オプトグループの「オムニチャネルイノベーションセンター」が描く小売業のデジタルトランスフォーメーション支援 [インタビュー]
オムニチャネルやO2Oの文脈で語られるデジタルマーケティングの市場が本格的に動き始めているなかで、この領域で新しい横断組織を立ち上げたオプトグループ。
その詳細や背景にある業界動向について、株式会社オプト オムニチャネルイノベーションセンターO2Oソリューション部部長 兼 株式会社コネクトム代表取締役社長 久米田晶亮氏と、株式会社オプト オムニチャネルイノベーションセンターO2O戦略部 部長 兼 株式会社コネクトム取締役 本郷一也氏にお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
オプトとコネクトム、オムニチャネルへの取り組み
―オプトグループにおけるオムニチャネルサービスの体制と自己紹介をお願いします。
久米田氏 オプトグループは、今年3月にオムニチャネルイノベーションセンターという組織を発足しました。この組織は小売企業の店舗集客やマーケティングご支援に特化してグループ総力でお客様の支援を行うことを目的にしています。
私自身は2008年にオプトに入社し、O2Oやオムニチャネルに強い関心を持ち、グループとの親和性も高いと思い、このテーマに関わり続けてきました。2014年にコネクトムを設立、現在に至るまで代表を務めています。コネクトムは、黎明期から当分野での取り組みをスタートした老舗であるといえます。
本郷と私はコネクトムと同組織を兼務しており、オプトグループの中で、私はプロダクト開発と企画・運用、そして本郷は営業戦略というような役割分担をしています。
本郷氏 私は新卒でオプトに入社し、1年半後にグループ会社のクロスフィニティというSEOやアフィリエイトを中心とした会社に出向した後、役員として活動していました。今年オプトグループが流通・小売により注力することを受け帰任し、オムニチャネルイノベーションセンターを設立し営業組織の責任者とコネクトムの取締役になりました。
―お二人が兼務されているオムニチャネルイノベーションセンター、コネクトムそれぞれのお取り組みについてそれぞれお聞かせください
本郷氏 オムニチャネルイノベーションセンターは、オプトグループを横断して設置された組織で、基本的にオプトグループのアセットで使えるものはすべて使っていこうというスタンスです。当組織はプロダクトの仕入れはもちろん、コネクトムやリレイド(旧スキルアップビデオテクノロジー)などのグループ企業ともプロダクトを開発し、お客様に提供しています。
私たちがターゲットとするお客様は店舗をもつ企業です。今までチラシに使っていた予算の一部をデジタルにシフトし、チラシではリーチできなかった層にデジタルで訴求をしていこうというご提案をしています。
お客様の担当部署は、EC部門の場合もあれば販促部門の場合もあります。オプトがこれまでお付き合いのある企業様へのご提案はもちろんですが、全く新規のところに営業をかけることもあります。最近では別のお客様からご紹介いただくケースも増えてきました。
久米田氏 コネクトムの設立当初は、「Retailigence」という生活者の位置情報と店舗の在庫データを活用するシステムを米国から持ち込んだのですが、まだ日本の小売企業の在庫管理状況が追い付いておらず、普及には至りませんでした。それでも長い期間このテーマに取り組んできて、色々なノウハウが蓄積されました。オムニチャネルの文脈で、大手小売企業のマーケティング関係者を集めて会合もしました。多くのお客様に頂いたご指導・ご指摘あってこその当社です。今ようやく市場の盛り上がりが見られており、波に乗って拡大しようとしているタイミングです。
2016年からは「toSTORE(トストア)」というプロダクトを開発しています。コネクトムはプロダクトの開発と位置情報マーケティングのコンサルティングをする会社ですが、これからはプロダクト開発に注力し、バリエーションを増やしていきます。
テクノロジーで気持ちの良い買い物体験を提供する
―コネクトムが提供している「toSTORE」について、お聞かせください。
久米田氏 「toSTORE」のお話をする前提として、コネクトムのミッションがあります。「パートナーと共に、感動的で “気持ちの良いお買いもの体験“ を届け、
生活者、そして世の中を笑顔にする」です。ECに比べ、店舗における小売業と生活者の関係はウェットな部分が多くあります。例えば雨の日にお店に行くと「今日は雨ですが濡れませんでしたか」というように、生活者のシチュエーションを分かったうえで対面接客をするのが当たり前です。「toSTORE」は、このようなコミュニケーションを尊重しながら、出来るだけデジタルの利便性を付加していくことを重要視しています。
コネクトムの事業ドメインは持続的な成長を目指す有店舗事業者のデジタルトランスフォーメーション欲に対し、位置情報/店舗情報/シチュエーション情報を駆使して最も効率的に“来店客数×購入率”を高めるマーケティング支援事業です。ですので、昨今注目を集めている位置情報は、「気持ちのいい買い物体験」を提供するターゲットユーザーの需要を推測するための、データのうちの一つに過ぎません。
「toSTORE」は、位置情報に加えて、供給される店舗や商品在庫情報、更には需給のバランスに影響するシチュエーション情報(周辺の天候や気温、地域特性など)を活用します。
これらのデータを複数のパートナーから収集・処理し、生活者のリアル行動を「精確に調査・分析」することで小売業の課題を特定するサービスであり、店舗の客数を効率的に増やす「打ち手」となるサービスです。
分析サービスにおいては、小売店のお客様が抱えている課題をお聞きし、ときには競合比較などを実施して簡単なお店の診断をします。そしてもし競合店にのみ来店者数が多いとすると、店作りなどの自社店舗内施策ではなく集客施策を打つという話になります。そこでチラシに代わるデジタル施策として併用していただいているのが位置情報広告です。プランニングをして来店計測をしてご報告するところまでを担います。
広告は3PASSを使い、お客様のニーズに合わせて適したDSPやアドネットワーク経由で配信し、クリエイティブのコントロールを当社で担います。分析に関しても粒度の細かい対応をしています。
「toSTORE」は、ほとんどの同業者をパートナーとして考えています。成長段階に入った市場ですが、現時点では顧客ニーズと世の中にあるツールでできることが綺麗にマッチングしない状況が多発しています。このギャップは複数のパートナーとの協業によって埋めることができますが、その際に発生する様々なオペレーションを自動化する試みを行っています。こうしたポジションでのサービス開発を経て、「位置情報に基づく行動解析や来店分析」「店舗売上とプロモーションの相関関係分析」「最も売り上げに寄与した・寄与する可能性のあるデータの自動解析」を行なっています。1,000店舗があれば、そこには1,000種類のお客様と店舗スタッフとのコミュニケーションのパターンがありますし、その内容も毎日・毎時間変化します。
これらをスケーラビリティーを担保しながら仕組み化するような機能が入っています。
広告の来店計測に関しても「本当はこういうことがしたいけど、まずは一部だけで試してみたい」「現状の範囲で出来ることから手を付けたい」「将来的なスケーラビリティも加味して準備を進めたい」ということにも応じられることが、「toSTORE」のコアとなる考え方です。複数パートナーとの連携や必要な仕組みの開発を前提として、顧客に寄り添った戦略策定することでニーズにお応えします。
ID統合による施策の統一に向けて
―業界動向についてお聞かせください。位置情報系広告配信を強く訴求する企業数が以前よりも少なくなっているようにも感じられます。
久米田氏 確かに一時期と比べて淘汰が進んできているのではないでしょうか。
本郷氏 来店計測においてはGoogleのストアビジットが注目度を高めています。しかし、他のソリューションでお客様のニーズを補完しているケースも少なくはありません。オプトとしては、Googleのメリットデメリットを踏まえて、「toSTORE」や他のソリューションをご提案するなど、お客様のニーズやご予算に応じた対応をしています。
―位置情報を活用したソリューションやプロダクトについて、技術的なトレンドとして注目されていることがあればお聞かせください。
久米田氏 顕在化されたニーズとしては、ID統合によるユーザーの広告接触から購買に至る全体の管理です。いろいろなお客様から要望として上がっています。広告接触してお店に近づき、お店に入って回遊し、レジ通過してそのあとまた再購入してくれるかという一連の把握が重要であり、統合されたIDによってまとめることが必要です。
ユーザーを分析してクラスタリングし、育成する必要が出てきますが、こうした区分けが必要とされているのはユーザー軸だけではありません。製品軸にも区分けが必要です。例えば、製品関連性を分析する考え方があります。「ピンク色の靴を買った人がピンクの鞄を買う」「美白効果のある化粧水を買った人が夏に日焼け止めを買う」というように関連性といっても多様なパターンがあります。こういうデータを集め、ID統合し、コミュニケーションの戦術までを自動化して実行するようなMAツールが重要になってきます。プライバシーへの配慮を忘れず、こうした取り組みに挑戦することで競争優位性を築いていくことが大切です。
本郷氏 このような世界観は、まだこれからのことですが、継続的に研究開発を続けていきたいと思います。オプトにはCRMのコンサルティングに特化した部署もありますので、それらと連携することでお客様のニーズをかなえることも出来ます。これもオムニチャネルイノベーションセンターの機能として持ち合わせているものです。
今後はクリエイティブの開発と、メーカーの販促支援にも注力
―今後の取り組みなどについてお聞かせください。
久米田氏 コネクトムとしては、ユーザーが気持ちよく買い物をすることが出来るコンテンツ提供をするためのクリエイティブ開発を進めてまいります。いくらユーザーのペルソナが理解出来たとしても、そのユーザーにお薦めすべき商品であったり、お薦めするタイミングを間違えてしまうと、購買につながりません。ですので、そのあたりを細かく分析し、ユーザーが求めるものを瞬時に提案できるようにしたいと思います。その実現に向けて、Googleやキャリアをはじめとした同分野で活躍するパートナーとのアライアンスを大切にしていきたいと考えています。
本郷氏 オムニチャネルイノベーションセンターは「「販促×デジタル」の領域で市場を創造し牽引し続ける」というビジョンを掲げています。現在はサービスの対象を有店舗事業者様に絞っていますが、「toSTORE」が持っている位置情報のデータを組み合わせることにより、小売店様に商品を卸しているメーカー様にも価値を提供できると思っております。昨今メーカー様が活用している販促費や流通対策費のデジタルトランスフォーメーションの事例が徐々に出てきおり、今後更に加速していくと考えています。オムニチャネルイノベーションセンターとしては有店舗事業者様、メーカー様の双方に価値を提供することで小売業全体のデジタルトランスフォーメーションに貢献していきたいと考えています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。