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日本では本当にアドフラウドの問題が起こっているのか

(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)

Pixalate社が最近発行した調査報告書によると、日本のアドフラウドの割合は全世界で最も高く、プログラマティック広告におけるデスクトップブラウザ内全てのインプレッションの81%がフラウド行為であるとのデータが発表された。ExchangeWireはこのデータの真意についてヒアリングを行った。

この報告書によると、日本でのアドフラウドのレベルは、市場の36%が広告詐欺で構成されるブラジルの2.25倍、35%の米国を遥かに凌ぐ水準とのことであった。

図1:Q1 2017-DESKTOP AD FRAUD IMPRESSION RATES BY COUNTRY

Source: Pixalate

この通りだとすると、日本市場は大きな問題を抱えており、広告主は実際にバイイングしたインプレッション全体の19%しか、信頼できないということになる。しかし、それは本当なのだろうか?

世界的なアドフラウドの問題として業界メディアに取り上げられたこの調査報告書の結果を詳細に見ていくと、これが誤解を招きうるものであり、コンテキストが欠けた取り上げられ方をしていることが見て取れる。広告主は常に最新の注意を払い検証ツールを活用し続けるなどの努力を行う必要がある一方、このような衝撃的な数字によってプログラマティックへの対応を怠るべきではない。その理由として、第一に、この81%という数値がデスクトップ上のインプレッションしかカバーしていない点が挙げられる。

取り上げられた記事においては、モバイル及びタブレットのアドフラウドについては取り上げられていない。これらの環境では日本のアドフラウドの数値は5%以下で、世界で十番目に位置付けられ、ドイツ(43%)やアメリカ(38%)と比較しても、問題は軽微なものと考えられる。

図2:SMARTPHONE AD FRAUD BY COUNTRY

図3:TABLET AD FRAUD BY COUNTRY

Source: Pixalate

このPixalate社の調査報告書に記載されている情報は、モバイルとデスクトップの統計を組み合わせて初めて、より適切なものとして利用できるであろう。
DSPとSSPとを接続するインフラを管理し、日本国内の事業者とも20社以上もの接続が行われているIPONWEB社のBidSwitchのデータによると、日本では2017年7-9月の期間で64%のインプレッションがモバイル、36%がデスクトップより発生している。さらにモバイルによるインプレッションは前年同時期と比較しても5%成長している。

eMarketerによると、2017年にモバイル広告に費やされた額は8010億円で、デジタル広告全体額1兆1589億円の69%を占め、デジタル広告費全体における割合が62%であった前年より金額は23.6%増加している。

図4:Digital Ad Spending in Japan, by Device, 2012-2017

Source: eMarketer

このデータをもって、Pixalate社によるデスクトップの数字は無視できると言えるわけではない。81%という数値は非常に高い数字である。しかしながら、日本市場において利用可能なデバイス上の在庫を考慮すると、日本はモバイルファーストの市場になっていると言える。

また、現状では、他の報告書において類似したデータを支持しているものは見当たらない。

FraudLabを運営するIntegral Ad Science(IAS)は、アドフラウドを助長するような不正行為の研究や防止について最前線にいる機関で、定期的にメディアクオリティーレポートを発行している。IASから発表された2017年前半のメディアクオリティーレポート(日本語)によると、フラウド行為は、購入タイプやアドフラウド防止テクノロジーの活用有無などの環境の違いはあるものの、最適化後の数値としては全体の0.7%という結果であった。

図5:IAS Ad Fraud

Source: Media Quality Report H1 2017 (Australia Edition), Integral Ad Science

IASの日本のマネージングディレクターである藤中太郎氏は次のように述べている。「今日、IASは13カ国にあり、世界中で最大のパートナーエコシステムを管理しています。私たちは、現地のサポートを得ながら過去2年間日本市場をモニターし、市場をしっかりと理解しています。当機関は、150ものプログラマティックパートナーと、2500のパブリッシャーとともに5000億のメディア品質メトリクスを活用し、世界中で1日あたり1兆3000億回を超えるビッドコールを監視しています。市場で最も大きな分野をカバーすることで、IASは、全てのデバイスでグローバル広告エコシステムを最も正確に把握し、これらのインサイトを活用してベンチマークを構築しています。」

藤中氏は、正確なベンチマークを発表するために重要なのは、フラウドの影響を評価する際に統計的に有意なサンプルサイズを確保することだと指摘している。「当社のスケールと業界を代表するフラウドモデルの把握により、当社は日本市場におけるアドフラウドの正確な数字を提供していると自負しています。」

博報堂DY デジタルによると、自社の過去の記録から見ても、IASによって報告された数字が説得力を持つものであることがわかると述べている。

DoubleVerify社はGlobal Insights 2017レポートにおいて、世界レベルでのフラウド行為についての調査結果を発表している。この結果によると、日本のフラウド率は2%であり、米国、カナダ、ドイツ、フランス、オーストラリアの3/1程度となっている。Pixalate社のデスクトップフラウド報告書で2番目に高かったブラジルは、調査国最低レベルの1%でしかなかった。

図6:FRAUD RATES BY COUNTRY

Source: Global Insights 2017, DoubleVerify

また、Moat社が発表した2017年4-6月中の日本における無効なトラフィック(Invalid Traffic : IVT)に関する調査結果において、フラウド率は、デスクトップ全体で5.6%、モバイルウェブにおいては2.9%と、デスクトップのほぼ半分のであった。

無効トラフィック(IVT)は、発見するために複雑な分析を必要とする「洗練された無効なトラフィック(Sophisticated Invalid Traffic)」と、「一般的な無効トラフィック(General invalid traffic)」の二つに分けられる。これら2つのIVT合計率は、人間に送信されていないと認識された、フィルタリングされていない状態のインプレションの率と一致する。その中では、不正なプロキシサーバーや、自動ブラウザ、(異なるブラウザであるような動作をしている)不自然なブラウザトラフィックなどが「洗練された無効トラフィック」に相当する。「一般的な無効トラフィック」には、スパイダーとも呼ばれるクローラー、過度なアクティビティ、データセンターのトラフィックなどが含まれる。

IPONWEBのBidSwitchでは、SSPからのトラフィックを事前にフィルタリングし、SSP入札の約12%をブロックしている。ブロックしたうちの2%はMRCが定義する一般的な無効トラフィック」として分類され、残りが「洗練された無効トラフィック」として分類されている。

調査の「規模」がここでは鍵となる。日本のように、IASやMoat、BidSwitchが調査を行ったマーケットよりサンプルサイズが小さい場合、調査結果の数字が過大になっていることが考えられる。

日本市場において、アドフラウドを排除するエコシステムを目指す動きとしては、デジタル広告のテクノロジー分野でも事業を展開するデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)では次のように述べている。「DACは、安全で透明性の高いデジタル広告を提供するために、アドフラウド、ビューアビリティ、ブランドセーフティといった全ての課題に対し、3rd partyベンダーやパートナーとともに、最新かつ最善の技術の開発・導入に取り組んでいます。」

Pixalate社が発表した最初の調査結果を鵜呑みにしない、という行動から学べることもある。日本にはアドフラウドが存在はするが、業界における優れたプレイヤーが、広告主が不正なインプレッションを購入するリスクを軽減するためのサポートを行っているという点である。ある企業が誤解を招くような数字を発表する一方で、多くの企業が、日本は世界で最も低いアドフラウド率を誇ると報告している。調査計測における規模やアプローチが異なるため、業界の企業や有識者が完全に同じ数値を出すことはないだろう。私たちは、アドフラウドがグローバルな問題であると認識した上で、ポジティブに活用することができる。新たなテクノロジーの開発や、業界内でコラボレーションを行うことにより、フラウド行為の実施をより困難なものにしていくことができるのだ。

ABOUT 野下 智之

野下 智之

ExchangeWire Japan 編集長  

慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。

国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。

2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。