「動画広告は邪魔じゃない」を啓蒙したい [インタビュー]
動画リワード広告のSSPとして、いち早く市場に参入したアドフリくん。2016年6月にグリーグループで広告事業を展開するGlossomの傘下に入り、その後も業界をリードしている。
グリーグループ参画後の同社の現状と、グループ全体としての動画リワード広告ビジネスへの取り組みなどについて、株式会社ADFULLY代表取締役の小室 喬志氏と、動画ネットワーク AdCorsa事業の運営に携わる、Glossom株式会社アドプロダクト事業本部アドプラットフォーム事業部セールスチーム マネージャー 山﨑 陽平氏にお話を伺った。
アドフリくんがグリーに参画した理由
― いまグリーグループの中で、どのような座組みで動画リワードを展開しているのでしょうか?
小室氏 広告事業を展開しているグリーの100%子会社のGlossomは、2014年、アメリカの動画広告配信プラットフォームAdColony(※)の日本向け独占配信ライセンスを取得するなど、早い時期から動画リワードビジネスに注力してきました。
それがきっかけとなって、サプライサイドである当社の買収にもつながっています。ですので、Glossomではデマンドに限らずサプライサイドのサービスも提供していくという立ち位置です。
もう一つは、Glossomが中心となり、グリーのアプリにも動画リワードが採用され始めています。また、直近ではインフルエンサーマーケティング会社の3ミニッツも買収しました。グリーグループの中で動画というもの自体が、注力領域になりつつあります。
山﨑氏 デマンドサイドでは、2017年3月に、自社でAdCorsaという動画のアドネットワークを提供開始し、力を入れています。
― 今はバイサイドはAdCorsa、サプライサイドはアドフリくんと、AdCorsaの二つのチャネルという理解でいいのでしょうか。
小室氏 はい、その通りです。
― アドフリくんについてお聞きします。2年前のインタビュー後、どのような経緯を得てグリーグループGlossomの傘下に入ったのでしょうか?
小室氏 前回のインタビューを受けたのは、買収の直前でしたね。笑
アドフリくんは寺島情報企画の自社ツールを拡張したサービスとして始まったのですが、寺島情報企画という畑に、アドテクの種をまいたら、面白い芽が出てきた。ただこれを大木にするには、より大きな畑に移した方がサービスとしては成長するのではないかという考えがあり、スピンアウトして分社化しました。その時すでにGlossomとはアドネットワーク連携パートナーとしてご縁がありました。当社の競合会社はどこも大きな資本力を持っており、僕らも、やはり大きな資本を手に入れる必要がありました。そのようなタイミングで、動画リワードに注力をしていたグリーグループとご縁があり、サービスを成長させるチャンスを貰いました。
ADFULLY側から見たときに、資本力、優秀な人材、ゲームビジネスに関するノウハウ、そして大手ゲーム会社との強いパイプを持っているという点で、グリーの傘下に入ることは、大きな魅力でした。
― 寺島情報企画との関係は現在どのようになっているのでしょうか?
小室氏 既に資本関係を解消して、現在はGlossomの100%子会社になっています。
グリーが新たに立ち上げた動画ネットワークAdCorsa
― AdCorsaの概要についてお聞かせください
山﨑氏 元々GlossomではAdColonyのプロダクトで動画広告ビジネスを展開してきましたが、より日本の市場向けにフィットしたプロダクトとして、動画アドネットワークとしてAdCorsaを自社で開発し、提供を開始しました。
現在フォーマットは、動画リワードと動画インタースティシャルを用意しています。今後は動画ネイティブにも対応していく予定です。
― AdCorsaの特徴や強みについてお聞かせください。
山﨑氏 アドフラウド対策にしっかりと取り組んでいることです。AdCorsaやアドフリ君の配信先は非常にクリアな面です。当社では全て配信先を開示しております。リリースしてから1年たちますが、不正に関する報告は一度も受けていません。 |
― クライアントはどのようなところでしょうか?
山﨑氏 ゲーム系のクライアントが全体の8割以上になります。グリー本体をはじめとするゲーム会社が中心になります。広告代理店経由のほか、直接の取引もあります。
― 配信先はどのようなところになりますか?
山﨑氏 現在はほとんどがアドフリくんを配信先としています。一部当社のSDKを直接導入いただいているパブリッシャーもありますが、今後はアドフリくんに一元化する方向です。
非ゲームアプリの参入が市場拡大を促進
― 動画リワードの市況感をどう見ていますか?
小室氏 2015年頃からカジュアルゲームでの利用が増えていき、現在はカジュアルゲームのほとんどが利用するほどに、動画リワードは普及しています。2016年から2017年にかけて、非ゲームでの導入が進みました。代表的なのがコミックアプリです。そのほかにもツール系のアプリにも導入が進みつつあります。2017年は大手のRPGゲーム、ソーシャルゲームの有名タイトルへの導入も進みました。2018年はさらに市場が拡大すると見込んでいます。
― アドフリくんの配信先媒体の比率は現状どのような状況ですか?
小室氏 媒体比率でいうとまだまだゲーム媒体の比率が多いのですが、昨年より大手非ゲームメディアへの導入が進んでおり、再生数でみると非ゲームの比率もゲームには及びませんがかなり増えてきたという状況です。
実はカジュアルゲームよりも、非ゲームアプリの方がプロダクトサイクルが長く、またDAUやMAUが安定しており、インプレッションが安定的に増加し続けております。
動画リワード以外のフォーマットにも注力
― アドフリくんが取り扱っているフォーマットの動向についてお聞かせください。
小室氏 現在当社では、動画リワード、動画インタースティシャル、動画ネイティブの三つのフォーマットを取り扱っていますが、現状最も取り扱いが多いのは動画リワードです。その他の二つのフォーマットについては、2017年から力を入れ始めました。今年いっぱいかけて動画リワード以外のフォーマットが受け入れられ始めていくと思います。そもそもスマートフォンにおいて全画面の広告フォーマットが今までは少なかったたので、慣れていないユーザーからすると少し驚かれてしまうのですが、動画リワード広告が先に普及したことで、全画面で表示される動画広告には慣れ始めてきた印象です。また、全画面の動画インタースティシャルをユーザーフレンドリーに表示させるテクニックも色々と編み出されてきましたので、これにより、今後積極的に利用されるようになっていくでしょう。
例えば、テレビCMで、番組からCMに入る前に、出演者が「一旦CMです」という断りを入れることがありますが、あれと同じ方法を採用します。ゲームをクリアしたら、そのタイミングで「一旦ゲームをクリアしたので一息つきませんか?CMです。」というようなメッセージをユーザーにあらかじめ伝えてから動画広告を配信すると、ユーザーからのネガティブな意見が激減するなど、全く異なる結果になるのです。まさに今、このような実装手法を含めた「ユーザーフレンドリーな広告設計」の普及活動をしています。
動画リワードと動画インタースティシャルは、広告を出す側の視点からすると、案件と仕組みは一緒で、出し方が違うだけのものです。動画リワードは事前にユーザーに動画再生の承諾を取り、完全に視聴をしてもらうことで視聴後インセンティブを与えるという広告です。一方、動画インタースティシャルは、承諾なし、インセンティブなしで動画広告を再生しますが、アプリユーザーは5秒でスキップが可能という広告です。
この二つは競合するものではなく、同一アプリ内で、動画リワードと動画インタースティシャルの両方が実装されているケースもあります。実際に動画リワードと動画インタースティシャルの両方を導入したことにより、収益が二倍になった事例もあります。アプリによっては、動画インタースティシャルの方が再生数と売上ともに大きくなっているものも出始めてきています。
「動画広告は邪魔じゃない」をグループで啓蒙
― 今後動画リワードの領域で、グループとして取り組んでいきたいことをお聞かせください。
小室氏 「広告=邪魔」というイメージを払しょくしていくことに取り組んでいきたいと思います。広告は見るだけのものから、例えば動画リワードのように、コンテンツで遊んでもらうための報酬を貰えたり、きれいな動画でユーザーに楽しんでいただけるようなものを作っていきたいです。動画ネイティブ広告も、私たちは面白い実装方法に取り組んでいます。
動画広告は「広告=邪魔なもの」ではなく、「広告=面白い/ありがとう」と思ってもらえる力があると思っています。
また、収益性でも通常のバナーに比べるとeCPMが非常に高く、たくさん広告枠を増やしすぎなくても、メディアは従来と同様の収益を狙うことができます。このこともユーザー体験が向上することに繋がっていくでしょう。
今までよりも、もう少し広告が良いものになるのではないかなと期待をしていますし、当社もそこに取り組んでまいります。
山﨑氏 業界の中で、クライアント様に動画リワードや動画インタースティシャルに関する理解をより深めていただくためのお手伝いをしていきたいと考えています。動画リワードは、媒体ごとに計測方法が異なっているため、使い方によっては効果の悪いものというような捉えられ方をしてしまう恐れもあります。本来であればオーガニックで獲得したユーザーであるのに、広告経由とカウントされることで、余分に広告費が発生してしまっているケースもあり得るのです。市場の拡大によりこのような課題が大きくなってきてしまうという危惧もあります。このあたりのことについては啓蒙活動をしていくことで業界全体を是正していきたいと思っております。
小室氏 最近、初心者のアプリ開発者へのノウハウ提供やビジネスアドバイスを目的に、アドフリジュクという10名程度の講座を開催しています。フリーランスや中小規模事業者のアプリ開発者が対象です。アプリ市場は、大きなRPGゲームだけではなく、フリーランスの方が作るカジュアルなアプリが生き生きしていないと面白くないと思っています。今、カジュアルアプリを作っても大手企業のアプリの中で埋もれてしまいがちですが、一方でプロモーション出稿を積極的に展開することでヒットを実現したカジュアルゲームも国内でようやく出てきました。ですので、そのような開発者を増やすお手伝いをしたいと思っています。カジュアルゲームの開発者の方に、課金と広告でマネタイズの基礎体力を上げて、有料プロモーションを展開していくことが重要であることを、お伝えしていきたいと考えています。実践的なノウハウをもとにした講座ですので、ご興味あるアプリ開発者の方は是非来ていただきたいです。また、訪問型のセミナーも実施していますので、ご希望の方はご連絡いただければと思います。
※2017年12月末日で契約終了
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。