単品リピート通販業界、ダイレクトマーケッターの広告出稿の流儀 [インタビュー]
動画広告需要の拡大などを背景に、デジタル広告のブランディング活用に関する提案が進められている中においても、単品リピート通販業界のダイレクトマーケッターの考え方は、異なるようだ。
デジタル広告業界と通販業界を跨いで大きな存在感を放ち、多くのノウハウを業界に伝授してきた、売れるネット広告社 代表取締役社長CEO 加藤公一レオ氏に、単品リピート通販業界の動向やダイレクトマーケッターの考え方、同社の直近の取り組みについてお話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire Japan 野下 智之)
200社のダイレクトマーケッターをサポート
―事業の進捗についてお聞かせください。
2ヶ月ほど前の2018年7月末、売れるネット広告社は第9期を終えたのですが、第9期は前年比170%成長の売上15億円くらいで、絶好調でした!
―実は以前加藤さんにお話をお聞きしたのが5年ほど前でしたね!
当時の売上は1億円強で、スタッフは10数名でした。そのころと比べると現在の売上は10数倍、人数は3倍になりました。
―この間どのように成長を続けてきましたか?
売れるネット広告社は一貫してダイレクトレスポンスマーケティングに従事してきました。『売れるネット広告つくーる』という、単品リピート通販支援ASPサービスが売れ続けています。
基本的に私たちからこれをプッシュ営業することはありません。そんなことしなくても、私を含め、社員の一人ひとりが色々なところで自分自身のブランディングに繋がるような広報活動をしています。色々なイベントやセミナーに呼んでいただいて講演したり、連載コラムの執筆などしたりして、それぞれ知名度を高めているのです。売れるネット広告社のクライアントが名立たる大手メーカー系通販会社だったりもするのも相まって、うわさが噂を呼び、現在は200社のクライアントがいます。
その中から、追加的なご支援の要望をいただくクライアントに対しては、コンサルティングやランディングページの制作、メディア出稿などトータルサポートすることにより、売れるネット広告社は収益を高めています。コンサルティングをさせていただいているのは大手メーカー系通販会社をメインとした10社なのですが、そうしたクライアントとのお付き合いの入り口は、ほぼ100%『売れるネット広告つくーる』です。
―貴社の事業が拡大し続けている大きな要因についてお聞かせください。
ネット広告市場とネット通販市場が引き続き大きく伸びているということです。その中でネット通販の面白さは、毎日のように新しい会社が生まれては消えていくような活発さがあるところでしょうか。他の業種、例えば金融や不動産の市場では、新しく参入する企業の数は限られていますよね。
そして一番面白いのは、クライアントの費用対効果の意識が他の業種と比べて、とてつもなく強いところです。当たり前のことですが、1億円の広告費を投資したら、いかに2億円、3億円の売上にすることができるかというような観点がとても強く、「広告は売ってなんぼ!」という意識がより高まっています。そうした数字で勝負できる土俵であれば、例え小さなベンチャー企業であっても、大手総合広告代理店に勝てる、つまり「小が大を喰う」ことができるんです。数字で語る世界では、数字を出したものが絶対的な王様です。
売れるネット広告社は、通販業界のトップ100社のうちおよそ7割もの通販会社と何らかの取引実績があります。その一番の理由は、私たちは新規顧客の獲得のみならず、CRMまでも支援しているからだと思います。
ぶっちゃけ、ほとんどの広告代理店が支援している範囲がメディアバイイングなのです。いわゆる運用型広告を回して、メディアマージンで収益を得ている状況です。その後のCRMを含めたトータルで支援する会社がライバルとしてほとんどいない。何故かというと、この領域は売り上げ効率が悪いのです。ですので、ほとんどの代理店は、メディアバイイングの領域で、CPAまでの責任を持つのです。我々はCRMの領域まで入り込み、ROASまで責任を持つというのが、大きな特徴です。
あとは、単品リピート通販という分野では、かなりの知名度とポジショニングを確立したということも、売上成長の大きな要因として挙げられるでしょう。
増える単品リピート通販事業者、総合通販も参入
―業界動向についてお聞かせください
首都圏の大手メーカーがこぞって通販に参入し続けています。売れるネット広告社のクライアントも、全体の8割は東京です。なので今は社員も東京のほうが多い状況です。
業界全体を見渡すと、九州の人材が東京に行って、大手メーカーの通販事業を支援していることもしばしばあります。大手メーカーの通販のTVCMを見ると、クリエイティブに九州の広告会社が関わっているような状況もあります。首都圏の大手メーカーが、九州の単品リピート通販のノウハウを取り入れて、資金力とブランド力で一気に攻勢をかけているのです。健康食品の領域では、やはりブランド力があり、安心感のある大手メーカーのシェアが益々高くなるでしょう。
一方で化粧品に関しては、その限りではないと認識しています。直接肌につけるものであり、ユーザーの好き嫌いがはっきりと分かれます。通販の世界では、ブランドだけではなく、実力勝負です。ですので、今後中小企業が生き残るのは、サプリメントよりも実感値が高い化粧品の領域です。
単品リピート通販のLTVは平均3万円ですので、CPOが1万円、あるいは1万5000円でも広告主は採算が取れます。ですので、積極的な広告出稿が出来るのです。これは、総合通販の会社の場合には成立しえないモデルなのですが、最近ではその傾向も変わってきつつあります。
元々は総合通販であった事業者が、一番売れ行きが良かった育毛剤を単品リピート通販型で売り始めたのですが、そうしたらそれがどんどんと売れて、数百億円規模の売上に達しました。現在はこの事業者の売上の7割を、1プロダクトラインが占めています。この総合通販は今、リピート性のあるスター商品を見つけて単品リピート通販化をしようとしています。
逆に単品リピート通販は、次々に商品を増やしていく必要があります。ですのである意味、総合通販が単品リピート通販に、単品リピート通販が商品を増やして総合化するというように、両者がクロスする現象が起こっています。
結局ビジネスモデルとしては、総合通販よりも専門性のある単品リピート通販の方が儲かります。単品リピート通販は、いわばサブスクリプションモデルですが、通販の世界のみならず、サブスクリプションモデルがデジタルの世界では主流になっていますよね。毎月固定収入が入るというモデルが、ビジネスの主流になってきているのです。ラーメンの世界ですら、定額食べ放題が出てきているくらいですからね。笑
デジタル広告では100億が限界?!
―単品リピート通販企業の広告出稿に占めるデジタル比率はなにか変化があるのでしょうか?
単品リピート通販というのは、お客さんを獲得できれば正直どの媒体でもいいのです。デジタル比率などは全く関係ありません。チラシでお客さんを獲得できるようであればチラシに予算を投下しますし、デジタルであればそこに予算を投下する。それだけのことです。キレイゴトはありません。
―通販事業をオンラインで始めた会社と、オフラインから始めた会社とではデジタルの比率は異なりますよね?
私たちがコンサルティングをさせていただいている、オフラインの歴史がある大手メーカー系通販会社の場合、デジタルの比率は大体20%~30%程度でしょうか。もともとデジタルから入った通販会社の場合、デジタルの比率はほぼ100%です。
一つだけ言えることは、デジタルだけにいくら投資しても、大体の場合、単品リピート通販の売上上限は100億円ぐらい、それ以上の規模に到達する会社は珍しいです。大体このくらいの規模に行く会社は、ネット以外の媒体を活用しています。インフォマーシャル、新聞、チラシなどですね。オフラインから始めた会社の観点では新たにデジタルを足したという感じですからね。
―デジタル広告を出稿する媒体の傾向はいかがでしょうか?
やはりFacebook、Instagramが伸びていますね。あとは、リスティング広告よりも、GDNやYDNのほうが、出稿額が伸びています。ただこれらは運用型広告です。
運用型広告は変に平等主義です。TVCMを出稿しているような大手広告主企業からすると、フラストレーションを感じることもあるのです。運用型広告はパワーゲームがやりづらく、昔のTVや新聞のような、大量の広告費を投下することで大量露出ができるというようなダイナミズムがありません。
成功している通販会社の多くは、運用型広告はしっかりとやりつつも、別で純広告に投資をしています。通販会社の登竜門とされているYahoo!ブランドパネルなどのように、お金で枠を買うというところにステップアップしています。
デジタルで通販を始めた企業の広告活用は、「運用型広告⇒純広告⇒チラシ・新聞⇒TV・インフォマーシャル⇒TV・ブランディング」という過程を経ていきますね。
デジタルで刈取り、TVCMでブランディング
―インストリーム動画広告でのブランディングはやらないのでしょうか?
あまり使うことはありません。売上規模100億円を超えているようないわば“勝ち組通販会社”は、ネット広告はブランディング媒体ではないと考えていることが多いです。
通販業界的観点では、ブランディングをやるときにはTVCMを使います。これはネット広告やチラシ、インフォマーシャルなどの刈取り媒体の効果を倍増させるドーピング効果として使っているのです。
面白いこととして、ネット広告やチラシ、インフォマーシャルなどはあくまでも刈取り媒体として割り切って使っています。逆にブランディングをおこなうTVCMでは“超上品”なクリエイティブを使いレスポンスゼロと割り切っている。
ユニクロやソフトバンクの事例が分かりやすいと思います。ブランディングに振り切ったTVCMは、レスポンスなんて全く意識していない“超上品”なクリエイティブですし、逆にチラシなどの刈取り媒体は“超コテコテ”の売り色がある。つまり、クリエイティブは“二重人格”でいいんです。
ちなみに、TVCMを打つと、ネット広告やチラシ、インフォマーシャルなどの刈取り媒体のレスポンスは、通常と比べ1.5倍くらい上がります。
―TVと同じ役割で、インストリーム動画広告を使うということはしないのでしょうか?
はい、しないですね。なぜならTVCMのほうが一人あたりのリーチ単価が安いからです。
あと、これは通販業界における私や、多くのダイレクトマーケターの意見ですが、「ネット広告はブランディングには向かない」のです。
本当の意味でブランディングをするのであれば、全画面を独占できるTVCMが最適です。
インターネット広告というのは、正直少額で誰でも出稿が出来る媒体です。一方のTV広告は、最低でも数千万、場合によっては億単位の広告費が必要です。新聞の15段広告も同じです。これらには権威があるのです。極端な話、フリーペーパーに広告が出ていたとしても、これはブランディングにはなりません。なぜなら権威がないからです。
極端な話、デジタルの世界は非常に平等だからこそ、そこまで権威がないという認識を私は持っています。一方で、通販部署以外の一般的な広告宣伝部門でTVやネットでブランディングをしているマーケッターにとってはその認識は違っているかもしれません。なぜなら、彼らのほとんどは極端な言い方をすると数字に対する責任を負っていないからです。
ただし、数字を追っている通販部署のダイレクトマーケッターは、そうではないのです。「どうせ広告費を投下するのなら、TVCMの方がよくない?」と。あるいは、Yahoo!のブランドパネルに広告費を投下するのであれば、ブランディングを意識した“超上品”なクリエイティブを出すよりも、「今すぐ500円モニターを」といった“超コテコテ”クリエイティブを出した方が、儲かると思っているからです。
単品リピート通販会社のダイレクトマーケッターは、TVCMでブランディングを行い、ネット広告やチラシ、インフォマーシャルで刈取りをします。役割ははっきりと分けていますし、双方のクリエイティブは“二重人格”でいいんです。これが単品リピート通販業界のいわゆるブランディングに対する観点です。
課題はLTV最大化に向けたCRM対応
―単品リピート通販会社のデジタル活用における環境変化や課題はありますか?
三つほどあります。意外に思われるかもしれませんが、単品リピート通販会社は、LTVを最大化するノウハウを持っていません。広告をバーンと打つけれども、ほとんどのお客さんが単発買いで終わってしまうのです。一回定期購入に申し込んでもらった後に、いかにそれを継続してもらえるかということが、大事になってきます。そのためにCRMの強化をするための相談をされることも、近年非常に増えてきました。
そして二つ目が、薬機法、特商法に関することです。まず薬機法ですが、近年ものすごく厳しくなっています。そして特商法ですが、例えば、単品リピート通販で、定期コースである場合にはそのことを明確に明記することが必要になりました。
今までの単品リピート通販会社は、『ワンステップマーケティング』で最低購入回数や、解約時の違約金などに関する契約条項を明示せず、消費者に魅力的な謳い文句を投げかけ、いきなり定期コースに勧誘するという方法でビジネスをするケースが見受けられましたが、それが厳しく規制されるようになりました。
このような規制を受けて、最近では初回無料またはモニター価格の商品を提供して見込顧客を集め、その後本商品の定期購入を提案するという『ツーステップマーケティング』へと移行しつつあります。
最後の一つは、昨年の秋にGoogleによる「健康アップデート」という、検索アルゴリズムの更新が行われたことです。これにより、個人のアフィリエイトサイトや比較サイトがランキング上位から大幅に削除されたのです。で今どうなっているかというと、個人アフィリエイターは検索順位を大きく落としました。アフィリエイトの売上が1/3ほど減少したという話も聞きます。そのため、信頼性の高い法人媒体へと出稿がシフトしています。
―そうするとCPAは以前より上がっているということでしょうか?
はい、上がっています。ですが新規顧客を獲っていく必要もありますし、アフィリエイトが停滞している以上、純広告に投資していかざるを得ない状況です。
その分、当社のような会社に依頼をしてLTVを最大化させる取り組みをしている企業が増えてきているのです。
―貴社の今後の事業の方向性についてお聞かせください。通販業界以外へのサービス展開は考えていないのでしょうか?
はい、考えてはおります。現在私たちのノウハウを現在店舗小売業界へは転用をしており、CRMの仕組みを、「売れる 店舗CRMつくーる」というプロダクトを通して、店舗を運営する企業向けに提供をし始めております。
あとは海外展開です。まずは、越境ニーズに対応すべく台湾に展開を始めており、『売れるネット広告つくーる』の台湾越境版を提供し始めております。
私たちのコアコンピタンスは変わっておりません。クライアントごとにサービスをカスタマイズすることはありません。私たちは【A/Bテスト】の会社です。過去18年間で累計“1000回以上”の【A/Bテスト】を繰り返して得られた“最強の売れるノウハウⓇ”が我々の最大の武器ですし、少なくとも単品リピート通販の業界では断トツの実績を有しています。
【A/Bテスト】の結果は全て社内でデータベース化されています。どのようなキャッチコピー、写真、デザイン、仕組みなどを使えば一番売上が上がるかということを全て把握しています。ですので、私たちのところに来ていただいたクライアントの広告の費用対効果は、前の広告代理店に比べて平均して4倍から5倍改善します。
売れるネット広告社の使命とは、「明日東大を受ける人に、試験の答えを渡すようなもの」です。笑
言い方は悪いですが、私たちは、【A/Bテスト】の結果をベースに、クライアントにズルをしていただくビジネスをしているのです。今後も、色々な通販が生まれてきます。どこに任せるのが一番いいのかといったら、簡単に言えば答えを持っている人です。何度も【A/Bテスト】をやっていて、ズルをさせてくれるところに決まっているのです。
これが私たちのポジションです。私たちはクライアントごとのカスタマイズはゼロです。「私たちはこういう仕組みを持っていて、データも持っています。のりますか?」と誘うだけ。非常にシンプルですね。
★売れるネット広告社のセミナーに参加してみたい方は「こちら」
★売れるネット広告社で働いてみたい・話を聞いてみたい方は「こちら」
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。