LINEがCX創造をテーマに18講演を開催―OMO型販促は実行フェーズへ
LINE株式会社は6月29日、新たな顧客体験の創造をテーマとしたオンラインイベントである「LINE CX DAY」を開催した。
OMO型販促は構想段階から実行フェーズへ
コロナウイルスの感染拡大抑止を目的とした外出自粛を受けてオフライン活動が制限された結果、様々なサービスのデジタルシフトが実現。
コロナ禍の終息後もオンラインサービスは引き続き積極的に活用されることが見込まれていることから、とりわけデジタル上での顧客体験(CX)は今後ますます重要になる。
そこでLINE社は、大手広告主や広告会社のCX関連施策担当者を登壇者として招聘し、総計18セッションに及ぶ講演をオンラインで実施。LINEを活用したCX構築及び改善の最新事例を紹介した。
LINEの執行役員として広告ビジネス事業を担当する池端由基氏は、基調講演を通じて、8400万人(2020年3月時点)のユーザーを基盤とするLINEのプラットフォームは、64社のテクノロジーパートナー企業と連携しながら、API、AI技術、LINE公式アカウントといったCX構築及び改善機能を装備していると説明。これらの仕組みを通じて「人々の生活を豊かにする感情的な価値や経験」を提供していきたいとの考えを述べた。
デジタルマーケティングにおけるCXはこれまでオンライン上の利便性や操作性を意味することが多かったが、あらゆる場所に持ち歩くことができるスマートフォンの普及により、近年ではオフライン行動にまで対象領域を拡張。日本国内で圧倒的な利用率を誇るLINEアプリを通じて、オフライン領域でデジタルマーケティング施策を展開する事例が出始めている。
これらLINE社による取り組みの中で、とりわけ注目されているのがOMO型販促。同社OMO販促事業推進室室長の江田達哉氏は既に「構想段階から実行フェーズに入っている」との表現を通じて、オンラインとオフラインを融合させたマーケティング手法が確立されつつあると示唆した。
カスタマイズを容易にするAPI機能の提供開始
LINE社が提供する包括的なOMO型販促機能の一つが「LINEセールスプロモーション」。一般的には、ユーザーが購入商品やそのレシートに記載されたQRコードをLINEアプリで読み込むことで、後に景品と交換できるポイントを取得できる仕組みなどを整備している。企業側は例えばウェブ上の広告閲覧から店舗での購買行動に至るまでのユーザー行動をつぶさに観察できるだけでなく、プッシュ通知などを通じて獲得ポイント数に応じたコミュニケーションをユーザーと取ることができる。
江田氏によると、LINEアプリを介することでCX創造に関わる新規システム構築作業をできる限り省略したこの仕組みは各企業から高く評価された一方で、十分にカスタマイズができないことが課題となっていたと説明。そこで容易にカスタマイズを実現できるAPI機能の提供に踏み切ったと発表した。
この「Sales Promotion API」を活用した斬新な事例が既に次々と生まれており、代表的なものとしては、商品の購入と引き換えに獲得できるポイント数をランキング表示する「ランキングマイレージ」や、人気アニメ「名探偵コナン」が出すクイズに正解するとポイント数が倍増されるキャンペーンなどを実施済み。これらマーケティングキャンペーンをゲーム化することでCXを向上させた実践例が紹介された。
販促市場の変革をもたらすか
LINEのプラットフォーム上にデジタル販促ソリューションを開発してメーカーに提供している株式会社博報堂DYメディアパートナーズの窪田充氏は、アプリマーケティングで先行する中国と日本の違いについて述べた。
同氏によると、中国では効率化を目的としてアプリマーケティングが実施されることが多く、「ワクワクする買い物体験」の提供方法においては日本独自の発展形態があり得ると発言。
また株式会社サイバーエージェントにLINE活用に特化したOMO革命本部を創設した高橋篤氏は、今後は店頭など買い場に近い場所におけるユーザーとのコミュニケーションが鍵になるとの考えを述べた。
高橋氏は現在、LINE社と共同で実証実験を実施中。LINE Beaconを活用することで、店舗を訪問したユーザーに限定して配布するクーポンを使ったキャンペーンの効果を検証している。
ただ「店頭でマーケティング目的にユーザーとのコミュニケーションを取る」という習慣が定着していない現段階においては課題も多い。例えば、店内では買い物に集中しているからか、スマートフォン上に表示されたメッセージに気付かないユーザーが多い。
そこで店内のポスターやデジタルサイネージを通じて店内限定のキャンペーンを実施中であることを伝えるなどの対応を合わせて取る必要があるという。
高橋氏は、広告の閲覧から購買という広告の最終的な成果に至るまでの一連の行動を一つのユーザーIDごとに把握することができるようになれば、巨大な規模を持つ販促市場が一気に変革し得ると指摘。LINEを通じたOMO施策の発展性に対して大きな期待を示した。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。