グローバル大手SSP、2020年に向けた三つの戦略と変わらない原則 [インタビュー]
グローバル大手SSPのPubMaticは、どのような事業戦略を推し進め、どのような成果を挙げ、今後どこに向かうのか。
今年11月下旬に米国ニューヨークより来日したチーフ・コマーシャル・オフィサーのJeff Hirsch氏と、今年9月にカントリーマネージャーに就任した 廣瀬 道輝氏に、グローバルと日本における同社のビジネスや、認識するグローバルと日本の市場環境についてお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJapan 野下智之)
ビデオ、CTV/OTT、アプリの三チャネルを強化
―自己紹介をお願いいたします
ジェフ氏 チーフ・コマーシャル・オフィサーのJeff Hirsch(ジェフ・ハーシュ)と申します。1996年からデジタル広告領域における様々な企業で働いてきました。以前の仕事では日本初のDMPの構築にも携わり、日本の業界の方とビジネスをご一緒させていただいた経験もあります。
廣瀬氏 今年9月に日本のカントリーマネージャーに任命されました。PubMaticには2014年に参画し、営業からキャリアを開始して現在に至ります。既に6年にわたりプログラマティックに携わっておりますので、日本のマーケットの現状は熟知しておりますが、今までは主にWeb領域が中心でした。今後はアプリやビデオの領域にも展開してまいります。
―まずはグローバルのビジネスの現状についてお聞かせください。
ジェフ氏 グローバリーと日本の戦略は、ほとんど変わりはありません。2019年はビデオ、CTV/OTT、アプリの領域を中心に注力してまいりました。
また、バイサイドとの関係構築にも力を入れてまいりました。SPO(Supply-Path Optimization:サプライ・パス・オプティマイゼーション)ということで、エージェンシーとパブリッシャーとのより効率的かつより良い関係構築を最適化することを支援してまいりました。
グローバルSSPは、バイサイドと向き合う
―バイサイドとの関係性構築に注力を入れた背景はどのようなものでしょうか?
ジェフ氏 これまでPubMaticは、サプライサイドのパブリッシャー向けビジネスに注力してまいりました。しかしパブッシャーの皆様の収益を高めるためには、広告のバイヤーの方にも私たちのことをよく知っていただいて、より良い形でビジネスができるように注力すべきであるとの認識のもと、注力を始めました。
広告主やエージェンシーの方々に対して、サプライチェーンの全体像をご理解いただきたいと思っています。広告のバイヤーの方々がなかなか知ることのできない広告在庫に近いところに私たちはおりますので、透明性を高め、あるいはオークションダイナミックスを活用することで広告バイヤーに対する価値提供を高め、サプライサイドへの還元することができると考えて取り組んでおります。
―SPOについて、もう少し詳しくお聞かせください。具体的にどのようなことをされているのでしょうか?
ジェフ氏 主な取り組みとしては、バイサイドに対する私たちのデータの提供をしています。
例えばログレベルのデータやオークションダイナミックスのようなデータを、ご提供に提供しています。
日本とは少し状況が異なりますが、グローバルではSSPが広告主やエージェンシーから選ばれることを目指す取り組みが進んでいます。
かつては広告主やエージェンシーにとってのパートナーはDSPのみであるとみなされてきましたが、今ではSSPもパートナーです。
―アドバタイザーやエージェンシーから指名されるようなSSPを目指しているということですね。
ジェフ氏 まさにその通りですね。
グローバルの戦略を日本にしっかりと合わせて展開
―日本におけるビジネスはどのような状況でしょうか?
廣瀬氏 基本的にはグローバル全体の戦略に合わせた戦略をとっています。
具体的にはビデオやアプリの領域においては、当然ですがグローバルと同じプロダクトを展開しておりますので、これをしっかりと日本のマーケットに合うものとしてローカライズをしていくところに力を注いでおります。
先ほどSPOについてお伝えしましたが、グローバルでは5大エージェンシーに直接ディールを持ちかけて、PubMaticを選んでいただくというスキームを取っていますが、日本において大手のエージェンシーと私たちが直接SPOをするかというと、そもそも彼らがプログラマティックにそこまでの投資をまだしていない段階です。
ですので、現実的には日本においては国内のDSPと直接ディールを結んでいくというところが、ファーストステップになります。そして将来的にはより上流にアプローチをかけていくということを考えております。
日本においてもデジタル広告市場の市場は成長を続けていますが、そのうちプログラマティックの予算構成比はまだ低い割合にとどまっています。
ジェフ氏 私が感じている日本とそのほかの国の大きな違いの一つは、プログラマティックへの対応が遅れているということです。一方で、FacebookやGoogleへの依存度合いが高いということ。もう一つはビデオやCTVなどの広告の取り扱いボリュームが異なるということです。他の国の市場でもある程度はみられることですが、日本の放送局はデジタル化やプログラマティック化に対してまだまだ保守的であるという印象を受けました。しかし、他の国も徐々に進みつつあるので、日本においても今後の展開には期待しております。
―ビデオとアプリの領域では具体的にどのような取り組みをしてこられて、ビジネス上貴社にどのようなプラスのインパクトがもたらされましたか?
廣瀬氏 日本では、今年prebidベースのIn-App SDKを初めて提供を開始しました。これは競合を含めて私たちが初めての取り組みです。
次にビデオに関してですが、日本についてはご存じのとおり、(ウォールドガーデン外における)インストリームビデオ広告の需要がまだまだ限られていますので、まだこれから取り組むべき領域です。
いわゆるオムニチャネル戦略という形で、ケーブルテレビやOTT、ビデオ、モバイル、ディスプレイの全てをワンプラットフォームで対応できるというところが、私たちが注力しているところです。
ジェフ氏 2019年のビデオやアプリの領域においてグローバル全体の売上は二倍に拡大しました。2020年においても、同水準の高い成長を期待しています。
プログラマティックが、アプリ内広告にブランドを連れてくる
―これから注力されていくアプリの領域において、パブリッシャーはどのような課題を持っており、それに対してどのようなソリューションを提供されていくお考えですか?
ジェフ氏 私が思うアプリ領域の課題は、アプリのプログラマティック広告に対する信頼性というところです。広告主はアドフラウドに対する懸念をまだまだ持っています。私たちがやるべきことは、モバイルアプリパブリッシャーと直接連携を取り、バイヤーとつなげていくことにより透明性を高めるということが求められております。
そのような信頼構築をすることにより、モバイルアプリの市場が発展しますし、ブランドもモバイルアプリに対する広告出稿を増やすのではないかと思います。
廣瀬氏 日本においてはアプリ内広告のバイヤーがプログラマティックに出稿する割合は16%に過ぎないですが、ここに伸びしろがかなりあるのではないかという認識をしています。
パブリッシャーサイドの視点でいうと、アプリ内広告のマネタイズ手段はアドネットワークに偏ってきました。これは、Web領域における5-6年前の状況ととても似ています。
ですので、この部分をもう少し引き上げるために、ヘッダービディングのソリューションをアプリ内広告にも投入してプログラマティック広告と接続することでパブリッシャーのマネタイズをリフトアップさせることができると考えています。
また、今まではアプリ内広告に出稿する広告主はアドネットワークによるインストール広告が主流でしたが、新たにブランド広告主を連れてくることができるのがプログラマティックであるという側面もあります。このあたりが私たちにとってはビジネス機会となります。
―グローバルの市場についてお聞かせください。日本でもプライバシー保護に対する対応が厳しくなりつつありますが、GDPR施行後の欧州の動向についてお聞かせ下さい。
ジェフ氏 GDPRは、消費者にとってとても重要な動向です。私たちはプライバシーを守る必要があります。パブリッシャーは消費者がデータを使ってもよいと意思表明をした場合においてその活用を許されるということになります。このことはデジタル広告業界においてもとても重要なことです。
一方でGDPRの枠組みは、パブリッシャーにとっても良いことです。消費者からの許諾を得られれば引き続きそのデータを活用することができるようになります。これはマイナスではなく、消費者にとっても、パブリッシャーや広告主、私たちにとっても良いことであるとポジティブにとらえるべきことです。
一方で、私たちが考えるべきは、どのようにユーザーのIdentityを確定するソリューションを作るべきであるかということです。
ウォールドガーデン以外のところに関しても、そのようなデータを活用しつつ、広告効果が出る仕組みをしっかりと作ることが大事であると思っております。
―グローバルのSSP市場の動向と、その中でPubMaticが目指す方向性についてお聞かせください。
ジェフ氏 No.1になることです。笑
将来的には、SSPの数はより少なくなっていくでしょう。SPOの進展とともに、エージェンシーが直接SSPを選ぶようになってくることで淘汰が進んでくるでしょう。
私たちは、業界のリーダーを目指しています。PubMaticは、日本を含め、グローバルで13のデータセンターを持っており、成長を続けています。過去7年間収益性を保っており、今後もトッププレイヤーであり続けます。
―今後のSSP間の市場競争において、どのようなことが重要になってくると思われますか?
ジェフ氏 まさに今私たちが戦略として申し上げたことと重複しますが、ビデオ、モバイルアプリ、そしてCTV/OTTが成長をけん引するポイントになってくると考えております。
2020年にかけてはこれらの領域で差別化を図ることが、競争の源泉となるでしょう。私たちは、モバイルアプリパブリッシャーと直接連携していくというところが強みです。そしてテクノロジーとして、OpenWrapというものを私たちが持っているということもまた、市場競争において大きなアドバンテージとなります。
テクノロジーに関して申し上げると、私たちはヘッダービディングでOpenWrapというSDKを開発し、これを活用してまいります。モバイルアプリ、CTV/OTT、そしてビデオという3つの分野において、この成熟したテクノロジーを提供していくことができるのが、私たちの強みです。
日本のメンバーのような優秀な人材もまた、競争力の源泉ですね。
廣瀬氏 2019年はグローバルで100名の新規採用を行いました。また、日本にいるチームのメンバーのうち、キャリアが最も短いメンバーでも3年間在籍をしています。そして新たに2名のメンバーが、12月に加わります。
―PubMaticは、DSPを持つことは考えていないのでしょうか?
ジェフ氏 私たちはSSPに特化することで、バイアスなく、そして客観的な視点でパブリッシャーに対する最適な施策ができると考えております。
廣瀬氏 このスタンスは一貫していますね。私が入社した6年前から、ずっとDSPは持たないというスタンスを貫いています。デマンド側へのアプローチにもフォーカスをしています、パブリッシャーフォーカスというベースはずっと変わることはありません。これは、当社にとっての原理・原則です。
※CTV: Connected TV (コネクテッド TV)インターネット接続されているデバイス
※OTT: Over The Top (オーバー・ザ・トップ) 従来のインフラに頼らない、インターネットによるコンテンツ配信
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。