日中連携のプログラマティックソリューションで、インバウンド需要を獲る [インタビュー]
訪日外国人の増加や越境ECの拡大によりインバウンド市場は急速な拡大を続けている。その中でも中国向けインバウンド需要は、地域別にみて最もシェアが大きく、引き続き高い潜在的成長性を持っている点においては疑う余地がない。
2005年に北京DACを設立以降、中華圏で事業を拡大してきたDACは、中国iClick Interactive Asia(以下 iClick)と、技術開発における独占戦略パートナーシップを締結し、クロスボーダーマーケティングプラットフォームを共同開発することを公表した。
中国インバウンド需要の背景やその攻略の秘訣、今回の提携について、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)グローバルビジネス本部 グローバルトレーディングデスク部長 北村洋崇氏と、iClick President Of International Business Frankie Ho氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWireJapan 野下智之)
中国ユーザーのターゲット設定、3つのペルソナに注目
—お二方の自己紹介をお願いします。
北村氏:2012年に北京DAC入社し、本田ACURA、日立、キャノン、EPSONをはじめ日系ブランドのデジタルマーケティングプランニングを担当しました。2017年から、DACグローバルビジネス本部で越境ECビジネスの支援、広告運用、広告プロモーションの企画などの業務を担当しています。
Frankie氏:私は2013年に iClickに入社しました。検索部署の責任者を務め、さまざまな金融、旅行系グローバルブランドの認知拡大や広告パフォーマンスの改善に注力してまいりました。2019年からグローバルビジネスの責任者として、日本、東南アジアなどの海外ビジネスを担当しています。
iClick入社以前は、Yahoo Hongkongで検索業務の責任者として、新規顧客の開拓や広告会社向けの既存業務を担当しておりました。
—中国向けインバウンドのマーケティング需要はいつ頃から高まってきたのでしょうか?
北村氏 2003年頃から政府主導での訪日外国人旅行者に対する取り組みは始まっていました。より顕在化してきたのは2015年頃と記憶しています。ビザ取得条件の緩和や円安の後押しもあり、中国人の爆買い等が話題になり始めた時期です。一般に認識が拡がり、メーカー企業などがインバウンドマーケティングを意識するようになったのはその頃からだと思います。
—中国向けインバウンド需要を取り込むうえで成功するカギはどのような点でしょうか?
北村氏 中国では多くの人がほとんどオンライン上で情報を取得しています。この点は日本よりも中国のほうが進んでいるといっても過言ではありません。
現在では越境ECも発達しており、オンラインでの情報が一層充実しています。2018年実績では日本への観光客は約800万人とほんの一握りですが、それでも訪日消費が1.6兆円に到達するのは、自分が行かなくても知人やソーシャルバイヤーを通じて商品を購入しているからです。ですので、インバウンド需要、インバウンドマーケティングという捉え方だけではなく、インバウンドも含めた中国の需要全体を捉えたマーケティングを行っていくことが重要だと考えます。
中国人口13億人のうち、インターネット人口は7,8億人と言われています。そこでどのような人たちをターゲットに定め、誰にどのようにどこで知ってもらうかをしっかりと見定めてマーケティングを行っていくことが必須となってくるのではないでしょうか。だからこそデータが非常に重要になってきます。
—具体的にはどのようなユーザーインサイトで中国マーケティングを考えるべきでしょうか?
Frankie氏:単に中国人や訪日という切り口だけで考えるのではなく、より深いインサイトデータによってターゲットのペルソナを明確化することが大切です。例えば、最近では次の3つの傾向が挙げられます。
①「新一線」都市が「地域ダークホース」:
「地域ダークホース」は海外旅行潜在的消費者が急増している中国都市部を指します。近年、中国における海外旅行の市場規模は継続的に右肩上がりに成長をしています。2017年に、西安・無錫・太原・武漢・合肥・成都・南京・ハルピンや昆明など「新一線」と呼ばれている地方都市の海外旅行者の成長率はすでに、北京・上海・深圳や広州など伝統的な「一線都市」を超え、海外旅行消費の「ダークホース」になりました。これらの消費者層は年々有名ブランドや商品に対する認識を深めているため、今後、海外で購入する際には免税制度や価格といった要素をより重視していくと考えられています。
②中高級志向の女性消費者は「奢玩一族」:
海外旅行市場にて高い購買力を有する人たちは「奢玩一族」と呼ばれ、当社のプラットフォーム「iAudience」のユーザー分析では、中高級志向の女性がその大多数を占めています。彼女たちは海外旅行する際に、快適かつ上品な旅行を求め、ファーストクラスやグランドホテルを選ぶ傾向にあります。旅行先としては、ショッピングが満喫できるようなヨーロッパや、異国情緒あふれるリゾート地を好みます。彼女たちは高級ブランドの熱心な消費者でもありますので、高級小売りブランドにとってこの層は巨大なビジネスチャンスを探ることになると思われます。
③90年代以降は未知を探索、「わたしも」より「わたしは」:
「新一線」の消費者層や高級品消費者層とは違い、中国経済の力強い成長の下で育ってきた「90後(1990年代生まれの世代)」たちは、「ユニークさ」や「個性」をより重視しており、「わたしも」より「わたしは」を強調する傾向にあります。「90後」の海外旅行での行動を見ると、SNSを通じて新しいブランドや製品を見つけ、購入した商品をSNSに載せ、独自の個性を示すことを好みます。それゆえ、「ユニークで個性豊か、インスタ映えする価値のある」製品であることが、「90後」層をターゲットとする小売りブランドの製品戦略には重要だと考えられています。
出典:iClick
日中の国境をまたいだデータと広告配信の連携
—このような中、今回の協業により目指すことについて教えてください。
北村氏:今回、DACとiClickはクロスボーダーマーケティングプラットフォームを共同開発することに合意しました。DACではこれに先がけてDMP/ダッシュボート「iAudience」およびDSP「iAccess」を提供します。次の図のように、配信から効果測定までを一気通貫のワンプラットフォームで行い、企業の訪日および中国越境マーケティングを支援するとともに、課題解決に貢献することを目指します。
出典:DAC
—今後の展開について教えてください。
北村氏:中国人観光客による海外消費額の増加は、観光・高級品・レジャー・ホテル・運輸交通などさまざまな業界にとって重要な収入源となりました。したがって、多くのブランド企業では、中国人観光客から人気を獲得するためのマーケティング手法への対応を始めています。DACが長年培ってきたデジタルマーケティングのノウハウやネットワークと、iClickの膨大なユーザー行動データや強力なアルゴリズムを組み合わせることで、両社は日本企業のインバウンドビジネス支援に取り組み、企業の事業価値の向上や訪日中国人とのエンゲージメント創出に貢献してまいります。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。