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LINEとCyberZに聞く、7500万ユーザーとリエンゲージメント広告の意義 [インタビュー]

LINEは運用型広告「LINE Ads Platform」でリエンゲージメント広告の提供を開始した。開発に携わったLINEのLAPプロダクト企画室 北出庫介氏と、同サービスの認定パートナーである広告効果測定ツールF.O.Xを提供するCyberZの 康圭吾氏に、開発の背景や今後の展開について聞いた。

(聞き手:ExchangeWire JAPAN 野下 智之)

伸びるリエンゲージメント広告需要

― 簡単に自己紹介をお願いします。

康氏  CyberZでアドテクノロジーの「Force Operation X」通称「F.O.X」という計測ツールのツールセールスの責任者をしております。2015年に転職し、スマートフォンの広告代理店営業を経て、現職に従事しております。

北出氏 LINEで「LINE Ads Platform」のProduct Managerをしています。2016年12月にサイバーエージェントから転職しました。「LINE Ads Platform」の立上げから半年後に参画し、ブランド向け、ダイレクトレスポンス向けの広告プロダクトの企画をしております。

― 国内のリエンゲージメント広告の市場の現在についてお話しいただけますか。

康氏  国内のリエンゲージメント広告市場は伸びています。当社が過去に調査した結果では、今年2018年は昨年比で155%の伸び率が予想されています。市場でもiOS11からAppStoreのUIが変更されたことで、ランキングの価値が変化しました。これにより、プロモーションも多種多様なものが走り出していると実感しております。リエンゲージメントやリターゲティング広告を組み込んだプロモーションが、いまや常識になっているのを感じます。市場全体で見れば、ECや旅行系での取り組みが多いのですが、アプリに特化すればゲーム系の広告主様が実施されている傾向が強いように見受けられます。

写真1:北出氏

北出氏 これまでアプリの広告主は効果指標としてCPIを中心に設定してきましたが、今ではアプリ内でのイベントでの呼び起こしや最適化をしていくのが主流です。リエンゲージメント広告の市場規模は2020年で350億円と予測されていますが、当社としてもその軸で考えております。

母数は約7500万人、LINEのリエンゲージメント機能

― リエンゲージメントにかわるプロダクトは、これまでにもありましたか。

北出氏 これまではCPIのプロモーションに対応していましたが、ここを強化していきたいと思い、リエンゲージメント機能をリリースしました。
今回はまだ基本的なもので、休眠しているユーザーに広告を出して、アプリの再起動を促す機能です。今後は課金をはじめ様々なユーザーイベントに対する最適化が出来るようにしてまいります。

写真2:康氏

康氏 各広告主様はアクティブユーザーを獲得し、サービスを利用いただくことに全力を傾けています。ですから、ゴールはインストールではなく、ユーザーがアクティブになっている状態です。そのなかでユーザーをアクティブにするには、絶えずそのサービスが楽しい状態にする必要があります。アプローチ、プロモーション手法はテレビコマーシャルやプッシュ通知などいろいろありますが、アクティブになってもらうにはリエンゲージメントが必須だと考えております。

― CyberZとLINEのパートナーシップについて、改めてお伺いできますか?

北出氏 LINEでは、当社が提供する各種法人向けサービスの販売・開発を行う広告代理店やサービスデベロッパーを認定・表彰するパートナープログラムである「LINE Biz-Solutions Partner Program」を展開しており、「LINE Ads Platform」部門では、ダイヤモンド、ゴールド、シルバーなどのランクで認定を行う「Sales Partner」をはじめ、「Data Provider Partner」、「Ads Measurement Partner」、「Ad Tech Partner」の4つのパートナーカテゴリーを設けています。
今回F.O.Xとの連携によりCyberZさんを認定させていただいたのが、「LINE Ads Platform」部門の「Ads Measurement Partner」です。同カテゴリーでは、現時点で4社のサービスを認定させていただいております。広告主様は、これらのパートナーのSDKを使ってのみリエンゲージメントの実施が可能となります。

― 想定されているのはゲームの広告主が多いのでしょうか。

北出氏 ゲームだけではなく、EC系の広告主も含めて考えています。アプリの中で購入などの行動を促せるものから、会員登録などのダイレクトレスポンスでの利用を想定しています。

― LINEならではのリエンゲージメント広告の特徴はありますか?

北出氏 約7500万のLINEユーザーにアプローチできることが大きな特徴です。母数となるユーザー数が他のプラットフォームと比べて圧倒的に多いことで、リエンゲージメントのような呼び起こしのときも、アプローチできるユーザー数が多くなることが強みです。今回のリリース後、すでに多くのお問い合わせやご相談をいただいています。

一番効果の出るリエンゲージメントキャンペーン

― F.O.Xの現状を教えてください。

康氏  もともと2、3年くらい前までは当社と他社のツールでマーケットの50%ずつを占めていました。当時は計測ツール単独でご提供する機会が少なく、お客様に直接利用いただく機能も一部機能に限られていました。その後、オープンツールの波があり、現在のようにお客様がさまざまなツールを選べる時代になりました。これが2年前くらいで、そこからはF.O.Xも3rd party tracking toolとしてお客様に制限なくダイレクトに使っていただき、サポートさせていただくという対応をするようになったのが、現在の状態です。

― LINEのリエンゲージメントにF.O.Xが果たす役割についてお聞かせください

康氏  F.O.Xは、3年以上前からリエンゲージメント機能を持っています。F.O.Xは計測ツールでありつつも、広告主様のアプリ内情報を預かり利活用頂けるDMPのような役割も果たしております。今後、公式パートナーのLINEさんと密に連携をとらせていただく中で、一番効果の出る手法を一緒に開発させていただこうと考えています。

― 連携によりどのようなことができるのか、具体的な事例をご紹介いただけますか

康氏  F.O.Xの機能としては大きく二つあります。一つ目は「蓄積されているデータを自由にセグメンテーションしていただけること(キャンペーンの自動精製化)」です。二つ目は「セグメンテーションしたものを、配信したい媒体に自動的に連携させられること(キャンペーンの自動更新化)」です。将来的に、「LINE Ads Platform」とご一緒するとしたら、二点目のほうだと思います。

3年以上にわたりこの機能をさまざまなお客様に使っていただいており、クリティカルにどのキャンペーンで一番効果が出るのかということに対して知見が蓄積されております。また知見のみならず、こちらの機能は期間や抽出条件などの制限なくご利用頂けることによりF.O.Xのみの差別的な機能となります。

事例に関していえば、ゲーム系のケースでしたら「課金休眠」「課金額」のセグメンテーション、または、流入経路をオーガニックに絞ることで効果が改善もしくは高いことが実証されています。

1点目「課金休眠」とはユーザーが課金していない期間のことを指します。当たり前に課金があるユーザーとないユーザーがもう一度アプリを立ち上げた時に、再度課金することへのハードルは絶対的に違います。課金休眠でセグメンテーションを行った状態でプロモーションをし、前後のKPIを見た際、7日後ROASが55%ほど改善した実例があり、また最高で300%改善したケースもありました。

2点目「課金額」のセグメントでいえば、通常は課金の有無でセグメントしたキャンペーンをつくりますが、F.O.Xの場合は「課金額」でセグメントを切ることができます。ですから、500円から2,000円、あるいは1万円以上の課金それぞれをおこなったことがあるユーザーを見れば、ライトユーザーかヘビーユーザーかが判断予測が可能で、アプローチの仕方が変わってきます。それで、ARPU(Average Revenue Per User)が90倍違うことも実証されています。

3点目「オーガニック流入」についていえば、流入経路を絞らずにリエンゲージメントを配信するのと、オーガニックユーザーに絞って配信するのとでは、30日後リテンションが約5倍違うというデータがあります。つまり、アプリへのモチベーションが違うわけなので目的に沿ったプロモーションを行う際にオーガニック流入に絞ったアプローチは重要だと考えます。

こうした3つの事例にみられるような対応ができることがF.O.Xの独自的な強みであると考えています。

― リエンゲージメント広告のポテンシャルについてお聞かせください

写真3:康氏

康氏 ご存知の通りFacebookを皮切りにDynalystやTwitter、nendなど、リエンゲージメントの機能はリリースしており、今後各媒体ともにリエンゲージメント機能の強化をしていくでしょう。

個人的な見解ですが、日本のような単一言語の国では、リエンゲージメント広告は必須だと思います。米国ではリエンゲージメント広告は主流ではございません。なぜなら、広告主様はリエンゲージメント広告に工数をかけるより、自社KPIの達成において他の英語圏にアプローチしたほうが速いからです。これは中国でも同じです。ただ、日本語、韓国語など、その国の言語が他国に共通言語化していない国では、アプリの最適化という文脈ではリエンゲージメント広告は必須になると感じます。

当社での取り扱い金額も増えていますし、広告主様がリエンゲージメント広告に対して懐疑的に思っておられても、実施有無でROASや継続率が変わりますから、効果が出るのであれば皆さん取り組まれるのは必然です。

一度実装して、win-winな関係に

― リエンゲージメント広告で、今後こういうことができるようになる、ということなどはありますか? 新しい機能などは?

北出氏 今後は、対応していくアプリ内のイベントを増やしていこうと思っています。当社の最適化のロジックには、コンバージョンも最適化の部分に入れています。例えばですが、課金のデータを連携することにより、課金しやすいユーザーに対しての広告を出すことができるようにするなど、今後もより広告主様が成果を出せるものを作っていきます。

康氏  F.O.Xとしましては、より細かくセグメンテーションするということと、より運用者の工数を削減することが至上命題だと思っています。課金や流入に絞ったキャンペーンのお話を先にしましたが、ほかにもさまざまな事例があります。
今後も、柔軟的かつ細かく切るということが重要になるでしょう。ただ、細かければそれでよいのかという疑問もありますが、効果が実績として出ていますから、さらに進めたいと考えています。工数の簡易化については、いかにセグメントを細かくしても運用者の工数次第では配信できない可能性もあります。また、配信が重複するケースもあるでしょうから、簡易化することが必要だと感じています。

写真4:北出氏

北出氏 アプリ広告主には、とにかくリエンゲージメントを使っていただきたいですね(笑)
構えずに使っていただきたいです。2年ほど前はアプリ内のイベントを実装するためのハードルも高かったようですが、最近は対応される広告主様も増えてきていますので、まずは一度やってみて、win-winな関係を作りましょう、というのが正直な想いです。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。