デジタルパブリッシャーの未来とは
(翻訳:Asia Plus 黒川賢吾)
急速に変化するライフスタイルや需要の変化に合わせて、様々なメディアにおけるサブスクリプションサービスが、ニュース配信の代替としてより魅力的なものへと変換している。一方で紙媒体と同様、規模が拡大するにつれて新たな問題に直面している。 トラフィックの伸びが停滞し新たな収入が必要とされているのである。Ogury社のデータ及びモバイル分析のVPである Christophe Bize氏にインタビューを行い、収益を伸ばすためのデータの利用方法について聞いた。
例えばBuzzfeedは大成功を収めましたが、読者数は2017年の6月と8月を比較してみても読者数は伸びていません。現在、パブリッシャーは読者数と収益を拡大するための新たな方策を必要としています。USA Todayは、最近、記事単位の利用時間を75%増加させる新たなパーソナライズドモバイルサイトを導入しました。 これは、収益と読者数を増やすための新たな可能性を秘める一方、データ利用とプライバシーの分野において新たな課題に直面しています。
ここで説明をするのは長期的にパブリッシャーが問題を解決し、最大の結果を得るために実行しなくてはならないことについてです。
目的を理解することが大切:スマートコンテンツとは
パーソナライゼーションをトピックとして検討する前に、デジタルコンテンツの多くが読者にリーチできていない理由を理解する必要があります。 これは一因としてはWalled Gardenが影響しています。2015年にはFacebook経由でのトップパブリッシャーへのトラフィックが32%減少しています。
このような独占状態から、デジタルパブリッシャーは読者へのリーチを増やすために新たな戦略が求められるようになりました。 USA Todayはパーソナライゼーションに解を求めましたが、これはデジタル業界でホットな話題の1つです。アイディアは単純で、ウェブサイト事業者は消費者がアクセスするたびにデータを収集するのです。 このデータはターゲットへのコンテンツ表示に利用され、消費者がウェブサイトに費やす時間が長くなればなるほど、コンテンツはより正確になります。
この方法は広告目的として長い間利用されてきた一方で、USA Todayの実例からも記事提供などの新たな形態においても有効であることを示しています。
長所:「私のためのインターネット」体験
私たちはインターネット上で多くの時間を費やしていることから、企業側が私たちの好みに対してオンライン上で対応を行ったとしても 不思議ではありません。Netflixはあなたが閲覧したい動画を紹介し、Facebookはあなたが見たいポストを見せ、Amazonはあなたが買いたいと思うものを表示していきます。実際、英国企業の86%がマーケティングにパーソナライゼーションを使用しています。
デジタルパブリッシャーはこの傾向に追随するのは容易です。 USA Todayのケーススタディでは、パーソナライゼーションのおかげで、記事1回あたりの時間が75%増加しました。 そして記事ごとに費やされる時間が長くなればなるほど、広告収益は改善します。
これは、ウェブサイトがあなたの経験を最適なものにカスタマイズする「私のインターネット」現象の一部で、デジタルメディアに革命を起こす鍵を握っています。なぜなら、あなたが興味を持っているものが表示されていれば、インターネットはきっとより好ましい環境として捉えられるからです。
短所:データ管理
パーソナライゼーションは進歩的な方法かもしれませんが、さまざまな課題があります。 データを使用して1対1の関係を作成する場合、いくつかの問題解決が必要となります。 データはどこから獲得し、どのように利用するのか、またプライバシーへの対応をどのように行っていくのかなどの問題です。
EUが4年もの歳月をかけて現状のデータ利用を鑑みながら制定したEU一般データ保護規制(GDPR)によってデータ収集の標準方法が設定され、企業側により責任が必要な作業となっています。
エンゲージメントとトラフィックを増大させるためのパーソナライズ戦略を実行したいと考える全てのパブリッシャーに対して、私がアドバイスを送りたいと思います。 使用しているデータが健全なものであることの確認を怠らず、データ事業者の調査を実施し、事業者がデータプライバシーの取り扱い方法に準拠しているかに目を配ることが重要です。 自社でデータを収集する場合は、GDPRに注目してください。これは今後数年で大幅にデータ収集方法に変化を与えることでしょう。
大きな成功を収めるためには
消費者の興味は日々変化していきます。 パーソナライゼーションは、大きな収入に加えて顧客体験の向上に寄与しますが、顧客が常に覗かれているような体験は避ける必要があります。読者が今日Brexitについて読んでみたいと思っているからといって、これが読者が知りたいと思っていること全てではありません。消費者の興味は変化していく点をデータは考慮する必要があります。 それ故、使用するデータは正確であるだけでなく、常に収集されることが重要です。 そうすることで、顧客をよりよく把握し、変化するパーソナリティに合ったコンテンツを提供することができます。
また、提供しているパーソナライゼーションのレベルに注意を払う必要があります。 業界では、パーソナライゼーションが「気味の悪い」ものに捉えられるのではという懸念が高まっています。顧客は、自分のデータがより良い経験につながる際には問題視することはありませんが、ステップを間違えると問題になります。 例えばAmazonは様々なコンテンツカスタマイズを行なっていますが問題視されてはいません。 一方で以前彼らのシステムの不具合によって、誤った顧客に幼児向けの登録メールを送り出し、問題が起こったことがありました。
USA Todayはパーソナライゼーションに対応した最初のデジタルパブリッシャーですが、恐らく多くの会社が追随することでしょう。GoogleとFacebookがデジタル広告業界を独占する一方で、消費者がより良いコンテンツ体験を必要とする中、パーソナライゼーションは成長と収益向上のための非常に貴重な手段を提供します。 ただし、このアプローチを使用する場合は慎重な対応が必要です。データの収集方法と利用方法に注意を払い、定期的に十分な時間をかけてデータを最新のものい保つ必要があります。
難しいように感じるでしょうか?正しいバランスを身につけることができれば、利点を収益に結びつけることができるようになるでしょう。データ活用による収益化の世界があなたを待っています。
ABOUT 野下 智之
ExchangeWire Japan 編集長
慶応義塾大学経済学部卒。
外資系消費財メーカーを経て、2006年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。
国内外のインターネット広告業界をはじめとするデジタル領域の市場・サービスの調査研究を担当し、関連する調査レポートを多数企画・発刊。
2016年4月にデジタル領域を対象とする市場・サービス評価をおこなう調査会社 株式会社デジタルインファクトを設立。
2021年1月に、行政DXをテーマにしたWeb情報媒体「デジタル行政」の立ち上げをリード。