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戻ってきたアプリユーザーに「おかえり!」という、リエンゲージメント成功の秘訣 [インタビュー]

スマホアドネットワーク最大手のアイモバイル(i-mobile)は、運用型のディスプレイアドネットワーク「i-mobile Ad Network」(以降i-mobile)と、動画アドネットワーク「maio」において、リエンゲージメント広告の提供を開始した。リエンゲージメント広告需要拡大の背景や、アイモバイルのこの領域での取り組み、リエンゲージメント施策の成功の秘訣などについて、同社取締役副社長の溝田吉倫氏にお話を伺った。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

リエンゲージメント広告に注目が集まる背景

― リエンゲージメント広告需要拡大の背景についてお聞かせください。

アプリ広告主によるユーザー獲得のための広告手法はデジタル広告では従来と大きな変化はありませんが、これまでにテレビCMやSNSの活用、オフライン広告など予算の使い方の幅は広がっているという印象です。

デジタル広告の場合はほとんど運用型広告なので、獲得単価が合わなくなると、一般的に広告予算は縮小します。獲得単価を上げてまでのユーザー獲得というのは、出来るところもあればできないところもあります。
アプリの広告主様は、もともとアプリのインストール数とインストール単価を見て広告投資をしていました。ですが数年前から、アクティブ率やユーザーの課金率などの動きを重視して見てみよう、ユーザーの動きがよい媒体社があれば獲得単価を上げて広告を配信しようという動きが出るようになりました。

ここ数年は1ユーザーあたりのアプリのインストール数も伸びなくなってきています。このことが新規の獲得件数の低下につながっているのです。そこで、新たに新規のインストールを獲りに行くだけでなく、既にアプリをインストールしている人たちに戻ってきてもらおうという動きが始まりました。

当社は、リエンゲージメント広告の提供を始めたのは2017年ですが、今年2月に正式なリリースをしています。ディスプレイネットワークの「i-mobile Ad Network」と「maio」のネットワークで提供をしており、リリースの直後から、案件は増えつつあります。

図

出典:同社プレスリリース

― リエンゲージメント広告の特徴はどこにあるのでしょうか?

特徴としては広告主様が持っているインストール済みユーザーのデータ(広告識別子)を計測ツールを通して私たちに提供いただき、その対象となるユーザーに広告を配信します。当社ではリエンゲージメント広告も、CPCとCPCV(Cost Per Completed View)で課金しています。したがって、「どういう面に出すか」と「どういう広告の訴求をするか」「どうターゲティングするか」にテクノロジーを寄せているのです

― リエンゲージメント広告に予算を割いているのはどのような業種でしょうか?

ほとんどがゲーム系広告主です。リリース後しばらく経っている場合がほとんどですが、なかにはリリース当初からリエンゲージメント広告を実施されるというケースもあります。

動画リワードでリエンゲージメント

― リエンゲージメントにおける技術的やプロダクトのトレンドはありますか?

リエンゲージメント広告は実際には数年前から一部の事業者がすでに提供をしていましたが、基本的にはまだバナー広告でした。最近は動画でのリエンゲージメント広告をしたいというニーズが高まっています。
当社がリエンゲージメント広告として配信しているのは動画リワード型広告です。リワード型というのは、ユーザーがアプリメディアのコンテンツをより楽しむために広告を見ること、選択することで配信されます。
仮にリエンゲージメント広告の対象となるユーザーがすでにアプリを持っていない場合、広告からアプリストアへ遷移します。新規のインストールと変わりませんね。そこでインストールしてもらうには、バナー広告よりも動画広告で15秒~30秒かけてアプリの魅力をもう一度伝えることが重要だと考えています。例えばゲームであればまた動画で見せることで、以前プレイしていたことを思い出す可能性が高いですし、もしそうでなくともまったく新しいものとして見ることもできます。動画にはこうした強みがあるのがよいと思っています。

― リエンゲージメント広告は、今後アプリプロモーション向け広告のうち、何割くらいを占める規模になりそうでしょうか? イメージはありますか?

まずは全体の10~20%になっていけばいいのではないかと思います。新規インストールのプロモーションのCPIは期間とともに上がっていく傾向にあります。そのため、リエンゲージメント広告はユーザーにアプリを継続してもらうための施策として重要になると考えます。

プッシュ通知の強み

― リエンゲージメント広告市場に参入する中で、アイモバイルとしての特徴はどのように出していかれるのでしょうか。

アプリにおけるリテンションマーケティングにおいて、いちばん効き目があるのはプッシュ通知だと私たちは考えています。プッシュ通知がユーザーにとってメリットになるものであればユーザーは戻ってくるでしょう。
当社は2017年2月に「LogPush」というプッシュ通知の事業を買い取り、今年2月に「LogBase」としてリニューアルをして新たにリリースしました。
今、ユーザーがアプリをインストールすると、ほぼ必ずというほど、アプリ側からプッシュ通知をするための許諾を求められるかと思います。
ですがここで一度これを「No」としたユーザーは、OSレベルで設定を戻さなければ、そのアプリのプッシュ通知を受信できるようになりません。ですが、実際にアプリをインストールした段階で、ユーザーから許諾を取るには、これはかなりハードルが高いのが実情です。したがって、ここから改善しなくてはなりません。出会って「はじめまして」の段階で、いきなり「プッシュ通知送ってもいい?」と聞かれても、「はい」とはいいませんよね(笑)

―「LogBase」というプロダクトはどのようなものですか?

プッシュ通知とアプリ内メッセージの二つを施策としてユーザー分析~リテンション施策までをワンストップで実行できるサービスです。
プッシュ通知をユーザーに送った際にABテスト機能を使って開封率をデータで見ることができるので、ルールベースでの運用が可能です。アクティブなユーザーかそうでないユーザーなのか、その属性や行動を基に、運用ルールを統計していくことに活用いただけます。ユーザーのステータスに合ったさまざまなメッセージが開封されたかどうかを分析することで、メッセージを改善できるのです。アプリはダウンロードがゴールではなく、ユーザーに戻ってきてもらうことがゴールですから、開封率がわからないままプッシュ通知を送り続けていてもうまくいきません。「LogBase」ならこれを改善することが可能です。

戻ってきたユーザーには、アプリ内の様々な機能を紹介していきたいので、アプリ内メッセージを使います。アプリを開くとよくメッセージが出てくると思いますが、これを利用してそのユーザーが使っていない機能をおすすめします。こういった、プッシュ通知とアプリ内メッセージを組み合わせて活性化させるためのサービスを作っています。

課金はMAUに応じて発生します。5万MAUまでは無料で、それ以上は有料でお使いいただきます。「LogBase」を正しく使えばMAUは必ず上がるはずですから、上がったところで対価をいただくという料金形態です。

― LogBaseを単体で提供することもありますか?

もちろん単体で提供することも可能です。ですが、「LogBase」は「i-mobile Ad Network」や「maio」と合わせて使っていただくことを私たちは推奨しています。リエンゲージメント広告によって呼び戻すよりも、まずはプッシュ通知で呼び戻す方がユーザーの行動分析ができ、その後の広告運用や予算の最適化に繋がるという考えです。ただ、プッシュ通知の送信を許可してくれないユーザーもいます。そういうかたにこそリエンゲージメント広告を送り、起動率を上げるよう促せば良いのです。そのうえで、戻って来てくれたら再度「プッシュ通知をオンにしませんか」というアプリ内部の施策をとっていくべきだと考えます。

リエンゲージメントと内部施策の実施が長期的成長の秘訣

― リエンゲージメント広告の導入は手間がかかりますか?

導入自体に工数はかかりますが、難しいものではありません。但し、いざユーザーを呼び戻した後どうするかという部分はこれからの課題です。広告費を出して戻ってきてもらっても「なーんだ」とまた去ってしまうと広告予算の無駄遣いになります。ですから、戻ってきてくれたユーザーには何かしらのリワードをあげる、またはアプリ側での施策変更も考えねば、真に効率的なアクティブユーザーの向上にはつながらないでしょう。リエンゲージメント広告とあわせた内部の施策を行うことが大切なのです。これが長期的にみると、アプリの成長における重要な部分だと思います。

そもそも、ユーザーを、アプリのどの部分に戻ってこさせるのかという問題もあります。アプリはどんどんアップデートされてゆきますから、しばらく使わないと知らない機能がたくさん出てきます。その状態で戻されると、知らない機能が増えているなど「よくわからない」状況に陥るでしょう。広告を見ても見なくても戻ってきてくれたユーザーには、その気持ちに応えるべく説明してあげなければなりません。例えば、チュートリアルをもう一度できるよう誘導するなどです。

― 運用の設計上、休眠期間はどのくらいに設定するなどの決まりはありますか?

溝田氏 弊社側で決めていることはありません。広告主様によって3日、1週間、1カ月など決められて運用されています。また、休眠期間だけではなく、休眠時のステータスがどこにあるのかという点についても考えるべきです。チュートリアルを完了できていなければ、まずそこから始めなくてはなりません。ユーザー一人ずつのステータスに応じた施策が必要だと考えています。

そこで、私たちが昨年買収した「TAGGY」で始めたいと思っているのは「ダイナミック・リエンゲージメント広告」です。個々のユーザーのアプリ内のステータスに応じたクリエイティブを出しわけるもので、チュートリアルを終えて一つ目のダンジョンはクリアしたけれど二つ目のダンジョンをクリアできずに休眠した場合、そのユーザーが使っていたキャラクターが「次のダンジョンが待っているよ。」など、そのユーザーに合わせたクリエイティブや表現で出せれば戻ってくる可能性が上がると予想しています。一様にバナー広告で出されるよりはそれぞれの個別のステータスに合わせたクリエイティブのほうがCVRは高くなるはずです。

リエンゲージメント広告の未来

― 今後の方向性について何かあれば教えてください。

社内にはプロダクトがいくつもありますので、それらを全体で使えるようにしていきたいと思っています。アプリなら、「LogBase」を使ったリテンションマーケティングから、リエンゲージメント広告をDSPやアドネットワークで出すなど、広告主様がされたいことのほとんどを、アイモバイルのプラットフォームでお応えできるような状態にしていくのが理想です。ですが閉鎖的にしようとしているわけではなく、「LogBase」のデータを別のリエンゲージメント広告が配信可能な企業様にお渡しすることもやぶさかではありません。広告主様のキャンペーンの成功がいちばんの軸です。

― リエンゲージメント広告領域での課題のようなものはありますか?

溝田氏 「これが黄金パターンだ」とはまだ言えません。データをいただいて配信し、配信結果を最適化するわけですが、実際に成果を上げられるかどうかは、広告だけでは実現できないのです。広告配信の他に、リテンション施策やアプリ内部施策など、そのすべてが一体とならなければ、ユーザーの復帰率や数値を上げることはできません。ここは広告主様サイドがいかに力を入れてくださるかにもかかっている部分であり、そうした課題に応じて新たな価値を提供することが弊社の使命でもあります。

DAUやMAUを上げていくことはビジネスの成功上不可欠です。新規インストールだけでそれが可能なうちはよいのですが、いずれインストールだけでは件数が下がってゆきます。常に一定のユーザー層がいる状態を、新規ユーザーや既存ユーザーで支えていくのだと思います。このあたりは、広告主様と協力的に合わせてやっていけるのであれば、進めていきたいです。戻ってきてくれたユーザーさんに「おかえり!」と言ってみたいですね。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。