ブランドマーケターが振り返るデジタル広告業界の2018年-第3回:ブランドが2019年に取り組むこと- [インタビュー]
ブランドマーケターは、2018年のデジタル広告業界をどのように振り返り、そして2019年にどのような取り組みを考えているのか。
3つのトピックスについて、日本を代表するブランドマーケターの一人、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングメディアダイレクターの山縣亜己氏と、アサツーディ・ケイインタラクティブメディア本部 本部長 清家直裕氏にお話を伺った。
第3回目の今回は、ブランドとして2019年に取り組む新しい施策について。
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(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
データ、ホリスティックサーチ、インフルエンサーマーケティング
―2019年のメディアマーケティングプランはいつ頃から準備をし始めていますか?2018年から大きく変えようとされているポイントについてお聞かせください。
今年の夏過ぎから考え始めて、今(10月上旬時点では)もうほぼ全て決まっている段階です。クリエイティブの制作も始めています。2019年の新しい取り組みは大きく三つあります。
まずはデータ周りをどう上手に使ってこうかというところです。そして、ホリスティックサーチ。サーチへの取り組みに関しては、もう少し力入れるというか、意味を持たせるということが必要かなと感じています。「とりあえずリスティング広告にいくら予算を割いておけばいいでしょ」ということではなく、「本当にその施策は必要なの?」という疑問も含め、目的意識をもってサーチに取り組んでいく。
あとは、インフルエンサーマーケティング。今までのいわゆるこちら側から情報を発信していくのではなく、インフルエンサーをもっと上手に使ってコミュニケーションを出来ないものか。広告とPRの狭間のようなところに位置付けて考えています。
CRMデータの蓄積と有効活用
―一つ目のデータ周りの施策について、詳しくお聞かせください。
山縣氏 ファーストパーティデータを活用していけるといいなと考えています。
もともとDSPを使った広告配信はしていましたが、よりプライベートのデータも絡めた配信をしていく。折角デジタルで出来ることが増えているのに、従来のような1つのターゲットに対して1つのクリエイティブでコミュニケーションをし続ける必要もないですよね。
ユニリーバはマスブランドなので、すごく沢山のセグメントとクリエイティブを作る必要はないですし、「あなた色に何でも変わります」というようなブランドでもないので、ターゲットをいくつかに区切って、それぞれのセグメントごとのイシュー(課題)や機会を洗い出した上で、広告やプロモーションで変えていければいいねと思います。
清家氏 私たちにとっても、データを活用しいかに適切な広告配信をするか、などのユニリーバさんの新しいお取り組みのお手伝いをさせていただいています。
―活用予定のファーストパーティデータは、具体的にどのようなデータですか?
山縣氏 プロモーションの時にメンバーシップに参画いただいたユーザーデータなどのいわゆるCRMデータです。
ブランドにもよりますが、CRM活動に積極的なブランドであれば、メンバーシップを募集してメンバーになってもらい、会報を送ったりキャンペーンをやったりしますが、そうでないブランドに関しては、オープンキャンペーンやクローズドキャンペーンを展開した時に、予めユーザーから許諾をいただき、次のマーケティング活動に活用させていただくというような感じです。
キャンペーンに応募していただいているユーザーは、少なくとも当社のブランドを好きになっていただいている大切なお客様です。
ユニリーバで展開している様々なキャンペーンに共通したテンプレートを用意しておいて、データベースとして蓄積していけば、IDで一元的にユーザーを管理できますし、それぞれのユーザーごとに収集できているデータと、そうでないデータとが明らかになります。そうすれば、ユーザーとのその後のコミュニケーションの幅も広がり面白いのではないかと思います。データは、少しずつ溜まってきているので、2019年からこのデータを使ってセグメンテーションを作れないかなと考えています。
当然プログラマティックでの広告配信にも使えます。また、そこにクッキーデータなども掛け合わせればそれなりに面白いものになるのかなと思っています。
見つめ直す、ブランドとサーチとの関係
―次に、ホリスティックサーチについてお聞かせください。
山縣氏 マーケティング施策において、サーチの存在は大事なものですが、Eコマースビジネスにおけるサーチと、当社のような流通を介在したビジネスにおけるサーチとでは位置づけが異なります。当社の場合には、キャンペーンサイトやブランドサイト、Amazon上のユニリーバのページなどに遷移させていますが、投資対効果をどのように評価するかが、Eコマースビジネスほどシンプルではありません。また、ユーザーの検索動機に応じて遷移先を考える必要があります。いきなりAmazonのページに遷移させても、ユーザーが困ることもあるでしょうし。逆に、ブランドのホームページに遷移させてもどうかというシチュエーションもあります。
今言われているカスタマージャーニーでは、サーチが大事であるとされていますが、シャンプーのような低価格消費材のようなものは、あまりネットで比較検討をしてから購買を決定するものでもありません。だからサーチに関しては、キャンペーンの時を除き、考え方を軽くしてこうかなと思っています。
清家氏 LUXのようなメガブランドを検索する場合、ユーザーは例えばAmazonで購買することを前提で、Amazonサイトで検索をします。ですのでAmazonの検索連動広告を出稿して、検索したユーザーはすぐに商品を買うことが出来るという仕組みは提供しています。
―検索の意味合いは、商材により異なるということですね。
山縣氏 商材のカテゴリーによって異なりますね。お菓子や飲料も、通常はネットで調べて買うことは限られますよね。まとめ買いはするかもしれませんが、その場合は既に購買が決まっている状態ですから、価格比較以外で、商品情報をGoogleなどの一般検索で詳しく調べることは少ないでしょう。
低価格帯のシャンプーについて、そこまで詳しく調べる人はいません。100円のお菓子をネットで調べてスーパーに買いに行く人もほとんどいないでしょう。
多くの企業が商品ホームページは必要であるというものの、消費財でライフサイクルが短命で低価格のものについては、そこまでホームページは見られていないのが実情かもしれません。
逆に自動車やカメラなどを購入するときには、一切ホームページ見ないという人もほとんどいないでしょう。その商品のネット上での評判を探したり、それを買っても絶対に失敗しまいと調査しますよね。この時のサーチは、先ほどのEコマースサイトでのサーチとはまた異なるニーズを動機としたサーチです。
あと、Instagramはメーカーで提供ではなく、消費者が撮影したビジュアルが表示されるので、同じものを買っている人を探すというようなサーチのニーズもあります。
Twitterでも同様に、レビューを探したり、商品回りじゃなくても、電車の遅延とかで、今何が起きてるかを知るために、検索をするユーザーがいます。
同じサーチでも、プラットフォームごとで、何をサーチするかという目的が異なるのです。
ですので、これまでのようにGoogleの検索連動型広告にお金を支払っていればよいということではなく、私達ブランド側が、消費者に何を見てもらいたいかについて考えたうえで、サーチプランを考えてみようと。これが、当社で言っているホリスティックサーチです。
インフルエンサーマーケティングにおけるグローバル共通原則
―最後にインフルエンサーマーケティングについてお聞きします。主にどのようなプラットフォームを活用していますか?
山縣氏 今はほぼInstagramが、私たちのブランディングに最も適していると感じており、Instagramを使っています。YouTuberの場合、彼らが持つ世界観と、例えば当社のブランドの世界観とをどのようにマッチさせるかを考える必要があります。例えば、ユニリーバがソーシャルミッションとして掲げている「USLP(ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン)」のような取り組みにおいては、今後ご一緒できることはあるかもしれません。
ブランドやプロダクトのプロモーションとして考えると、少し前までは、YouTuberのオーディエンスは小学生などの若年層が中心で、私たちが販売する商材のターゲットとしては一致していなかったです。最近では美容系のYouTuberも出始めましたが、フォロワー数が多いのはいわゆるコスメティックをメインにした方たちで、シャンプーやお風呂内で使うものは、タイアップをするのが容易ではないと考えていました。ただ当社のLUXガールというプロモーションに参加してもらっているインフルエンサーには、YouTuberの方もいらっしゃいましたね。
インフルエンサーマーケティングは、よりマスでのアプローチを考えています。インフルエンサーを検索するツールを開発した会社と組んで、私たちが「こういう人たちにユニリーバのプロダクトを使ってもらいたい。」という人を探しています。リクルーティングをした方に投稿をしてもらい、そのあとの投稿の反応をレビューして、よりわれわれのエンゲージメント高めていけるような人に絞り込みをします。
絞り込んだ人たちと継続的にコミュニケーションをしていくこと、私たちのブランドアンバサダーになっていただければいいなと考えています。
米国では、Snapchatの機能を使って撮影したものをInstagramにアップするというような使われ方がされていましたが、TikTokも同じ使われ方をしているようです。そのあたりで私たちのブランドとも関わりが出て来るかどうかを注目しています。
清家氏 ユニリーバさんは、今年の6月にインフルエンサーマーケティングにおける信頼性、透明性などを求める声明をリリースしています。
その中で、ユニリーバはフォロワーを買うようなインフルエンサーとは取引をしない、あるいはユニリーバ自身もフォロワーを買うことはしないと述べています。
私達もこのようなユニリーバさんの姿勢に沿って、インフルエンサーの方たちと仕事をするお手伝いをさせていただいています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。