ライブ動画配信はテレビCMを超える宣伝ツールとなるか―先駆者のサイバーエージェントとDMM GAMESが語る
米国でYouTubeが生まれてから早12年が経過、近年ではSNSでもライブ動画を配信できるようになっている。先進的な企業は既にこれらのプラットフォームをマーケティング施策へと活用し始めているが、その実態はいかなるものなのか。ライブ動画マーケティングに特化した専門組織「FRESH! LIVE WORKS」に所属する株式会社サイバーエージェント古賀誠隆氏と同マネージャーの小谷隆詞氏、DMM GAMESのマーケティング本部プロモーション部チーフの丸山諒太郎氏と同リーダーの高畑康彦氏に話を聞いた。
(聞き手: ExchangeWire Japan 長野雅俊)
リアルタイム性と視聴者参加はライブ配信ならでは
― 簡単な自己紹介をお願いいたします。
高畑氏(DMM GAMES): ゲーム事業部のマーケティング本部でプロモーションを担当している高畑と申します。当社が開発した「千年戦争アイギス」というゲームのプロモーションの一環として、7月上旬にライブ動画配信を活用したキャンペーンを実施しました。
丸山氏(DMM GAMES): 同じくDMM GAMES の丸山です。「千年戦争アイギス」に関する案件では全体のサポートと、広告配信の管轄で入らせていただいております。
小谷氏(サイバーエージェント): 小谷と申します。弊社では現在、Ameba TVとFRESH!という2つのメディア運営しており、既存のインストリーム動画広告の配信のほかにもライブ配信を活用したプロモーション展開に注力しています。私はその中でもFRESH!を中心としたライブ配信動画を活用したプロモーションを専門に扱う組織に所属しております。
古賀氏(サイバーエージェント): 私も小谷と同じ組織に所属し、様々な広告主企業様のマーケティング施策の企画や運営に携わっています。今回の「千年戦争アイギス」に関する案件に関わらせていただきました。
― ライブ動画配信を使ったマーケティングはまだ比較的新しい領域であるため、あまり馴染みがない方も多くいるかと存じます。改めてその意義についてお聞かせいただけますか。
小谷氏(サイバーエージェント): ライブ動画の魅力は主に2つあります。まずはリアルタイム性。つまりどこにいても同じ時間に同一コンテンツを共有できるということです。テレビのみしか動画プラットフォームがなかった時代には、「夕方に人気番組を観てから一晩寝て、翌朝に学校で会った友達と感想を述べ合う」というのが定常化していたと思います。しかし、今ではスマートフォンやPC上で動画を観た瞬間にユーザー同士でコミュニケーションを取ることができる。だから情報が一気に拡散していきます。
もう一つの魅力は、視聴者参加型のコンテンツ作りが可能であるということ。アクティブなユーザーと連動することができます。
高畑氏(DMM GAMES): マーケッターとしての立場から申し上げると、コメントなどを始めとするユーザーの反応をリアルタイムで確認できるというのが一番ですね。中には非常に厳しいと感じるコメントを目にすることもありますが、そうした点を含めた上でユーザーの反応を見られるというのは大きなメリットです。
もう一つはライブ配信ならではの盛り上がり。ユーザー参加型のプレゼント企画など、生放送という形態だからこそ喚起することができるモチベーションというのが確実にあると思います。
新規ユーザー向けに新規プラットフォームを利用
― 今回行った「千年戦争アイギス」のプロモーションの場としてなぜFRESH!をはじめとした複数プラットフォームでの展開を選んだのでしょうか。
高畑氏(DMM GAMES): 弊社ではこれまでも既存ユーザーへのロイヤリティー向上施策としてニコニコ生放送でのプロモーションを行ってきました。
丸山氏(DMM GAMES): とりわけ今回は千年戦争アイギスというゲームの中に人気アニメ「アルスラーン戦記風塵乱舞」のキャラクターが登場するというコラボレーション企画を実施することが先に決まっていたので、既存ユーザー以外のユーザーにもその内容を知ってもらい、新規ユーザーを取り込みたいと考えたことから、FRESH!やその他プラットフォームを活用することにしました。
高畑氏(DMM GAMES): 例えば、ニコニコ生放送とFRESH!では視聴層がかなり異なるという印象を持っています。ニコニコ生放送はコアなゲーム愛好者の割合が高く、FRESH!はエンターテイメント情報全般を好む人たち。そのためFRESH!という新しいプラットフォームでライブ動画配信を行なえば、これまでアプローチできていない新規ユーザーに観てもらえるのではないかという期待がありました。
今回のプロモーションでは、ニコニコ生放送とFRESH!に加えて、YouTube、facebook、Periscopeでも同時にライブ動画配信を実施しています。さらにはTwitterの広告とも連動させました。Twitter広告では非常に細かくターゲティングができるので、例えば休眠ユーザーにもアプローチすることができます。Periscopeと連携したTwitter上でのリツイートを呼び掛けるキャンペーンを掛け合わせたことで、のべ70万視聴を超える結果となりました。
SNSとの連動で波及力を拡大
― リツイートはどのように促したのですか。
高畑氏(DMM GAMES): 大きく分けて2つの施策があります。一つが単純なリツイートキャンペーン。Periscopeの内容をリツイートしていただくというものです。「ライブ動画を配信しているツイートをリツイートしてください。5000リツイートを超えたらプレゼント!」といったプレゼント企画を実施しました。目標とするリツイート数を達成すれば、全員が「千年戦争アイギス」のゲーム上のアイテムを手に入れられるという仕組みにしたところ、これが大成功。コメント欄に「もっと頑張れ」などの書き込みが見られ、ユーザー同士そして番組スタッフが一丸になっての取り組みへと発展しました。
もう一つは千年戦争アイギスのキャラクターの新しい衣装を選べるというもの。当社で「ネコの着ぐるみ」「パジャマ」など4つの選択肢を用意しました。そしてユーザーには「♯アイギス」というハッシュタグをつけた上で四択の中から選んだ好きな衣装をつぶやいてもらい、つぶやきの数が一番多かった衣装をゲームに実装するという設計にしたところ、ツイート数が爆発的に増えたのです。
小谷氏(サイバーエージェント): ユーザーさんがゲームの中に自分の意見を反映させることができる機会は滅多にないですからね。ライブ動画配信が持つリアルタイム性という特徴を存分に生かしたユーザー巻き込み型マーケティングの象徴的な事例だと思います。
古賀氏(サイバーエージェント): また今回は出演者の方にもリツイートしていただいたので、そのファンの方々へも訴求することができました。
高畑氏(DMM GAMES): Twitterのキャンペーンを番組と連動させるというのは今回が初めての試みでした。ニコ生での配信時はコメント数が驚異的に伸びます。ただし、それはニコ生の中だけに限定された盛り上がり。だからその盛り上がりを外部へも波及させるための施策として今回の取り組みを実施しました。
下図は今回のキャンペーンと連動したツイート数の推移を示したものです。明らかに番組が配信されたタイミングでツイート数が急増しています。「ライブ動画配信プラットフォーム上での盛り上がりを外部へ波及させる」という目的は達成できたと思います。
【ツイート数推移(日別)】
― ツイート数の推移についてご紹介いただきましたが、その他ではどのように効果測定を行いましたか。
高畑氏(DMM GAMES): コラボレーション企画の認知を広げるというのが大きな目的だったので、視聴数と広告視聴1回あたりのコスト(CPV)を指標に置きました。通常Twitter広告のCPVは通常は10円ちょっとなのですが、今回は10円を切ることができ、効率的に多くのユーザーにコンテンツを届けることができたと捉えています。
丸山氏(DMM GAMES): コラボによる効果もあるかとは思いますが、今回の配信前後でゲーム本体のデイリー・アクティブ・ユーザー数が3倍に増えました。Twitterのトレンドワードに2つの関連ワードが入ったことにも驚きを覚えています。
ウェブ配信では能動的な視聴者にリーチ
― テレビCMなどと比較した際に、70万視聴という数字はどのように捉えればいいのでしょうか。
小谷氏(サイバーエージェント): ウェブ上のライブ配信において70万という視聴数は非常に多いと思います。いわゆるマスメディアの規模と比べると少ないですが、ウェブの動画配信はわざわざアクセスしに行かなければ視聴できないので、テレビの「ながら視聴」よりもユーザーが能動的に視聴している傾向が強いと考えています。
丸山氏(DMM GAMES): 先のグラフにも現れているところだと思うのですが、SNS上の反応においては、テレビCMやその他マスメディアよりもずっと大きな盛り上がりを見せたと思います。
ただやはり不特定多数の人に多くリーチしていくとなれば、テレビCMの方が効果的だと思いますので今回の施策の反応を踏まえながら今後の施策を検討していきたいです。
小谷氏(サイバーエージェント): ただ15秒ないし30秒のテレビCMよりもライブ動画配信番組の方が当然のことながら尺が長いので、視聴者に内容をより深く理解していただけるという利点はあると思います。
生配信では入念な準備が必須
― 番組作りの過程を教えてください。
古賀氏(サイバーエージェント): 通常はライブ動画配信日の2カ月ほど前からお打ち合わせを始めます。大まかなご要望を伺った上で、企画の立案及びブラッシュアップを進めていき、番組構成や出演者などの大枠が決まるのが1カ月ほど前。そこから台本作成などの具体的な作業が始まります。その間、週1、2回の頻度で行う広告主様とのお打ち合わせとメールや電話などのやり取りを通じて、企画書や台本案などの確認を進めさせていただくことになります。
基本的には依頼主のご要望を忠実に具現化していきたいと思っていますが、例えば企画内容について出演予定者の所属事務所からNGが出されてしまうこともあります。そういった場合は、随時代案を提案するなどして調整を繰り返していくことになります。
また何しろ生放送なので一旦番組放送が始まれば、放送時間が足りなくなったり、または逆に余ってしまったりといった想定外のことが常に起き続けます。そうした事態に備えた対応策を事前に練っておくということも準備作業には含まれます。
ブランディングかそれともレスポンスか
― これまで広告主の間では「ブランディング広告はテレビ、レスポンス広告はインターネット」という見方が主流であったと思います。インターネット上のライブ動画配信はどちらの形態に向いていると思いますか。
小谷氏(サイバーエージェント): 我々が当初想定していたのはブランディング目的です。能動性を持った視聴者を抱えているという意味でも、基本的にはライブ動画配信はブランディングの方が適しているとは思います。
一方で最近では「ライブEC」と呼ばれる通販番組のような形態の内容が配信されることも増えており、ライブ配信の可能性を見極めている段階であるというのが正直なところです。結局のところは、ブランディング広告かレスポンス広告のどちらかに集約されていくというのではなくて、案件ないし商材ごとに何を指標にするかが変わっていくという流れになるのかもしれません。
古賀氏(サイバーエージェント): ただあくまで個人的な意見ですが、どちらかといえば、番組を観てくれるファンの方たちとコミュニケーションをとりながらロイヤリティーを上げる、つまりブランディング的な要素の方が相性は良いかと思います。
高畑氏(DMM GAMES): 広告主の立場としては、少なくとも今は認知獲得ないしブランディングの意味合いが強いです。ただし、将来的にはやはり獲得につなげたい。ウェブ施策となると企業としてはどうしても費用対効果を求めなくてはならなくなるので。
小谷氏(サイバーエージェント): そういったご意見をお持ちの企業様が実際に多いというのも正直なところです。ライブ動画に限った話ではありませんが、今後企業様のマーケティング活動においてデジタルが担う役割はさらに広がっていくと思います。これまでの獲得指標だけでなく、ブランディングの効果を測定するための指標やルールづくりの必要性が高まっていくのではないでしょうか。
ともかく、ライブ動画配信の本格的な活用というのはこれからという段階です。ライブ配信を活用したマーケティングで数十万単位のダウンロードを達成したという事例はまだ聞いたことないですし、実は個人アカウントからの配信の方が視聴者数は伸びるのではないか、ライブ動画として配信した映像のテレビCMを含む動画広告の素材への活用など、新しくチャレンジできる施策はまだまだ無数にあります。我々も新規商品の開発を続けていくとともに価値を伝えていくことで、新たな道筋を切り開くことができたらと考えています。
ABOUT 長野 雅俊
ExchangeWireJAPAN 副編集長
ウェストミンスター大学大学院ジャーナリズム学科修士課程修了。 ロンドンを拠点とする在欧邦人向けメディアの編集長を経て、2016年に調査・コンサルティング会社シード・プランニングに入社。 日本や東南アジアを中心としたデジタル広告市場の調査などを担当している。