成長の軸は量から質に-サイバーエージェント、2019年の動画広告市場-
サイバーエージェントは、動画広告市場規模推計・予測を公表した。同調査は今年で6回目となるが、この間動画広告市場の成長は著しく、2019年の市場規模は2,592億円と推計をしている。
マーケットリーダーは今、この市場をどのようにみているのか。サイバーエージェント インターネット広告事業本部統括の淵之上 弘氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
マーケットの過半数が動画
-動画広告市場の直近の市況についてお聞かせください。
当社がお取引頂いている広告主のみなさまにおいては、「ディスプレイ広告の過半数近くが動画」広告に変化していると感じています。
最近ではお客様や社内でクリエイティブの会話をする際にも、クリエイティブ素材は動画であることが前提で話が進むことが多くなっています。
2019年のポイントは短尺化、配信アルゴリズム、良質なコンテンツ
-動画広告業界全体における今年の大きなトピックスを挙げて戴けないでしょうか?
一つ目は動画フォーマットの短尺化が進んだことです。ユーザーにとっても動画が普通になってきている今、広告はユーザーの邪魔になってはならないと考えています。短い動画でいかに、ユーザーにメッセージを伝えられるかということをより意識するようになりました。
二つ目は広告プラットフォームの配信アルゴリズムの変化です。ユーザーの興味関心の細分化が進み、それに伴って広告プラットォーム側のアルゴリズムも変化しました。興味や関心が薄いとプラットフォームに判断されたユーザーには、動画の配信そのものがされなくなってきています。
このことは、私たちマーケターにとっても大きな影響があると感じています。プラットフォームを通して自身に届く情報は、さまざまな情報に応じて高度に最適化されるようになると、自分とは異なる属性の人たちの周りでどのようなことが流行り、そして共感を呼んでいるのかが見えにくくなります。今まで以上にその傾向が強まるのではないかと難じています。
三つ目は、ユーザーが良質な動画コンテンツにお金を支払うようになってきているということです。以前と比べると、良質な動画コンテンツにお金を支払うことへの抵抗感がなくなってきていると感じます。広告も価値のあるコンテンツ化を勧めていかなければユーザーから見られないという傾向が今後より強くなっていくでしょう。
―インストリーム動画の伸びが大きくなってきています。アウトストリーム動画をリプレイスしているという傾向もみられるのでしょうか?
インストリーム動画もアウトストリーム動画も純増しているという認識です。一方で静止画からアウトストリーム動画へのリププレイスもあり、全体としては、インストリーム動画もアウトストリーム動画も伸びているというのが現状のトレンドです。
クリエイティブは広告主が伝えたいものから、ユーザーが見たいと思うようなものへ
-広告主のニーズや出稿トレンドについてはいかがでしょうか?
まず、先ほど申し上げた通り、目的がブランディング、ダイレクトレスポンスにかかわらず、短尺動画に挑戦されるケースが増えています。
そして最近では、広告主が伝えたいというよりは、ユーザーが見たいと思うようなものしか伝わらなくなっていています。このためよりコンテンツに近い広告クリエイティブを求められるケースが増えています。「伝えたいことを伝える」から、「知りたいものを届ける」という形に、変わりつつあります。
-動画広告の出稿トレンドについてお聞きします。景気の影響は感じておられますか?
デジタル広告、特にダイレクトレスポンス系の広告主においては景気の影響を受けにくいですが、より広告効果をシビアにみられるようになってきているという傾向を感じとることができます。
新しいフォーマットや良質なコンテンツが変化の起点に
-2020年の動画広告市場の見通しや注目すべきポイントについてお聞かせください。
5Gが来年から再来年にかけて普及が始まると、動画広告を取り巻く環境は大きく変わります。すでに傾向として進んでいますが、動画が当たり前な環境になっていくと思います。
また、動画の流通量が増えていくことにより、私たちも良質で安全な動画コンテンツを、どう管理していくかがより問われるようになっていくでしょう。
海外ではFireworkのような新しい動画フォーマットのメディアも出てきており、個人的には、今後日本でも普及が期待されるのではと注目しています。
また、優良なコンテンツを提供する動画配信サービスがますます普及することにより、動画広告メディアのユーザー層にどのような変化があり、そのことが動画広告需要のありかたにどのような影響を及ぼすのかということについても、最近は注目しています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。