伸び続けるFacebook広告のいま [インタビュー]
国内デジタル広告市場で既に多くの広告主に使われているFacebook広告。同社の広告主に対する提案の注力ポイントの現状や今後の展望について、フェイスブック ジャパン執行役員 本部長の鈴木大海氏お話を伺った。
(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)
動画を中心にニーズの高まりが継続
― 鈴木さんのことはご存じの読者の方も多いでしょうが、改めて自己紹介をお願いいたします。
2017年にCriteoから転職しました。現在はフェイスブック ジャパンでEコマースと旅行関連のクライアントを担当し、統括する立場にいます。前職のお客様と重なる部分も多いです。Facebookには発見に最適なプラットフォームとして、何かを探している時だけでなく、リラックスしている時に見て何かを発見していただける特性があると思っています。友人の投稿を見てご自身が興味・関心を持った部分に合わせて、最適なメッセージを出しているからです。
Facebook広告は利用者にとって親和性の高い広告コンテンツを提供しています。我々はクライアントのマーケティング課題解決に向けサポートさせていただいている立場におり、Facebookの場合は潜在的なニーズを顕在化するところに特徴を持っています。
これまでの業界経験においては、比較的ダイレクトレスポンス系のメニューのご提案に多く関わってきました。あまりブランド目的のキャンペーンには携わってこなかったので、今回は新しいチャレンジです。Eコマースのクライアントについては、必ずしもダイレクトレスポンスだけではなく、ブランド認知のキャンペーンのサポートもしております。
― Facebook利用者の利用の現状や、Facebook広告に対する広告主からのニーズについて、特筆すべきポイントがあればお聞かせください。
まず先に利用者の動向についてですが、動画コンテンツや動画視聴の伸びが挙げられます。Facebook上の動画コンテンツは広告とオーガニックを含めて全世界で1日80億回以上、時間にすると1日1億時間以上再生されています。Facebookが購買ファネルの下のほうだけではなく上のほうもサポートできることにも合致しますが、動画についてはニーズが高く、広告主の成果も高くなってきています。
日本においてはInstagramがアカウント数の伸長もビジネスも好調です。利用者の視聴時間が非常に伸びており2018年1月からの半年間で、フィード及びストーリーズに動画を投稿した利用者の数は4億を超えています。
弊社ではInstagramを「ビジュアルコミュニケーションのプラットフォーム」と説明していますが、フィード投稿に加えて「Instagram Stories(インスタグラム ストーリーズ)」(タイムラインとは別に画面上部に表示される動画や静止画で、24時間後に自動的に消滅するもの)も利用が急成長しており、広告主もストーリーズの利用を積極的に始めてきています。
FacebookとInstagramそれぞれのコンテンツや広告に占める動画の比率は公開していませんが、Instagramは「ビジュアルコミュニケーション」と銘打っていることからも、クリエイティブがより重要になってきています。そこに注力するため、テレビCMのキャンペーンとして作ったものをモバイル画角でInstagram用に再編集して使ったりする広告主が増えてきています。また、ストーリーズは特に若年層の利用が盛んであることから、そういった層にアプローチしたい広告主においては、縦型動画での訴求が増えています。
クリックではなくビューの価値を高める
― Facebook広告を使う広告主の層は、企業規模の大小や業種、利用目的に限らず、多種多様化しているように感じられます。貴社はそれぞれの広告主に対し、どのような使い方の提案をしているのでしょうか?
企業の規模の大小や業種による「正解」はないのではないかと考えています。それぞれの企業が抱えているマーケティング上の課題に合わせ、最適な広告メニューを組み合わせることがベストだと思います。
例えば、新しくサービスを作ってマーケットに投入する場合、認知が足りていないことが想定されます。予算とキャンペーン規模に応じて実施していただくことが必要ですが、少額予算での実施では、まず一定度合いの認知をとっていただき、その後購買ファネルの下の方へと照準を移していただくのが有効です。
まず認知のフェーズを動画広告でとり、その後ダイレクトレスポンスに効果が見られるリターゲティング広告を実施していただくなど、企業のニーズに合わせたソリューションが必要だと思います。既に認知がとれていて、競争の激しい業界にあり、Eコマースの事業者が購買行動を促進することもあります。その際には、ダイレクトレスポンス型のメニューが非常に重要となり、購買ファネルの下の方へ働きかける広告を中心に最も有効なメニューを組み立ててご利用いただくのがよいでしょう。
― 貴社の広告を有効活用するための広告効果計測は、どのようにするべきでしょうか?
貴社が提供されているソリューションと合わせてお聞かせください。
購買ファネルの上部から下部までのいずれにも対応できるということがFacebook広告の特徴です。いただいたご質問に対する正解は一つではありません。一つの課題に対し、いく通りもの正解が存在します。
これは日本特有のことかもしれませんが、 ラストクリックで広告効果を計測するのが慣習のようになっています。これは複数の施策を実施した場合にどこで成果を計測し、アトリビュートするかという点でわかりやすいからです。ただ、ラストクリックで計測すると、クリックされない広告は全く価値がないということになってしまいます。かつ、ラストクリックの手前にある広告も、ビューだけではなくクリックされていても同様に価値がないという評価になる。これがラストクリックアトリビューションモデルの問題点だと思っています。
Facebookはフルファネルで広告メニューを提供でき、プラットフォームの特性として利用者の発見を促すことができます。すなわち、人に発見させたりインスパイアしたりするのが得意なプラットフォームです。しかし、「インスパイア=即クリック」なのかといえばそうではありません。広告を見てインスパイアされ「今度ここに行ってみよう」と思ってもすぐそこでクリックするのではなく、後日別のチャネルやオーガニックで訪問するので、価値計測に結びつかないことがあります。業界全体でラストクリックからビューも含めた広告計測を実施するようにするのが課題だと感じており、Facebookとしても今後解決策の提案を行いたいと思っています。実際によい事例が増えてきています。こうした計測については現在開発中です。
たとえば、楽天トラベルさまはクリックベースでの計測をされていたのですが、Facebookの人ベースの効果測定で、新規顧客の獲得にどれくらいFacebook広告が寄与しているかをABテストやCVリフト調査などのアプローチを使って検証させていただきました。その結果、新規ユーザーの獲得とリフト調査の結果には明らかな相関関係があることがわかり、リフト効果が見られるユーザー層と、効果的な配信の方法が明らかになりました。これはラストクリックだけではなくビューも含めてリフトテストを実施したからこそ見えてきたことです。この事例は楽天トラベルさまと共同で設計、開発した計測結果ですが、理想としては自動で計測できるツールがあるとよいと考えています。
このように効果測定に先進的に取り組まれている楽天トラベルさまのような企業の事例をとりあげたサイトも用意しています。広告計測に課題を抱えている企業にも参考にしていただき、今後も皆さんとこの課題について考えていきたいと考えています。
― 人ベースによるビュースルーコンバージョンは、誰でも利用できるものなのですか?
鈴木氏 メニューとしてはご利用いただけます。もともと当社の管理画面では、ビュースルーコンバージョンを提供しています。FacebookやInstagramは利用者の発見を喚起しインスパイアすることができるプラットフォームですので、単純にクリックという最後の通過点だけではなく、ビューという通過点も含めて計測していただくのが正しい使い方であると考えております。
クリエイティブと配信面とで使いこなす
― Facebook広告は人気があり、近年は獲得単価が高水準になっているという話を聞くことがあります。そのような中で、Facebook広告を効率よく活用するコツについてお聞かせください。
動画なども有効的に活用いただき、関心を引きやすいクリエイティブにしていただくことが重要だと思います。広告でもオーガニックコンテンツでも、利用者にとって関連度合いの高いものを重視して表示しますので、利用者の関心を引きやすいクリエイティブにしていただくことが重要です。
加えて、「Audience Network(オーディエンスネットワーク)」というFacebook、Instagramのプラットフォーム外で提携している第三者ネットワークに広告配信ができるサービスもあり、これらを包括的に配信し、自動配置(広告配信の最適化)するオプションも可能です。Facebookの高精度のリーチをそのまま活かし、ビジネスのターゲットに合った時間や位置、利用者に広告配信が可能で合理性の高い配信ができます。
― Facebookが活用するデータは他のプラットフォームにはない貴重なものがある一方で、 現在注目されているデータアセットである購買データが含まれていません。ダイレクトレスポンス向けのキャンペーンにおいては、特に購買に関するユーザー情報は有効です。この点をどうカバーされているのでしょうか?
鈴木氏 購買に関するデータを持っていないわけではありませんが、何が買われているかを詳細に把握していないという意味では持っていないといえます。FacebookピクセルやSDKの情報を広告主のサイトに実装していただくことで、実際に商品が売れたのか売れていないのかということは、Facebook側でもシグナルを受け取れます。そのため、例えばどの商品のコンバージョンレートが高いのかというデータは知ることができます。ただ、FacebookピクセルやSDKの情報は広告主側から共有いただく情報ですので、その広告主用にしか使用しておらず、何が売れているかという詳細まではわかりません。
ストーリーズは今が狙い目
― Facebookとして広告に関して、今打ち出されているメッセージがあればお聞かせください
日本ではInstagramのアクティブアカウント数が非常に伸びており、特にストーリーズの利用については伸びが顕著です。ストーリーズは全画面縦型フォーマットで、認知を促進するという意味では非常に有効にご活用いただけるフォーマットですので、広告主には積極的なご活用をお薦めしています。ただしまだ、利用者の増加と比べて広告主がフルに使いきれている状況というわけではありません。ですから、今をチャンスと考えて他の広告主に先駆けてお使いいただけるとよいのではないかと思います。
ストーリーズ広告は全画面縦型フォーマットなのでクリエイティブ制作の面で難しいと思われがちですが、最近のアップデートで横長の素材とテキストで簡単に縦型の素材へと自動的に調整することもできるようになりました。ほかの広告と同じ素材もお使いいただけます。もちろん最適化されたフォーマットを制作いただいた方が効果は出しやすいです。課金体系はほかの広告と同じですし、ぜひお使いいただきたいと思っております。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。