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電通グループが考える、プレミアム動画広告の本質的な価値 [インタビュー]

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電通デジタル、電通、CCIの電通グループ3社は、プレミアムな媒体とコンテンツのみにプログラマティックにインストリーム動画広告の配信を行う、運用型広告サービス「Premium Viewインストリーム動画広告」の提供を開始した。
この新たな動画広告サービスの提供開始の背景やその取り組み内容について、電通ラジオテレビ局動画ビジネス推進部部長の植木崇文氏、電通デジタル広告事業プラットフォーム部門プラットフォーム戦略部ソリューショングループマネージャー(取材時点)の村山亮太氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下智之)
(ライター・撮影:同 柏海)

電通のテレビ部門とデジタル部門の初連携サービス

自己紹介をお願いします。

植木氏 私は電通に入社以来20年、タイムCMとスポットCMという2つのテレビ商材を取り扱ってきました。

2016年に電通のラジオテレビ局関係の部のなかで、初めてデジタル広告を販売する部署が立ち上がり、当初から所属しています。。電通グループには元々デジタル広告を取り扱う部署がありますが、ラジオテレビ局関係の部署内にデジタル広告を取り扱う部署が立ち上がったのはこれが初めてのことでした。

同部署では、テレビ局由来の動画広告として大きく2種類のデジタル広告商品を取り扱っています。1つは「民放キャッチアップ」と呼ばれる、放送局見逃し配信サービスの広告。もう1つはテレビ朝日資本の「AbemaTV」の広告です。

現在これらの広告商品に対する需要は急増しています。

村山氏 私は入社10年来、デジタル分野の仕事にずっと携わってきました。

主にプログラマティックの領域で、広告商品の企画や営業戦略を立てるという業務を行ってきました。PMPの立ち上げと推進、DMPの構築、アドベリフィケーションの問題の対策を講じるべくアドベリフィケーション推進協議会の立ち上げなどに携わってきました。

今回の「Premium Viewインストリーム動画広告」を立ち上げるにあたり、商品企画と営業推進を植木のチームと共同で実施していますが、デジタルとテレビのメンバーが実際のサービスを一緒になって作る前例はこれまでありませんでした。そのような意味においても今回の取り組みは新しいのではないかと思います。

ブランドを守るには、事後ではなく事前の審査

「Premium Viewインストリーム動画広告」の概要についてお教えください。

村山氏 端的に申し上げると、プログラマティックで配信可能なインストリーム動画広告のプレミアム版です。

ここでいう“Premium(プレミアム)”とは、しっかりと精査された、クオリティが高いコンテンツを指しており、Premium View動画広告はこのようなハイクオリティのコンテンツにしか広告を出しません。もちろんアドベリフィケーション的観点は重要で、様々な広告毀損のリスクは他のどのサービスより最小化させることは重要ですが、これは今回のPremium View動画広告の「目的」ではなく、「前提」です。そのような広告毀損リスクがないということだけではなく、本当にブランディング価値の醸成に寄与するものを作りたいというのが今回のプロジェクトの主意となります。

日本だけでなくグローバルな問題になりますが、消費者が動画を投稿して作り上げていく動画共有サイトのインストリーム動画広告においては、広告主も意図しないうちに、差別やヘイト、アダルトなどの不適切な動画コンテンツに広告が流れてしまうというリスクがあります。なかには広告掲載先のコンテンツが、実は著作権や肖像権を侵害している違法動画であったということに直面する可能性もあり得ます。

CGMのようなユーザー投稿型の動画共有サイトでは、投稿された動画の良し悪しというのは事後審査になってしまいます。ですので、CGMに広告を出稿するということは、どうしてもブランドイメージへのリスクが付きまといます。

一方「Premium Viewインストリーム動画広告」においては、事後審査ではなく、事前審査を行ったコンテンツに限って配信されますので、ブランドイメージへのリスクというのは大幅に低減させることが可能になります。

テレビのコンテンツやCMは、当然ながら事前に厳しい審査が行われます。また、放送後本当にこのコンテンツは適切であったかなどの事後審査も行われます。

「Premium Viewインストリーム動画広告」の広告掲載の流れは、このテレビCMが放送されるまでの流れと同じモデルになります。これをデジタル広告においても同じモデルを適用することができたというのが、大いに意義のあることです。今回、さらにフジテレビジョン、テレビ東京、日本テレビ放送網の参入が決定し、実施に向け技術実験を開始しています。

電通が定義するデジタルのプレミアム媒体

広告の掲出先となる媒体は、民放各局のキャッチアップ配信サイトやGYAO!となっていますが、“プレミアム”という点については、どのような基準や定義、または解釈をしていますか。

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植木氏 今回連携する、キー局や準キー局のコンテンツがプレミアムだと我々が思っている理由としては、「安全」で、「広告効果が確実」で、「その効果を可視化できる」という3点があげられます。

まず1つ目の「安全性」については、先に申し上げたブランド毀損のリスクがないということです。

2つ目の「広告効果が確実」というのは、広告を視聴者に見せた時に生じる認知効果を確認すると、海外のCGMに比べて明らかにリフトアップしていることが調査で分かっていますので、広告効果は間違いなく高いと言えます。

3つ目は今申し上げたことを「可視化できる」という点です。今年に入り、デジタル広告において調査タグを設置できなくなることが増えてきており、効果計測が以前よりも難しくなってきております。当社のピープルタグ(People Driven Marketing)だけではなく、一切第三者による効果計測が出来なくなっています。

しかし、Premium Viewの配信先媒体においては、ピープルタグやビデオリサーチ社のタグが搭載されています。ですので、動画広告の視聴による広告効果の測定が、ログベースで可能です。

ネガティブだけではない、動画広告スキップがないこと

動画広告の中でも、広告をスキップできるものとそうでないものとがありますが、貴社の広告商品は後者になります。広告をスキップできないことがブランドにとってマイナスイメージになるリスクはないのでしょうか?

植木氏 お客様に民放キャッチアップの話をすると、「広告をスキップできる動画媒体が他にある以上、広告がスキップできないだけで、視聴者(消費者)にネガディブなイメージを与えてしまうのでは」という心配のお声をいただくことがあります。このような疑問にお答えするために当社では定期的に調査を実施し続けています。その結果、常に同じ傾向が表れており、「全ての広告がスキップできない媒体よりも、スキップができる広告とできない広告が入り混じっている媒体のほうが、スキップが出来ない広告へのネガティブな反応が非常に多い」という結果になっています。

民放各局のキャッチアップ配信サイトやGYAO!は最初から全てスキップができない媒体ですので、実はネガティブなイメージは与えていません。さらに、広告が入る場所も、テレビ放送で元々CMが入っていた場所に短時間だけ流れる形になりますので違和感がありません。これが他の動画媒体だと、急に動画や音楽を断ち切るようにCMが流れたりするので、余計にネガティブな反応につながりやすくなります。

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村山氏 もう1点、調査で分かった大きな違いとしては、動画共有サイトのユーザーは動画を動画コンテンツとして視聴するだけでなく、音楽を含めたオーディオコンテンツとして視聴されているユーザーも多いということです。

動画広告で訴求するならば、聴覚だけでなく視覚にも頼ったほうが認知効果が高くなるのは当然かと思いますが、さらに動画共有サイトのユーザーは民放キャッチアップのように、30分以上にわたって1つの動画をずっと見るだけでなく、短時間の動画を次々と自動再生などで見ているユーザーも多くなります。

短時間の動画に対して数秒のCMが挟まると、それが邪魔に感じて見なくなってしまう方も多いですが、民放キャッチアップのように長時間視聴を続けていると、CMが原因で見なくなることはほとんどありません。

民放キャッチアップのCM完全視聴率(CM途中で離脱せずに最後まで見続ける率)が95%と非常に高い数値を出しているのも、そういったネガティブな印象が少ないことに起因しているのではないかと考えています。

安全の先にある動画広告の本質的価値

「Premium Viewインストリーム動画広告」への広告主からの反響はいかがですか?

植木氏 お陰様で予想を上回る反響をいただいています。

村山氏 多くの広告主がアドベリフィケーションの問題を抱えていたことが、こういった反響をいただくなかで顕在化してきました。

「こういうメニューを求めていました」というお問い合わせとともに、いざ始めて見るとパフォーマンスも悪くないというフィードバックもいただいています。時世にもマッチしてくれたと思います。

植木氏 私が強く感じているのは、現在このサービスは、アドベリフィケーションやアドフラウドへの心配が無いことで注目されていますが、そこばかりに目を向けて欲しくないということです。

安全なコンテンツに広告が流れるというのは、テレビ広告の世界ではごく当たり前のことです。

安全性の観点でご評価を戴くことも嬉しいのですが、しっかりと広告効果を上げて、かつその効果を可視化することが出来るという、本当の価値を分かっていただけるとより嬉しいです。

コンテンツ制作の対価を適正な価格で還元できるサービスに

植木氏 動画広告市場全体の約7割は、海外の動画共有サイトです。これは、テレビのリーチが下がってきたということも背景にありますが、私は決してテレビのコンテンツ自体が面白くなくなったわけではないと考えています。

本放送よりも録画の方が視聴率が高くなっているドラマも出てきていることを考えれば、テレビは見たいけれど、見たい番組のためにテレビの前に座る時間を作ることが難しくなっているだけではないでしょうか。

テレビを見ないユーザーの補完として動画共有サイトの動画広告をセットで使うのみではなく、面白いテレビコンテンツを使った民放キャッチアップの動画広告とテレビCMとをセットで使っていただけるようになってほしいと思っています。

村山氏 私がずっとデジタルに関わってきて分かったのは、価格破壊が一度でも起きてしまうと二度とは戻らないということです。単価自体を値崩れさせてしまうと、また何が安全かも分からず、コンテンツにお金をかけられないマーケットになります。

そうなると今度はコンテンツも劣化し、デジタルの世界からプレミアムと呼べるものも無くなるでしょう。「Premium Viewインストリーム動画広告」を皮きりに、それらを脱却するモデルを作っていきたいと思います。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。