えていく予定です。

 

―「コロナ禍で屋外広告の需要が減ったからバーチャル広告に出稿する」という動きはどれほどあると思いますか。

 

岡室氏:一般的な屋外広告でリーチできる層とhexadのリーチ層はやや異なるという印象です。後者はやはり20~40代のゲームユーザーが主となるでしょう。

 

ただ例えば屋外広告とhexadがタイアップする可能性はあると思います。例えば日本国内のユーザーが敵を倒した分だけ、屋外広告に表示されたキャラクターのレベルがアップするなどの設計にすれば、ゲームのユーザーが増え、新たなキャンペーン施策の一つとなるでしょう。

 

―hexadはどのような広告主またはゲームと相性が良いと思いますか。

 

岡室氏:広告主様側はプロゲーマーのスポンサー企業などが高い関心を持ってくれるのではないかと期待しています。また媒体側に関しては、FPS系やオープンワールド系のゲームと相性が良いのではないでしょうか。

 

芹川氏:独特の世界観を重視するファンタジー系のゲームはhexadのようなゲーム内広告の導入には抵抗することが予想されます。一方の現実世界を舞台としたオープンワールド系ゲームは、ゲーム内に看板広告が立つことでより現実に根差した世界観を構築できる可能性があります。

 

岡室氏:広告の配信先については、iOSやAndroidなどのゲームアプリ、WindowsやMacといったPCゲーム、OculusなどのVRプラットフォーム、PlayStationのようなゲーム専用機で配信できます。

 

ゲーム市場で成功すれば、オンラインカンファレンス市場などにも横展開できると考えています。

 

―一般的なサイネージ広告はブランディング目的の出稿が多い印象ですが、ゲーム内広告となると獲得系の広告が大多数を占めます。ゲーム内のサイネージ広告であるhexadはどちらの目的により適していると思いますか。

 

岡室氏:まずは新商品や新サービスの認知を広げるためのブランディング目的が主になると見込んでいます。ただ将来的には、例えばゲーム空間に設置した広告主様の商品をキャラクターが利用できるオブジェクト広告や、広告をクリックしたらクーポンを発行するといった仕組みも開発していきたい。ただこれらの仕組みを実装するには、さすがにノーコードというわけには行かないかもしれません。ゲーム企業様側の課題を掘り下げながら、これらの取り組みも合わせて進めていきたいです。

ABOUT 長野 雅俊

長野 雅俊

ExchangeWireJAPAN 副編集長

ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。