「インハウス化とは、つまりは自分事化」 ―メルカリが語るインハウス運用の是々非々 [インタビュー]
広告主が、広告代理店を経由せずに自ら広告運用を行う「インハウス化」が世界的に進行しつつあるという。他国に比べて、広告代理店が担う役割が大きいとされる日本市場でもこの流れは本格化するのか。株式会社メルカリでインハウス運用を行う坂田博昭氏が、そのメリットとデメリットを教えてくれた。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 長野 雅俊)
インハウス運用にはこだわらない
―自己紹介をお願いします。
株式会社メルカリのマーケティンググループ・シニアマーケティングスペシャリストを務める坂田博昭と申します。主な業務は、メルカリ社におけるインハウス・マーケティングの実施。特にGoogleなどのキーワード関連広告の運用やSEOなどを担当しています。私もインハウス担当としてはまだ未熟なので、皆さんと一緒にマーケティングの自分事化について話し合っていけたらと思っています。
―貴社では広告運用業務全体のうちどの程度をインハウス運用しているのですか。
以前からインハウス運用と外部パートナーのハイブリッドで運用しています。弊社では代理店様と共にパートナーとして成長していきたいと思っているので、代理店でなく、外部パートナーと呼ぶようにしています。
運用工数や事業インパクトを鑑みて、インハウスで運用するか、外部パートナーに依頼するかを判断しています。外部パートナーの方が知見のある領域に関してはインハウスにこだわり過ぎず、外部パートナー主導で施策を推進していただく場合もあります。
―インハウス運用のみにこだわっているわけではないのですね。外部パートナーへ依頼するメリットを教えていただけますか。
メリットは大きく3つあります。「新規メディア媒体の情報や市況を理解されている」「幅広い業種業態への知見を持っている」「広告媒体ごとに特化したプロフェッショナルな人材がそろっていて、クリエイティブへの知見が深い」ことです。こうしたインハウス運用では対応できない部分をご指南いただき、インハウス担当は本来行うべき業務を推進しています。
―インハウス運用の場合、社内デザイナーが広告クリエイティブを制作するのでしょうか。
広告クリエイティブを決定するのはインハウス担当です。インハウス担当が要望を伝えると、デザイナーがいくつかのパターンを用意してくれるので、そこから「Aパターンが良い」といった判断をしていきます。
―社内デザイナーは広告運用の知識を併せ持っているのですか。
必ずしも広告運用に精通しているわけではありません。デザイナーと打ち合わせする際には、インハウス担当が広告管理画面上に表示される数字を一緒に見ながら議論しています。またデザイナーが効率的にバナー制作を行えるようにスケッチを用意することも重要だと感じています。
―そうしてインハウス担当とデザイナーの間の共通認識を増やすための努力をしているのですね。
そもそも当社の特徴として、マーケティング部門とデザイン部門との距離が比較的近いということが挙げられると思います。
―マーケティング担当の大きな負担になっているレポート業務はどうしているのでしょうか。
Google広告やFacebook広告などのアカウントの出稿データをDMPに追加し、CRMデータと統合してダッシュボードでモニタリングしています。さらに細かい分析やリアルタイムでの実績を把握するためSQLでデータを抽出し、施策に落とし込むことを日々実施しています。メルカリに入るまではSQLを一切書けませんでしたが、より細かい分析を瞬時に行なうために学びました。スキルとしてはまだ初級なので、もっと分析の幅を広げていきたいですね。
インハウスでのメリット
―インハウスで人材を抱えると、固定費となります。貴社でいう外部パートナーつまり広告代理店に委託している限りは変動費として計上できるという利点は企業体としては考慮に値すると思うのですが。
インハウス担当とは、何も広告運用だけが仕事ではありません。お客さまにいかに自社製品なりサービスを利用してもらうかを戦略的に考えるのが本来の業務です。インハウス担当であれば、広告運用と密接に連携した形での事業分析や中長期的なマーケティング対策を検討することもできます。そのような働き方をすれば、どんな状況においてもやるべき仕事はあるはずです。
インハウス担当とは、「広告のインハウス運用だけではなく、広告運用などの集客方法を理解した上で、お客さまがサービスを使い続けるためにはどのようなメッセージを伝えればいいかを常に考え続けられる人」だと思います。
―インハウスに適した人材は世の中にどれほど存在するのでしょうか。
各媒体に精通し、かつ自ら運用できる人を探すのは非常に難しいです。グローバル規模であれば、TwitterやFacebook運用に特化したスペシャリストがいると思うのですが、国内でそのような人材は稀有です。
マーケ担当であれば誰でもインハウス担当になれる
―そのような現状を踏まえた上で、どのような人材がインハウス担当として適していると思いますか。
マーケティング業務に携わったことがある人であれば、誰でもインハウス事業を担うだけの素養を持っているのではないでしょうか。事業側の戦略を理解し、俯瞰的にマーケティング戦略を実施していくことが重要だと思います。
―マーケティング担当にとっても、外部パートナーにとっても考えさせられるお言葉ですね。
誤解してほしくないのですが、私は100%のインハウス運用を推進しているわけではありません。アウトソースすることでマーケティング戦略や分析、コミュニケーション戦略などより事業インパクトの高い仕事に集中することができます。インハウス化とは、つまりは「自分事化」。自分で調べて、考えて、自社のマーケティングを向上していくことこそがインハウスの真の目的です。インハウス運用だけが仕事ではありません。マーケティング担当が自分事化した上であれば、外部パートナーとの関係もさらに建設的なものへと発展すると信じています。
* 2月20日(水)開催のセミナー「-インハウスのメリットとデメリットを考えるー」に、メルカリ社の坂田博昭氏が登壇します。詳細はこちらをご参照ください。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。