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TVer PMPが、動画広告市場で目指すこと [インタビュー]

写真1:男性 4名

在京の放送局5社を中心に立ち上げられた動画配信サービスTVerは、今年11月に運用型広告としてインストリーム動画広告の買い付けが可能なTVer PMPを立ち上げた。

同サービスの基盤は、フリークアウトが提供するパブリッシャー向け広告プラットフォームRed for Publishersである。

同サービス立ち上げや両社の提携の背景や、取り組みの内容や今後の取り組みについて、プロジェクトにかかわるメンバーの方々にお話を伺った。冒頭写真を拡大

聞き手:ExchangeWireJapan 野下智之


インタビュー対象者

株式会社フジテレビジョン
総合事業局コンテンツ事業室
部長職
 野村 和生氏

株式会社テレビ東京
営業局営業マーケティング部
主事
 中島 和哉氏

株式会社フリークアウト
営業本部
本部長
 鈴木 司氏

株式会社フリークアウト
Red for Publishers Product Marketing Manager

 多湖 大師氏

TVerのインストリーム動画広告を運用型で

自己紹介をお願いします

野村氏(フジテレビジョン) フジテレビの野村です。FODの事業責任者をしています。また、TVerのPMPの検討メンバーに参画しています。大手通信会社を経て、2005年よりフジテレビに参画し、CS放送やゲーム事業をやりながら今に至ります。

中島氏(テレビ東京) テレビ東京の中島です。大手ポータルサイト、動画配信サイトを経て2015年よりテレビ東京グループでキャッチアップサービスやデジタルマーケティングに携わっています。IT出身ということもあり、2016年10月ごろからPMPセールスの可能性を提唱、2018年に在京5局でトライアルセールスを実施した時はリーダーを務めました。今回のTVer PMP検討メンバーにも参画しています。

多湖氏(フリークアウト) サプライサイドのビジネスとして、Red for Publishersという基盤を使い大手媒体社の皆様とビジネスをご一緒させていただいています。今回はそちらのプロダクトを活用し、放送局の皆様の事業を伸ばすためにご一緒させていただいています。

鈴木氏(フリークアウト) 私は現在当社の営業部門の責任者と事業開発を担当しています。事業開発の側面で、今回放送局様とお取り組みをさせていただいています。

改めてTVerの概要と、今回のTVer PMP立ち上げについてお聞かせください

写真2:野村氏(フジテレビジョン)

野村氏 TVerは2015年10月に立ち上げたサービスです。元々は各局がそれぞれ独自に動画配信サービスを提供していましたが、在京5局で話し合いをして、共通の動画配信プラットフォームとして立ち上げ、動画広告ビジネスを開始しました。

元々動画広告は純広告として各放送局が販売してきました。放送コンテンツや広告の配信機能は現在も各放送局にあります。

一方、デジタル広告の市場においては多くのシェアを占める運用型広告の需要も取り込みに行きたいという思いもあり、5局で議論を重ね、1か所にインストリーム動画広告の在庫を出し合うことでTVer PMPを立ち上げることになりました。

TVer PMPは、在京5局が自社で持つプレミアムなコンテンツのインストリーム動画広告を取りまとめて立ち上げたPMPです。サービスの基盤にはフリークアウト社のRed for Publishersを使っています。これを国内外のDSPと接続することで、広告主様に運用型広告商品をご提供していこうという取り組みです。

これまで広告主や広告代理店がTVerに動画広告を出稿するには、放送局5社それぞれと取引をする必要がありました。今回TVer PMPが出来たことで、広告主様、広告代理店様には一括で、わかりやすく便利に出稿いただけるようになりました。

各放送局のインストリーム動画広告を一つに

広告プラットフォームの基盤は全てフリークアウトさんが提供しているということですね

多湖氏 はい、その通りです。SSPとしてのTVerの広告配信基盤になっており、デマンド側は外部のDSPと順次接続をおこなっております。直近では例えば、サイバーエージェントグループ・AJAさんの「AJA DSP」、米国大手DSPの「The Trade Desk」との接続をしました。

中島氏 今までTVerは、パブリッシャーとしてのSSPを持っておらず、デマンド側(DSP)のバイヤーは、各放送局の持つインストリーム在庫を個別に購入する必要がありました。ですが今回、各放送局のインストリーム在庫をフリークアウト社のSSPに集約して販売することになったため、デマンド側は1回の申込で在京放送局5社と広告取引を行うことが可能になりました。これにより、放送局5社にインストリーム広告を出稿する際において、デマンド側は取引にかかる労力を大幅に削減することができるようになります。

TVer独自のPMPを作った理由をお聞かせください

野村氏 テレビ広告市場が横ばいで推移する一方で、デジタル広告市場は急速に伸びています。そのなかで市場が最も伸びている動画広告の需要をしっかりと取り込んでいくために、運用型広告として提供をすることが必要であるという認識のもと、この取り組みを始めました。

写真3:中島氏(テレビ東京)

中島氏 TVerにおける運用型広告は2018年から大手広告会社様が構築されていたDSP・SSPに、各放送局の広告在庫を拠出し、一部において取り組みを始めておりましたが、今回、フリークアウトさんにご協力をいただき、TVerというメディアとしてもSSPをご用意し、運用型広告を簡単に申し込める環境をつくることになりました。

野村氏 このような取り組みができるようになったのは、おかげさまで多くの広告主様にTVerに出稿いただいたことで、事業規模が順調に伸びて一定の規模に達したからです。

先日、TVerのアプリダウンロード数も2300万に達しました。平均再生時間も23~24分くらいになります。今はスマホの画面の中で、SNSやゲームなどと時間の取り合いになっています。この時間を1000万のMAUの方の23-4分の時間を占有させていただいている中で表示される動画広告というのは、非常に価値が高いと自負しております。

動画広告のPMPを一緒に作り上げていく

TVerとフリークアウトがこのプロジェクトを一緒に取り組むことになったのはなぜですか

中島氏 広告在庫の収益化を図るうえで、純広告以外の選択肢には既存のアドネットワークに参加するという形態も考えられたのですが、TVerにしかない広告価値をご提供するには、PMPの仕組みを活用することが最適であると考えました。

TVerのインストリーム広告は安全でプレミアムなものです。このような特性を持つ広告の市場を新たに作っていくことができるのではないかということで、私たちTVerを主語にしたPMPを立ち上げることにしました。

そして、そのための広告プラットフォーム基盤を提供いただくために複数の会社とお話をさせていただいた中で、フリークアウトさんはアドテクノロジーの知見やノウハウをお持ちで、これまでも媒体社とのアライアンス事業も数多く手掛けておられました。これらの総合的な判断の結果、ご一緒させていただくことになりました。

写真4:鈴木氏(フリークアウト)

鈴木氏 フリークアウトとしましては、もともと媒体社に対して個別に広告収益基盤をご提供してきましたが、数あるビジネス機会の中で、成長著しいインストリーム動画広告のビジネスに携わることができる機会は日本においてはなかなかありません。

大手動画共有サイトが大きなシェアを持つ市場において、TVerの動画広告ビジネスの拡大に向けて、当社がお手伝いをできることは数多くあります。

放送局の皆様に当社を選んでいただけるかどうかは最後まで分かりませんでしたが、全力でご提案をさせていただき、パートナーとして選んでいただけました。

野村氏 「一緒に作り上げていこう」というメッセージ性をフリークアウトさんからは強く感じることができました。

動画広告のPMPというものがほとんど世の中になく、いわば未知の世界です。日本のインターネット広告市場は海外と比べると広告単価の水準が低い状況です。そのような中で、一緒にビジネスを作り上げていこうという強いメッセージを得たことも、TVerとしてご一緒させていただくことになった理由の一つであると感じております。

TVer PMPの基盤として使われているフリークアウトさんのRed for Publishersについて、詳しくお聞かせください

写真5:多湖氏(フリークアウト)

多湖氏 立ち上げたのは2017年の9月です。近年のデジタル広告業界における、パブリッシャーのマネタイズ手法は、アドネットワーク、そしてDSPという流れできましたが、ほとんどの場合メディアは「One of Them」という位置づけとされてきました。

日本の場合は特に、媒体社の価値を知らせる方法が少ないと感じておりました。「One of Them」ではなく、媒体社個々に持つ広告プロダクトとして提供を出来るようなマネタイズプラットフォームとして、Red for Publishersをリリースしました。

私はある程度の規模を持つ媒体社が、自社の広告商品としてしっかりと提供することで、媒体社の価値をしっかりとデマンド側の方にお伝えするという活動をお手伝いしています。機能としては、アドプラットフォームを作るための基盤を全てご提供しています。

また、広告配信時のクリエイティブは全て事前審査制になっており、媒体社側がコントロールできるようにしています。これらのプロダクトの思想は、TVerの考え方に通じるところがあると考えております。

今回、TVer PMPの提供が開始されたことは、大きな意味があると思っています。海外で見られるPMPは、媒体社側が持つPMPが主流ですが、これまで日本ではどちらかというとデマンドサイド側の冠がついているという状況が多かったです。しっかりとTVerの冠が付いたPMPを世の中に出すということは、日本の市場において価値をデマンド側へ伝えるという意味で大きなインパクトがあると思っております。

TVerとフリークアウトが一緒に立ち上げることが決まってから、実際の稼働までにどのくらいの時間を要したのでしょうか?

多湖氏 正式にお手伝いすることが決定してから立ち上げまでは3か月ほどです。一番時間を要したのはDSP側とのつなぎ込みです。元々Red for Publishers自体にSSP機能がついており、一般的なマーケットプレイスの機能については多くを改修することは不要でした。放送局様側との接続については、トライアルの段階でほぼ課題をクリアしていました。

中島氏 放送局側としては、TVerというプラットフォームをどのように成長させていくのかという話の中に、今回の話があります。各局がお互いに放送コンテンツを出し合って集客を一緒にやりましょうというところからは、更に一段階進んでセールスを一緒にやりましょうという話になるので、各社が同じ方向を向いてやるというところまでには、時間もかかりました。

TVer PMPを始めることにより、放送局が自分たちで販売している純広告を毀損するのではないかという懸念の声も上がりました。例えば、TVer PMPを買いたいという広告主が増えると、放送局の純広告を買いたいというお客様が減るのではないかというような議論にもなりました。このような議論は今後も起きるため、トライアンドエラーを繰り返しながら進めていくことになるでしょう。

純広告ではドラマパッケージやバラエティーパッケージというように、コンテンツのジャンルごとに作ったパッケージがセールスの主流になっていましたが、PMPの場合は、ドラマ好きかつ旅行好きのユーザーに広告を配信することが出来るようになります。

データの使い方は、昨今厳しくなっており、私たちも慎重に議論していく必要がありますが、このような配信方法についても勉強をさせてもらい、ゆくゆくは放送ビジネスにも持ち帰っていきたいと思っています。

ターゲティングに活用することが出来るデータは、DSP側のもの、あるいはTVer側のもののどちらになりますか?

中島氏 現在のところでは、DSP側で連携しているDMPデータを活用してターゲティング配信を行うことが可能です。TVerでもより便利にサービスをお使いいただくために、ユーザーの皆様から性別、生年月、郵便番号といったアンケート情報を取得しています。

野村氏 この正確な情報を、運用型広告においてどのように活かすかについては、まだこれから慎重を重ねて議論していくべきことです。

多湖氏 個人が入力した属性データをここまで大規模に保有するメディアはほとんどありません。その意味においてはとても貴重なデータですが、今後これらの使い方は議論していく必要があるのかなと思っております。

よりデジタルの強みを生かした動画広告の提供に向けて

今後どのようにビジネスを大きくしていかれますか

野村氏 まずは、広告在庫をすべて売り切りたいですね(笑)。

おかげさまで広告付き無料動画配信は今年売上が好調に推移していますが、純広告については季節変動が発生します。運用型広告に関してはその要素が少し薄れるのではないかと期待しております。在庫が全て売れていけば、今度は在庫を増やすために番組コンテンツをさらにTVerに投入していこうというような、好循環が生まれることになります。

中島氏 TVerの広告をご購入いただきやすいエコシステムを作ることが出来たと思っております。運用型広告による販売の裾野を広げることで、より幅広い広告主の方にご利用いただけるのではないかと期待しています。

野村氏 例えばTVerのデータを活用して都道府県別でターゲティングができるなど、属性データをTVerの運用型広告においてもうまくご活用いただけるような仕組みをどのように作っていくかということは、この次のフェーズで考えるべきことかもしれませんね。

鈴木氏 当社はプラットフォーマーというのが本業であるので、媒体社様の広告機会を最大化させるためのオプションとしてプログラマティック広告を開発しています。日本では「プログラマティック広告=ターゲティング広告」と捉えられがちですが、ターゲティングはプログラマティックを構成する一要素にしか過ぎません。

広告の買い方のオプションを増やしたりできることもプログラマティックの価値です。このような領域をTVer PMPにおける取組を通して放送局様と一緒に発展させていくことが出来ればと思っております。

中島氏 広告の出し方も、テレビCMの出し方と同じではなく、インターネットならではの最適な出し方について検証を進めていく必要性も感じています。

例えばテレビ放送の場合、ドラマのクライマックスに向けて視聴率が高くなります。一方でTVerの場合は再生時間ゼロ秒の時点が最もユーザーの数が多いです。テレビCMのようにクライマックスの前後にある枠に価値があるという考え方とは異なる広告の出し方があるのかもしれません。

あるいは、ドラマ本編が再生されるまでの広告をプリロールと呼び、今は15秒や30秒の尺のCMを流していますが、すぐに本編を視聴したいニーズに応えるために、プリロールに関してはより短い尺のCMを流してもいいかもしれません。

TVerを立ち上げて4年が経ちましたが、まだまだ道半ばという状況です。ユーザーの声を取り入れながら、今後もサービスを使いやすいものに改善していく必要があると思っています。

野村氏 デジタル広告の市場では、今まで広告費が媒体に正しく落ちていないというもどかしさがありました。コンテンツを作っている一次媒体にしっかりと広告費が還元されていないのが一番の問題であると思っています。TVerの成功により、しっかりと一次媒体に広告費が還流される仕組みが広がり、他の媒体でもより良いコンテンツが沢山作られて、それがインターネット中に広がればいいなと思いますね。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。