「ファネルを脱却してトルネードマーケティングを実践せよ」-電通アイソバーが提唱するソーシャル時代のマーケティング手法 [インタビュー]
マーケティングを語る際に毎回登場する「ファネル」。しかしながら、このファネルという概念自体がもはや時代遅れとの声をしばしば耳にする。ファネルは本当に廃れたのか。それならなぜ今でもよく活用されているのか。ソーシャル時代の新手法として「トルネードマーケティング」を提唱する電通アイソバー株式会社の見解を聞いた。
(聞き手:ExchangeWireJapan 長野雅俊)
「特別な関係性」を生み出すCXデザインが強み
―自己紹介をお願いします。
神澤氏 シニアエクスペリエンスデザイナーの神澤由利と申します。チェとともに、SNSを通じた話題化やオフラインとの統合施策を手掛けています。
チェ氏 コミュニティデザイナーのチェ・ジョンウンです。SNSを中心としたコミュニケーション設計を主な業務としています。
―貴社の事業紹介をお願いします。
神澤氏 電通グループとグローバル展開するIsobarの両グループの傘下にあるデジタルエージェンシーで、東京と大阪合わせて500名を超える就業者がいます。Isobarは元々はウェブのインテグレーションを行う企業であり、その後デジタルマーケティングの戦略設計やクリエイティブ制作、SNS運用など業務領域を拡大してきました。デジタルを中心にオフラインを含めたコミュニケーションプランからエグゼキューションまでを実施できるということが特徴です。
―デジタルエージェンシーとしての差別化要因を教えてください。
チェ氏 「媒体の広告枠の買い付けを通じて利益を得る」というのが一般的な広告会社の事業モデルかと思います。この事業モデルにおいては、「広告掲載ありきの提案」となりがちです。翻って、当社ではメディアプランニングは手掛けていますが、買い付けはパートナーに任せています。つまり、顧客の課題に対して、中立的な立場からデジタルテクノロジーとクリエイティビティをかけ合わせたソリューションをつくり上げていくことができるというのが大きな差別化ポイントであり、顧客一人ひとりとブランドが永く繋がり続けるための特別な関係性を生み出すようなカスタマーエクスペリエンスの創造を目指しています。
―広告枠の「買い付けをパートナーに任せている」ということは、デジタルマーケティング支援を行うコンサルティング企業のような位置づけなのでしょうか。
神澤氏 コンサルティング企業については、近年になって広告プラットフォームやMAツールに関する知見を蓄積してきているものの、クリエイティブ制作領域ではまだ十分ではないとの印象を持っています。一方で、統合的なデータ分析となると、一般的な広告会社の手に余ることが多い。当社であれば、両面を一気通貫して提供できると自負しています。
―そして広告枠の買い付けが必要とされるときには、バイイングパワーを持つ電通グループの手を借りるわけですね。
神澤氏 仰る通りです。電通グループが管轄する国内の膨大な広告枠やデータと合わせた上で、Isobarが蓄積したデジタルマーケティングの知見を提供できるように努めています。
ファネルを逆流する「トルネードマーケティング」とは
―広告施策に関する潮流についての見解をお聞かせください。
チェ氏 人口が減少し、メディアが多様化したことで、不特定多数の人々に対して一斉に情報を届けることが非常に難しくなりました。加えて消費者も多様化しています。一例を挙げると、かつて「プレ花嫁」と言えば20代前半に限定されましたが、現在では20代はもちろん、30、40代にも対象者が大勢います。従来のマス広告的なアプローチだけではモノが売れない時代です。
神澤氏 従来のマス広告施策では、まずは幅広く認知を取り、そこから興味と関心の度合いに応じて次々にターゲットが狭まり、残ったものが購入に至るというファネルが主流でした。ただ現代においてはそもそも認知、興味、理解が個人単位で相当に多様化しているため、このモデルが適用できない事例が増えてきていると痛感しています。
―マス広告が機能しづらくなった現代の消費者にはどのようなアプローチが有効だと思いますか。
チェ氏 コミュニケーションと顧客体験を通じて、ユーザーをブランドのファンとして育成するためのコミュニティを構築することが有効と考えます。ただし、0から新しいコミュニティを立ち上げるのは大仕事です。そこで当社では、相性が良い既存のコミュニティにブランドを好きになってもらうことに着目しました。
そのコミュニティを持っているのがインフルエンサー。インフルエンサーはブランドとコミュニティの媒介者となり得る存在です。
資料提供:電通アイソバー
神澤氏 インフルエンサーとファンを中心に話題の盛り上がりが形成され、それらが拡散し、興味関心を持つ層が増えていきます。話題化したものが、ウェブメディアやマスメディア(テレビの情報番組など)に取り上げられ、世の中化していきます。このような話題の拡散は偶発的な事象であるかのような印象が強いですが、文脈を設計し、インフルエンサーを活用することでこの流れを設計できると考えています。
チェ氏 つまり、従来のファネル構造における理解や興味フェーズを起点とし、認知へと逆流するという流れです。認知を起点としたときと比較すると、効率的なマーケティング施策が展開できます。
資料提供:電通アイソバー
―「トルネードマーケティング」の実践事例をお聞かせいただけますか。
チェ氏 あるお菓子メーカーのご依頼を受けて、数十人のインフルエンサーを起用したキャンペーンをTwitterを中心として展開しました。この商品に対してTwitterの中ですでに話題化されていたネタをソーシャルリスニングから発見し、そのネタをキャンペーン化する設計をしました。
インフルエンサーには、タレント、声優、動画クリエーター、VTuber(バーチャル動画クリエーター)などを起用。さらには一般ユーザーと親密なコミュニケーションを取っている他企業の公式アカウントにも協力をお願いしました。
結果としては、多くのユーザーに参加してもらい、オーガニックでTwitterのトレンド入りすることができました。また協力を依頼したインフルエンサーだけでなく、全く別のインフルエンサーまで関連投稿をしてくれたのです。Yahoo!ニュース、ねとらぼ、ハフポストといったネットメディアにも取り上げられ、商品の売上にも大いに貢献しました。
重視するのはフォロワーの熱量
―インフルエンサーの選別はどのような基準で行ったのでしょうか。
神澤氏 インフルエンサーを評価する上で、当社がフォロワー数などの規模と同等かそれ以上に重視しているのが、フォロワーの熱量(エンゲージメント)です。100万人のフォロワーのうち、1000人しか反応しないコミュニティより1万人のフォロワー全員が反応してくれるコミュニティの方が強い。リツイートやシェアがされれば、フォロワーの数以上にインプレッションやリーチを取ることができます。またターゲットとの親和性に加えて、そのインフルエンサーが過去に対象商品や関連分野について否定的なコメントをしていないかなどを精査する必要もあります。
チェ氏 誰を選ぶかだけではなく、選んだインフルエンサーに何をつぶやいてもらうかというのも大事です。インフルエンサーというのは基本的にクリエイターとして活動している人々なので、「こういうことをつぶやいてください」という強制した依頼をするよりは、彼らのこだわりや普段のファンとのコミュニケーションを把握した上で、一緒に文脈を作っていかなくてはなりません。
インフルエンサーとは結局のところ人
―「トルネードマーケティング」は、どのような業界や商材に最も適していると思いますか。
神澤氏 既に広く知られている消費財やコモディティ化されている商品が適していると思います。既に知名度がある商品名を改めて想起してもらい、購入につなげることができるかと思います。
チェ氏 ロングセラー商品は、定期的に商品の位置づけや消費者からの見方を変化させることで新たな需要を創造する必要があります。そのような目的と相性が非常に良いマーケティング手法ではないでしょうか。
―最後に「トルネードマーケティング」の意義を改めてお聞かせください。
神澤氏 従来の認知から始まるファネルとは違って、トルネードマーケティングは熱量の高いコミュニティから話題化を設計し、拡散していくことで効率的にブランドのファンになりうる層を取り入れることができるマーケティングモデルです。差別化が難しい商品をマス施策で万人に向けて打ち出していくのではなく、ブランド商品とマッチするコミュニティを持っているインフルエンサーを媒介者として活用して行くことがひとつの解決策になり得ると思っています。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。