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インベントリ・クオリティの確保に必要なこと:PubMatic社へのインタビュー

PubMatic社のレポート「Understanding Inventory Quality: Thinking Beyond Bots」に関するリリースを受けて、ExchangeWireはPubMatic社のインベントリ・クオリティ ディレクター、Eric Bozinny氏に、プログラマティックを利用したクオリティーコントロールの取り組みについてお話を伺った。Bozinny氏はインベントリ・クオリティのための異なる要素や、なぜ取り組みがアドフラウド対策に止まらないのかについて説明してくれた。

※本記事は、ExchangeWire.comに掲載された記事を翻訳して転載しました。

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

インベントリ・クオリティとは一般に何を示すものですか?

歴史的には、インベントリ・クオリティの概念はアドフラウドと密接に関連しています。サードパーティによる詐欺検知を行う企業の台頭により、ボット及び非人間によるトラフィックを特定する点に多くの努力が注がれてきました。私は、アドフラウドだけでなく、インベントリが活用されるコンテンツやターゲットとされるオーディエンスのクオリティに至るまでより全体的な取り組みを行っています。ユーザとのやりとりが多くロイヤリティが高いサイトやアプリは、単純に広告が配信されるだけのものと比べてもより広告主にとって優れた環境といえます。

インベントリ・クオリティに関する考え方はセラーとバイヤーにてどのように異なるのでしょうか?

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Eric Bozinny氏、PubMatic社
インベントリ・クオリティ ディレクター

「フラウドテック」業界(サードパーティによる不正検出を実施する企業)は、4年前に始まったばかりです。今日、インベントリ・クオリティはまるでポーカーのやりとりのように、バイヤーとセラーの両者を緩和するためのベストプラクティスの場と考えられています。

バイヤーの視点から見ると、ほとんどが保険としての役割と見なされており、キャンペーンのパフォーマンスギャップを説明する理由として用いられています。しかし、こういった環境に10年間い続けた私の立場から考えると、アドフラウドに関する焦点は、最初にクオリティ問題を引き起こすさらに上流工程にある問題を特定することにあると考えています。アドフラウドの検出だけにこだわることは「もぐらたたき」のようなもので、本来の原因の対策にはなりかねます。フラウドテックは優れた取り組みですがそれは全てではありません。バイヤーとセラーは、問題の根本原因を探すための参照として利用するべきでしょう。

責任の所在はどこにあり、いかにしてインベントリ・クオリティの改善を促進していくのでしょうか?

業界の考え方としては、コンテンツの配給元であり広告が配信される環境を提供しているサプライ側がクオリティについて責任を持つべきであるというものです。しかし私は両者に責任があるという立場をとっています。バイヤーの側から考えると、広告主はクオリティ向上を求める必要がありますが、バイヤー及びエージェンシーはどのようにしてアドフラウドや不正なトラフィックがキャンペーンに影響を与えるかを理解し、受け取ったデータの透明性を求め、広告がどこに配信されているのかを理解する必要があるでしょう。このような取り組みによってサプライ側に変化を迫ることができます。

こういった流れこそが好循環と言え、多くの人が注意を払うことによって、事態は改善していきます。サプライ側がきっかけを作ることは重要ですが、デマンド側も変化を要求する必要があります。こういった取り組みはads.txtなどによってより目にするようになっており、多くのバイヤーはプログラマティックによるオークションを通じて広告枠を購入する前に、サプライ経路を検証する必要があります。

ads.txtは起爆剤になり得るでしょうか?

ads.txtはドメインのなりすましの対処など多くの問題を解決しましたが完全ではありません。アドフラウドの仕掛け人は100%の時間とリソースをこのゲームに投じることができます。彼らはメディア投資のエコシステムを完全に奪い、悪意に満ちた利益を最大化するために新たなスキームを常に考えています。

つい最近も、代理店がads.txtのエントリとして自社を追加することでレポート機能を改善させたいといった依頼について耳にしました。ads.txtはセラー向けに設計されたものであるため、私はその依頼にショックを受けました。初期の段階では、ads.txtファイルへの追加を担当する代理人が存在していたこともあり、仕様の理解が不足しています。ここで問題となるのは、あなたの名前がそのファイルに追加されると、本質的にあなたが望むことを全て行えるブランケットが得られるという点です。 ads.txtはまだ変更を加えることが可能なため、適切に機能するためには、バイヤーやセラーの両者への知識向上と一層注意を払い続けることが重要です。

将来的に見て、ads.certは素晴らしい解決策になると考えています。しかし、歴史が示すように、悪徳事業者が脆弱性を発見する可能性は無視されるべきではありません。ads.certの最大の課題は、RTB 3.0としか互換性がない点で、そのためRTB 3.0がどれだけ迅速に採用されるかに依存することになります。もう1つの課題は、アプリ内広告に向けたads.txtソリューションがないことです。(大部分のアプリはiTunes StoreとGoogle Playストアでダウンロードされているため)このソリューションを容易にするため、アップルとGoogleの協力を得ようと様々な努力がなされています。

企業はアプリのインベントリに関するクオリティ問題に辟易しており、アドフラウドが蔓延していると考えていますが、その点に関するご意見をお聞かせください。

問題は、開発者がSDKを実装して、アプリから発生するすべての信号に関する完全なテレメトリを提供する必要があることです。すべての測定ベンダーは(SDKを提供する場合)独自のSDKを提供しています。開発者は複数のSDKを実装することでユーザエクスペリエンスが低下されることに注意を払う必要があります。幸いにも、IAB Tech LabはOpen Measurement Initiativeに取り組んでおり、すべてのサードパーティ測定プロバイダが使用することに同意した単一のSDKであるOpen Measurement Software Development Kit(OM-SDK)をリリースする予定です。アプリのデベロッパーがこれを実装すると、テレメトリが開き、アプリ内で起こっている事象についてクオリティ保持の観点からバイヤーが理解することが可能になります。

バイヤーやセラーは自分自身を守り、インベントリのクオリティを向上させるためにどういったことができるでしょうか?

バイヤーにとって広告の掲載場所を知ることは最も重要です。すべての広告主に当てはまることですが、企業の広告主にとっては、キャンペーンの成功の指標により柔軟性を持たせることが特に重要です。広告主はより多くのデータの透明性を要求するだけでなく、コンテンツとオーディエンスの重要性を認識することで、自社の広告がキャンペーンのKPIに沿った環境に配信されていることを確かめる必要があります。

セラーにとって最も重要な点は、インベントリ・クオリティプロセスとポリシーを定め、インベントリ・クオリティを管理するための透明性を提供することです。最近、私があるサプライヤーと仕事を行った際に、不正なトラフィックがある日大量に発生し、翌日には完全に消滅したことがありました。私はアカウントチームに、私の知っている詳細を伝えることなく事態の説明を求めました。私はサプライヤーがどの程度クオリティを密に監視しているかを知りたかったのです。アカウントチームからの質問に対して、サプライ業社は不正なURLを検知したため同日に除去した旨を説明してくれました。私にとってそういった業社は非常に大切にすべきパートナーで、信頼の上に成り立った透明性を提供してくれます。

バイヤー、セラー及びテクノロジー企業はクオリティ標準改善のために協力すべきでしょうか?

私は、時々自分の仕事を敵の背後に存在するスパイのように考えることがあります。私は様々なSSPやDSPと関係があり、アドフラウドと思われるような事情をみつけたときには、彼らに電話で確認を行い共同で問題に取り組みます。私は多くの事業者ができる限り協力すべきだと考えています。

クオリティは、問題をサプライチェーンの他の事業者と共有し業界全体が取り組みを強化しない限り、非常に短期的には差別化要因にしかならえません。もしそれぞれの事業者がクオリティに関する取り組みにおいて独自の取り組みを進める場合には、デジタルにおける信頼性は損なわれ誰も得する結果となり得ないでしょう。

インベントリ・クオリティの将来性に関する意見を聞かせてください。

次の景気後退がいつ起ころうとも、私はクオリティに関する大きな動きがあると予想しています。また、GDPRタイプの規制が世界的に広がっていくと考えており、先駆的な議論が米国でも行われるようになると考えています。こういった新しい規制の中で、クオリティはより重要性を増し、広告主は現在と同様のクオリティの精度では太刀打ちできなくなります。さらに、コンテンツの重要性が再び着目されるようになり、バイヤーはクオリティの保持されたコンテキストにおける掲載を求めるようになるでしょう。

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ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。